11kV級のCVTケーブルを盤の隅で急角度に曲げてしまった。図面上はそこしかスペースがなく、担当者は「多少きつくても、切れるわけじゃないから大丈夫だろう」と判断した。曲げた直後は何も起きない。ケーブルはしなり、所定の位置に収まり、竣工検査の絶縁抵抗測定も規定値をクリアする。問題は、その判断がどこまで正しかったのかを確かめる手段が、その場には存在しないことだ。
許容曲げ半径という基準は、まさにこの「今は大丈夫に見える」状態と「長期的に大丈夫」な状態のあいだにある溝を埋めるために存在している。そしてこの基準を眺めていると、誰もが一度は引っかかる疑問に行き着く。なぜミリ単位の絶対値ではなく、「仕上外径の8倍」というような倍率で決まっているのか。
曲げ半径が「倍率」で決まる理由
答えの手がかりは、昭和電線ケーブルシステムが技術資料としてまとめた「電力用CVケーブルの曲げ半径倍率」(昭和電線レビュー Vol.66、2020年)にある。この資料は、電力用CVケーブルが製造から現場据付までのあいだにさまざまな機械的な曲げを受け、運転開始後も現場据付時の曲げを保持したまま熱膨張収縮を長期間受け続けるという前提から出発する。
同じ半径で曲げても、太いケーブルと細いケーブルとでは内部に生じる曲げひずみ・曲げ変形率がまったく違う。太さの異なる品種を同じ基準で扱おうとすれば、絶対的な半径の長さではなく、「曲げ半径÷ケーブルの太さ」という比率――曲げ半径倍率――で規定するほうが理にかなっている。そしてこの資料は、電力ケーブルを構成する材料の中でも金属遮へい層が曲げによる影響を最も受けやすい箇所であるとし、ここを曲げ時の「ネック箇所」として曲げ半径を規定していると述べている。つまり倍率という数字の裏には、遮へい層という具体的な弱点を守るという設計思想がある。
許容・設計・延線時、3段階の曲げ半径
もう一つ、この資料が持ち込んでいる整理が興味深い。曲げ半径には用途に応じて3つの段階があるという考え方だ。
- 許容曲げ半径[R1]:運用開始後も下回ってはならない曲げ半径の許容値
- 設計曲げ半径[R2]:R1を下回らないよう裕度を持たせた、線路設計時に確保すべき推奨値
- 延線時曲げ半径[R3]:ケーブルの延線・据付作業時に、さらに裕度を見込んだ推奨値
11kV〜33kVのトリプレックス(CVT)を例にとると、R1は8D、R2は10D、R3は15Dとなる(Dはケーブル外径)。単心CV(Dはシース外径)であれば、同じ電圧帯でR1が10D、R2が12D、R3は18Dだ。電圧帯が66kV〜77kVに上がると、単心CVのR2は16D、R3は19Dへと開いていく。数字だけを見ると「結局どれを守ればいいのか」と迷いそうになるが、この3段階は矛盾ではない。R1は最後の一線、R2は普段の設計目標、R3はまだ余裕のある作業時の目安であり、施工計画の段階ではR3を、竣工後にどうしても確認すべき最低ラインとしてはR1を意識する、という使い分けが前提になっている。
単心とトリプレックスで倍率が変わる理由
SWCCが製品カタログの技術資料として公開している「電線・ケーブルの許容曲げ半径」の一覧表は、もう少し広い品種を対象にしている。遮へいなしケーブルでは単心(非分割導体)8d・多心/トリプレックス6d、遮へい付ケーブル(高圧CV・高圧CVTなど)では単心(非分割導体)10d・多心/トリプレックス8dという基準が並ぶ。分割導体の単心ケーブル(CV800mm²以上など)だけは、遮へいの有無にかかわらず12dとやや大きい数字になる。
ここで目を引くのは、単心よりトリプレックスのほうが小さい倍率――つまりより急に曲げてよいとされている点だ。単心ケーブルは1本の太い導体と絶縁体だけで曲げ応力のすべてを受け止める構造である一方、トリプレックスは3本のCVケーブルを撚り合わせた構造を持つ。撚り合わせた構成であれば、内側と外側それぞれの心にかかる伸び・縮みの負担を分散しやすいだろうと考えるのは自然だが、この構造上の理由づけそのものが両資料に明記されているわけではない。倍率の並びから読み取れる傾向として押さえつつ、断定は避けておきたい。
「型番が違えば、曲がりやすさの絶対値も違う」という帰結
倍率という考え方には、もう一段、実務で見落とされやすい含みがある。倍率が同じでも、絶対値(ミリ単位の実際の曲げ半径)は品種ごとに違う仕上外径によって変わるということだ。
仕上外径は導体径だけで決まるわけではない。以前の記事で見たとおり、電線の絶縁体厚さ・シース厚さにはJIS規格上の許容差があり、同じ定格電圧・同じ導体断面積の製品でも、メーカーや品種によって絶縁体厚さ・シース厚さが規格の許容範囲内でわずかに異なることがある。SWCC・古河電工グループの6600V CV仕様書(SF-0005)が示すとおり、6600V CVケーブルの絶縁体厚さは導体断面積14mm²〜150mm²の広い範囲でほぼ4.0mm一定という、電圧が絶縁体厚さを強く支配する規格の作り方をしている。それでも規格が定める許容差の範囲内で、実際に届く製品の仕上外径はメーカー・品種によって0.数mm単位で違ってくる。
この差が、曲げ半径倍率という比率のもとでどう跳ね返るかを考えてみるとよい。10dという基準は、仕上外径が10mmなら100mm、仕上外径が10.5mmなら105mmを意味する。0.5mmの差はわずかに見えるが、10倍という倍率をかければ絶対値では5mmの差になる。設計段階で盤内の空きスペースをぎりぎりに見積もっていれば、この5mmが「収まる・収まらない」を分ける現実の数字になりうる。つまり、同じ「11kV CVT 60sq」という呼び名の製品を発注しても、届いたメーカー・ロットが変われば、現場で守るべき最小曲げ半径の絶対値もわずかに変わるということだ。導体サイズと定格電圧さえ合っていれば曲げ方も同じでよい、という思い込みは、仕上外径という変数を一つ挟むだけで崩れる。
無理な曲げが招くダメージ
倍率を下回る急角度で曲げてしまうと、何が起きるのか。昭和電線レビューVol.66が名指しした金属遮へい層は、電力ケーブルの中でも曲げによる影響を最も受けやすい部位だった。急な曲げは遮へい層の編組・テープに局所的な応力を集中させ、据付時点では検知できない微小な変形を残す可能性がある。
被害はそこにとどまらない。SWCCの6600V CV仕様書は、延線時にシースへ傷がつくとそこから水分が浸入し、導体の腐食・絶縁抵抗の低下・水トリー劣化につながると注意喚起している。水トリーは、絶縁体内部にごく微細な水分の通り道が徐々に成長していく劣化現象で、竣工検査の絶縁抵抗測定では異常が出ないまま進行し、数年後になって突然の絶縁破壊として姿を現すことがある。無理な曲げは、遮へい層と被覆の両方に、竣工の瞬間には見えない負債を残すという点で厄介だ。
だからこそ、許容曲げ半径という基準は「守れば安全、破れば即事故」という単純な線引きではなく、長期運用のあいだにケーブルが受け続けるストレスに対してどれだけの裕度を残しておくかという設計判断そのものだと捉えたほうが実態に近い。R1という最後の一線を守ることは最低条件であって、R2・R3という余裕を持った数字を普段の設計・施工の目標に据えることが、結局は竣工後のトラブルを避ける最短ルートになる。
見積り・選定のご相談について
高圧CVT・CVケーブルの選定では、導体サイズや定格電圧だけでなく、盤内・管路のスペースに対して仕上外径と許容曲げ半径がどう収まるかまで含めて確認しておくと、施工段階での手戻りを防げる。電設資材専門商社・松本電業株式会社では、こうした仕様面の確認を含めたお見積りに対応している。
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