洗面所でドライヤーを使いながら、キッチンで電気ケトルのスイッチを入れた瞬間、ブレーカーが落ちた。
ドライヤーの消費電力は1200W前後、電気ケトルも同じく1200W前後。どちらも家電量販店のカタログでよく見かける、ごく普通の数字だ。分岐回路のブレーカーは20A・100Vという、これもよくある組み合わせ。
パッケージに書かれた「1200W」という表示だけを見て、この組み合わせがブレーカーを落とすかどうか、その場で判断できるだろうか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、ワット数の表示を見ただけでその場で判断できるようになっている。
種明かしは、電力 (ワット)が電圧 ・電流 ・抵抗 とどう結びついているかにある。
3つとも同じ電力を、分かっている値(電圧と電流/電流と抵抗/電圧と抵抗)に合わせて表しただけの言い換えだ。
例題
100Vの電源で流れる電流が5Aのとき、消費電力は何Wか。
洗面所やキッチンでよく使われる分岐回路は、20A・100Vの組み合わせが一般的だ。この回路が安全に扱える電力の上限は、P=VIにそのまま数字を入れれば出てくる。
つまり、この回路につながった家電の消費電力を単純に足し算し、その合計が2000Wを超えるかどうかで、ブレーカーが落ちるかどうかの見当がつく。たとえば500Wの家電と800Wの家電を同時に使っても合計1300Wで上限内に収まるが、家電の組み合わせによっては、この上限をあっさり超えてしまうこともある。
抵抗を求める形に、式を裏返す
P = VI = I²R = V²/R は「電力を求める式」として覚えるが、試験では 電力と電流(または電圧)が分かっていて、抵抗を答えさせる向きでも問われる。 そのときは同じ式を R について解き直すだけだ。
| 分かっているもの | 抵抗を求める式 |
|---|---|
| 電力 P と 電流 I | R = P / I² |
| 電力 P と 電圧 V | R = V² / P |
| 電圧 V と 電流 I | R = V / I(オームの法則そのもの) |
覚え直すのではなく、元の3つの式から、その場で移項するのが確実だ。 選択肢には R = P/I や R = V/P のような、2乗を落とした形が必ず混ぜてある。 2乗が付くのは「電流と組む側は I²」「電圧と組む側は V²」—— 元の式 P = I²R と P = V²/R の形を思い出せば、どちらに2乗が付くかで迷わない。
抵抗とリアクタンスが直列に並んだら、まず1つの数にまとめる
交流回路の問題では、負荷が「抵抗8Ωとリアクタンス6Ωの直列」というように、2つの数で書かれていることがある。このまま足して14Ωにしてはいけない。抵抗とリアクタンスは足し算では合成できない。
理由は、2つが電流に対してかける「遅らせ方」が違うからだ。抵抗は電圧と電流の向きをそろえたまま働くが、リアクタンスは90度ずらして働く。向きが直角にずれた2つの量を合わせるには、直角三角形の斜辺を求めることになる。
三相回路でも手順は変わらない。各相のインピーダンスを先に1つの数にまとめてから、相電圧・相電流を出し、三相分をまとめる。Δ結線なら相電圧は線間電圧そのもの、Y結線なら線間電圧をで割ったものが相電圧になる、という関係はそのあとの話だ。まず、次に結線という順番を崩さないことが、三相の計算で迷わないコツになる。
消費電力を聞かれたときも、注意すべき点は1つ。電力を消費するのは抵抗だけで、リアクタンスは電力を消費しない(受け取ってはまた返している)。だから三相の全消費電力は という形でも求められる。ではなくを使う——ここを取り違えると、答えがの比だけずれる。
式そのものを選ばせる問題 — 記号のまま書けるようにする
数値が与えられれば計算できるのに、選択肢が4つとも「式」だと手が止まることがある。記号のまま書いた形を、いくつか用意しておく。
抵抗とリアクタンスが直列の回路の力率
百分率で答えさせるなら、これを100倍する。分子はだけ、分母はルートの中にと——この形を覚えておけば、が分子に来ている肢や、ルートが付いていない肢はその場で消せる。
電力量から力率を逆算する
三相電動機に電圧〔V〕・電流〔A〕を〔h〕加えて、電力量が〔kW·h〕だったとする。力率を求める式はどうなるか。
- 三相の電力は 〔W〕
- 電力量は 〔W·h〕。ただし与えられているのはkW·hなので、
- 整理すると 。百分率にするならさらに100倍で
式を選ぶ問題は計算しなくても解ける。分子・分母にどの記号が来るかと係数の桁だけを見比べればよい。
三相3線式の電力損失
電線路で失われる電力は (電流が流れる電線の本数)。
- 単相2線式 — 行きと帰りの2本 →
- 単相3線式 — 平衡していれば中性線に電流が流れないので、外側の2本だけ →
- 三相3線式 — 3本すべてに電流が流れる →
単相3線式の「3本あるのに2本ぶん」という例だけを覚えていると、三相3線式も2本ぶんと勘違いしやすい。中性線があるかどうかが分かれ目で、三相3線式に中性線は無い。
大きな機器がそろって200Vである理由が、この式から読める
を電圧の側から読み直すと、設備の設計思想が見えてくる。同じ20Aの回路でも、100Vなら2000Wまで、200Vなら4000Wまで扱える。電流が同じであれば電線の太さもブレーカーの容量も変わらないのに、運べる電力だけが倍になる。IHクッキングヒーター、大型のエアコン、エコキュート、EV充電器——大きな電力を必要とする機器が軒並み200Vで作られているのは、この一行が理由だ。
今日できるのは、家電の裏や側面にある定格銘板を3つほど読んでみることだ。「AC100V 50/60Hz 1200W」のような表示が必ず貼られている。エアコンやIHがあれば、そこだけ200Vと書かれ、プラグの形も違っているはずだ。同じ壁のコンセントに見えて、実は2種類の電圧が家の中まで来ている。
この式が科目の早い段階で問われるのは、電気工事士が現場で最初にする判断がまさにこれだからだ。この回路に、この機器をつないでいいか。EV充電器の設置なら「200Vの専用回路を1本増やす」という工事になり、その回路が何Wまで扱えるかは に数字を入れれば即座に出る。これから確実に増えていく仕事の見積もりが、この掛け算から始まる。
冒頭のドライヤーとケトル、果たして2000Wの上限を超えていたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。