熱を受け取って仕事を取り出す機械(熱機関)を、227℃の高温熱源と27℃の低温熱源の間で動かす。摩擦も熱の漏れもない、理想の機関だとする。受け取った熱のうち、仕事にできる割合の上限は、次のどれに近いだろう。
(a) 約12% (b) 約40% (c) 約60% (d) 約88%
「ムダがなければ100%だろう」と思った人もいるはずだ。先に直感で決めておいてほしい。読み終えるころには、100%にならない理由を言葉で説明でき、上限を2つの温度から計算できるようになっている。
まず一言で
- 熱を仕事に変える理想のサイクルがカルノーサイクルだ。等温膨張、断熱膨張、等温圧縮、断熱圧縮の4工程で、元の状態に戻る
- 高温熱源の絶対温度を 、低温熱源の絶対温度を とすると、熱効率は 。温度は必ずK(ケルビン)で入れる
- 100%にならないのは、受け取った熱の一部を低温側へ捨てないと、一周して元の状態に戻れないからだ(熱力学第二法則)。実際の機関は、この理想の上限よりさらに低い
言葉をそろえる
熱の話は、出てくる言葉が多い。先に並べておく。
- 熱機関:熱を受け取って、仕事(力×動かした距離。単位はJ)を取り出す機械。エンジンや蒸気タービンがこれにあたる
- 作動流体:熱機関の中で、膨張と圧縮を繰り返す気体や蒸気
- 熱源:熱を出し入れしても温度が変わらないほど大きいと考える、熱の供給元(高温熱源)と捨て先(低温熱源)。理想化した言い方だ
- サイクル:状態を次々に変えて、一周して元の状態に戻る一巡り。一周すれば、温度・圧力・内部エネルギー(物質が内部にためているエネルギー)などの状態量は元の値に戻る(筑波大学の講義資料。以下「筑波大」)
- 可逆・不可逆:系も周囲も元に戻せる変化が可逆(標準的な定義)、そのままでは元に戻らない変化が不可逆(筑波大)。サイクルで系が元に戻っても外界には変化を与える、と筑波大は注意する。摩擦による発熱や、高温から低温への熱の移動は不可逆だ。カルノーサイクルは、ゆっくり(準静的に)進む可逆な変化だけでできた、理想のサイクルとして扱う(筑波大)
- 1サイクルで、高温熱源から受け取る熱を 、低温熱源へ捨てる熱を 、取り出す正味の仕事を と書く。この Q は1サイクルあたりの熱量(単位J)で、1秒あたりの熱の流れ(熱流量。単位はワット)とは別の量だ。熱効率は 。図や表の中では、添え字を省いて QH・QL・TH・TL と書く
筑波大は、熱効率を入熱量と放熱量だけで表す式は「結果」であって「定義ではない」と注意する。定義は、仕事÷入熱だ。
第一法則と第二法則 — 量の収支と、変化の向き
| 法則 | 言い方 | 決めること |
|---|---|---|
| 第一法則 | 熱も仕事も含めて、エネルギーは保存される | 量の収支 |
| 第二法則 | サイクルでは、熱の全量は仕事にならない。熱は低温から高温へ勝手に移らない | 変化の向きと限界 |
サイクルを一周すると、内部エネルギーは元に戻る。第一法則(入った熱−した仕事=内部エネルギーの変化)は、一周では右辺が0になり、 が出る。捨てた熱 を含めて、エネルギーはぴったり合う。熱効率が100%でないのは、エネルギーが消えるからではない。
第二法則には、よく使う言い方が2つある(大阪大学総合図書館が開いた講習会で、大学院生が作った資料。以下「大阪大」)。
- トムソンの原理:吸収した熱をすべて仕事にかえるサイクル、つまり熱効率100%の熱機関は作れない
- クラウジウスの原理:外からの仕事なしに、低温熱源から高温熱源へ熱を移すことはできない。冷房は電気の仕事を使って、室内の熱を屋外へ捨てる装置だ
大阪大は、この2つが等価(一方が破れれば他方も破れる)だと説明する。
これで、熱効率の定義と、第一法則・第二法則の役割を、言い分けられる。
仕組み — 4つの工程と、熱を捨てる「なぜ」
カルノーサイクルは、熱効率をできる限り大きくした理想のサイクルで、4工程を「ゆっくりと」繰り返す(大阪大)。図1は、横軸を体積 V、縦軸を圧力 p にした図で、時計回りに一周する。
- A→B 等温膨張:高温熱源に接して、温度一定のまま膨張し、 を受け取る。理想気体では、受けた熱がそのまま仕事になる(名古屋大学のサイトに載るT. Koyama氏の資料。以下「名古屋大」)
- B→C 断熱膨張:熱の出入りを断って膨張を続け、温度が から に下がる。仕事は内部エネルギーの減少分に等しい(名古屋大)
- C→D 等温圧縮:低温熱源に接して、温度一定のまま圧縮し、 を捨てる
- D→A 断熱圧縮:熱の出入りを断って圧縮し、温度が から に戻る。元の状態Aに帰る
なぜ、熱を低温側に捨てるのか
A→B だけを見れば、受けた熱が全部仕事になっている。それでも熱効率が1にならないのは、気体が膨らんだままで、まだ一周していないからだ。元の体積に戻すには、圧縮する仕事が要る。
理想気体の等温過程の仕事は、温度に比例する(。名古屋大の式(1))。断熱の2工程(B→C、D→A)の仕事は、互いに打ち消し合う(名古屋大の式(9)(11)(12))。膨張と圧縮の体積の比が同じなら(同じになる理由は、次の節で示す)、高温のまま圧縮すれば、返す仕事は膨張で得た仕事と同じで、正味はゼロになる。低温で圧縮すれば、返す仕事は 倍で済み、その差が正味の仕事として残る。熱を低温側へ捨てる C→D は、安く圧縮して元に戻るための工程、と読める(当サイトの説明)。
高い所から低い所へ落ちる水が水車を回すように、熱は、高温から低温へ落ちる途中で仕事になる(当サイトの比喩)。落ちた先に水を流さなければ、水車は回り続けない。ただし、水は水車を通っても減らないが、熱は一部が仕事に変わるので、低温側へ落ちる量 は より少ない。
数と条文で追う — 式を導く
標準的な導出で、式の由来を確かめる(名古屋大の資料の式(2)(10)(13)を使う。名古屋大は4工程の仕事を足して を求めるが、ここでは を で出す。筑波大は結果と注意点を載せる。言い回しは筆者の整理)。〜 は、図1の点A〜Dでの体積だ。
- A→B:
- C→D:
- 断熱過程(B→C、D→A)では、 が一定( は比熱比。定圧比熱÷定容比熱)。これを2つの断熱過程に使うと、 になる
3.より、1.と2.の対数は同じ値だ。割ると、体積の比が消えて、温度だけが残る。
これが「熱効率は温度で決まる」の正体だ。導出は、理想気体をゆっくり動かして行った。ところが筑波大が示すカルノーの定理は、同じ2つの熱源の間で働く可逆サイクルの熱効率は、どれも等しく最大(理論最大熱効率)で、作動流体の種類によらない、とする。不可逆なサイクルの効率は、必ずそれより小さい。だから は、その2つの熱源の間で動く熱機関の上限として使える。
なぜ、温度はKで入れるのか
が成り立つ温度が、熱力学温度(絶対温度)だ。筑波大は、可逆カルノーサイクルの等温過程で出入りする熱の比が、温度の比に等しいことを使って、物質の性質によらない温度を定める、と説明する。0 Kが最低の温度で、Kの大きさは摂氏と同じ。違うのは原点だけで、セルシウス温度の値は、ケルビンの値から273.15を引いたものと定義されている(産業技術総合研究所の解説)。
温度の差なら、Kでも℃でも同じ値になる。ところが、この式が使うのは温度の比で、原点がずれると値が変わる。
例題1 高温熱源が227℃、低温熱源が27℃。
- Kに直す:227+273.15=500.15 K、27+273.15=300.15 K
- で、約40%
- 摂氏のまま 1−27÷227 とすると約88%になる。誤りだ
例題2 例題1の機関が、1サイクルに500 kJの熱を受け取る。
- 仕事 約200 kJ
- 捨てる熱 約300 kJ。 は500 kJで、第一法則と合う
やってみよう ①:327℃と27℃の間で動かすと
高温熱源327℃、低温熱源27℃のカルノー機関が、1サイクルに800 kJの熱を受け取る。(1) 熱効率は? (2) 仕事と、捨てる熱は?
(1) 327+273.15=600.15 K、27+273.15=300.15 K。η=1−300.15÷600.15=約0.50(約50%)。
(2) W=0.50×800=約400 kJ。QL=800−400=約400 kJ(800×300.15÷600.15 でも同じ)。
やってみよう ②:実際の機関は、理想の何割か
ある実際の熱機関が、527℃の高温熱源から1サイクルに500 kJを受け取り、150 kJの仕事を取り出して、27℃の低温熱源へ熱を捨てた。(1) この機関の熱効率は? (2) 同じ2つの熱源の間のカルノー効率は? (3) 実際の熱効率は、その何割か?
(1) η=150÷500=0.30。捨てた熱は 500−150=350 kJ。
(2) 527+273.15=800.15 K、27+273.15=300.15 K。1−300.15÷800.15=約0.625。
(3) 0.30÷0.625=約0.48。理想の約半分だ。同じ500 kJを受けても、カルノー機関なら約312 kJの仕事を取り出せ、捨てる熱は約188 kJで済む。
これで、2つの温度から、熱効率の上限と、仕事・捨てる熱の量を計算できる。
温度を50 K動かすなら、どちらが効くか
K、 K なら η=0.40。高温側を550 Kに上げると、1−300÷550=約0.455(+5.5ポイント)。低温側を250 Kに下げると、1−250÷500=0.50(+10ポイント)。同じ50 Kでも、低温側を下げるほうが約1.8倍効く(筆者の計算)。
実際の火力発電の効率改善策として、千葉大学の講義資料(以下「千葉大」)は、タービン入口の温度・圧力を高めること、冷却水の温度を下げることを挙げる。式の を上げ、 を下げる向きと一致する。
第二法則のもう一つの顔 — エントロピー
エントロピー は、熱 を温度 で割ったものを、可逆な経路で足し合わせて決める量で、不可逆性を数字にしたものだ(筑波大、広島大学の講義資料)。次の原理がある。
エントロピー増大の原理:断熱された系で変化が起これば、不可逆ならエントロピーは増加し、可逆なら一定のままだ(筑波大は、断熱系が不可逆変化をすれば必ずエントロピーは増加する、と書く)。
- 熱の移動:断熱された容器の中で、1000 Jの熱が400 Kの物体から300 Kの物体へ移る(どちらも大きく、温度は変わらないとする)。高温側は−1000÷400=−2.50 J/K、低温側は+1000÷300=+3.33 J/K、合計は約+0.83 J/K。増えるので不可逆だ。逆向き(低温から高温)なら−0.83 J/Kで減るので、起こらない。クラウジウスの原理と同じ向きを、数字で言い直した形だ(当サイトの整理。数値は筆者で、筑波大の例にならった)
- 気体の自由膨張:断熱された容器の中で、気体が真空へ広がる(体積 )。理想気体では で、増加する(広島大学の資料)
- カルノーサイクル:可逆で、。熱源を含めた全体のエントロピーは、一周で増えも減りもしない(当サイトの整理)。不可逆な実際の機関では 、つまり捨てる熱の割合が理想以上になる(電気通信大学の資料のクラウジウスの不等式)
やってみよう ③:熱が動くと、エントロピーはどう変わるか
断熱された容器の中で、600 Jの熱が600 Kの物体から300 Kの物体へ移った(両方とも大きく、温度は変わらない)。合計のエントロピーの変化は?
高温側は−600÷600=−1.0 J/K、低温側は+600÷300=+2.0 J/K。合計は+1.0 J/K。増えるので、不可逆な変化だ。
現場とつなぐ
実際の機関が、理想より低い理由
カルノーの定理(不可逆なサイクルの効率は、可逆なサイクルより小さい。電気通信大学の資料は、同じ仕事に、より多くの熱が要るとする)が、実際の機関に当てはまる。資料から読み取れる理由は、次の3つだ。
- 不可逆な過程がある:摩擦による熱の発生、高温物体から低温物体への熱の移動、真空への気体の拡散は、そのままでは元に戻らない不可逆現象だ(筑波大)。実際の機関にも、摩擦や、温度差のある熱の移動はある
- 等温を保ちにくい:筑波大は、等温過程は実際には実現しがたい、と書く。熱は温度差があって初めて移るので、有限の速さで熱を出し入れするには、熱源と作動流体の間に温度差が要る(この一文は当サイトの読み)。温度差のある熱の移動は不可逆現象だ(筑波大)
- サイクルの形が違う:火力発電の蒸気タービンのサイクル(ランキンサイクル)は、ポンプで断熱圧縮、ボイラー(蒸気をつくる機器)で等圧加熱、タービンで断熱膨張、復水器(蒸気を冷やして水に戻す機器)で等圧冷却、の4つの工程でできている(千葉大)。千葉大は、効率改善の基本原理を「カルノーサイクルに近づける」と書く。ランキンサイクルはカルノーサイクルと形が違い、効率はそれに届かない、と読める(当サイトの読み)
発電所の数字と、理想の上限
環境省のウェブサイトに載る発電技術の参考表(表題は「BATの参考表」で、BATの語は資料中に展開がない。平成26年4月時点の案。2014年の古い資料で、現行の値ではない)の(A)の欄は、経済性・信頼性に問題なく商用運転している最新鋭の発電技術を整理したものだ。その中の超々臨界圧(USC。蒸気圧力22.1MPa以上の超臨界圧のうち、主蒸気温度が566℃を超えるもの)の石炭火力は、90〜110万kW級で、設計熱効率が発電端(所内で使う電力を引く前の値。資料の式から読んだ意味)で43%、高位発熱量(HHV。燃料の熱量を数える基準の一つ)基準とされている。資料は「設計熱効率はあくまで目安」と注記する。
仮に、蒸気の温度を高温熱源の566℃(USCの境界の値で、実機の蒸気温度はこれより高い)、捨て先を30℃とすると、カルノー効率は 1−303.15÷839.15=約64%だ。資料の設計値43%は、その約3分の2にあたる。ただし、比べる基準が違う(HHV基準の発電端の設計値と、蒸気温度だけで決めた仮の上限)ので、差の内訳までは言えない。言えるのは、この石炭火力の設計値でも、燃料の熱のうち電気になるのは4割台にとどまる、ということだ。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた複合サイクルは、50%以上の効率を達成した、と千葉大の資料(2016年)は書く。
冷房・ヒートポンプとの接点
クラウジウスの原理が言うとおり、冷房は低温の室内から高温の屋外へ熱を移す装置で、電気の仕事が要る(大阪大)。カルノーサイクルを逆向きに回したものを、筑波大は「カルノーヒートポンプ」と呼ぶ。「電気1に対して、どれだけの熱を運べるか」を数える成績の話は、次のトピックで扱う。
電気設備に近い話として、熱電素子もある。熱電効果は、熱(温度差)と電気(電位差)が直接変換される現象で、温度差が電位差に変わるのがゼーベック効果(熱電対に応用)、電位差を与えて電流を流すと両端に温度差が生じるのがペルチェ効果(簡易な冷却装置に応用)だ(原子力機構のATOMICA)。
試験での出方とワナ
出題の型
令和8年度 問題A No.5(必須。No.1〜No.14は全問解答)は、「熱に関する記述のうち、適当でないもの」を4つから選ぶ形だった(問題文は転載しない)。4つの記述は、カルノーサイクルの熱効率、断熱状態での不可逆変化とエントロピー、気体の定圧比熱と定容比熱、2種の金属をつないだ回路に電流を流したときの現象、という別々の分野から1つずつ出ていた。正答肢の表で確かめると、適当でないとされたのは、カルノーサイクルの熱効率についての記述だった。
4分野が1問に並ぶので、記述を一つずつ、式や定義に当てて判定する。
| 話題 | 正しい言い方 | 誤りの型 |
|---|---|---|
| カルノーサイクルの熱効率 | η=1−TL/TH(K)。作動流体によらない | 温度比の累乗、摂氏で計算 |
| エントロピー | 断熱系で不可逆なら増加、可逆なら一定 | 不可逆で減る、変わらない |
| 定圧比熱と定容比熱 | 理想気体は Cp=Cv+R(定圧が大きい) | 等しい、定容が大きい |
| 熱電効果 | 電流で接合部に温度差(ペルチェ効果) | ゼーベック効果との取り違え |
定圧比熱が大きい理由
温度を同じだけ上げるとき、理想気体の内部エネルギーの増加は、定圧でも定容でも同じだ(内部エネルギーは温度だけで決まる。名古屋大)。体積一定なら、熱は全部その増加になる。圧力一定では、気体が膨張して外へ仕事をするので、その分の熱が余計に要る。1 molあたりの差が で、(マイヤーの関係。名古屋大の式(17)は n mol の形 で、ここでは1 molあたりに直した)。2.0 molを10 K温めるなら、定圧のほうが 2.0×8.314×10=約166 J多く要る(Rの値はNIST)。
冒頭の問いの答え合わせ
227℃と27℃の間の理想の機関の熱効率の上限は、約40%(答えは(b))。500.15 Kと300.15 Kに直して、1−300.15÷500.15=0.400だ。(d)の約88%は摂氏のまま計算した値、(c)の約60%は「1−」を落として温度比を答えた値、(a)の約12%は摂氏の比を答えた値になる。
100%にならない理由は、一周して元の状態に戻るために、熱の一部を低温側へ捨てなければならないからだ(第二法則)。エネルギーは消えていない。捨てた熱も含めて QH=W+QL が成り立つ(第一法則)。
これで、できるようになったことは4つある。温度をKに直して熱効率の上限を出す。4工程をpV図の上で言う。第一法則と第二法則を言い分ける。4分野の記述を、式や定義で判定する。理解度チェックの問4・5・11(計算)、問1(工程)、問3・9(第二法則とエントロピー)、問10・12(比熱と熱電効果)で、確かめてみよう。
(例題の数値は、プログラムで検算している。)
次の問い
冷房は、電気の仕事1に対して、室内から屋外へ、どれだけの熱を運べるのか。運べる熱が電気の仕事より大きくなっても、第一法則には反しないのか。カルノーサイクルを逆向きに回した理想の冷房の上限と、実際の冷凍サイクルの成績を、別のトピック「冷凍サイクルとCOP」で追う。