急な曲がり角にPF管を這わせるとき、現場でよくある判断がある。梁をかわすため、あるいは仕上がりを美しく見せるため、管をできるだけ小さな半径でぐいっと曲げてしまう判断だ。管は柔軟に曲がる。曲げた直後は特に問題もなく見える。サドルで固定してしまえば、その区間はもう配管工事として完了したことになる。
問題が姿を現すのは、たいてい後になってからだ。照明を1灯増設するために、その曲がり角へ新しい電線を通そうとする。呼び線を送り込むと、曲がり角の手前でぴたりと止まる。あるいは、既設の電線を交換しようと引き抜いてみたら、曲がり角に当たっていた部分の被覆に白く擦れた跡が残っている。管はちゃんと曲がっていた。にもかかわらず、電線の方が通らない、あるいは傷ついている――この食い違いをどう説明すればいいのだろうか。
答えの手がかりは、電線管の屈曲半径(曲げ半径)という基準そのものの成り立ちにある。この基準は、管という部材が単体で壊れないための数値ではない。管を曲げ終えたあとに電線を通す、という電気工事特有の工法を前提に設計された数値なのだ。
なぜ屈曲半径に基準があるのか
電線管工事の多くは、先に管だけを配管して固定し、そのあとで電線を送り込む。この順番が、屈曲半径という基準の存在理由を説明している。
管を曲げる作業だけを見れば、半径がどれだけ小さくても、管そのものが割れたり潰れたりしなければ一応は「曲がった」ことになる。ところが、そのあとに電線を引き入れる工程が控えている。電線は曲がった管の内壁に沿って、引っ張られながら滑っていく。半径が小さい急角度の曲がりほど、電線は管の内壁へ強く押し付けられ、擦れながら進むことになる。
つまり屈曲半径の基準は、「管が曲がるかどうか」ではなく「曲がった管の中を、あとから電線が無事に通り抜けられるかどうか」を管理するための数値だと考えたほうが実態に近い。合成樹脂製可とう電線管工業会が公開するQ&Aでは、PF管・CD管の屈曲について「内側の半径は管内径の6倍以上」とすることが案内されており、これは電線管メーカーであるパナソニックの技術資料(パナフレキの最小曲げ半径に関するFAQ)でも同じ数値が確認できる。内線規程(JEAC 8001)は非公開の民間規格だが、この6倍という数字は、公開されている工業会資料・メーカー資料・電気工事士試験対策書のいずれでも一致して確認できる、業界に広く定着した基準値である。
管の内径に対する屈曲半径の目安——管種による違い
「6倍」という数字は、実は管種を問わず共通して使われている。ただし、そこから先の緩和条件は管の性質によってはっきりと分かれる。
| 管の種類 | 屈曲半径の基準 | 緩和条件 |
|---|---|---|
| 金属管(薄鋼・厚鋼・ねじなし電線管) | 管内径の6倍以上 | 明確な緩和条件の記載はなく、原則どおり6倍以上を確保する |
| 金属製可とう電線管(プリカチューブ等) | 管内径の6倍以上 | 露出した場所、または点検できる隠ぺい場所で管の取り外しができる場所に限り、管内径の3倍以上まで緩和可 |
| PF管・CD管(合成樹脂製可とう電線管) | 管内径の6倍以上 | 呼び22以下で、建造物の構造上やむを得ない場合、管の内断面を著しく変形させずひび割れが生じない程度まで小さくできる |
金属管(薄鋼・厚鋼・ねじなし電線管)については、電気工事士試験対策書でも「屈曲部の内側の半径は、管内径の6倍以上にします」とだけ説明されており、可とう電線管のような明示的な緩和条件は付いていない。金属管は剛性が高く、後から手で曲げ直すような融通が利かない分、最初から基準どおりの半径を確保する前提で施工されているということだろう。
一方、金属製可とう電線管には「露出した場所または点検できる隠ぺい場所で、管の取り外しができる場所」という条件付きで3倍以上まで緩和できる規定がある。取り外して点検・交換できる場所であれば、多少半径を詰めても実害が起きにくいという判断が背景にあると考えられる。
PF管・CD管の緩和は、これらとは性質が違う。呼び径という「太さ」を条件にしている点が特徴で、呼び22以下という細物に限り、建造物の構造上どうしても避けられない場合に、管そのものが著しく変形せず、ひび割れが生じない範囲でだけ半径を詰めることが認められている。同じ「緩和」という言葉でも、管種によって緩和の入り口となる条件がまるで違う。ある管種の緩和条件を、別の管種にそのまま当てはめてしまうのは危うい思い込みだ。
もう一段深く——「6倍」が守っているのは何か
6倍という数字を、割れ・ひび割れを防ぐための余裕だとだけ理解している人は多い。半分は正しい。だが、それだけでは説明がつかない場面がある。
電線・ケーブルそのものにも、実は独自の許容曲げ半径がある。電線メーカーSWCCの技術資料によれば、IV・HIVなどの絶縁電線は仕上り外径の8倍、VV・CVの単心ケーブル(非分割導体)も8倍、多心のVV・CV・CVVやCVTは6倍が許容曲げ半径の目安として示されている。電線管を曲げる基準と、電線自体が曲がってよい限度と、ほぼ同じ桁の数字が独立に存在しているのは偶然ではない。管の屈曲半径が電線自身の許容曲げ半径を下回ってしまえば、管がどれだけ丈夫でも、中の電線の方が先に無理な曲げを強いられることになる。
さらに、同じ資料は電線の延線(通線)時にかかる許容側圧の数値も示している。CVT(トリプレックス)で1mあたり2450N、CV(単心・多心)で2940Nというのが目安だ。曲がった管の中を電線が引っ張られていくとき、この側圧は曲げ半径が小さいほど大きくなる。半径を詰めるということは、後から通す電線に、より大きな側圧を強いるということでもある。JIS C 8411:2019に基づく曲げ試験(JIS C 8461-22の10.4)が、内側半径を管内径の6倍以上とした状態で製品の性能を確認しているのも、この数字が製品規格と施工実務の両面から支持されている裏付けだと見てよいだろう。
無理な曲げが電線に与えるダメージ
屈曲半径を無視して急角度で曲げた管に電線を通すと、電線側にどのようなダメージが生じるのか。ここを具体的にイメージできていないと、「管さえ曲がっていれば問題ない」という判断から抜け出せない。
まず起きるのは、被覆の擦り傷だ。通線時、電線は曲がり角の内壁に押し付けられながら滑る。半径が小さいほどこの圧力は強まり、ビニル被覆やシースの表面が削れたり、白く応力の跡(クレイズ)が残ったりする。すぐに絶縁性能を失うわけではないが、傷んだ被覆はそこから劣化が進みやすくなる。SWCCがまとめる電線・ケーブルの劣化要因の一覧でも、「機械的要因(衝撃、圧縮、屈曲、捻回、引張、振動など)」は、電気的要因・熱的要因と並ぶ独立した劣化要因として位置づけられている。屈曲は、それ単体でも電線の寿命を縮める要因として扱われているということだ。
より重い症状は、導体の変形だ。急な角度で強く引っ張られた電線は、被覆の内側で導体そのものが偏り、断面が均一でなくなることがある。より線であれば素線がばらけたり寄り合わせが崩れたりし、単線であれば折れ曲がった跡が残る。導体の断面が乱れれば、その部分の電気抵抗は局所的に高くなり、発熱が集中しやすくなる。
最も避けたいのが、絶縁破壊のリスクだ。被覆の擦り傷が深く進行し、絶縁層を貫通するところまで達すれば、そこは電線としての機能を失った箇所になる。工事直後にすぐ地絡・漏電が起きるとは限らない。むしろ厄介なのは、竣工検査の絶縁抵抗測定では異常が出ず、数年後の使用中に、傷んだ箇所から徐々に絶縁性能が落ちていくケースだ。原因を追及して管を開けてみたら、何年も前に無理な角度で曲げられた区間だった、という話は現場で語られることが少なくない。
ベンダー(電線管曲げ工具)を使う理由——手曲げとの違い
金属管を曲げる工具として、パイプベンダー(コンジットベンダー)がある。なぜ手で曲げず、わざわざ専用工具を使うのか。
パイプベンダーには大きく分けて、手動式と油圧式がある。手動式の代表がハイヒッキーで、作業者の体重や腕力を利用して曲げる方式であり、ねじなし電線管や薄鋼電線管の小口径サイズに向いている。油圧式は油圧シリンダの推力を利用する方式で、厚鋼電線管や大口径の配管など、人力では曲げきれない肉厚のある管に使われる。マクセルイズミ(旧・泉精器製作所)が販売する油圧式パイプベンダーPB-15Nは、薄鋼電線管で15〜75mm、厚鋼電線管で16〜104mmという範囲の曲げ能力を持つ製品として案内されている。太い管、厚い管になるほど、手の力だけでは同じ半径を再現できなくなるという現実が、こうした工具の存在そのものに表れている。
ベンダーを使う最大の理由は、狙った半径を再現性高く出せることにある。手で無理に曲げようとすると、管の断面が扁平になったり、内側にシワが寄ったりしやすい。パイプベンダーに関する技術解説記事でも、この変形が「入線作業時に電線が引っかかり被覆を損傷させるおそれ」につながると指摘されている。ベンダーは、単に「曲げやすくする道具」ではなく、「屈曲半径の基準を再現よく守るための道具」だと理解しておいたほうが、工具選びの判断がぶれにくい。
PF管のような細物の樹脂管は、手でも曲げられる柔軟性を持つ。ただし、柔軟だからといって半径の管理が不要になるわけではない。手曲げに頼る場合でも、曲げ型やコネクタの位置を基準にして半径を目測できるようにしておく、あるいは呼び径ごとの目安寸法を事前に確認しておくといった工夫が要る。
曲げすぎ・つぶれによる断面積減少の問題
急角度で曲げすぎた管に起きるもう一つの問題が、断面積の減少だ。管は円形の断面を保っていることを前提に、内部に電線を収める空間が確保されている。無理な曲げによって断面が扁平になると、その部分だけ内部の有効な空間が狭くなる。
厄介なのは、この断面積減少が、管の見た目からは判断しにくいことだ。外から見れば「曲がっている」だけに見える箇所が、内部では楕円につぶれ、電線が通る隙間を大きく減らしていることがある。すでに管径の選定段階で、電線の断面積合計を管内断面積の一定割合以下に収める設計をしていたとしても、曲がり角で断面がつぶれてしまえば、その設計上の余裕は曲がり角だけ実質的に食いつぶされる。管径選定の基準そのものについては、電線管の種類と選び方を扱った記事で詳しく触れている。
断面積が減った状態で電線を無理に押し込めば、通線時の抵抗は急激に増える。呼び線が途中で止まる、電線を引っ張っても進まないといった症状は、多くの場合この断面積減少がボトルネックになって起きている。
現場での確認方法
曲げ終えた管が基準どおりの半径を保っているかどうかは、いくつかの簡単な手段で確認できる。
まず、曲げた箇所を目視して、断面が扁平になっていないか、外側にシワが寄っていないかを確認する。ベンダーで規定どおりに曲げていれば、断面はほぼ真円を保つはずで、目立った変形があればその時点で施工をやり直す判断材料になる。
次に、電線を本番で通す前に、細い呼び線やテストボールなどの先行材を通しておくという手がある。これが曲がり角でつっかえずに抜けることを確認できれば、断面積が大きく損なわれていないと判断する材料になる。太い電線・ケーブルを本番で引き込んでから引っかかりに気づくよりも、先行材で確認しておくほうが、やり直しの手間はずっと小さくて済む。
見た目に問題がなくても、竣工から数年経って初めて絶縁劣化として症状が出るケースがあるのは、これまで見てきたとおりだ。曲がり角の施工は、配管工事の中でも後から検証しにくい部分だからこそ、曲げるその瞬間の確認が事実上、最初で最後のチェックポイントになりやすい。
電線管の曲げ半径・管種の選定は、施設場所や収容する電線の種類・太さが分かれば、具体的な資材構成まで含めて検討できます。
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