たとえば、日本の温室効果ガスの排出量を、4つのガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFCs)の折れ線で描いた図が出る。「二酸化炭素の曲線はどれか」と問われたら、何を手がかりに選ぶか。
もう一つ。空調機の冷媒R-410AのGWP(地球温暖化係数)を調べたら、2,090と書いた資料と、1,920と書いた資料があった。どちらかが間違いなのか。
読み終えるころには、1つ目は大きさと形で選べ、2つ目は「どちらも、その版では正しい。版を書かない数字は使えない」と言えるようになる。
まず一言で
温暖化への効き方はGWP(地球温暖化係数)、オゾン層への効き方はODP(オゾン層破壊係数)で表す。物差しは2本あり、別物だ。
- ODPはCFC-11を1とした比。CFC・HCFCは0より大きく、HFCは0
- GWPは二酸化炭素を1とした比。HFCはODPが0でも、GWPが大きい
- 冷媒は、CFC・HCFCからHFCへ、さらに低GWP冷媒へと替わりつつある。生産量・消費量の規制は、CFC(1990年代から)、HCFC(2000年代から)、HFC(2019年のキガリ改正の発効以降)の順に始まった
- 日本の2023年度の温室効果ガスは、2025年4月公表版で、二酸化炭素が92.3%。HFCsは3.0%で、2005年から2021年まで増え、2022年から減っている
- GWPも排出量も、版(評価報告書、告示、公表年)が変わると値が変わる。数字は版とセットで読む
冷凍サイクルの仕組みとCOPの計算は、別のトピック「冷凍サイクルとCOP」で扱う。フロン排出抑制法の管理者・充塡回収業者の義務や、省エネ計画と蓄熱は、このトピックでは扱わない。ここでは、地球環境の数字と、冷媒の環境影響に絞る。
仕組み① — 二本の物差し、ODPとGWP
フロンは、炭素とフッ素などの化合物の総称だ。CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)などに分けられ、冷媒のほか、断熱材の発泡剤や洗浄剤にも使われてきた(産業構造審議会と中央環境審議会の合同会議の中間とりまとめ、令和8年8月。以下「中間とりまとめ」)。
- ODP:CFC-11を1としたときの、オゾン層への破壊効果の強さ
- GWP:二酸化炭素を1としたときの、温暖化影響の強さ。環境省の資料は「100年値」(100年間の影響を積分、つまり足し合わせた値)を使い、積分する年数(20年、500年など)で値が変わることがあると注記する
| 物質(化学式) | ODP | GWP |
|---|---|---|
| CFC-12(CF2Cl2) | 1 | 10,200 |
| HCFC-22(CHF2Cl) | 0.055 | 1,760 |
| HFC-134a(CH2FCF3) | 0 | 1,300 |
| HFC-32(CH2F2) | 0 | 677 |
| R-410A(HFC-32とHFC-125の混合) | 0 | 1,920 |
なぜ、CFCとHCFCはオゾン層を壊し、HFCは壊さないのか
気象庁の解説は、地上で放出されたクロロフルオロカーボン類(フロン類)等について、次の道筋を書く。上部成層圏(高度40km付近)で太陽紫外線により分解され、塩素原子が生じる。この塩素原子が触媒(自分は残り、反応を何度も進める物質)となって、オゾンを連鎖的に壊す。
表の化学式を見ると、CFC-12とHCFC-22には塩素(Cl)があり、HFC-134aとHFC-32にはない。HFCには、塩素原子が生じる出発点がない。ODPが0の背景は、このように読める。これは当サイトの読みで、経済産業省・環境省の資料はHFCのODPを0と示すだけで、理由は書いていない。
なぜ、物質ごとにGWPはこれほど違うのか
GWPは、100年間の影響を積分した値だ。環境省の巻末資料の表には、大気中寿命(2018年の科学評価パネル)とGWP(第4次IPCC報告書の100年値)が並ぶ。HFC-152aは寿命1.6年で124、HFC-134aは14年で1,430、HFC-23は228年で14,800。寿命が長いほどGWPが大きい傾向が読める。ただし、寿命だけでは決まらない。同じ表に逆転する組もあり、HFC-125は寿命30年で3,500、HFC-227eaは36年で3,220だ。PFC-14は寿命が5万年を超えるが、GWPは7,390で、HFC-23より小さい。寿命以外の要因は、手元の資料では確かめていない。
これで、ODPとGWPを別々の問いとして扱えるようになった。
仕組み② — 冷媒の世代と、規制が重なった順序
経済産業省・環境省の2015年度の資料は、フロン類を世代で分ける。
- 特定フロン(CFC、HCFC):オゾン層破壊効果があり、温室効果も大きい
- 代替フロン(HFC):オゾン層破壊効果はないが、温室効果が大きい
- 低GWP化:二酸化炭素・アンモニア・プロパンなどの自然冷媒や、HFOなど。環境省の2026年6月の資料は、HFCに代わる冷媒を用途ごとに整理し、一部は導入を支援している
規制の経緯は、次の表のとおりだ。
| 年 | 出来事 | 対象 |
|---|---|---|
| 1985・1987 | ウィーン条約、モントリオール議定書を採択 | オゾン層破壊物質 |
| 1988 | 日本でオゾン層保護法 | 特定フロンの製造・輸入 |
| 2001 | フロン回収・破壊法 | 機器の廃棄時の回収・破壊 |
| 2013(2015年4月施行) | フロン排出抑制法に改正 | 製造から廃棄までの全体 |
| 2016(2019年発効) | キガリ改正を採択 | HFCの生産・消費量 |
| 2019(2020年4月施行) | フロン排出抑制法を再改正 | 廃棄時の回収率の向上 |
CFC・HCFC。 議定書に基づく生産規制は、CFCは1990年代から、HCFCは2000年代から、段階的に導入され、新規の生産は全廃された。冷媒などへの新規の利用も、いまはない(中間とりまとめ)。経済産業省・環境省の2015年度の資料は、日本でHCFCが2020年に全廃となる予定だと書く。環境省の巻末資料の図4-1は、先進国のHCFCの2020年の全廃について、2030年までは冷凍空調機器の補充用に限り、基準量の0.5%を上限に生産・消費できると注記する。
HFC。 先進国(ベラルーシ・ロシアなど5か国を除く)は、2011〜2013年のHFCの平均量にHCFC基準値の15%を加えた量(CO2換算)を基準値として、2019年から段階的に減らす。
| 年 | 基準値からの削減 | 上限(基準値比) |
|---|---|---|
| 2019 | 10% | 90% |
| 2024 | 40% | 60% |
| 2029 | 70% | 30% |
| 2034 | 80% | 20% |
| 2036 | 85% | 15% |
なぜ、オゾン層を壊さないHFCが対象になったのか。環境省掲載の資料は、HFCはオゾン層破壊物質ではないが、その代替として開発・使用され、温室効果が高いから、と書く。日本は、2018年のオゾン層保護法の改正で、HFCの生産量・消費量の段階的な削減を進めている(中間とりまとめ)。
フロン排出抑制法は、フロンのライフサイクルに関わる全ての主体に、法令の遵守を求める(経済産業省・環境省の2015年度の資料)。製品側には指定製品制度がある。家庭用エアコンなどの製造・輸入業者に、温室効果を下げる目標値を定め、製品区分ごとの加重平均で達成を求める(環境省のポータル)。管理者や充塡回収業者の義務は、このトピックでは扱わない。
これで、冷媒の名前を見て、どの条約・どの法律の対象かを言えるようになった。
数と条文で追う
GWPを掛けて、二酸化炭素換算にする
環境省の資料は、各温室効果ガスの排出量にGWPを乗じたものをCO2換算とする。地球温暖化対策推進法施行令の第4条は、二酸化炭素が1、メタンが28、一酸化二窒素が265、HFC-134aが1,300、HFC-32が677などと定める(2026年4月1日施行の版)。
例題1 R-410Aが50kg漏れた。令和5年告示の表(令和6年度以降の算定漏えい量に用いる)のGWP 1,920で換算すると。
- 50 kg × 1,920 = 96,000 kg = 96.0 t-CO2
- 同じ50 kgの二酸化炭素は0.05 tなので、1,920倍の影響にあたる
例題2 その機器を、R-32(GWP 677)の機器に替えた。同じ50 kgが漏れたら。
- 50 kg × 677 = 33,850 kg = 33.85 t-CO2
- 比は677 ÷ 1,920 ≒ 0.353。換算量は約35%になり、約65%減る
- GWPだけの比較だ。機器の効率や充塡量、安全性は別に見る(効率は「冷凍サイクルとCOP」で扱う)
やってみよう ①:混合冷媒のGWPを自分で出す
環境省掲載の資料によると、混合冷媒のGWPは、成分ごとのGWPに質量の割合を掛けて合計する。R-32とR-125を、質量で1:1に混ぜたとする(R-410Aの配合比は、一次資料では確かめていない。仮定)。
- 令和5年告示の表の成分:R-32は677、R-125は3,170。0.5 × 677 + 0.5 × 3,170 = 1,923.5。表のR-410Aは1,920で、近い
- 旧告示(平成28年告示)の表の成分:R-32は675、R-125は3,500。0.5 × 675 + 0.5 × 3,500 = 2,087.5。表のR-410Aは2,090で、近い
冒頭の2つの数字は、成分のGWPが改訂された結果として説明がつく(1:1の仮定のもと)。
日本の排出量を読む
出典は、環境省と国立環境研究所の2025年4月25日公表(1990〜2023年度)。HFCs・PFCs・SF6・NF3の4種類は暦年値で、GWPは第5次評価報告書(2013年)の100年値を使う。
| ガス | GWP | 2023年度の排出量(百万t) |
|---|---|---|
| 二酸化炭素 | 1 | 989(92.3%) |
| メタン | 28 | 29.4(2.7%) |
| 一酸化二窒素 | 265 | 15.8(1.5%) |
| HFCs | 物質ごと | 31.7(3.0%) |
図の形を、数字で確かめておく。
- 二酸化炭素:1990年度は1,160、2013年度は1,314、2023年度は989。他の3ガスのどれと比べても、どの年も23倍以上
- メタン:49.9から29.4へ。前年度を上回る年がない(同値の年が3回ある)。1990〜2024年度の2024年度版(公表日は未確認)では、1994年度がわずかに前年度を上回る
- 一酸化二窒素:1997年度に31.4で最大。1998年度の30.1から、1999年度の24.5へ落ちた(18.6%減)
- HFCs:13.4(1990年)、21.5(1995年)、10.8(2004年と2005年。同値)、33.8(2021年)、31.7(2023年)
環境省は、2013年からの増加の要因に、冷蔵庫やエアコンの冷媒がHCFCからHFCに替わったことなどを挙げる。2022年からの減少の要因には、業務用冷凍空調機器の低GWP冷媒への転換等による使用時の排出の減少と、廃棄時のHFC回収量の増加などを挙げる(HFCsは暦年値。2025年4月公表版)。中間とりまとめは、HFCsの増加の背景に、1990年代からの、冷媒を中心とするCFC・HCFCからHFCへの転換の進展を挙げ、排出量は2005年以降増加傾向が続いたと書く。
目標も数字で見ておく。基準年は2013年度(排出量1,395百万t)で、削減目標は、2030年度が46%(2021年10月の国連への提出)、2035年度が60%、2040年度が73%(2025年2月の国連への提出)。2050年はネット・ゼロだ。2025年4月公表版の2023年度の排出・吸収量は約10億1,700万tで、2013年度比27.1%減。吸収量を引く前の排出量10億7,100万tなら23.3%減になる。2030年度の46%減を、排出・吸収量の値にすると、1,395 × 0.54 ≒ 753百万tになる(筆者の計算)。
やってみよう ②:次の特徴は、どのガスか
2025年4月公表版(1990〜2023)で、4つの特徴がどのガスか、読む前に決めてから開く。
- (ア) 前年度を上回る年が、一度もない
- (イ) 1999年度に、前年度から約19%落ちた
- (ウ) 2004〜2005年(同値)に最小、2021年に最大となる谷と山がある
- (エ) どの年も、同じ年の他の3ガスの最大のものの23倍以上
答え:(ア) メタン (イ) 一酸化二窒素 (ウ) HFCs (エ) 二酸化炭素
これで、グラフの系列を、大きさと形で当てられるようになった。
部門別の数字 — 配分前と配分後
二酸化炭素を、出す場所(部門)で分ける統計には、2通りある。環境省の資料は、配分前を、発電や熱発生に伴う排出を生産者側の部門に計上した値、配分後を、電力・熱の消費量に応じて消費者側の部門に配分した値とする。
| 部門(2023年度) | 配分前 | 配分後 |
|---|---|---|
| 産業 | 245(24.7%) | 340(34.3%) |
| 運輸 | 183(18.5%) | 190(19.2%) |
| 業務その他 | 50.3(5.1%) | 165(16.7%) |
| 家庭 | 46.4(4.7%) | 147(14.9%) |
| 発電所・製油所等 | 397(40.1%) | 81.0(8.2%) |
業務その他部門(商業・サービス・事業所等)は、配分前の50.3が、配分後は165になる(3.28倍)。差の114.7は、電力・熱の消費に伴って配分された分にあたる(筆者の引き算)。
やってみよう ③:配分された分は、部門の何割か
業務その他部門の配分後(165)のうち、配分前(50.3)との差は何割か。
差は165 − 50.3 = 114.7。114.7 ÷ 165 ≒ 0.695で、約7割。配分後の業務その他部門の数字の約7割が、電力・熱の消費に伴って配分された分だ。
現場とつなぐ
冷媒は「使う間に漏れ」「捨てるときに出る」。 環境省の2026年6月の資料(2024年の推計)では、HFCsの排出のうち、機器の使用時が約42%、廃棄時が約46%を占める。機器の種類別では、業務用エアコンが約33%、業務用冷蔵冷凍機器が約24%、家庭用エアコンが約23%だ。中間とりまとめは、この排出量の推計方法を、今後見直す予定と書く。冷媒を使う機器を据え付け、保守し、撤去する管工事の現場は、この数字の当事者になる(当サイトの読み)。
経済産業省・環境省の2015年度の資料は、使用時の漏えいが想定以上に生じている原因を「設備不良や経年劣化等」と書く。廃棄時については、中間とりまとめが次の点を挙げる。令和元年の改正で、冷媒未回収での機器廃棄に対する直接罰が導入され、建物解体工事の規制が厳格化された。業務用エアコンの廃棄時の回収は、令和元年の約41%(台数)・約31%(冷媒量)から、令和6年の約53%・約40%に増えたが、なお大きな排出源だと整理する。
中間とりまとめは、HFCsの2030年の目標値(約893万t-CO2)との間に、約1,900万t-CO2規模の乖離があるとする。機器の更新までに長い時間がかかる場合には、安全性を大前提に、機器は替えず冷媒だけをGWPの低いものに入れ替える「レトロフィット」も、選択肢として挙げる。決定済みの制度ではなく、検討中の方向性だ。
低GWP冷媒の安全性。 環境省掲載の2016年のMOP28結果は、可燃性冷媒を含む代替物質の国際的な安全性基準をめぐる連携・調整のため、タスク・フォースの設置などが決まったと記す。冷媒を替える話は、GWPの数字だけでは終わらない。
電気設備との接点。 配分前後の数字から、電気と建物の関係が読める。業務その他部門では、配分後の約7割が電力・熱の消費に伴う分だ。空調・照明・動力で電気を減らす工夫は、配分後の統計では、使う側の部門(業務その他、家庭)の削減として数字に現れる(配分の定義からの当サイトの読み)。
試験での出方とワナ
令和8年度 問題A No.8(必須):1つのグラフに4系列があり、縦軸の途中が省略されていた。二酸化炭素の系列を選ぶ形で、公式の正答は、グラフの最上段に描かれた系列だった。図の期間は1990〜2023年度で、2025年4月公表版と同じ範囲だ。
決め手は、大きさ(他のガスの23倍以上)と、形(2013年度が最大で、その後は全体として減る)。ほかの3ガスの形は、やってみよう②のとおり。
同じ令和8年度の問題Bの No.20は、フロン排出抑制法の、充塡回収業者の義務からの出題だった(このトピックでは扱わない)。この科目では、次の点が試される。
- GWPとODPを取り違えない。ODPはCFC-11が基準、GWPは二酸化炭素が基準
- HFCは、ODPが0でも、GWPが大きい
- 版の違う数字(1,430と1,300、2,090と1,920)に、慌てない。与えられた数字で計算する
- 配分前と配分後の数字を、混ぜて比べない
冒頭の問いの答え合わせ
二酸化炭素の曲線は、どれか。 大きさで、他のガスの23倍以上の系列。形で、2013年度の山があり、その後は全体として減っている系列。メタンは前年度を上回る年がなく、一酸化二窒素は1999年度に急落、HFCsは2004〜2005年の谷と2021年の山だ。
R-410Aの2,090と1,920。 どちらも、その表では正しい。旧告示の表(令和5年度に行う令和4年度実績までの算定に用いる)は2,090、令和5年告示の表(令和6年度以降に行う算定に用いる)は1,920。成分のGWPが改訂され、1:1の仮定で計算しても同じ向きに変わる(やってみよう①)。環境省の2026年6月の資料の表には2,090が載るが、どの版の値かは書かれていない。版を書かない数字は、そのままでは使えない。
次の問い
冷媒のGWPを下げれば、地球温暖化は止まるのか。冷媒が漏れなくても、機器が多くの電気を使えば、発電所から出る二酸化炭素が増える。電気をどれだけ使って、どれだけの熱を動かせるのか。その成績を表すCOPは、別のトピック「冷凍サイクルとCOP」で扱っている。