壁のスイッチを1個から2個に増やす——ただそれだけのリフォームの話だ。廊下の照明のスイッチの横に、新しく付ける階段の照明のスイッチを並べたい。壁の中にはすでにケーブルが来ているのだから、プレートを2連のものに替えてスイッチを差し込めば終わり、のように思える。
ところが下見に来た電気工事店は、点検口から壁の中を確かめてこう言った。「ケーブルを引き直さないと無理ですね」。壁の中に来ていた電線は2本。スイッチを2個にするには、これでは足りないのだという。
なぜ2本では足りないのか。そして、壁を開ける前に図面のどこを見ればそれが分かったのか。見当がつかなくて当然だ。読み終えるころには、壁の中の電線の本数を図面から言い当てられるようになっている。
1本の線は、束の省略
配線図(単線図)の線は、実際の電線をそのまま描いたものではない。電気は行って帰ってこなければ流れないから、どんな区間にも最少で2本の電線が通っている。単線図はその束を1本に省略した図だ(描き起こし方は複線図への変換で扱った)。
学科試験の配線図問題には、この省略をそのまま突いてくる定番の設問がある。「図の×印で示す部分の最少電線本数(心線数)は。」——点線で囲まれた短い区間を指して、そこに実際は何本の電線が通るかを答えさせる問題だ。複線図を全体分描いていては時間が足りない。問われた区間だけを数える手順を持っておく。
数える手順は、3つの問いでできている
区間を通り得る線は、役割で3種類しかない。
- 接地側(白)——電源からすべての負荷(照明)とコンセントへ直行する。スイッチには行かない
- 非接地側(黒)——電源からスイッチとコンセントへ行く
- 戻り線——スイッチから、担当する負荷へ帰る
だから、点線の区間を見たら次の3つを問えばいい。
- この区間の先に負荷やコンセントはあるか → あるなら接地側が通る(+1)
- この区間の先にスイッチやコンセントはあるか → あるなら非接地側が通る(+1)
- スイッチと担当の負荷が、この区間をまたいで離れているか → またぐ戻り線の数だけ加える
例題:スイッチが2個並ぶ壁の中
照明イ・ロが天井にあり、壁の2連スイッチ(イ・ロ)で別々に点滅させる回路を考える。ジョイントボックスからスイッチへ下りる区間に、3つの問いを当ててみよう。
この区間の先にあるのはスイッチだけなので、接地側は通らない(0本)。スイッチがあるので非接地側が通る——2個あるが、渡り線で共有できるので1本。そしてスイッチイ・ロそれぞれの戻り線が、この区間をまたいで天井の照明イ・ロへ帰っていく(2本)。合計で0+1+2=3本だ。
同じ考え方で、片切スイッチ1個だけなら行き1本+戻り1本の2本。3路スイッチだけへ下りる区間なら、共通端子(コモン)につながる1本と渡り線2本で3本になる。
「3路は3本」と暗記した人から、順に落ちていく
ここで多くの受験者がやってしまう近道がある。いま導いた結果を「片切1個は2本」「2連は3本」「3路は3本」という器具別の公式に書き換えて、数える手順のほうを捨ててしまうことだ。この公式は、過去問を数年分解くうちはよく当たる。だが本番の図面が「その区間をスイッチが独占している」保証はどこにもない。公式が黙って前提にしていた条件が崩れた瞬間、答えは1本、2本と平気でずれる。
たとえば3路スイッチの区間に、コンセントが同居していたらどうなるか。3つの問いに戻って数え直すと——スイッチがあるので非接地側が通る。電源側の3路なら、コモンへ行く線とコンセントへ行く線はどちらも非接地側なので1本を共有できる。渡り線が2本。そしてコンセントがあるので接地側(白)が1本。合計4本だ。同じ3路でも、負荷側(照明側)の3路スイッチとコンセントの同居なら、コモンにつながる線は共有できない戻り線なので、渡り2本+戻り1本+コンセント用の非接地側1本+接地側1本で5本まで膨らむ。
| 区間の先にあるもの | 最少本数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 3路スイッチのみ | 3本 | コモン行き1+渡り線2 |
| 電源側の3路+コンセント | 4本 | 非接地側1(共有)+渡り線2+接地側1 |
| 負荷側の3路+コンセント | 5本 | 戻り(コモン)1+渡り線2+非接地側1+接地側1 |
「3路は3本」は、区間に3路スイッチしかいない場合だけの計算結果——公式ではなく、3つの問いが返した答えの1つにすぎない。覚えるべきは答えの数字ではなく、問いのほうだ。
その前に、相方はどこにいるのか
3つの問いを回そうとして、ここで手が止まることがある。渡り線2本が「その区間を通るのか」を決めるには、 相方の3路スイッチがどこにあるかを先に知らなければならない。相方が反対側にいれば渡り線はその区間を通るし、 同じ側にまとまっていれば通らない。相方の位置が確定しないと、3つの問いは最後まで回らない。
図面の上で相方を見つける手がかりは3つある。
手がかり1 — 傍記の「3」を、図面全体から拾う
3路スイッチは、点滅器の記号に「3」を傍記して示す(4路なら「4」)。 そして3路は必ず2個1組でしか使わない。だから図面のどこかに「3」が付いた点滅器を1つ見つけたら、 同じ図面の中に必ずもう1つある。まず「3」を全部拾い、偶数個あることを確かめる。
手がかり2 — 回路符号(イ・ロ・ハ)を合わせる
拾った「3」が2組以上あるときは、点滅器の脇の回路符号で対応を決める。 3路スイッチの符号は、その2個が点滅させる照明の符号と一致する。 「イ」と傍記された3路が2個あれば、それが1組で、点けるのは「イ」の灯だ。
手がかり3 — 離れた場所を探す。同じ部屋にはいない
ここが実際にいちばん引っかかる。3路は「離れた2か所から同じ灯を操作する」ための器具なので、 2個が並んでいることはまずない。探すべきは次のような場所だ。
| 用途 | 相方の居場所 |
|---|---|
| 階段灯 | 1階と2階。図面上では別の階の平面図に分かれている |
| 廊下・玄関ホール | 廊下の両端 |
| 寝室 | 入口と枕元 |
階段灯がいちばん多い。第二種の配線図は木造2階建住宅が定番で、1階の図と2階の図が 別々に描かれる。片方の階だけを見て「相方がいない」と判断すると、そこで詰む。 「3」を1つ見つけたら、もう一方の階の同じ吹き抜け位置を探す。
パイロットランプは「方式」を読んでから数える
同じ器具構成なのに本数が変わる、いちばん試験に出る例がパイロットランプ(確認表示灯)だ。片切スイッチとランプを組み合わせた壁の1箇所に何本下りるか——答えは図面だけでは決まらない。施工条件に書かれた点灯方式で変わる。
- 異時点滅(照明が消えている間に点く)——ランプはスイッチの接点と並列につなぐ。使うのは行きの非接地側と戻り線だけなので、区間は2本のまま
- 同時点滅(照明と一緒に点く)——ランプは照明と並列、つまり戻り線と接地側の間につなぐ。スイッチ位置まで接地側(白)を下ろす必要が生まれ、3本になる
- 常時点灯(常に点く)——ランプは電源に直結、つまり非接地側と接地側の間。やはり白が必要で、3本になる
つまり「スイッチ+パイロットランプ=◯本」という覚え方は、最初から成立しない。式の形を決めるのは施工条件だ。図と条件を読み、3つの問い——負荷・コンセントはあるか、スイッチはあるか、戻り線はまたぐか——に毎回かけ直すことだけが、どの図面でも通用する数え方になる。区間の先にコンセントも照明もぶら下がっているなら、そこに接地側の1本が加わる。どんな複雑な図でも、やることは3つの問いの足し算でしかない。
点滅器が、壁から消えている図面がある
3つの問いには、声に出していない前提が1つある。壁のどこかに点滅器があって、そこから戻り線が負荷へ帰っていく、という前提だ。住宅の図面ではこれが常に成り立つので、前提だと気づく機会がない。だが店舗・事務所ビル・集合住宅の共用部の図面には、これが丸ごと外れる回路が混じる。リモコン配線方式だ。
見分け方は線ではなく記号にある。分電盤の結線図に黒塗りの三角が並び、壁には●Rや、円を6つに分けたホイール状の記号(リモコンセレクタスイッチ)が置かれ、小形変圧器(円の中にT)にRが傍記されている。この4つのどれかが見つかったら、その図面の数え方は2本立てに切り替わる(記号そのものの読み方は動力・制御機器の図記号で扱った)。
電力の道と、合図の道が分かれる
JIS C 8360:1984 は、リモコンリレーを「主回路の開閉を交流24Vによって励磁される電磁石で操作するスイッチ」、リモコンスイッチを「リレーの操作回路の開閉を手動で操作するもの」と定義している。リモコン変圧器(JIS C 8361)が100Vまたは200Vを24Vに落とし、その24Vがリレーのコイルを励磁して主接点を動かす。
同じ規格の構造の項に、この方式の性格を決めている一文がある。リレーの電磁コイルは、開閉操作時にだけ通電され、開閉の状態の保持には通電を必要としない構造とすること——押した瞬間だけ電気が流れ、あとは機械が状態を覚えている。スイッチ側も、操作したときだけ閉路する構造と決められている。つまりリモコンスイッチは、壁で電流をせき止めている器具ではない。ボタンを押した一瞬だけ合図を送る器具だ。定格を見ればそれがはっきりする。リレーは10・15・20Aで125Vまたは300V、スイッチのほうは1・1.5・3Aの24Vしかない。
負荷側は、戻り線が消える
主接点が分電盤の中にあるということは、分電盤から照明器具までの100V配線には、途中に点滅器が1つも入らないということだ。非接地側(黒)と接地側(白)が、そのまま器具まで届く。器具が3台ぶら下がっていても、送り配線で数珠つなぎになるだけで本数は変わらない。
3つの問いを当てはめると、3番目——スイッチと担当の負荷が区間をまたいで離れているか——が必ず0本になる。戻り線という役割が、この回路には存在しない。 「どこかにスイッチがあるはずだ」と図面を探し回って時間を使うのが、この形のいちばんの損だ。
操作側は、電力ではなく合図を運ぶ
いっぽう、リモコンスイッチとリレーを結ぶAC24Vの区間は、100V側とはまったく別の規則で本数が決まる。運んでいるのが電力ではなく合図だからだ。
パナソニックの用語解説は、ワンショットリモコンでリモコンスイッチ8個のとき「24V信号線9本」と書いている。神保電器のカタログはもっと直接的で、標準配線例の図に「リモコンリレー『n回路』あたり『n+1本』の配線を使用します」と注記している。
内訳はこうだ。各回路のリレーへ向かう線が1回路につき1本、そして変圧器側へ帰る線を全回路で1本共用する。JIS C 8360 は、口出線が3本のリレー・スイッチについて、変圧器側へ接続するこの線を「コンモン」と呼んでいる。数える単位は操作する回路の数であって、スイッチの個数でも照明器具の台数でもない。
操作場所を増やしても、線が増えない
ここが3路・4路スイッチと決定的に違う。100Vの世界では、2箇所から点滅させたければ3路スイッチ2個で3本、3箇所なら4路を挟んで渡り線がさらに要る。操作場所を増やすほど線が増えていく。
リモコン方式は逆だ。同じ回路を別の場所からも操作したければ、リモコンスイッチをもう1個、既存の信号線に並列につなぐだけでいい。パナソニックは1回路あたり6ヵ所まで(回路数+1本を送り配線)、神保電器も1台の被制御機器に対し個別スイッチ最大6個までと書いている。守衛室からも各階の廊下からも同じ照明を入り切りできる仕組みが、線を1本も増やさずに成り立つ——これが、大規模な建物でこの方式が使われる理由そのものだ。
リモコンセレクタスイッチが出てきたときは、傍記が答えを持っている。JIS C 0303:2000 の 4.3 点滅器は、リモコンセレクタスイッチについて点滅回路数を傍記すると定めている。傍記が6なら6回路なので、信号線は6+1で7本になる。
| 区間 | 通っているもの | 最少本数 |
|---|---|---|
| リモコンリレー → 照明器具(100V) | 非接地側と接地側だけ | 2本(戻り線は0本) |
| リモコンスイッチ ⇔ リモコンリレー(AC24V) | 各回路へ1本+変圧器側の共用1本 | 回路数+1本 |
| 同じ回路を別の場所からも操作 | 既存の信号線に並列につなぐ | 増えない(6ヵ所まで) |
| 多重伝送(フル2線式)の場合 | アドレスを載せた信号 | 回路数によらず2本 |
図面は、線の引き方では教えてくれない
やっかいなのは、この2本立てが図面の線種に現れないことだ。JIS C 0303:2000 の「2.1 一般配線」に並んでいるのは、天井隠ぺい配線・床隠ぺい配線・露出配線の3種類と、電線の種類・太さ・本数の記入方法だけで、リモコン配線専用の線種は規定されていない。実際、学科試験の店舗の配線図でも、リモコンセレクタスイッチから分電盤へ向かう線は、ほかの屋内配線とまったく同じ実線で引かれている。
だから、線をどれだけ目で追っても「この線は24Vだ」とは分からない。判断の材料は記号のほうにしかない。三角、●R、傍記付きの円、Rを傍記した小形変圧器——この4つを先に拾ってから、丸数字がどちら側の区間を指しているかを決める。順序を逆にすると、正しい手順を守っているのに答えが合わない、といういちばん苦しい外れ方をする。
もうひとつ、この方式には条文の裏づけがある。低圧配線と弱電流電線は、原則として同じ管やボックス、プルボックスに入れられない(電気設備の技術基準の解釈 第167条第3項)。ところが同じ項のただし書の第二号イが、その例外を名指しで挙げている——リモコンスイッチや保護リレーなどの制御用の弱電流電線で、絶縁電線と同等以上の絶縁効力があり、低圧配線との識別が容易にできるもの。24Vの合図の線と100Vの電力の線が同じ箱で顔を合わせるのは、法令があらかじめ想定している状況なのだ(60V以下の回路のルールは小勢力回路の施設で扱っている)。
同じ箱に入るからこそ、束を作る前に回路で仕分ける手順が要る。実際に数える練習はボックス内接続ドリルに用意した。
本数が出たら、次はケーブルを1枚の写真から選ぶ
配線図の後半には、本数を答えさせるのではなく「この区間に使用するケーブルはどれか」と、ケーブルの断面写真を4枚並べる出題がある。本数を数える力がそのまま使えるのだが、最後にもう1段、心線数を「ケーブルの姿」に翻訳する手順が要る。
流れは3つだ。
- 区間の心線数を出す — これまでどおり、その区間を通る電線を数える
- 接地線を数に入れるか決める — 傍記に接地極付(E)が付いたコンセントへ向かう区間なら、電源線に加えて接地線が1本要る。本数を数える問題では、この1本も忘れずに足す
- 平形か丸形かを決める — 屋内配線の一般的な区間はVVF(平形)。丸形のVVRが正解になるのは、図面や凡例がそれを指定している場合に限られる
見落としやすいのが接地線で、色は緑と決まっており、黒白赤の並びとは別枠になる。送り方は2通り——緑のIV線を別に1本添わせるか、緑の心線を含むケーブルを使うか。どちらにしても、黒白赤の3心ケーブルの3本目が接地線になることはない。接地極付コンセントへ向かう区間で「2心あれば足りる」と計算してしまうと、この接地線の行き場が無くなる。傍記のEを見たら電線を1本足す。ただしその1本は緑で、黒白赤の数え方とは別に持つ——ここまで手順に組み込んでおきたい。
この手順は、そのまま材料拾いの作業でもある。図面から区間ごとの心線数を出し、それをVVF 2心・VVF 3心といった品名に置き換えて数量を積む——現場で最初に覚える仕事の1つが、この翻訳だ。試験で問われているのは、見積書を作る最初の一歩そのものだといえる。
壁を開ける前に、ケーブルの中身を言い当てる
この数え方は、そのままケーブルの選定に化ける。屋内配線の主役であるVVFケーブルには2心と3心があり、区間の本数が2本なら2心、3本なら3心と、図面の段階で「その壁に入れるケーブル」まで確定する。見積で図面からケーブルを拾う作業も、リフォームの現地調査で「この壁は使い回せるか、引き直しか」を判断する作業も、突き詰めればこの3つの問いを壁ごとに繰り返しているだけだ。
今日試せることとして、自宅の2連スイッチをひとつ思い浮かべてみるといい。プレートの裏には、少なくとも3本の電線が来ているはずだ——行きの1本と、スイッチの数だけの戻り線。家じゅうのスイッチを「1個なら2本、2個なら3本」と数えて歩くと、壁の中の見えない配線が急に具体的な本数を持ち始める。
電線1本の過不足が試験で問われるのは、現場ではそれが「壁と天井を開け直す工事」に直結するからだ。ケーブルを1本入れ忘れた壁は、ボードを張り直してからでは取り返しがつかない。そして住宅の配線は、スイッチの増設、照明の分割、EV充電回路の追加と、これからも「線を足す」方向に動き続ける。増設の相談はいつも「今ある配線で足りるか」を数えるところから始まり、その数え方がこのトピックの3つの問いそのものだ。
冒頭のリフォームで、なぜ「引き直し」という答えになったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。 本数が数えられたら、同じ複線図からリングスリーブ・差込形コネクタの種類と個数も 決められる。束の数がスリーブの個数、束の中身が種類と刻印を決める——数える対象が変わるだけで、 見ている図は同じだ。