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電気に関する基礎理論 ・ 9 / 10

力率と進相コンデンサ

読み終えると、こうなる

工場の電流計だけが下がって電力計の数字は動かない、という一見矛盾した現象が、「機器の中の話」と「電線の上の話」の違いとして見えてくる

  • 直列回路の電源電圧・抵抗の両端電圧・リアクタンスの両端電圧が単純な足し算にならなくても、直角三角形として力率を1回の割り算で出せる
  • 力率を改善した前後で「減るもの(線路電流・電圧降下・線路損失)」と「変わらないもの(有効電力)」を仕分けられる
  • 進相コンデンサをどう接続する部品か聞かれたら、打ち消したい相手と同じ2点に並列でなければ意味がないと判断できる
考えてみよう

工場の分電盤で、単相200Vの回路につながった機械が動いている。消費電力は3kW、盤の電流計は20Aを指している。

そこへ電気工事士がやって来て、機械と並列に「進相コンデンサ」という箱を取り付けた。すると電流計の針はするすると15Aまで下がった。機械は同じ速さで回り続け、こなしている仕事は何ひとつ減っていない。電力計の指示も3kWのままだ。

仕事が同じなのに、電流計の針だけが5A分軽くなった。減ったこの電流は、いったい何を運んでいたのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、消えた電流の行き先を説明できるようになっている。

直流なら話は単純で、電力は常に電圧×電流だった。ところが交流では、「電圧×電流」で計算した見かけの電力と、実際に熱や動力という仕事になっている電力が、一致しないことがある。

原因はモーターや変圧器の中にあるコイルだ。コイルは磁界を作るためにエネルギーをいったん受け取り、半サイクル後にそっくり電源へ返す。この「借りては返す」を毎秒何十回も繰り返すため、電線の上には仕事をしないのに往復し続ける電流が流れることになる。

この事情を整理するために、交流の電力は3つに呼び分けられる。

  • 皮相電力 S=VIS = VI〔V·A〕——電圧×電流で計算した見かけの電力。電線や変圧器が実際に運んでいる量
  • 有効電力 P=VIcosθP = VI\cos\theta〔W〕——熱や動力として実際に仕事をしている電力。電力計が指すのはこれ
  • 無効電力 Q=VIsinθQ = VI\sin\theta〔var〕——磁界のために往復しているだけの電力

そして力率 cosθ\cos\theta とは、見かけの電力のうち仕事になっている割合、つまり P/SP/S のことだ。電熱器のような抵抗負荷は力率ほぼ1、モーター類は0.7〜0.8程度になることが多い。

有効電力 P〔W〕 無効電力 Q〔var〕 皮相電力 S〔V·A〕 θ 3つの電力は直角三角形の関係。力率cosθ=底辺P÷斜辺S

例題

単相200Vの回路に、消費電力3kW・力率75%の負荷をつないだ。流れる電流は何Aか。

I=PVcosθ=3000200×0.75=20AI = \frac{P}{V\cos\theta} = \frac{3000}{200 \times 0.75} = 20\text{A}

力率が1なら 3000÷200=153000 \div 200 = 15A で済む仕事に、20A流れている。これが冒頭の電流計の状態だ。

電流計と電力計は、実は別のものを見ている。電流計は皮相電力を運ぶ電流の全量を、電力計は仕事になった有効電力だけを測る。力率とはこの2つの計器の読みのズレそのものだ。だから「電流を減らす」ことと「仕事を減らす」ことは、交流の世界では別の話になる——仕事を1Wも減らさずに、電流だけを減らす方法がある。

その方法が進相コンデンサだ。コンデンサはコイルと正反対の性質を持ち、コイルの電流が「遅れ」て流れるのに対し、コンデンサの電流は「進み」で流れる。電動機と並列にコンデンサをつなぐと、遅れの無効電流と進みの無効電流が線路上で打ち消し合い、磁界のためのエネルギーの貸し借りはモーターとコンデンサの間だけで完結するようになる。電源からの電線を往復していた無効電流が消え、線路には仕事をする分の電流だけが残る。

線路の電流が減れば、電圧降下も、電線で失われる I2RI^2R の損失も一緒に減る。学科試験では、進相コンデンサを電動機と並列に接続する目的を問う形や、力率を改善しても値が変わらないものを選ばせる形で、この因果関係がそのまま問われる。

銘板の「W」と「A」が食い違う機器を探してみる

今日試せることがある。冷蔵庫や洗濯機、扇風機の銘板を見て、「消費電力〔W〕」と「定格電流〔A〕」を見比べてほしい。100V機器なら、力率が1ならWの値は100×Aに一致するはずだ。ところがモーターの入った機器では、たとえば「消費電力85W・定格電流1.2A」のように、100×1.2=120V·Aに対してWの値が小さい。この食い違いこそ力率の実物で、銘板は皮相電力と有効電力の両方を正直に書いている。

電力会社やビルの設備担当者が力率にこだわるのは、無効電流も電線・変圧器・遮断器の容量を実際に占有するからだ。仕事をしない電流のために太い設備を用意するのは無駄なので、工場やビルのキュービクルには進相コンデンサ盤が定番の顔ぶれとして収まっている。電材の世界でも力率改善用コンデンサは独立した製品分野で、この理屈を知っていると盤図や見積書の1行の意味が読めるようになる。

そしてこの考え方は、これからの設備でむしろ主役になる。太陽光のパワーコンディショナやEV充電器は、半導体で電流の位相を制御して力率をほぼ1に保ちながら系統とやり取りする機器で、いわば「進相コンデンサの仕事を電子回路で連続的にやっている」存在だ。力率という物差しを持っておくことは、コンデンサという昔ながらの箱と最新のパワーエレクトロニクスを、同じ言葉で理解することにつながる。

冒頭で電流計の針が5A分軽くなったのはなぜか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 直列回路の各部の電圧を並べておいて、単純な足し算では電源電圧にならないようにしてある

    なぜ引っかかる抵抗とリアクタンスを直列にした回路について、電源電圧・抵抗の両端電圧・リアクタンスの両端電圧の3つを与え、力率を答えさせる問題が繰り返し出ている。与えられた2つの電圧を足しても電源電圧にならないのが特徴で、交流では位相がずれているため電圧はベクトルとして合成され、3つはぴったり直角三角形の関係になっている。数字が合わないと感じた時点で、計算を止めてしまう受験者が出る。

    見破り方3つの電圧が出てきたら、直角三角形として並べる。力率は「抵抗の両端電圧÷電源電圧」で割り算1回で出る。足しても合わないのは異常ではなく、むしろ正しく交流の問題である証拠だ。

  2. 力率改善で「減るもの」の一覧に、変わらないものを1つだけ紛れ込ませる

    なぜ引っかかる進相コンデンサで力率を改善したあと、値が変わらないものを1つだけ選ばせる形で問われる。線路電流・電圧降下・線路の電力損失はどれも減るが、負荷の有効電力(機器がしている仕事、電力計の指示)は変わらない。コンデンサを付けたのだから何もかも良くなったはず、という感覚で答えると外れる。

    見破り方力率改善で消えるのは、仕事をせずに往復していた無効電流だけだと思い出す。仕事の量そのもの(有効電力)には手を触れていない。「電線の上で起きること」は減り、「機器の中で起きること」は変わらない、と2つに仕分ければ迷わない。

  3. 進相コンデンサの接続方法を「直列」と書いた、もっともらしい選択肢を混ぜる

    なぜ引っかかる進相コンデンサは電動機などの誘導性負荷と並列に接続し、遅れの無効電流を進みの無効電流で打ち消す部品だ。ところがコンデンサという言葉からは回路に割り込ませる部品を連想しやすく、「電動機と直列に接続して始動電流を抑える」といった、それらしい説明の選択肢に手が伸びる。

    見破り方打ち消したい相手(電動機)と同じ2点間にぶら下げなければ、無効電流は打ち消し合えない。だから並列でしかありえない。直列に入れればその電流は負荷電流そのものを通ることになり、力率改善どころの話ではなくなる、と一度考えておけば選択肢は一発で消える。

参考文献・出典

理解度チェック(6問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、6問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 6 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 皮相電力S=VI〔V·A〕、有効電力P=VIcosθ〔W〕、無効電力Q=VIsinθ〔var〕。力率cosθ=有効電力÷皮相電力
  2. 電流はI=P/(V×cosθ)で求める。力率が低いほど、同じ仕事をするのに多くの電流が必要になる
  3. 進相コンデンサは電動機(誘導性負荷)と並列に接続し、コイルの遅れ無効電流を打ち消して力率を改善する
  4. 力率を改善すると線路の電流・電圧降下・電力損失は減るが、負荷の有効電力(機器がする仕事・電力計の指示)は変わらない
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