改修工事の下見で天井点検口を開けると、照明回路のPF管がゆるやかに弧を描いているのが見えた。サドルは確かに打たれている。ただ、間隔を目測すると、図面の指定よりも明らかに広い。前工程を担当した業者に聞くと、返ってきた答えはこうだった。「間隔を少し広げれば、サドルの本数も施工の手間も減らせる。固定さえしてあれば問題ないはずだ」。
固定してあれば大丈夫——この感覚は、半分だけ正しい。電線管をサドルで造営材に留めること自体は、電気設備の技術基準の解釈が求める最低限の義務であり、そこは誰もが守っている。ところが、その「留める間隔」そのものが、管の種類ごとに数値として設計されているという事実は、現場の感覚にまで十分に落とし込まれていないことが多い。間隔を無視して固定の数を減らしていけば、固定という行為そのものの意味が、少しずつ薄れていく。
サドルを1本減らせば、部材費と施工の手間がその分だけ確実に浮く。天井裏や壁の中に隠れてしまう部分であれば、竣工検査の目にも留まりにくい。「間隔を少し広げても、固定していることに変わりはない」という判断が生まれる背景には、こうした分かりやすい採算の理屈がある。問題は、その理屈が正しいのは「間隔にそもそも基準がない」場合に限られるという点だ。
なぜ支持点間隔に基準があるのか
電線管は、管そのものの自重だけで宙に浮いているわけではない。中には電線が通っており、その電線にも当然重量がある。細い電線を1本収めただけの管と、太いCVケーブルを何本も詰め込んだ管とでは、同じ支持間隔でもかかる荷重はまるで違う。加えて、合成樹脂製の管は温度変化によって伸び縮みする材料でもある。夏の直射日光にさらされる屋外露出配管と、空調の効いた天井裏に隠れた配管とでは、日々受ける温度差の幅がそもそも違う。
公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)は、硬質ビニル電線管(VE管)について、直線部が10mを超える場合は伸縮カップリングを設けるよう求めている。管が一体として長く伸びるほど、熱による伸縮量が無視できなくなるということだ。サドルによる固定は、この自重・電線重量・熱伸縮という3つの力に管がさらされ続けることを前提に、どこまでの間隔なら耐えられるかを管種ごとに逆算した数値だと考えると分かりやすい。
合成樹脂製可とう電線管工業会は、施工上の注意として「管を伸ばした状態で固定しない」よう呼びかけている。これは、たわみを嫌って管をぴんと張った状態でサドルを打ってしまうと、後から気温が変化して管が収縮したときに、固定点や接続部へ余計な引張力がかかるからだ。間隔を守って適度な支持点数を確保しておけば、多少の伸縮は各支持点の間でやわらかく吸収される。間隔を広げて支持点を減らすと、その吸収の余地そのものが減っていく。
管の種類による間隔の違い——金属管2m、樹脂管1〜1.5m
公共建築工事標準仕様書が定める支持間隔は、管の種類によってはっきりと段差がついている。
| 電線管の種類 | 支持間隔の上限 | 備考 |
|---|---|---|
| 金属管(薄鋼・厚鋼・ねじなし電線管等) | 2m以下 | 管とボックス等の接続点・管端に近い箇所も固定 |
| 合成樹脂製可とう電線管(PF管・CD管)=隠ぺい配管 | 1.5m以下 | 管相互の接続点の両側でも固定 |
| 合成樹脂製可とう電線管(PF管・CD管)=露出配管 | 1m以下 | 隠ぺいより短い間隔が求められる |
| 硬質ビニル電線管(VE管) | 1.5m以下 | 直線部10m超は伸縮カップリングを設置 |
| 金属製可とう電線管(プリカチューブ等) | 1m以下 | 垂直配管で接触のおそれがない等の条件下は2m以下に緩和可 |
金属管が2mまで許されているのは、鋼製である以上、自重や電線の重量を受けても形状を保つ剛性が高いからだ。対照的に、PF管・CD管のような合成樹脂製の可とう管は、施工時に手で曲げられるほど柔らかい。柔らかいということは、それだけ支持点の間で自重に負けてたわみやすいということでもあり、同じ樹脂管でも隠ぺい場所は1.5m、露出場所はさらに厳しい1m以下という区分が置かれている。人目に触れる露出配管でたわみが出れば、機能面だけでなく見た目の信頼性も損なうという実務上の事情も、この差に表れていると見てよいだろう。
太さによる間隔は本当に変わるのか
太い電線管ほど頑丈そうに見える。だから、太さが増すごとに支持間隔を広げてよいはずだ——現場でそう考えるのは自然な発想だが、公共建築工事標準仕様書が定める支持間隔の区分を見る限り、この発想は裏付けを持たない。間隔の基準は、管の呼び径(太さ)ではなく、管の種類(金属管かPF管かCD管か硬質ビニル管か可とう電線管か)と、施設場所(隠ぺいか露出か)によって区分されている。太さは、曲げ半径の緩和条件(呼び径22mmまたは25mm以下で構造上やむを得ない場合に曲げ半径を小さくできる、という別の基準)には関わってくるが、支持間隔そのものを太さで直接動かす規定はない。
ただし、これは「太さを無視してよい」という意味ではない。同じ支持間隔の上限であっても、太い管には太いケーブルが複数本収まっていることが多く、支持点1箇所あたりが受け止める重量は当然重くなる。基準の上限ぎりぎりまで間隔を広げてよいかどうかは、管の種類だけでなく、実際にその管が何を、何本収めているかという中身の重量まで含めて判断すべき話だ。太い管を基準の上限で固定して安心する前に、収容している電線の重量を一度思い出しておきたい。
発注段階の実務でも、この「太さでは変わらない」という点は効いてくる。例えば隠ぺい場所のPF管を10m配管する場合、支持間隔1.5m以下という基準を守るなら、両端の固定を含めて最低でも8箇所前後の固定点が必要になる計算だ。呼び径14でも呼び径36でも、この本数の考え方自体は変わらない。「太い管なら間隔を広げてよいはずだ」という思い込みでサドルの発注数を見積もると、太物の配管ほどサドルの本数を少なく見積もってしまい、後から追加発注が必要になる。
垂直配管と水平配管での違い
垂直な配管には、水平な配管とは別の力学が働く。ここで区別すべき仕組みが2つある。
1つは、管そのものをサドルで固定する間隔だ。公共建築工事標準仕様書では、金属製可とう電線管に限り、垂直に敷設し人が触れるおそれがない場合、あるいは施工上やむを得ない場合は、通常の1m以下から2m以下まで間隔を広げられるとされている。垂直配管は水平配管と違って自重が真下方向にかかるだけで、横方向のたわみを生みにくいという事情が背景にあるのだろう。ただしこの緩和は金属製可とう電線管という特定の管種に限った話であり、他の管種にまで一律に当てはまるものではない。
もう1つは、管の中を通る電線そのものの支持だ。同仕様書は、垂直に敷設する管路内の電線について、太さに応じてプルボックス内で支持する間隔を定めている。断面積38mm²以下なら30m以下、100mm²以下なら25m以下、150mm²以下なら20m以下、250mm²以下なら15m以下、250mm²を超えると12m以下という具合に、電線が太く重くなるほど支持間隔は短くなる。これは管を造営材に留めるサドルの話ではなく、垂直に立ち上がる長い管の中で、電線自身が自重で下にずり下がっていくのを、プルボックスの中で受け止めて防ぐための基準だ。管の外側を固定する間隔と、管の内側で電線を支える間隔——同じ「垂直配管」という場面に、性質の異なる2つの支持基準が重なっていることになる。
間隔を広げすぎるとどうなるか
支持間隔を基準より広げた状態を放置すると、まず現れるのはたわみだ。支持点と支持点の間で管が自重と電線の重量に負けて下に沈み、目に見える弧を描くようになる。これは多くの場合、いきなり破断や脱落に至るわけではなく、じわじわと進行する。
たわみが進むと、管の内側では電線が管壁に押し付けられる格好になり、特に曲がり部分ではその圧力が集中しやすい。長期的には電線被覆への負担として蓄積していく。さらに、支持点が少ないということは、管が温度変化で伸び縮みするときにその力を逃がす場所が少ないということでもある。伸縮の力は、結局どこかに集中する。多くの場合、それは管相互やボックスとの接続部だ。カップリングやコネクタの緩み・抜けは、こうした「間隔を広げた結果、力の逃げ場がなくなった」ことの現れであることが少なくない。
見た目の面でも、たわんだ電線管は施主や元請けの目に留まりやすい。機能上は当座問題がなくても、「この施工は大丈夫か」という疑念を招く要素になる。サドルの本数を減らして浮いた材料費・手間は、竣工検査でのやり直しや、数年後の増設工事での再固定という形で、結局どこかで払い戻すことになりやすい。
施工時の実務的な目安
- 管とボックス・カップリングとの接続点、管端に近い箇所は、通常の支持間隔とは別に固定点を設ける(合成樹脂製可とう電線管工業会は、コンクリート埋設時の接続箇所付近を0.3m以下の間隔で結束するよう案内している)
- 結束線を使う場合は0.9〜1.2mm程度のバインド線を選び、被覆のない硬い結束線で管を傷つけない
- 同じPF管・CD管でも、隠ぺい場所(1.5m以下)と露出・展開した場所(1m以下)で基準が違うことを施工前に確認する
- 太い管・重いケーブルを収容する区間では、基準の上限ぎりぎりまで広げず、支持点を1つ増やす判断をする
- 管を張った状態でサドルを打たない。多少のたわみしろを残しておくことが、熱による伸縮を各支持点間で分散して吸収することにつながる
電線管の支持間隔は、管の種類・施設場所・収容する電線の重量が分かれば、具体的なサドルの選定・必要本数まで含めて検討できます。
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