築30年のビルの機械室で、古びた調節計の銘板を覗き込んだことはないだろうか。そこに刻まれているのは「アズビル」ではなく「山武」、あるいは「山武ハネウエル」という見慣れない文字列だ。ネットで型番を検索しても該当メーカーが出てこず、担当者が「廃業した会社の製品か」と一瞬身構える——という場面は、設備更新の現場で今も起きている。答えは単純で、山武は2012年にアズビルへ社名を変えただけの、同一の会社である。だが「調べても出てこない」という違和感そのものが、計装機器という分野の特殊さをよく表している。制御盤の中で目立つリレーやタイマーと違い、調節計やセンサーは配管やダクトの陰に隠れていて、更新のたびに型番の履歴をたどり直す羽目になるからだ。
アズビルとは——計装機器・自動制御・ビル管理システムの専業メーカー
アズビルは、工場やプラントの温度・圧力・流量を測って制御する「計装機器」と、ビルの空調・衛生・照明を統合管理する「ビル管理システム」の両方を手がける専業メーカーである。前身の山武商会は1906年創業で、当初は欧米製工作機械の輸入商社だったが、1936年に日本初とされる国産自動調節弁を開発してから計装メーカーとしての歴史を歩み始めた。1952年にはハネウェル(米国)と技術提携し、1953年の資本提携を経て一時期「山武ハネウエル」を名乗った時代もあったが、この資本関係は2002年に解消済みで、2012年の社名変更(アズビルへ)とは別の出来事である。現在は建物向けの「ビルディングオートメーション(BA)」、工場・プラント向けの「アドバンスオートメーション(AA)」、ガス・水道等のライフライン向けの「ライフオートメーション(LA)」という3つの事業区分を持つ、計測と制御を軸にした総合メーカーだ。
製品体系——初心者向けの見取り図
アズビルの製品は、工場設備とビル設備の両方にまたがっている。まずはどの製品がどちらの現場で使われるものかを大づかみに把握しておきたい。
| カテゴリ | 主な製品・シリーズ | 主な用途 |
|---|---|---|
| デジタル調節計 | SDC35・SDC36、C系列(C15/C25/C26等) | 工場・プラントの温度/圧力/流量のPID制御 |
| 温度センサー | 熱電対・測温抵抗体(YY系列) | プロセス温度計測、空調温度管理 |
| 圧力センサー | 形PY7100A、微差圧センサ | 冷温水・空気の圧力計測、クリーンルームの室内圧管理 |
| 差圧・圧力発信器 | SuperAce、Advanced Transmitter(GTX) | 工場・プラントの流量/液位換算用途 |
| 調節弁ポジショナ | スマート・バルブ・ポジショナ(AVP系列) | 調節弁の開度制御・診断 |
| 電磁弁 | スーパーポペット(アズビルTACO製) | 圧縮空気・真空回路の開閉 |
| 電動弁 | ACTIVAL(電動ボール弁VY6300系、電動式バタフライ弁VY696/996系等) | 冷温水・蒸気配管の流量制御 |
| DDCコントローラ | WJ-1111等 | ビル空調・衛生・照明の統合管理(BACnet対応) |
一見ばらばらな製品群に見えるが、共通するのは「測る(センサー・発信器)」「決める(調節計・コントローラ)」「動かす(弁・アクチュエータ)」という計装の三要素を一通り揃えている点だ。この三要素が単一メーカーの製品でまとまっていることが、システム全体の整合性を取りやすいという評価につながっている。
調節計選定の入り口——「入力方式×表示器サイズ×通信」
SDC・C系列を選ぶときは、まず何を測るか(熱電対か測温抵抗体か、電流・電圧か)という入力方式、次に盤面に収める表示器サイズ(48×48mmか96×96mmか)、そして上位システムと通信するかどうか(RS-485・Modbus対応の要否)の3点を押さえる。既設更新であれば、現物の型番をそのまま踏襲するのが最も安全だ。
センサー・弁選定の入り口——「設置場所×信号×駆動方式」
温度・圧力センサーは設置場所(配管直挿しか、保護管付きか)と出力信号(4〜20mA等)で選ぶ。弁は駆動方式が電磁弁(オン・オフ)か電動弁(連続制御)かで用途がまったく異なるため、「開閉させたいのか、流量を絞りたいのか」という制御目的から逆算する必要がある。
もう一段深い理解——なぜアズビルは「工場」と「ビル」の両方を手がけているのか
計装とビル管理は、実は同じ技術の応用先が違うだけ
工場の温度制御とビルの空調制御は、まったく別のノウハウが必要そうに見える。だろうか。実際には、どちらも「センサーで測る→コントローラが判断する→アクチュエータが動かす」というフィードバック制御の基本構造は同じで、対象がプロセス流体か室内空気かという違いに過ぎない。アズビルが計装機器(AA事業)とビル管理システム(BA事業)の両方を主力に据えているのは、この制御技術の共通性を背景にしている。
そのため選定の実務でも、工場設備向けとビル設備向けでは「同じ考え方を、違う型番に当てはめる」という感覚になる。工場のプロセス制御では耐久性・精度が優先されやすく、ビル設備では省エネ性能や上位システムとの通信規格(BACnet等)との整合が優先されやすい——ただし、これは傾向であって絶対の線引きではない。
対象が工場の配管でもビルの空調ダクトでも、測る・決める・動かすという型は変わらない。
一般的な制御機器メーカーとの違い
制御盤の中には、オムロンのようなリレー・タイマー・センサーを手がける制御機器メーカーの製品も並ぶ。両者は競合というより役割分担の関係にある。オムロン等が扱うのは、どんな制御盤にも共通して使われる汎用の信号中継部品が中心だ。一方でアズビルの主力製品は、特定のプロセス変数を高精度に測定し、PID制御で目標値へ追い込む調節計・センサー・弁の一式であり、計装システムという一つのまとまりとして機能する。同じ制御盤に同居していても、担っている役割の階層が違う。
どこでどう使われているか
| 現場 | 使う製品 | ポイント |
|---|---|---|
| プラントの温度・圧力・流量制御 | SDC系列調節計、温度・圧力センサー | 入力方式と表示器サイズを現物確認 |
| 空気圧シリンダー・真空搬送設備 | スーパーポペット電磁弁 | 口径・電圧・単動/複動を確認 |
| ビル空調の冷温水・蒸気配管制御 | 電動弁ACTIVAL | 二方弁/三方弁、制御信号(4-20mA等)を確認 |
| オフィスビル・病院の空調・照明統合管理 | DDCコントローラ | BACnet/Modbus等の通信方式を確認 |
| 調節弁の開度制御・保全診断 | スマート・バルブ・ポジショナ(AVP系列) | HART通信対応の要否を確認 |
工場の制御盤製作・配線については制御盤ソリューション、老朽化した計装設備・制御盤の更新については老朽化設備更新ソリューションも参照してほしい。
どう注文するか——失敗しない発注のしかた
例:「SDC35 DC4-20mA入力タイプ を 3台」
「電動弁 VY6300A20(二方弁)を 2台」
「DDCコントローラ WJ-1111(BACnet/IP対応)の後継機種相談」
- 既設更新は現物の型番を末尾記号まで正確に(入力方式・通信オプションが記号に含まれる)
- 弁は駆動方式(電磁弁か電動弁か)と接続口径を必ず併記
- DDCコントローラの更新は、現行の通信プロトコルと制御点数を先に確認してから相談する
- 型番がわかれば型番検索から見積リストへ追加できる
まとめ
アズビルは1906年創業、旧社名「山武」から2012年に社名変更した計装・自動制御・ビル管理システムの専業メーカーである。調節計・温度圧力センサー・電磁弁・電動弁・DDCコントローラという「測る・決める・動かす」の一式を、工場設備(AA事業)とビル設備(BA事業)の両方に展開している点が特徴だ。既設更新では、旧社名の銘板に戸惑わず、現物型番と通信方式を確認することが選定の第一歩になる。
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