分電盤のブレーカーを切った。念のため検電器を取り出して電線に当てる。音も光も出ない。「よし、停電できている」——そう判断して素手で電線に触れた瞬間、腕に衝撃が走った。感電したのだ。
検電器の機種は間違っていなかった。当て方も正しかった。それでも電圧は生きていた。器具に頼ったはずの確認が、なぜ通用しなかったのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、検電という手順に何が足りなかったのか、はっきり指摘できるようになっている。
第二種電気工事士の学科試験には「試験用器具の性能及び使用方法」という出題範囲がある(電気工事士法施行規則第10条第2項・第3条の表)。絶縁抵抗計・接地抵抗計・回路計に加えて、現場でもっとも頻繁に手に取る器具のひとつが検電器だ。
検電器は「あるか・ないか」だけを教える
検電器は、電圧が加わっているかどうかを音と光で知らせる器具だ。ここが重要なところで、検電器は電圧の大きさを表示しない。何ボルトかを知りたいときは、回路計(テスタ)の交流電圧レンジを使う。
| 器具 | 分かること |
|---|---|
| 検電器 | 電圧が加わっているか、いないか |
| 回路計(テスタ) | 電圧・電流・抵抗の数値 |
| 絶縁抵抗計(メガー) | 電路の絶縁抵抗値(MΩ) |
| 接地抵抗計(アーステスタ) | 接地極の接地抵抗値(Ω) |
低圧用検電器は、絶縁被覆の上から当てても交流電圧を検知できる。被覆をはがさなくてよいので、充電部に触れずに確認できる。たとえば共立電気計器のKEW 5711は、高感度側でAC20〜1000V、低感度側でAC90〜1000V、使用周波数50/60Hzに対応し、音と光で交流電圧を知らせる仕様になっている。
交流専用か、交流・直流両用か
注意したいのは、低圧用検電器には交流専用のものと交流・直流両用のものがあることだ。交流専用機を直流回路に当てると、電圧が加わっていても反応しない。太陽光発電設備のパネル側のように直流を扱う設備では、その回路に対応した機種を選ぶ必要がある。
だからこそ、検電の前後に既知の充電部で検電器自体が動作することを確かめる。生きていると分かっているコンセントなどに当てて、確実に音と光が出ることを確認してから対象を検電し、検電が終わったらもう一度同じ確認をする。前後2回にするのは、検電の最中に電池が尽きた可能性まで潰すためだ。この確認を挟んで初めて、「無反応」は「電圧なし」の証拠に変わる。
この検電は、導通試験や絶縁抵抗測定より先に行う。どちらも停電状態で行う検査であり、その前提が成り立っているかを確かめるのが検電の役割だからだ。
片方だけ鳴るのは、故障ではない
生きているコンセントに低圧用検電器を当ててみると、奇妙なことが起きる。2つの差込口のうち片方では鳴るのに、もう片方ではうんともすんとも言わない。器具が壊れたわけではない。これが正常な反応だ。
理由は、屋内の配線が大地とどうつながっているかにある。柱上変圧器の低圧側は片側が接地されていて、その線がそのまま屋内まで来ている。これが接地側電線(白)だ。大地と直につながっているのだから、接地側の対地電圧はほぼ0Vになる。もう一方の非接地側——電圧側、黒線の側——は、大地に対しておよそ100Vの電位差を持つ。
低圧用検電器が見ているのは、この対地電圧のほうだ。三和電気計器の説明はこうなっている。人が検電器を持ってコンセントの「アースされてない側(非接地側)」に近づくと交流100Vが擬似的にかかって電界が生じ、検電器はこの電界を感知して鳴動・発光する。そして「コンセントの接地側に検電器を近づけても検電器は反応せず、非接地側のみ反応する仕組み」だと明記している。人体からいくつもの経路を通って大地へ戻る道があって初めて、検知に必要なごくわずかな作用が生まれる。接地側は最初から大地と同じ電位なので、その道に電位差そのものが立たない。
つまり検電器は「電気が流れているか」を見ているのではなく、「大地に対して電位が浮いているか」を見ている。同じ1本のケーブルの中を、まったく同じ電流が往きと帰りで流れていても、鳴るのは片方だけ——この一見ちぐはぐな挙動は、検電器が対地電圧を見る器具だという一点から全部説明がつく。
鳴らない側が、白を入れる側
この性質は、そのまま極性の確認手段になる。コンセントの2つの刃受けのうち、検電器が鳴るほうが非接地側(電圧側)、鳴らないほうが接地側だ。器具の結線では、接地側極(W表示のある端子・刃受けの長いほう)に接地側電線を入れ、点滅器は電圧側に施設するという決まりがある——その理屈は配線器具の設置と極性の原則で扱った。既設のコンセントを交換するとき、電線の色が塗り替えられていたり、途中で入れ替わっていたりして信用できないことは珍しくない。そのときに、テープの色ではなく電路そのものに聞ける手段がこれだ。
ただし、この便利さには裏返しがある。接地側に当てれば、通電中でも検電器は鳴らない。「1か所当てて反応がなかったから停電している」と判断するのが危ういのは、電池切れや機種違いだけが理由ではない。たまたま接地側に当てただけかもしれないのだ。検電は相ごと・線ごとに独立した確認であって、1本の無反応は他の1本について何も語らない。
「無反応」を疑う癖が、身を守る作法になる
検電は、この科目で学ぶ手順の中でも、覚えたその日から命に直結する数少ないひとつだ。前後2回の動作確認という一手間は、慣れるほど省きたくなる。しかし省いた日に電池が切れている確率はゼロにならない。器具の言うことを鵜呑みにせず、器具そのものをまず検査してから使う。この考え方は検電器に限らず、あらゆる測定器に当てはまる姿勢になる。
低圧用の検電器はペン型なら手の届く価格帯で、資格を取る前から持てる道具だ。今日試すなら、電源の入っている家電のコードに沿わせて当ててみるといい。被覆の上からでも反応することが、自分の手で確かめられる。そのうえで電池を抜き、同じ場所に同じように当ててみる。まったく同じ「無反応」が返ってくる。この2つが外から区別できないという事実を一度体験しておくと、前後の動作確認を省く気は起きなくなる。
これから効いてくるのは、直流に反応しない機種があるという一点だ。屋根のパネルからパワーコンディショナまでの区間、蓄電池の直流側、EV充電設備の一部。住宅まわりで直流を扱う場所は増えている。交流専用機を当てて無反応だったから安全、と判断した瞬間に事故になる。道具の限界を知っていることが、そのまま安全の条件になる分野だ。
冒頭の感電事故で、何の手順が抜け落ちていたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。