工場の分電盤で、単相200Vの回路につながった機械が動いている。消費電力は3kW、盤の電流計は20Aを指している。
そこへ電気工事士がやって来て、機械と並列に「進相コンデンサ」という箱を取り付けた。すると電流計の針はするすると15Aまで下がった。機械は同じ速さで回り続け、こなしている仕事は何ひとつ減っていない。電力計の指示も3kWのままだ。
仕事が同じなのに、電流計の針だけが5A分軽くなった。減ったこの電流は、いったい何を運んでいたのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、消えた電流の行き先を説明できるようになっている。
直流なら話は単純で、電力は常に電圧×電流だった。ところが交流では、「電圧×電流」で計算した見かけの電力と、実際に熱や動力という仕事になっている電力が、一致しないことがある。
原因はモーターや変圧器の中にあるコイルだ。コイルは磁界を作るためにエネルギーをいったん受け取り、半サイクル後にそっくり電源へ返す。この「借りては返す」を毎秒何十回も繰り返すため、電線の上には仕事をしないのに往復し続ける電流が流れることになる。
この事情を整理するために、交流の電力は3つに呼び分けられる。
- 皮相電力 〔V·A〕——電圧×電流で計算した見かけの電力。電線や変圧器が実際に運んでいる量
- 有効電力 〔W〕——熱や動力として実際に仕事をしている電力。電力計が指すのはこれ
- 無効電力 〔var〕——磁界のために往復しているだけの電力
そして力率 とは、見かけの電力のうち仕事になっている割合、つまり のことだ。電熱器のような抵抗負荷は力率ほぼ1、モーター類は0.7〜0.8程度になることが多い。
例題
単相200Vの回路に、消費電力3kW・力率75%の負荷をつないだ。流れる電流は何Aか。
力率が1なら A で済む仕事に、20A流れている。これが冒頭の電流計の状態だ。
その方法が進相コンデンサだ。コンデンサはコイルと正反対の性質を持ち、コイルの電流が「遅れ」て流れるのに対し、コンデンサの電流は「進み」で流れる。電動機と並列にコンデンサをつなぐと、遅れの無効電流と進みの無効電流が線路上で打ち消し合い、磁界のためのエネルギーの貸し借りはモーターとコンデンサの間だけで完結するようになる。電源からの電線を往復していた無効電流が消え、線路には仕事をする分の電流だけが残る。
線路の電流が減れば、電圧降下も、電線で失われる の損失も一緒に減る。学科試験では、進相コンデンサを電動機と並列に接続する目的を問う形や、力率を改善しても値が変わらないものを選ばせる形で、この因果関係がそのまま問われる。
銘板の「W」と「A」が食い違う機器を探してみる
今日試せることがある。冷蔵庫や洗濯機、扇風機の銘板を見て、「消費電力〔W〕」と「定格電流〔A〕」を見比べてほしい。100V機器なら、力率が1ならWの値は100×Aに一致するはずだ。ところがモーターの入った機器では、たとえば「消費電力85W・定格電流1.2A」のように、100×1.2=120V·Aに対してWの値が小さい。この食い違いこそ力率の実物で、銘板は皮相電力と有効電力の両方を正直に書いている。
電力会社やビルの設備担当者が力率にこだわるのは、無効電流も電線・変圧器・遮断器の容量を実際に占有するからだ。仕事をしない電流のために太い設備を用意するのは無駄なので、工場やビルのキュービクルには進相コンデンサ盤が定番の顔ぶれとして収まっている。電材の世界でも力率改善用コンデンサは独立した製品分野で、この理屈を知っていると盤図や見積書の1行の意味が読めるようになる。
そしてこの考え方は、これからの設備でむしろ主役になる。太陽光のパワーコンディショナやEV充電器は、半導体で電流の位相を制御して力率をほぼ1に保ちながら系統とやり取りする機器で、いわば「進相コンデンサの仕事を電子回路で連続的にやっている」存在だ。力率という物差しを持っておくことは、コンデンサという昔ながらの箱と最新のパワーエレクトロニクスを、同じ言葉で理解することにつながる。
冒頭で電流計の針が5A分軽くなったのはなぜか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。