改修工事の足場を外した直後、外壁を這う配管に目が留まった。ベージュだったはずのPF管が、白茶けたような色に変わっている。指先で軽く弾くと、表面がぽろぽろと剥がれ落ちた。数年前、「とりあえず手元にあったPF管で」と配線した屋外の露出区間だという。管を割ってみると、中の電線の被覆にはまだ大きな問題はない。傷んでいるのは管そのものだけだ。ただし、この管はあと何年、電線を守り続けられるのか。
同じ「電線管」という名前がついていて、同じように柔らかく手で曲げられる。それなのに、屋内で使えば何年経っても平気なPF管が、屋外に出した途端にこうなる。樹脂だから紫外線には弱いはずだ、CD管もVE管も似たようなものだろう——そう考えるのは自然だが、この思い込みが現場のやらかしを生む。PF管・CD管・VE管は、想定する設置場所に応じて樹脂そのものの耐候性設計が違う製品だ。
PF管の材質と、劣化が起きる場所
PF管はポリエチレン・ポリプロピレン系の合成樹脂を主材料とする可とう電線管で、JIS C 8411が規定する製品だ。パナソニックの製品情報によれば、PF管には単層構造(パナフレキエース)と複層構造(パナフレキPFD)があり、いずれも自己消火性(難燃性)を持つ。この自己消火性は、合成樹脂製可とう電線管工業会のFAQで「バーナー等で燃焼させ、その炎を取り去った時、一定時間内に自然に消える性質」と定義されており、火災時に管自体が燃え広がらないという性能だ。
ここで押さえておきたいのは、自己消火性と耐候性はまったく別の性能だという点だ。PF管は火に強く設計されている製品であって、紫外線に強く設計された製品ではない。パナソニックのFAQでも「PF管は屋外にも使えます」としながら、同じページで「紫外線劣化、機械的強度や美観上(管のたるみなど)、鋼製電線管のご使用をおすすめします」と、屋外使用にはやや及び腰な書き方になっている。使えないとは言わないが、積極的には勧めない。この温度差の理由が、次の劣化メカニズムにある。
紫外線が樹脂を壊すメカニズム
紫外線は、樹脂の分子鎖を物理的に断ち切るエネルギーを持っている。製品設計に関する技術解説によれば、紫外線を吸収した高分子はまず結合が切断されてラジカル(不対電子を持つ不安定な分子)が生成され、このラジカルが空気中の酸素と結合してペルオキシラジカルになり、そこからさらに周囲の分子から水素を引き抜いて新たなラジカルを生む——という連鎖反応が進行する。これが「光酸化」と呼ばれる劣化の本体だ。一度反応が始まると、酸素がある限り自己増殖的に広がっていく性質を持つ。
この反応が樹脂の内部で進むと、分子鎖はどんどん短く千切れていく。分子が長く絡み合っているからこそ樹脂は弾力とねばりを持つのであって、鎖がぶつ切りになれば、その弾力は失われる。表面が硬化し、白亜化(チョーキング。白い粉を吹いたような状態)が現れ、やがて指で触れただけで崩れるほど脆くなる。PF管の場合、複層構造であれば内層はまだ守られるとしても、外側にさらされる層から確実にこの反応が始まる。屋外に何年も置かれたPF管が、ある日突然ではなく、じわじわと白っぽく変色してから割れに至るのは、この連鎖反応が徐々に進行する現象だからだ。
実験室でこの劣化を再現する促進耐候性試験では、キセノンランプなどの光源が使われる。JFEテクノリサーチの解説によれば、これは太陽光(主に紫外線)による劣化を、熱・雨風といった屋外の条件とあわせて人工的に再現する試験で、キセノンランプは太陽光の分光分布に最も近い条件を作れるとされている。屋外でのPF管の劣化は、偶然のトラブルではなく、こうした試験で再現・定量化できる、樹脂という材料が持つ既知の弱点なのだ。
CD管・VE管はなぜ違うのか
ここで「では他の管も同じように弱いのか」という疑問が出る。答えは半分イエスで、半分ノーだ。
CD管はPF管と同じJIS C 8411の中の区分で、材質もポリエチレン系樹脂と近い。ただしCD管は自己消火性さえ持たない前提で作られており、合成樹脂製可とう電線管工業会のFAQによれば、施設場所は電技解釈第158条により直接コンクリートに埋め込む場合に限定されている。つまりCD管は「屋外の紫外線」どころか「屋内の露出」すら想定していない、コンクリートに囲まれることを前提にした製品だ。屋外に露出させれば、PF管よりもさらに早く劣化が進む可能性が高い。CD管がオレンジ色に着色されているのは、コンクリート埋設用であることを現場に一目で示すための識別色でもある。
一方、VE管はJIS C 8411とは別の規格、JIS C 8430(硬質ポリ塩化ビニル電線管)が規定する製品だ。未来工業の製品カタログでは、VE管(J管)の特性として「高耐候性」「耐衝撃性」がはっきり明記されている。塩化ビニル樹脂そのものの分子構造がポリエチレン系とは異なるうえ、屋外の露出配管という用途を前提に安定剤や顔料が配合されている。可とう性を捨てて硬質の直管にした代わりに、屋外で長期間さらされることに耐える設計を選んだ製品、という理解が実務的には近い。
つまり、PF管・CD管・VE管という3つの「電線管」は、同じ樹脂系という共通点を持ちながら、それぞれ「屋内隠ぺい・複雑な取り回し」「コンクリート埋設」「屋外露出」という異なる設置場所を前提に、耐候性の設計そのものが振り分けられている。管の色や柔らかさの違いは、この設計思想の違いが表面に現れたものにすぎない。
| 項目 | PF管(一般グレード) | CD管 | VE管 |
|---|---|---|---|
| 主材料 | ポリエチレン・ポリプロピレン系樹脂 | ポリエチレン・ポリプロピレン系樹脂 | 硬質ポリ塩化ビニル |
| 想定する設置場所 | 屋内の露出・隠ぺい配管、複雑な取り回し | コンクリートへの直接埋設専用 | 屋外露出・地中埋設、直線的なルート |
| 耐候性(紫外線) | 標準では低い(耐候性グレード品は別途存在) | 想定外(埋設前提のため設計されていない) | 高い(製品特性として明示) |
| 屋外露出時の弱点 | 数年で白化・ひび割れ・粉化のおそれ | PF管以上に早く劣化するおそれ | ほぼ問題にならない |
(耐候性グレードのPF管については後述する。この表は一般に流通する標準グレードでの比較であり、色や添加剤の配合によって耐候性は製品ごとに幅がある。)
それでも屋外でPF管を使ってよい条件
とはいえ、屋外だからPF管は一律に使えない、というわけでもない。パナソニックは屋外・屋側の露出配線について、鋼製電線管とあわせて「高耐候タイプのPF複層管(パナフレキPV)」の使用を推奨している。未来工業のミラフレキMF(PFD)も、耐候性に優れた二層構造の製品で、黒色仕様は太陽光発電設備の屋外配線に最適とされる。同社の製品カタログには、JIS A 1415「高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法」で6500時間(約30年相当)の暴露後も、外層材の引張強度残率・伸び残率が50%以上を保持するというデータが示されている(参考値であり保証値ではないという注記付きだが、一般的な単層PF管との差を示す数字としては十分に説得力がある)。
つまり「屋外で使ってよいPF管」は存在する。ただしそれは、紫外線に耐えるよう外層の樹脂配合そのものを変えた、耐候性グレードの製品に限られる。ホームセンターの棚に並ぶ一般的な単層のベージュ色PF管を、そのまま屋外の直射日光下に持ち出すのとは話が別だ。設置場所についても、直射日光を避けた庇の下や外壁の陰にルートを取れるなら、それだけで受ける紫外線量は大きく減る。管種の選定と設置ルートの工夫は、どちらか一方ではなく両方で劣化を遅らせる関係にある。
施工時の代替選択肢
新規で屋外露出配管を計画する段階であれば、選択肢は主に二つある。一つは、いま述べた耐候性グレードのPF複層管(ミラフレキMF、パナフレキPV等)に切り替えること。可とう性を活かした施工性を保ちながら、耐候性だけを引き上げられる。もう一つは、そもそもVE管に変更することだ。硬質管になる分、曲げ加工にはトーチランプや専用継手が必要になり施工の手間は増えるが、耐候性という一点では設計思想からして有利な製品を選ぶことになる。
UVカット塗装で一般グレードのPF管を延命する、という方法も現場で語られることがある。塗膜が紫外線を遮断している間は一定の効果を持つが、塗膜自体も紫外線と風雨にさらされて劣化していく消耗品であり、樹脂そのものの耐候性設計を変えているわけではない。恒久的な屋外配管の対策としてではなく、あくまで交換までの時間を稼ぐ応急的な手段と位置づけておくのが実務的だ。
誤って屋外にPF管を使ってしまった場合
すでに一般グレードのPF管が屋外に露出配管されているのを見つけた場合、まず確認すべきは劣化の進行段階だ。色あせや艶引けの初期段階であれば、まだ交換までの猶予がある。しかし指で押して弾力がない、表面が白く粉を吹いている、細かいひび割れが見えるという段階まで進んでいれば、次の紫外線と雨で電線が露出する前提で対処したほうがよい。
対処の基本は、該当区間を耐候性PF管かVE管に交換することだ。電線自体の被覆がまだ健全であれば、管だけを交換して電線を再利用できる場合もあるが、管が割れて雨水が浸入していた形跡があれば、電線側の絶縁性能も含めて点検する必要がある。応急的にUVカット塗料や保護テープで覆う方法もあるが、前述のとおりあくまで一時しのぎであり、次の点検・改修のタイミングでの本格的な交換を前提に計画しておきたい。
屋外配管の管種選定や、耐候性グレード品への切り替えに必要な数量・仕様が分かれば、見積もりの相談ができます。
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