竣工検査の前日、盤の裏で配管をたどっていた若手が、ふと手を止めた。「この電線管、途中でボンド線が切れてますけど……大丈夫ですよね?中の電線はちゃんと接地してあるので」。先輩は答えに詰まった。中の電線の接地は確かに正しい。だが問われているのはそこではない。管そのものが接地されているかどうかだ。
電線管を「電線を保護するための、ただの鋼製の筒」だと思っていると、この問いの意味が正しく像を結ばない。管の中の電線が絶縁破壊を起こしたとき、電流が最初に触れる金属は、電線の被覆ではなく管の内壁だ。そこから先、管という金属の塊全体が、電位を持った一本の導体に変わる。電線管は「保護管」であると同時に、接地という観点では電線と同格に扱うべき部材なのだ。
この記事でわかること
- 金属製の電線管そのものになぜ接地工事が必要なのか
- 電技解釈第29条・第159条が定める接地工事の種別(D種・C種)
- 継手・ボックスを介して電気的連続性を確保する仕組み(ロックナット・ねじなしコネクタ)
- 接地線を管内に別途通線する方法と、管路自体を導体として使う方法の信頼性の違い
- D種接地工事が省略できる例外条件
- 現場で電気的連続性が失われやすい典型的な不備
なぜ金属製の電線管に接地が必要か
理由は単純だ。金属は電気を通す。電線管の中を走るのが絶縁被覆に守られた電線であっても、管そのものは鋼やアルミといった導体でできている。
正常な状態であれば、管には電流は流れない。問題は、内部の電線の絶縁が劣化・損傷したときだ。経年劣化、施工時の被覆傷、げっ歯類による噛害、水分の浸入——原因は現場ごとに違うが、結果は同じだ。絶縁が破れた電線の芯線が、管の内壁に直接触れる。その瞬間、管は電線と同じ電位を持つ「充電体」に変わる。
ここで管に接地が施されていなければ、管に触れた作業者や設備利用者が、感電経路の一部になる。逆に管が確実に接地されていれば、漏れ出した電流は大地へ逃げる経路を持ち、多くの場合は上流の過電流遮断器や漏電遮断器が働いて、被害が広がる前に電路が遮断される。
つまり電線管の接地工事は、電線の絶縁が万一破れたときの「次の壁」として機能している。電線側の対策と電線管側の対策は、別の層の話であり、片方が万全でももう片方を省略していい理由にはならない。
D種接地工事が原則として求められる理由
電技解釈第29条は、機械器具の金属製外箱等の接地について定めており、表29-1で使用電圧300V以下の場合はD種接地工事、300Vを超える場合はC種接地工事を要求している。金属管工事を定める第159条もこの体系に準じており、原則として300V以下の金属管にはD種接地工事、300Vを超える場合にはC種接地工事が必要になる。
| 使用電圧 | 接地種別 | 接地抵抗値の目安 |
|---|---|---|
| 300V以下 | D種接地工事 | 100Ω以下(漏電遮断器設置時500Ω以下) |
| 300V超 | C種接地工事 | 10Ω以下(漏電遮断器設置時500Ω以下) |
(電技解釈第29条・第159条を参考に作成。数値の詳細は第17条〜第29条を参照)
工場や事務所ビルの一般的な低圧電路(100V・200V系)は300V以下がほとんどなので、実務上は「金属管を使うならD種接地工事が原則」と覚えておいて差し支えない。300Vを超える動力系統や、産業用の高圧受電設備からの引き下ろし配管では、C種が絡んでくる場面も出てくる。
どこまでを1つの接地系統として扱えるか——継手・ボックスの電気的連続性
金属管工事の現実的な難しさは、実は接地工事そのものより、接地系統をどこまで「一体の導体」として扱えるかという点にある。
電線管は数メートル単位の直管を、カップリング・コネクタ・ボックスでつなぎ合わせて長い経路を作る。接地の観点で言えば、この経路全体が一本の電線と同じように、切れ目なく導通していなければ意味がない。どこか一箇所でも導通が切れていれば、そこから下流側の管は「保護されていない金属体」に戻ってしまう。
ではその導通は何によって担保されているのか。パナソニックの配管機材に関する技術資料によれば、電線管同士をカップリングで接続すれば電気的に導通し、別途アースボンド線を使用しなくても接続が成立するとされている。ねじなしコネクタで電線管とボックスをつなぐ場合も同様で、止めねじをねじ頭がねじ切れるまで確実に締め付けることによって、電線管本体・ボックスの双方と電気的に接続される構造になっている。ロックナットで接続する方式であれば、ボックス側の絶縁塗装を完全に削り取り、ロックナットをボックスの両側から十分な力で締め付けることで、同じく電気的な連続性が確保される。
つまり「別途ボンド線を這わせなくても、ねじや継手そのものが接地経路になる」というのが、金属管工事における標準的な考え方だ。裏を返せば、これらの締結が正しく行われていない継手は、接地経路が途切れた継手でもある。継手の数だけ、その健全性を問われる箇所が増えるという性質を、この工法は最初から抱えている。
接地線を別途配線する場合との違い——管路自体を導体として使う信頼性の限界
ここで一段深い問いが浮かぶ。継手だけに頼らず、管の中に接地専用の電線をもう一本、別途通線してはいけないのか。
もちろん問題ない。むしろ実務では珍しくない選択肢だ。管路自体を導体として使う方法と、管の中に独立した接地線を通す方法は、どちらも接地の役割を果たせる。だが両者の信頼性の性質は同じではない。
管路自体を導体として使う場合、その経路の健全性は、経路上にあるすべての継手・ロックナット・コネクタが、施工時に規定どおり締結され、その後も経年劣化や振動、腐食によって緩んでいないことに依存する。内線規程は、接地線から金属管の最終端に至る間の電気抵抗を2Ω以下に保つことが望ましいという目安を示しているが、これは裏を返せば「継手をいくつも経由した経路は、抵抗値が積み上がって基準を外れうる」ことを前提にした数値でもある。継手が多い長い配管、屋外や地中で腐食が進みやすい環境、増改築を繰り返して施工年代の異なる継手が混在する既設配管では、この積み上げが無視できない大きさになることがある。
一方、管の中に別途通した専用の接地線は、経路の健全性が継手の締結状態に左右されない。電線の導通そのものが接地の経路であり、管はあくまで電線を保護する筒として振る舞う。信頼性を継手の数から切り離したいとき——特に人命に関わる設備や、更新履歴の追いにくい既設配管を扱うとき——には、この方式が積極的に選ばれる理由になる。
どちらが「正しい」という話ではない。管路自体を導体として使う方法は規定上認められており、施工が適正であれば十分に機能する。ただし、その信頼性は経路上の継手の数だけ薄まりうるという性質を持つ、という理解を欠いたまま「電線管なんだから勝手に接地されているはずだ」と思い込むことが、現場の落とし穴になる。
接地工事が省略できる例外条件
原則としてD種接地工事が必要な金属管工事だが、電技解釈第159条は限定的な省略条件も定めている。
- 対地電圧が150V以下で、管の長さが4m以下であり、乾燥した場所に施設する場合
- 対地電圧が150V以下で、管の長さが8m以下であり、乾燥した場所または簡易接触防護措置を施した場所に施設する場合
いずれも「短い・乾燥・低い対地電圧」という条件が重なったときに限られる、狭い例外だ。工場の動力盤から機械までを引き回すような、数メートル以上の配管や、屋外・多湿環境の配管では、この省略条件に当てはまらないケースがほとんどになる。「短い配管だから接地はいらないだろう」という現場の直感は、条件をすべて満たして初めて正しくなる話であり、長さだけを見て判断してよいものではない。
施工時によくある不備
電気的連続性が失われる原因の多くは、派手な事故ではなく、地味な締結不良に集約される。
- ロックナットの締め付け不足、または取り付け向きの誤り(凹みのある面をボックス側に挟み込む向きが規定されている)
- ボックス側の絶縁塗装を削り取らずにロックナットやコネクタを接続してしまう
- ねじなしコネクタの止めねじの締め忘れ——ねじ頭がねじ切れるまで締める設計であるにもかかわらず、感覚的に「締まった」と判断して緩いまま終える
- 既設配管の改修工事で、規格や年代の異なる継手・コネクタが混在し、想定していた締結構造どおりに導通していない
- 地中埋設部やねじ切り部の腐食で、金属同士の接触抵抗が経年で増加する
いずれも配管の外観からは判別しづらく、接地抵抗を実測して初めて発覚することが多い。内線規程が示す「2Ω以下が望ましい」という目安は、竣工時に一度測って終わりにするのではなく、増改築のたびに測り直す運用まで含めて意味を持つ。
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