仮に、窓のない会議室に20人が入り、ドアを閉めて会議を始めたとする。換気扇は回っている。この部屋の空気は、いつまで「まだ大丈夫」と言えるのか。
手を動かす前に、3つの「なぜ」を考えたい。
- 二酸化炭素は、1,000ppm 程度では急性の中毒を起こさない。それなのに、なぜ法令は二酸化炭素の濃度で換気を測るのか。
- 必要換気量は、なぜ「発生量 ÷(許せる濃度 − 外気の濃度)」という割り算になるのか。
- 給気ファンだけを付けた部屋と、排気ファンだけを付けた部屋で、ドアのすきまを空気が通る向きは、なぜ逆になるのか。
この3つは、1本の考え方でつながっている。入る量、出る量、中で増える量の「収支」だ。読み終えるころには、換気の問題を収支の式に置き換えて解けるようになっている。
まず一言で
換気は収支で考える。部屋に入る量、出る量、中で発生する量を釣り合わせれば、必要換気量の式も、換気回数による濃度の変化も、第1〜3種換気の室内圧力の向きも、同じ考え方から出てくる。
- 必要換気量 は、発生量 を、許せる濃度 と外気の濃度 の差で割ると出る
- 二酸化炭素の基準は 1,000ppm(100万分の1000)以下。急性の中毒を起こす濃度ではない。空気調和・衛生工学会の報告書は、体臭の強さを代表させる指標という説明と、1971年のテキストが倦怠感・頭痛の増える濃度を挙げている説明を並べている
- 機械換気は、給気と排気のどちらを機械で行うかで第1〜3種に分かれる。給気が多ければ正圧、排気が多ければ負圧になる
仕組み① — なぜ二酸化炭素の濃度を測るのか
二酸化炭素を測る理由には、二つの説明がある
人が息を吐くと二酸化炭素(CO₂)が出る。体からは、体臭のもとになる物質も出る。空気調和・衛生工学会の報告書は、これらを「人体発生汚染物」と呼ぶ。人がいるあいだは、どちらも出続ける。
ところが、臭いは鼻では当てにならない。部屋にいる人は数分で臭いを感じなくなり、あとから入ってきた人だけが気づく。二酸化炭素を測る理由の一つは、人の呼気由来の二酸化炭素を体臭の強さの代表と見る説明だ。もう一つは、健康への影響から説明するもので、あとで見る。二酸化炭素は、検知管方式の検定器で測れる(建築物衛生法施行規則3条の2)。
では、1,000ppm は危険な濃さなのか
急性の中毒を起こす濃さではない。次の表のとおり、1,000ppm は、許容濃度の5分の1、呼吸数の増加が載る濃度の10分の1だ。
| 濃度 | どんな線か |
|---|---|
| 約400〜460ppm | 外気の目安。世界の大気の月平均は400ppm 超。東京都特別区の外気は450〜460ppm 付近のことが多い |
| 1,000ppm | 建築物衛生法の管理基準 |
| 5,000ppm | 日本産業衛生学会の許容濃度(1,000ppm の5倍) |
| 10,000ppm(1%)〜 | 生体影響の整理表で、呼吸数の増加が載り始める(1,000ppm の10倍) |
報告書は、二酸化炭素の毒性の一般的な整理では、1,000ppm 程度の濃度では目立った影響はないとされる、と書く。概要では、純炭酸ガスを3,000ppm にした実験でも健康影響が見られない報告がある、とも述べる。
では、なぜ1,000ppm なのか。報告書には、二つの説明が別々の節に並んでいる。
- 体臭の指標という説明。 教科書には、1,000ppm は二酸化炭素の毒性で決めたものではなく、室内空気質の総合的な指標だ、と書かれている。報告書はこの言い方を、厳密には正しくないとする。1,000ppm は人の呼気由来の二酸化炭素だけを対象にした指標で、体臭の強さを代表できる、と言い直している。現行の日本の換気基準で、二酸化炭素濃度は体臭の指標として決められた、とも書く
- 健康影響という説明。 1971年の管理技術者講習会テキストは、二酸化炭素自体は少量なら人体に有害ではないが、1,000ppm を超えると倦怠感・頭痛・耳鳴り・息苦しさを訴える人が増え、疲労度の目安であるフリッカー値の低下も著しいことなどから定めた、と説明している。報告書のまとめも、この基準は症状の増加や疲労度の上昇に基づいて定められた、と書く
どちらが主な理由だったかは、制定当時の審議資料を確認できていないため、この記事では決めない。
基準の背景をたどると、19世紀に、ペッテンコッフェルらが700〜1,000ppm を許容濃度とみなす提案をした(報告書の表記)。WHO の1968年の報告書は、この値に生理学的な基礎はないとしたうえで、家庭内の空気の汚れの「間接的な指標」としては実際的だと認めた。WHO のこの報告書は、生理学の研究では0.5%(5,000ppm)以上で呼吸数がガス交換に必要な以上に増える、とも述べている。なお、上の表の1%(10,000ppm)は別の資料(生体影響の整理表)の値で、WHO の0.5%とは出典が違う(以上、空気調和・衛生工学会の報告書が引く内容)。
ただし、この話はまだ動いている。近年の研究には、1,000ppm 程度でも血中の二酸化炭素分圧や心拍の変化、シックビルディング症候群の症状との関係を示すものがある。原因が二酸化炭素そのものか、ほかの汚染物質との複合かは、さらに検証が必要だと報告書は書いている。
これで、法令が二酸化炭素の濃度を物差しにしている理由を、二つの説明を挙げて言える。
仕組み② — 濃度の収支から、必要換気量の式を導く
部屋の中の二酸化炭素を、浴槽の水位のように考える。底から水がわき出る浴槽に、蛇口から水を入れ、栓を抜いて水を出す。蛇口は外気が運び込む分、栓は室内の空気が運び出す分、わき水は人が出す分だ。水位が上がり続けるかどうかは、この3つの釣り合いで決まる。
記号を決める。
- :室容積 [m³]
- :換気量 [m³/h](入る空気の量と出る空気の量は同じとする)
- :外気の二酸化炭素濃度 [m³/m³]
- :室内の二酸化炭素濃度 [m³/m³]
- :室内で発生する二酸化炭素の量 [m³/h]
1時間あたりでは、入る量は 、出る量は 、発生する量は 。中にたまる量は、この差だ。
濃度が一定になったとき(十分に時間がたったとき)は、たまる量が0だから、入る量と発生量の合計が、出る量と等しい。
なぜ「差」で割るのか
外気 1m³ は、室内の濃度が に達するまでに、二酸化炭素を m³ だけ受け取れる。外気がすでに まで汚れているぶん、余裕は小さい。発生量 を受け取り切るには、その余裕で割った量の外気が要る。余裕が小さいほど、たくさんの空気が必要になる。
この式は、空気が室内で一様に混ざる(完全混合)と仮定している。実際の部屋には濃度のむらがあるが、設計と試験では、この仮定で計算する。
単位 — ppm は m³/m³
ppm は100万分の1。体積の比で書けば、1ppm= m³/m³ だ。
- 1,000ppm = m³/m³
- 400ppm = m³/m³
- 1% = 10,000ppm
発生量 M はどこから来るのか
人の二酸化炭素発生量は、作業が強いほど増える。JIS A 1406:1974 の表を引用した大学の論文によると、安静時は約 0.011 m³/(h·人)、座って行う事務作業は 0.013〜0.023、軽い労働は 0.033〜0.054 m³/(h·人) の範囲だ(原典のJISは有料で未確認。目安として読む)。
設計や検討では仮定値を置く。空気調和・衛生工学会の報告書は、18 L/h や 20 L/h(0.020 m³/h)、米国の基準の付録にある 0.31 L/min(18.6 L/h)などを使っている。令和8年度の公表問題でも、発生量は問題文で与えられていた。
例題① 人数から必要換気量を出す
在室者が45人。1人あたりの二酸化炭素発生量を 0.018 m³/(h·人)、室内で許す濃度を m³/m³、外気の濃度を m³/m³ とする。必要換気量は。
発生量の合計は、
許せる濃度の差は m³/m³。
1人あたりでは m³/(h·人)。厚生労働省の資料も、1,000ppm を満たす1人あたりの必要換気量を約30m³/h としている。この例の仮定では、ちょうどそれに重なる。
外気が に上がると、差は に縮み、 は約1,473 m³/h になる。外気が50ppm 上がっただけで、必要換気量は約9%増える。
やってみよう:換気量が600m³/h と決まっている部屋は、最大何人まで?(押すと答え)
条件は例題①と同じ(1人あたりの発生量 m³/h、許容 、外気 )。式を人数 について解く。
換気量 600 m³/h は、1人あたり30 m³/h の20人分だ。21人目が入ると、定常の濃度は 1,000ppm を超える。
これで、人数・発生量・濃度から必要換気量を求め、逆に換気量から収容できる人数も出せる。
数と条文で追う① — 法令の数字と、換気回数
二酸化炭素と換気量の基準は、法令ごとに「場面」がちがう
| 法令 | 何の基準か | 数値 |
|---|---|---|
| 建築物衛生法施行令 2条 | 特定建築物の維持管理 | 二酸化炭素 100万分の1000以下 |
| 建築基準法施行令 129条の2の5第3項 | 中央管理方式の空気調和設備が備える性能 | 炭酸ガス 100万分の1000以下 |
| 建築基準法施行令 20条の2 | 機械換気設備の必要有効換気量 | V=20Af/N |
建築物衛生法の特定建築物は、興行場・百貨店・店舗・事務所などの用途で延べ面積が3,000m² 以上の建築物(学校教育法1条の学校などは8,000m² 以上。施行令1条)。空気調和設備や機械換気設備のある居室で、二酸化炭素の含有率がおおむね100万分の1000以下になるように維持する。測定は、通常の使用時間中に、各階ごとの居室の中央部で、床上75〜150cm の位置で、検知管方式の検定器を使い、2月以内ごとに1回。基準と比べるのは、1日の使用時間中の平均値だ。
用語にも注意する。建築物衛生法施行令は「二酸化炭素」、建築基準法施行令は「炭酸ガス」と書く。同じ物質だ。
建築基準法施行令20条の2の式は、一人あたりに直すと何m³/h か。 の は居室の床面積 [m²]、 は実況に応じた一人あたりの占有面積 [m²](その他の居室は10を超えるときは10、特殊建築物の居室は3を超えるときは3)。特殊建築物とは、法28条3項が挙げる別表第一(い)欄(一)項の用途(劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場など)の建築物のことだ。特殊建築物の居室以外で換気上有効な窓などがある場合、条文は、その有効面積に20を掛けた面積を から減じる。以下では、この減算は考えない。 が実況どおりの占有面積なら、床面積 に 人いるから、1人あたり m³/(h·人) になる。条文の20と、1,000ppm から逆算した約30は、別々の数字だ。20の由来は集めた資料に書かれていないので、両者を結びつけない。
「何を薄めるか」で、換気量の決め方が変わる
| 薄めるもの | 換気量の決め方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 人が出す二酸化炭素 | Q=M÷(C−Co) | 濃度の収支 |
| 建材からの化学物質 | Vr=n×A×h(n=0.5 または 0.3 回/h) | 施行令20条の8 |
| 燃焼の廃ガス | V=40KQ など | 告示1826号 |
施行令20条の8(ホルムアルデヒドに関する基準)の換気回数は、住宅等の居室で0.5、その他の居室で0.3。たとえば床面積30m²、天井高さ2.4m の住宅の居室なら、 m³/h だ。同じ部屋に4人いると、人の二酸化炭素から見た必要換気量は、例題①と同じ式で m³/h(1.7回/h)になる。薄めたいものが人か建材かで、必要な量はまるでちがう。
換気回数と、濃度が変わっていく速さ
換気回数 は、1時間に室容積の何倍の空気を入れるかを表す。
建築基準法施行令20条の7の表の備考でも、換気回数は有効換気量 V を床面積 A と天井高さ h の積で割った と定義されている。0.5回/h は、2時間で室容積と同じ量の外気を送る換気量、という意味だ。
収支の式を室容積 で割ると、濃度の時間変化が見える。
人が入った瞬間()から始めると、解は次のとおり。
意味を言葉で読む。濃度は、(定常の値)へ向かって上がる。上がる速さを決めるのは だけだ。 のとき定常差の %、 で約95%。 を時定数と呼ぶ。 回/h なら時定数は20分、1時間でほぼ定常に着く。この時間変化の式と解は、標準的な物理(質量保存)で、出典資料にはなく、筆者が導出した。
例題② 換気回数から、濃度の見通しを立てる
40m²、天井高さ3m の会議室(容積120m³)に20人が入る。1人 0.018 m³/h、外気 m³/m³(400ppm)。換気回数は3回/h。
(1) 定常の濃度。 m³/h、 m³/h。
つまり1,000ppm の差。室内は 400 + 1,000 = 1,400ppm で、基準を超える。
(2) 基準を守るには。 差を に抑えるなら m³/h、換気回数は 回/h。
(3) 超えるまでの猶予。 3回/h のまま、外気濃度の状態から入室したとする。1,000ppm(差600ppm)に届く時刻は、 より h、約18分。この例では、換気が足りない部屋でも、基準を超えるまでに十数分の余裕がある。会議が長引くほど、足りない換気が数字に表れる。
やってみよう:換気回数を3回/h から5回/h に上げると、定常の濃度は何ppm 下がる?(押すと答え)
定常の差は なので、 が 倍になれば差は 倍。1,000ppm の差が 600ppm の差になり、室内は 1,400ppm から 1,000ppm へ下がる(400ppm 下がる)。時定数も20分から12分に縮むので、定常に近づく速さも上がる。例題②(2)で求めた「基準ちょうどの換気回数」が5回/h だった理由が、これだ。
これで、換気回数と人数から、定常の濃度と、基準へ達するおよその時間を見通せる。
仕組み③ — 換気方式を、空気の収支と圧力で読む
自然換気 — 風と温度差を使う
動力を使わない「無動力の換気」(札幌市教育委員会の資料の言い方)で、駆動力は2つ。風が当たる面は外から押され、反対側は引かれるので、壁の口のあいだに圧力差ができる(風力換気)。もう1つは温度差換気だ。室内が外より暖かいと室内の空気は軽く、重い外気は低い口から入り、軽い空気は高い口から出る。
圧力差は、おおよそ「空気の密度差 × 重力加速度 × 高低差」になる。仮に、高低差10m、室内20℃、外気5℃なら約6.4Pa(密度は理想気体の式で計算)。室内を20℃のまま、外気を12.5℃(温度差が半分の7.5℃)にすると約3.1Pa で、ほぼ半分。駆動力は、高低差と温度差にほぼ比例して大きくなる。内外の圧力が等しくなる高さを中性帯と呼び、これより上の口は排気、下の口は給気になる。この圧力差の式と中性帯の説明は、標準的な物理で、出典資料にはなく、筆者が導出した。
条文はこの理屈に沿っている。建築基準法施行令129条の2の5第1項は、給気口を居室の天井の高さの2分の1以下の位置に、排気口を給気口より高い位置に設け、排気筒に排気上有効な立上り部分を持たせる。施行令20条の2の自然換気設備では、排気筒の有効断面積 (h:給気口の中心から排気筒の頂部までの高さ [m])。h が4倍になれば、必要な断面積は半分で足りる。高低差が稼げるほど、小さな口で済むわけだ。
風も温度差も天気まかせで、確実さでは機械換気に劣る。
機械換気 — 第1種・第2種・第3種
機械換気は、ファンを給気側に付けるか、排気側に付けるかで3つに分かれる。
| 方式 | 機械で行うのは | 室内の圧力 |
|---|---|---|
| 第1種 | 給気と排気の両方 | 両者の量で自由に決められる |
| 第2種 | 給気だけ(排気は排気口・すきま) | 正圧(他室より高い) |
| 第3種 | 排気だけ(給気は給気口) | 負圧(他室より低い) |
なぜ、正圧と負圧になるのか
ここでも決め手は収支だ。ただし今度の対象は、空気そのものの量。
第2種で、給気機が1,000m³/h を送り込み、排気は壁のすきまだけとする。入った1,000m³/h は、全部すきまから出るしかない。空気がすきまを通るには、押し出す圧力が要る。室内の圧力が外より高くなって、はじめて釣り合う。これが正圧だ。第3種は、この向きが逆になる。排気機が引いた分を、すきまや給気口から空気が入って補うので、室内の圧力は外より低い。
すきまを通る流れの大きさは、すきまの有効な広さ(相当開口面積 )と、圧力差の平方根に比例する。逆にたどれば、必要な圧力差は
(:すきまを通る流量 [m³/s]、:空気の密度 約1.2kg/m³)。この式も標準的なもので、出典資料にはなく、筆者が導出した。たとえば仮に、すきまの相当開口面積が0.05m² で、1,000m³/h を送り込むなら、約19Pa。すきまが0.10m² に広がれば、約4.6Pa に下がる。
例題③ 方式の選び方 — 圧力の向きから決める
守りたい側の圧力を高くし、汚れを閉じ込めたい側の圧力を低くする。この一つで、方式の目的が決まる。
- 臭気と水蒸気が出る厨房。 隣の部屋へ漏らしたくない。室内を負圧にして、すきまからは入ってくる側にしたい。→ 排気を機械で行う第3種
- 外から汚れを入れたくない部屋。 室内を正圧にして、すきまからは出ていく側にしたい。→ 給気を機械で行う第2種(文部科学省の資料は「室内の空気を清浄に保ちたい部屋」に用いるとする)
- 圧力を自分で決めたい、外気から熱を回収したい部屋。 → 給気と排気の両方を機械で行う第1種(同資料は、外気の取り入れに熱回収機能が必要な場合を挙げる)。札幌市教育委員会の資料は、第1種の例にボイラー室を、第2種の例に放送室・プール機械室を、第3種の例に便所・家庭科室・理科室を挙げている
ボイラー室が第1種の例に挙がっている。資料はボイラー室の理由まで書いていないが、第1種の特徴は書いている。札幌市の資料は「換気量が安定しており、室内の圧力バランスが任意にできる」とし、文部科学省の資料も、室内の圧力を自由にコントロールして換気を確実に行える方式と説明する。資料から読めるのは、第1種が、換気量を安定して確保し、室内の圧力も調整したい室に向く方式だ、ということだ。
以下は筆者の推測で、資料には書かれていない。ボイラー室は燃焼がからむ室で、後の節で見るとおり、施行令は火を使う室の排気に、廃ガスを室内へ逆流させない構造を求める。室内を負圧に傾けやすい第3種より、圧力を調整できる第1種が選ばれるのかもしれない。ただし、条文が定めるのは排気口・排気筒・煙突の構造で、室内の圧力ではない。
第2種で「気密性が必要」と言われる理由も、先の式から読める。すきまが2倍に広がれば、同じ給気量で正圧は1/4に下がる。
やってみよう:給気機800m³/h、排気機1,000m³/h の部屋。室内は正圧か負圧か。足りない分はどこから来る?(押すと答え)
排気のほうが200m³/h 多いので、負圧になる。足りない200m³/h は、壁のすきまやドアの下、自然の給気口から室内へ流れ込む。給気機と排気機の両方があるので方式の名前は第1種だが、圧力の向きは第3種と同じ負圧だ。圧力の向きは、方式の名前ではなく、給気量と排気量の差で決まる。
これで、換気方式の名前から、圧力の向きと、その方式が向く部屋を言える。
数と条文で追う② — 火気使用室の換気
火を使う設備は、室内の空気(酸素)を使い、廃ガスを出す。建築基準法はこれを換気設備の問題として扱い、法28条3項で、火を使用する設備・器具を設けた調理室、浴室その他の室(政令で定めるものを除く)に換気設備を求める。除かれる室と換気設備の構造は、施行令20条の3が定める。
設置対象から除かれる室(施行令20条の3第1項)
- 一 密閉式燃焼器具等以外の火を使用する設備・器具を設けていない室。密閉式燃焼器具等とは、直接屋外から空気を取り入れ、かつ廃ガスなどを直接屋外へ排出する構造のもの、その他、室内の空気を汚染するおそれがないもの
- 二 床面積の合計が100m² 以内の住宅・住戸に設けられた調理室のうち、発熱量の合計が12kW 以下の火を使う設備・器具を設けたもの。その調理室の床面積の1/10(0.8m² 未満なら0.8m²)以上の有効開口面積の窓などを、換気上有効に設けたもの
- 三 発熱量の合計が6kW 以下の火を使う設備を設けた室(調理室を除く)で、換気上有効な開口部を設けたもの
二号の「発熱量の合計」は、密閉式燃焼器具等と、煙突を設けた設備・器具の分を除いて数える。三号の発熱量の合計も同じ数え方だ(条文の括弧書き)。
第一号の理屈は、収支で読める。室内の空気を使わず、廃ガスも室内へ出さない器具は、室内の収支に出入りがない。だから換気設備は要らない、と読める。逆に、開放式の器具が1台でもあれば、この号では除かれない。
換気設備の構造(同条第2項)
第2項第一号は、換気設備の構造を、イの基準に適合するか、ロの国土交通大臣の認定を受けたものとするか、のどちらかと定める。イの基準のうち、位置に関するものは次のとおり。
給気口は、天井の高さの1/2以下の位置に設ける(煙突を設ける場合、または換気扇等を設ける場合は、適当な位置)。排気口は、天井または天井から下方80cm 以内の位置に設ける(煙突、または排気フード付き排気筒を設ける場合は、適当な位置)。ここでの換気扇等は、換気上有効な排気のための換気扇その他これに類するものをいう。
このほかイは、風呂釜や、発熱量が12kW を超える火を使う設備(密閉式燃焼器具等を除く)には、煙突を設けることを求める(用途上・構造上著しく困難なときは、排気フード付き排気筒でもよい)。同条は、給気口は燃焼を妨げないように設けること(二号)、排気口・排気筒・煙突は廃ガスを当該室へ逆流させず他の室へ漏らさない構造にすること(三号。具体的な構造方法は国土交通大臣が告示で定める)、排気フードは不燃材料で造ること(四号)、も定める。
必要換気量 — 昭和45年建設省告示第1826号
換気扇などの有効換気量は、燃料の種類と使用量から決まる(換気扇を設けないときは、排気口や排気筒の断面積を式で定めている)。排気フードは、告示が(イ)と(ロ)の2つの構造に分けて定める。メーカー資料では(イ)をⅠ型、(ロ)をⅡ型と呼び、この記事もその呼び方を使う(告示本文にこの語はなく、対応はメーカー資料による)。
| 排気の取り方 | 係数 | 有効換気量 V [m³/h] |
|---|---|---|
| 換気扇等のみ(フードなし) | 40 | V=40KQ |
| 排気フードⅠ型(イ)の排気筒 | 30 | V=30KQ |
| 排気フードⅡ型(ロ)の排気筒 | 20 | V=20KQ |
| 煙突に換気扇等 | 2 | V=2KQ |
式の形は「廃ガスの発生量 に、倍率を掛ける」だ。発生源の近くで廃ガスを捕まえるほど、薄めるのに必要な倍率が小さくなる(なし40>Ⅰ型30>Ⅱ型20>煙突2)と読める。告示本文は係数の根拠まで書いておらず、この読みは筆者のものだ。
排気フードの条件は、(イ)(ロ)それぞれ次のとおり。
- 高さ:(イ)(ロ)とも、フードの高さ(火源など=火源または火を使う設備・器具に設けた排気用の開口部の中心から、フード下端まで)が1m 以下
- 覆う範囲:(イ)は火源等を覆う。(ロ)は火源等とその周囲(火源等からフードの高さの1/2以内の水平距離にある部分)を覆う
- 集気部分の形:(イ)は廃ガスを一様に捕集できる形状。(ロ)は下部に5cm 以上の垂下りを持ち、かつ水平面に対して10度以上傾斜している
どちらも、廃ガスの捕集がこれと同等以上のフードでもよい。火源等に面して下地・仕上げが不燃材料の壁などがある部分は、覆わなくてよい(ただし書き)。
例題④ 火気使用室の換気量
都市ガスの器具で、燃料消費量が合計10kW(K=0.93 m³/kWh)。
- フードなしの換気扇: m³/h
- Ⅰ型フード: m³/h
- Ⅱ型フード: m³/h
同じ器具でも、Ⅱ型フードで廃ガスを捕らえれば、換気扇の風量は半分で足りる。
これで、換気設備が要る火気使用室を見分け、フードの型ごとに必要な換気量を計算できる。
現場とつなぐ
換気量を増やすのは、ただではない。 外気を多く入れれば、空調の負荷が増える。厚生労働省の2020年の資料は、換気量を約5倍にする場合を検討し、空調設備の容量の関係で、温度や相対湿度の基準を守ることが難しくなると述べる。だから設計では、必要量を計算で決める。しかも入力の人数は、実態とずれる。空気調和・衛生工学会の報告書が紹介する東京都の立入検査では、在席率は平均53.1%、1人あたり床面積は設計の5m² に対して11.8m²。東京都はこの経験値をよりどころに、理論値より少なく、建築基準法の規定値より多い、25m³/(h·人)以上の換気能力を求めている。
外気の二酸化炭素濃度は上がっている。 大気の濃度は年に2ppm 程度上がり、都市部は大気より10〜25ppm 高い(厚生労働省資料)。例題①のとおり、外気が50ppm 上がると必要換気量は約9%増える。特定建築物の二酸化炭素の不適率が増えた要因として、同じ資料は外気濃度の上昇と、換気量の低下(省エネの換気制御、メンテナンス不備、個別空調の普及)を挙げている。空気調和・衛生工学会の報告書は、外気が上がるたびに換気量を増やす計算になり、エネルギー消費が増えることを背景に、換気量の設計条件を、室内と屋外の二酸化炭素濃度差700ppm 以下とする提言を出している。これは人体発生汚染物質を希釈する換気量の設計条件についての提言で、法令の基準値(1,000ppm)とは別に書かれている。差で決めれば、外気が上がっても設計上の必要換気量は増えない(筆者の計算)。
風量表を見たら、3つを確かめる。 (1)何を薄める計算か(人・建材・燃焼)、(2)入力の人数・発生量・濃度は何か、(3)給気と排気のバランスで室圧はどちらを向くか。
電材との接点は、ファンだ。第1種は給気と排気の2台、第2種・第3種は1台のファンを回す。ファンが増えれば、電源と制御も増える(筆者の整理)。
試験での出方とワナ
令和8年度の公表問題Aでは、二酸化炭素の濃度から必要換気量を求める計算問題と、換気に関する記述の適否(密閉式燃焼器具、換気方式と室の用途、排気フードなど)が出た。計算の型は決まっている。
- C と Co を m³/m³ にそろえる(ppm なら を掛ける)
- 差 C − Co を作る
- 発生量の合計(人数 × 1人あたり)を、差で割る
ワナは4つ。
- 外気を引き忘れる。 M÷C や M÷Co の値が、誤りの選択肢に並ぶことがある
- 第2種と第3種の圧力を逆にする。 余った空気の出ていく向きで確かめる
- 「密閉式」の限定を読み落とす。 第一号は「密閉式燃焼器具等以外の火を使用する設備又は器具を設けていない室」
- フードの係数・高さ。 なし40>Ⅰ型30>Ⅱ型20、Ⅰ型もⅡ型も高さ1m 以下
冒頭の問いの答え合わせ
- なぜ二酸化炭素を測るのか。 急性の中毒の線だからではない。報告書は、体臭の強さを代表させる指標という説明と、1971年のテキストが1,000ppm 超で倦怠感や頭痛が増えることを挙げている説明を並べる。基準は1,000ppm(測定は検知管方式)
- なぜ割り算になるのか。 入る・出る・発生する量の収支を釣り合わせると、外気が受け取れる余裕 で、発生量 を割る形になるから
- なぜ向きが逆になるのか。 給気が多ければ余りがすきまから出て正圧、排気が多ければ不足がすきまから入って負圧になるから
平常時の換気は、汚れを薄めて部屋を守る。では、火災で出た煙は、薄めるだけで人は逃げられるのだろうか。答えは、火災時の煙の流れを制御する、次の排煙設備で探る。