考えてみよう
試験問題に、横軸が角周波数の対数、縦軸がdBのグラフが1枚載っている。低いところは水平な線、途中で折れて右下がりの直線になる。問いはこうだ。「この回路の時定数はいくらか」。
式はどこにも書かれていない。グラフのどこを読めば、時定数Tも比例定数Kも取り出せるのか。
実は、回路の式から図の形を先に思い描けるようになると、この手の問題は読み取りの作業に変わる。
このトピックを読み終えるころには、折れ線の引かれたボード線図を見て、式を立てる前にKとTを取り出せるようになっている。
この記事の結論
- 周波数伝達関数 G(jω) は、伝達関数の s を jω に置き換えたもの。大きさ ∣G∣ が入出力の振幅比(ゲイン)、偏角 ∠G が位相差を表す。
- ゲインは 20log10∣G∣ [dB]。直列に結合した要素は、dBも位相も足し算で合成できる。
- 折れ点は ω=1/T。折線近似は低域0dB、高域 −20 dB/dec(dec=デカード。周波数が10倍になる区間あたり)。正確値は折れ点でちょうど 1/2 倍(約 −3 dB)、位相は −45∘。
- 図から読むときは、低域の水平部分の高さが 20log10K、折れ点の位置が 1/T。
一次遅れ 1/(1+jωT) のボード線図とベクトル軌跡、積分要素を含む閉ループの合成は、すでに「自動制御の基礎(フィードバック制御)」で扱っている。このページはその前段と後段をつなぐ。RC回路・RL回路から式を導く部分、比例・積分・微分・一次進みの各要素、直列結合、図から定数を逆算する読み方を足す。
周波数伝達関数とは何か
伝達関数 G(s) に、s→jω の置き換えをして得られる G(jω) を周波数伝達関数と呼ぶ。複素数なので、大きさと偏角に分けて読む。
∣G(jω)∣=∣X∣∣Y∣ (入出力の正弦波の振幅比),∠G(jω)=∠Y−∠X (位相差)
つまり、正弦波を入れたときの「出力が何倍になるか」と「どれだけ位相がずれるか」を、1つの複素数で表したものだ。実験では、正弦波を加えてオシロスコープなどで入出力の振幅比と位相差を測れば、この値が得られる。
RC回路・RL回路から導く
交流回路のインピーダンスの分圧がそのまま周波数伝達関数になる。入力電圧 Vi、出力電圧 Vo のフェーザ表示で考える。
RC回路(コンデンサの両端を出力)
ViVo=R+1/jωC1/jωC=1+jωCR1,T=CR [s]
RL回路(抵抗の両端を出力)
ViVo=R+jωLR=1+jωL/R1,T=RL [s]
どちらも 1/(1+jωT) の一次遅れ要素になる。出力を取る素子を入れ替えると形が変わる。RL回路でコイルの両端を出力にとると、Vo/Vi=jωT/(1+jωT) となり、低域でゲインが上がっていく高域通過の特性になる。
出力電流を0とみなして計算するのは、後段の回路の影響を無視して式を簡単にするためだ。実際の回路では、後段につなぐものによって特性が変わる。上のRC回路・RL回路の式は、この前提で求めたものだ。
ゲイン[dB]と位相
ゲインは次の式でdBに直す。入出力が電圧・電流の場合の係数は20である(電力の比なら10)。
ゲイン=20log10∣G(jω)∣ [dB]
次の対応を覚えておくと、電卓なしで計算しやすい。問題によっては log102≒0.301、log103≒0.477 が与えられる。
| 電圧の倍率 | 計算 | ゲイン |
|---|
| 1 | 20log101 | 0 dB |
| 2 | 20×0.301 | 約 6 dB |
| 2 | 10×0.301 | 約 3 dB |
| 3 | 20×0.477 | 約 9.5 dB |
| 10 | 20log1010 | 20 dB |
| 1/10 | −20 | −20 dB |
| 1/2 | −20×0.301 | 約 −6 dB |
| 1/2 | −10×0.301 | 約 −3 dB |
倍率が逆数になると、dBは符号が反転する。10倍ごとに20dB動くことも、これからの折線近似の土台になる。
基本要素の特性
ボード線図では、各要素のゲイン線図と位相線図を次のように覚える。ω は角周波数 [rad/s]、T は時定数 [s] である。
| 要素 | G(jω) | ゲイン線図 | 位相 |
|---|
| 比例 | K | 20log10K で水平 | 0∘ |
| 積分 | jωT1 | −20 dB/dec の直線。ω=1/T で0dBを横切る | −90∘ 一定 |
| 微分 | jωT | +20 dB/dec の直線。ω=1/T で0dBを横切る | +90∘ 一定 |
| 一次遅れ | 1+jωT1 | 折れ点 1/T の前は0dB、後は −20 dB/dec | 0∘→−45∘→−90∘ |
| 一次進み | 1+jωT | 折れ点 1/T の前は0dB、後は +20 dB/dec | 0∘→+45∘→+90∘ |
二次遅れ要素 1/{1+2ζ(jω/ωn)+(jω/ωn)2} は、ここでは概要だけでよい。高域では −40 dB/dec の傾きに近づき、位相は 0∘ から −180∘ へ向かう。折れ点にあたる角周波数は固有角周波数 ωn である。電気の側では、RLC回路がこの形になる。
積分要素は、電気回路ではオペアンプを使った積分回路で実現できる。出力が入力電圧の時間積分に比例する回路だ。微分要素は同様に微分回路にあたるが、高周波ほどゲインが大きくなるため、実際に性能のよいものを作るのは難しいとされる。
積分要素と一次遅れ要素の違いは折れ点の有無で見分ける。積分要素 1/(jωT) は低域でもゲインが上がり続け、どこにも折れない。ω=1/T は「0dBを横切る点」であって折れ点ではない。一次遅れ要素は折れ点より低い側が0dBで水平になる。
直列結合:dBと位相は足し算
2つの要素を直列に結合した G1(jω)G2(jω) のゲインと位相は、次のとおり。
20log10∣G1G2∣=20log10∣G1∣+20log10∣G2∣,∠(G1G2)=∠G1+∠G2
倍率は掛け算なので、そのままでは計算しにくい。対数を取ると足し算になる。だから、要素ごとに描いたボード線図を上下に重ねるだけで、全体の図ができる。
折線近似と正確値
一次遅れ要素 1/(1+jωT) のゲインは、
20log101+jωT1=−10log10{1+(ωT)2}
となる。折線近似では、2つの直線で代用する。
- ωT≪1:−10log101=0 dB で水平
- ωT≫1:−20log10(ωT) で、ω が10倍になるごとに −20 dB(−20 dB/dec)
2本の直線が交わる折れ点が ω=1/T である。一方、正確な値は次のようにずれる。
| ω | 折線近似 | 正確なゲイン | 正確な位相 |
|---|
| 0.1/T | 0 dB | −0.04 dB | −5.7∘ |
| 0.5/T | 0 dB | −0.97 dB | −26.6∘ |
| 1/T | 0 dB | −3.01 dB | −45∘ |
| 2/T | −6.02 dB | −6.99 dB | −63.4∘ |
| 10/T | −20 dB | −20.04 dB | −84.3∘ |
差が最も大きいのは折れ点で、約3dB。折れ点の半分と2倍の角周波数でも約1dBずれる。10倍離れればほぼ一致する。折れ点でのゲインを「−3 dB」と書くことが多いが、これは近似の値である。理論的な計算では、折れ点でゲインの倍率が 1/2 になることを使う。
「折線近似のゲイン」と「正確なゲイン」を求める問題は、同じ式で答えが変わる。折線近似なら折れ点でちょうど0dB、正確値なら約 −3 dB。問題文の指定を先に読むこと。折線近似はゲイン特性に使うのが基本で、位相の折線近似もあるが一致が良くない。位相は上の表のように正確な値で読む。
過去問の型で解く
出題の型は、(1) 回路や式からゲイン・折れ点・位相を計算する、(2) 要素を直列にしたときの合成、(3) 図から定数を逆算する、の3つに分けられる。数値は自作の例である。
例題1:RC回路の周波数伝達関数
R=10 kΩ、C=1 μFのRC回路で、コンデンサの両端を出力にとる。周波数伝達関数、折れ点角周波数、ω=100 rad/sと ω=200 rad/sのゲインと位相を求めよ。ただし log102≒0.301 とする。
G(jω)=1+jωCR1,T=CR=10×103×1×10−6=0.01 s
折れ点角周波数は ω=1/T=100 rad/s(周波数にすると f=100/2π≒15.9 Hz)。
- ω=100 のとき:ωT=1 なので、∣G∣=1/2 で約 −3 dB、位相 −45∘。
- ω=200 のとき:ωT=2 なので、−10log105=−10(1−0.301)≒−7.0 dB、位相 −arctan2≒−63∘。折線近似なら −20log102≒−6 dB。
log105=1−log102 と書き直すと、log102 だけで計算できる。10をまたぐ数は、10で割るか掛けるかして2・3の組み合わせに直すのが電卓なしのコツだ。
例題2:K と積分要素の直列合成
G(jω)=K×jωT1 で、K=4、T=0.5 s とする。ゲイン線図が0dBを横切る角周波数と、ω=2 rad/sでのゲイン、位相を求めよ。
∣G∣=ωTK=0.5ω4=ω8
- 位相は積分要素だけが効き、−90∘ 一定。比例要素は位相を動かさない。
- ω=2 のとき:∣G∣=4 で、20log104=40×0.301≒12 dB。
- 0dBを横切る点は 8/ω=1 より ω=8 rad/s。ω=2 の12dBから −20 dB/dec で下ると、ω=2×1012/20≒2×4=8 で0dBになり、一致する。
比例要素の K は、積分要素の直線を 20log10K dBだけ上に持ち上げる。0dBを横切る角周波数が 1/T から K/T に右へずれる。
例題3:図から K と T を逆算する
次の2つの読み取り結果が与えられている。それぞれ G(jω) を求めよ。
| 読み取り結果 |
|---|
| 図A | 低域は14dBの水平線。折れ点は50 rad/s。それより高域は −20 dB/dec。位相は低域0°、高域 −90∘ に近づく |
| 図B | 全域で −20 dB/dec の右下がりの直線。ω=10 rad/sで +20 dB。位相は −90∘ 一定 |
図A:一次遅れ K/(1+jωT) の形。低域の高さ 20log10K=14 dB。14=20−6 で、20log1010=20、20log102≒6 なので、K=10/2=5。折れ点が 1/T=50 より T=0.02 s。
G(jω)=1+j0.02ω5
図B:位相が −90∘ 一定で折れ点がないので、積分要素 K/(jωT) の形。ω=10 で +20 dB(10倍)より K/(10T)=10、すなわち K/T=100。0dBを横切るのは ω=100 rad/s。
G(jω)=jω100(K/T=100)
図Bから決まるのは K/T の比だけで、K と T は別々には決まらない。積分要素の線は、K を2倍にしても T を半分にしても同じ位置に来るためだ。
図から読む順番は決まっている。(1) 位相が0°から-90°に変わる→一次遅れ、-90°一定→積分要素、と要素の種類を決める。(2) 水平部分があれば、その高さが 20log10K。(3) 折れる角周波数が 1/T。(4) 右下がり直線だけなら、通過する1点から K/T を求める。
ゲイン余裕・位相余裕(用語の紹介)
フィードバック系の安定性を、ボード線図の読み取りで調べる量として、ゲイン余裕と位相余裕がある。
- 位相余裕:ゲインが0dBになる周波数で、位相が −180∘ までどれだけ残っているか。
- ゲイン余裕:位相が −180∘ になる周波数で、ゲインが0dBをどれだけ下回っているか。
位相が180度遅れる周波数でゲインが0dB(倍率1)以上あると、負帰還が正帰還に変わり、異常発振のおそれがある。計測器メーカーの用語解説には、目安として位相余裕60度以上・利得余裕10dB以上が挙げられている。保証値ではなく、用途によって目標は異なる。試験ではまず用語と定義を押さえておけば足りる。
注意点
- 折れ点は ω=1/T で、ω=T ではない。単位は [rad/s] で、周波数 [Hz] は 1/(2πT)。
- 折れ点のゲインは、折線近似なら0dB、正確値なら約 −3 dB。問題文の指定を確認する。
- 電圧・電流の比は 20log10、電力の比は 10log10。
- 積分要素に折れ点はない。一次遅れの高域は積分要素と同じ形(−20 dB/dec、−90∘)に近づく。
- 直列結合は、倍率の掛け算ではなくdBの足し算と位相の足し算。
実務との接点
周波数応答は、正弦波を加えて入出力の振幅比と位相差を測ることで実測できる。ボード線図は、その結果を描く標準的な図である。制御系や電源回路のフィードバックでは、位相余裕とゲイン余裕が安定性の目安として使われる。
関連するトピック
- 「自動制御の基礎(フィードバック制御)」:負帰還の閉ループ利得、一次遅れ要素のボード線図とベクトル軌跡、積分要素を含む閉ループの折線近似
- 「複素数・フェーザ(記号法)」:jωL や 1/(jωC) のインピーダンスで分圧を立てるときの土台
- 「RLC直列回路とベクトル図」:インピーダンスと位相差。周波数伝達関数を導く土台
- 「共振回路」:RLC回路の固有角周波数(二次要素の折れ点にあたる角周波数)につながる考え方
- 「過渡現象(RL・RC回路)」:同じ時定数 T を、時間応答の側から見る
冒頭の問い——グラフのどこを読めば K と T が出るか——の答え合わせは、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。