過去問を1年分、家の机で解く。配線図の20問で18問取れる。記号はもう全部言える。3路スイッチの傍記も、リングスリーブの早見表も、工具の写真も、覚えたばかりだ。
ところが本番形式で時間を計って通しで解くと、後半がまとまって崩れる。困るのは、解いている最中の手応えが家のときと変わらないことだ。「これは自信あり」と思って選んだ答えが、採点で赤くなる。知らない記号が出たわけではない。落とした問題を後から見直すと、そこに描かれている記号はどれも即答できる。
なぜ、記号を全部知っている人が、記号の試験でまとめて落ちるのか。見当がつかなくて当然だ。読み終えるころには、その失点が起きた瞬間が図面のどこだったかを、指で示せるようになっている。
まず、本番の配線図問題がどういう形式なのかを確認しておく。配線図問題は問31から問50までの20問。図面は問題冊子の巻末にある1枚だけで、そこに各階の平面図・幹線系統図・分電盤結線図・凡例がまとめて収められている。この1枚を、20問で共有する。
設問の書き出しは「①で示す部分の……」だ。ここが問題集との決定的な違いになる。問題集は「この図記号の名称は」と、対象を先に切り出して見せてくれる。本番は違う。まず①がどこかを自分で見つけ、そこにあるものが何かを自分で確定させて、はじめて暗記した知識の出番になる。1問あたり、知識を使う前に一手ある。
丸数字は、図面の外に立っている
①〜⑱の丸数字は、図面の中には置かれていない。すべて枠外の余白に、円の中に算用数字を入れた形で並んでいる。そこから細い直線が図面の内側へ伸び、先端に細い開いた矢じり——2本の線で描くV字——が付いて、対象にちょんと接する。途中で折れ曲がる引出線もあるが、どれも最後は矢じりが対象に触れて終わる。
ここに最初の落とし穴がある。図面には、この細い矢じりとはまったく別の矢印が多数描かれている。太く塗りつぶした三角形の矢じりを持つ短い矢印で、配線や器具から回路符号(一重丸のⓒ、菱形の◇aなど)へ向かっている。これは図面自身の注記——「この配線はⓒの回路です」と言っているだけで、設問とは何の関係もない。
もうひとつ。図面のあちこちに、四角や菱形や二重丸で囲まれた文字がある。あれも問題番号ではない。ここで気をつけたいのは、円で囲まれた文字にも回路符号があることだ。ⓐ〜ⓛの一重丸は単相100Vの回路符号で、円で囲まれていても問題番号ではない。切り分けるのは囲みの形ではなく、中身と位置だ——問題番号は円の中が算用数字で、必ず図面の枠外にある。円の中が英小文字なら、それは枠内に置かれた回路符号である。この2点を知らないまま「①はどこだ」と図面を探し回ると、それだけで数十秒が溶ける。
手順:指し先を確定してから、数え始める
だから読図には、知識を使う前の手順がいる。次の4つを、順番を変えずに毎回踏む。
① 丸数字から引出線を必ず終点までたどる。 余白の番号を起点にして、線を目でなぞる。折れ曲がっても追う。そして、先端の矢じりが触れている図形を言葉にする——「線」「箱」「立上りの記号」「点線の四角」「結線図の中の遮断器1個」。ここで言葉にできなければ、まだ解き始めてはいけない。
② 終点にある記号と、その回路符号を確認する。 指し先の記号を読み、その近くに書かれている回路符号(囲み文字やカタカナ)を拾う。たとえば矢じりが、配電盤の上部で稲妻形の引込線が建物に取り付く一点に触れていることがある。器具でも配線でもなく「取付点」で、そこで問われるのは記号の名称ではなく、その取付点が満たすべき高さのほうだ。指し先が何かを決めてはじめて、設問文が何を聞いているのかを照合できる。
③ 同じ回路符号が図面のどこにあるかを全部拾う。 回路符号は、離れた2か所を1つの回路として結ぶ道具だ。平面図の器具に付いている符号が分電盤結線図にも出てくれば、その器具はその盤のその遮断器にぶら下がっている。ここまで拾って、はじめて回路の全体が見える。
④ その区間の両端に何がぶら下がっているかを言葉にしてから、数え始める。 電線本数もリングスリーブも、数える対象が確定していなければ意味がない。「この区間の上には照明が2灯、下にはスイッチが2個」と口に出してから、最小電線本数やリングスリーブの数え方に入る。
順番が大事だ。①〜③を飛ばして④から始めると、数える技術がどれだけ正確でも、数える場所を間違える。
数mmの差が、2問を連れていく
指し先どうしがどれくらい近いのか、典型的な並び方で見ておく。階段付近では、一方の矢じりが照明へ下りていく縦の配線(線そのもの)に着地し、もう一方の矢じりが同じ階段の上部にあるVVF用ジョイントボックス(斜線を入れた円)に着地する、という組み方がよく出る。2つの着地点は、図面上で数cmしか離れていない。前者はその区間の最少電線本数を、後者はボックス内のリングスリーブを問う、別々の設問だ。
もっと近いところに並ぶ組合せもある。一方の矢じりが階段のジョイントボックス(□)に着地し、もう一方の矢じりがその真上にくっついている立上り記号(小円と右上向きの矢印)に着地する形で、2つの指し先が数mmしか離れていないことがある。ボックスを指す側が問うのは、その中の接続——リングスリーブの種類・個数・刻印だ。いっぽう立上りを指す側が問うのは、その立上りが受け持つ区間の配線工事に必要なケーブルで、条件には「心線数は最少とする」が添う。仮にその立上りが上下階の階段を結ぶ3路スイッチの系統を通しているなら、3路の渡り線2本に、0端子側の1本と接地側の1本が加わって心線数は4本——2心ケーブル2本で足りる、という形に落ちる。指し先が数mmずれただけで、答えるべきものがリングスリーブからケーブルへ丸ごと入れ替わる。丸数字にいちばん近い記号を対象だと思い込んだ瞬間、隣の設問の対象を拾ったまま最後まで解けてしまう。
図面の枠の中でも同じだ。2本の引出線が、どちらも同じ分電盤結線図の枠へ並んで伸びていることがある。一方が指すのは主幹の漏電遮断器(BE 3P100A・欠相保護付など)、もう一方が指すのは100V分岐の配線用遮断器B。同じ枠に着地する2本を、枠の名前だけで区別しようとすると必ず取り違える。見るべきは枠ではなく、矢じりが触れている遮断器1個だ。
そして、たどり違いのいちばん厄介な性質がここにある。取り違えても、答えは出る。別の場所には別の正しい答えがあるからだ。複線図の筋道は最後まで通り、選択肢の中にもその数字がある。だから手応えは正解したときと変わらず、採点まで気づけない。冒頭の「自信ありで外す」は、知識の穴ではなく、この構造が作っている。
回路符号は、離れた2か所を1つの回路として結ぶ
手順③の回路符号について、もう少し踏み込んでおく。凡例は「図中に示す配線回路番号」として、囲みの形ごとに電圧方式を定めている。囲みの形が電圧方式、中の文字が個々の回路だ。
この符号が効くのは、図面が複数の図に分かれているからだ。集合住宅共用部の幹線系統図なら、動力用の引込(受電点の稲妻形記号)からWh・遮断器を経て、菱形の◇aや◇bがポンプ室の動力盤へ向かう。電灯用の引込からは別のWh・遮断器を経て、◇cが電灯分電盤へ至る。そしてその分電盤結線図は、◇cから単相3線100/200Vを受ける。母線はまずⓐ・ⓑの2回路へ分かれ、その下に入る主幹(欠相保護付の漏電遮断器など)から、ⓒ以降の単相100V分岐と、二重丸のm・nで示す単相200V分岐へ分かれていく。
つまり平面図の器具に一重丸のⓒが付いていれば、その器具は分電盤結線図のⓒの遮断器にぶら下がっている、と読める。平面図と結線図という離れた2枚を、符号1つが結んでいるわけだ。手順③で「同じ符号を全部拾う」と言ったのは、この橋を渡るためだ。
囲み文字とは別に、カタカナの符号も使われる。ア・イ・ウ・エ・オ・カといった文字で、凡例には説明がないことが多い。ただし使われ方を見れば読める——点滅器(●)と、それが点滅させる照明器具に同じ文字が付いている。ある部屋の●ウと、その部屋の蛍光灯のウ、白熱灯のウが、同じ「ウ」で結ばれている、という具合だ。
この読み方が分かると、一見ややこしい傍記もほどける。階段に描かれた「●3ア」は、配線に付いた傍記ではなく点滅器の図記号に付いた傍記で、JIS C 0303が定める3路の併記記号「3」と、その図面独自の回路符号「ア」の組合せだ。そして別の階の階段にも「●3ア」がある。同じ「ア」——つまりこの2つは、階段の照明を2か所で入切する3路スイッチの対で、両者を結ぶ配線が階をまたいでいる。符号を拾わずに1枚の平面図だけを見ていると、この対の片割れが図面の別の場所にあることに気づけない。
矢じりが、器具ではなく記号に触れているとき
指し先が「記号そのもの」であるパターンも押さえておく。代表が、階をまたぐ配線を表す3つの記号だ。
小円の右上に矢じりが出ていれば立上り、左下なら引下げ、両方なら素通し。防火区画貫通部を示す場合は、小円を二重丸に置き換える。矢印の向きの意味は同じだ。
この記号は、図面の中で対になって現れる。上階の配電盤の直下に引下げ(小円と左下向きの矢印)が2個、下階の対応する位置に立上り(小円と右上向きの矢印)が2個描かれ、それぞれのすぐそばに◇a・◇bという幹線の回路符号が添えられる、という具合だ。上階の床から下りた線が、下階の天井から上がってくる——同じ幹線の同じ区間を、2枚の平面図が別々の記号で受け持っている。
そして、この小さな記号1個に矢じりが着地する設問が成立する。ここで効いてくるのが、同じ形の記号が1枚の図面に何個も散っているという事実だ。幹線用の立上りもあれば、階段のジョイントボックスの真上にくっついた立上りもある。だから「立上りを探す」では対象が決まらない。「その丸数字の引出線をたどる」でしか決まらない。
なお、回路符号の二重丸(単相200V)と、防火区画貫通部の二重丸は形が似ている。ただし前者は中に英小文字が入り、後者は矢印が付く。中身を見れば取り違えることはない。
空欄そのものを、指してくることがある
もう1つ、指し先の種類として覚えておきたいのが「傍記を伏せた点線の四角」だ。器具の図記号のすぐ脇に、内部が空白の破線の正方形が描かれていることがある。本来そこに入る傍記の文字を、試験のために伏せた枠だ。
たとえば矢じりが、コンセントの図記号そのものではなく、その傍らに描かれた点線の四角に着地していることがある。このとき問われるのは、その枠に入るべき傍記表示のほうだ。JIS C 0303のコンセントの種類の傍記は、抜け止め形LK・引掛形T・接地極付E・接地端子付ET・接地極付接地端子付EET・漏電遮断器付EL。選択肢はこの中から並べられ、図面の他の情報(設置場所や用途)から、どれが入るべきかを決めることになる。矢じりが器具の丸に触れているのか、脇の空欄に触れているのかで、問われているものが「器具の名称」から「傍記の文字」へ変わる。
図記号のそばの数字を、電線本数だと思わない
指し先を正しく取れたあとにも、読み違いの余地はまだ残っている。数字だ。
JIS C 0303は、配線を横切る短い斜線の本数で電線数を、線に添える数字で電線の太さを表すと定めている。斜線3本と「1.6」が並んでいれば、1.6mmの電線が3本という意味だ。ところが試験の配線図には、注意書きにこう明記されている——屋内配線等の電線の本数、電線の太さ、その他、問いに直接関係のない部分等は省略又は簡略化してある。つまり屋内配線に斜線は描かれていない。「最少電線本数は」と問われる問題が成立するのは、そもそも図面が本数を教えてくれないからだ。
その状態で図記号のそばに数字を見つけると、つい本数だと読んでしまう。だがコンセントに添えられた「2」は口数だ。JIS C 0303は、コンセントについて2口以上なら口数を、20A以上なら定格電流を、250V以上なら定格電圧を傍記すると定めている。実際の図面では、外壁に付くコンセントに「WP」「LK」が並んでいたりする——防雨形で、かつ抜け止め形という意味だ。そのすぐ内側にある別のコンセントには「2」が添えられている。こちらは2口の意味で、どれも電線とは何の関係もない。
数字を見たら、まずそれが「線に添えられているのか、記号に添えられているのか」を確かめる。線なら太さ、記号なら傍記——ここでも判断を決めているのは、数字の意味ではなく、数字が置かれている位置だ。
指し先が箱だったときに、まだ残っている仕事
矢じりがジョイントボックスに着地していると分かった。ここで手順は終わりではない。むしろ、いちばん時間のかかる工程がここから始まる。その箱に入るケーブルを1本残らず挙げる、という作業だ。
これは箱の周りを見ても終わらない。別の部屋の壁にある点滅器、2階の平面図まで立ち上がっている1本、この箱を通り過ぎるだけの別回路の送り——どれも図面の離れた場所にあり、傍記や回路符号や立上りの記号をたどって初めて「その箱に入る」と確定する。指し先を取り違えていないのに答えが合わない、という失点のほとんどはここで起きている。
読むだけでは身につかないので、手を動かす場を用意した。配線図から箱に入るケーブルを確定するドリルは、自作の簡易平面図を1枚読んで、ケーブルの本数 → 束の数 → 刻印の内訳を段階に分けて確定させる4題だ。1段階目の答え合わせで、入るケーブルの一覧と「図面のどこを見ればその1本の存在が分かるか」が全部表示される。
渡された図面で、最初に指を置く場所
この手順は、試験を離れてもそのまま使える。現場で図面を渡されたとき、慣れた人が最初にやるのは記号を読むことではない。凡例を探すことだ。会社ごと・物件ごとに独自の符号が足されているのが普通で、凡例を読まずに平面図から入ると、その独自符号のところで必ず止まる。試験の図面がわざわざ凡例を1枚に同居させているのは、実物の読み方をそのまま持ち込んでいるからだ。
次にやるのが、系統図と平面図の行き来だ。改修や増設の相談は、ほとんどが「この負荷を、どの盤のどの遮断器にぶら下げるか」という話に落ちる。平面図で器具の位置を見て、符号を拾って、結線図でその遮断器の容量と空き回路を確かめる——手順③でやったことと、まったく同じ動きになる。
今日試せることを1つ挙げるなら、自宅の分電盤のふたを開けて、内側に貼られた回路一覧表を見てみるといい。「3 洋室」のように書かれた1行が、この家における回路符号だ。そのブレーカーを1つ落として、部屋を回りながら、どのコンセントと照明が消えたかを拾っていく。1行が受け持つ範囲が、部屋の壁の上に立ち上がってくる。同じ符号を全部拾うという手順③の練習を、実物でやっていることになる。
そして、回路を1つ取り違えたまま作業に入ることが、どれだけ危ないかも同時に分かる。切ったつもりの回路が生きていた、という事故は、図面の読み違いから始まる。作業前の検電が省略できない手順として残っているのは、人は図面を読み違えるものだ、という前提が制度の側にあるからだ。
読図の力が伸びると、街の見え方も変わる。ビルの外壁に沿って上がっていく太い管、地下の受水槽室の扉、屋上のキュービクル——それぞれが図面のどの記号に対応するかが分かってくる。EV充電設備や太陽光の増設が話題になる建物でも、最初に開かれるのは既存の幹線系統図と分電盤結線図だ。どこに何アンペアの余裕があるかは、その2枚を行き来しなければ決められない。系統図と平面図を符号でつなぐ読み方は、これから増える工事の入口そのものになる。
冒頭の「記号は全部知っているのに、後半がまとめて落ちる」の正体は何だったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。 指し先が確定したら、そこから先は問いの種類ごとに分かれる。本数を聞かれたら 最小電線本数の数え方、ボックス内の接続を聞かれたら リングスリーブ・差込形コネクタの種類と個数、 どちらも前提になるのが複線図への変換だ。