制御盤の増設工事が一段落したあと、敷地を一周してみたことがあるだろうか。裏の駐車場脇に一本、キュービクルの足元に一本、倉庫の外壁沿いにまた一本——増設のたびに「とりあえず接地棒を打っておけば安全だろう」と判断し続けた結果、いつのまにか敷地の際という際に緑色のアース線が這っている。担当者は苦笑いしながら言うものだ。「うちの敷地、接地棒の墓場になってますよ」。
冗談のような話だが、根は笑えない。棒が増えるたびに増えるのは緑の線の本数だけではない。掘削の手間、資材費、そして「この棒はどの機器のためのものか」を誰も正確に把握していない状態、という管理上の負債でもある。だから現場では早晩、こう考える人間が出てくる。「これ全部、1本にまとめられないのか」と。
その発想自体は、決して的外れではない。むしろ自然な発想だ。しかし、まとめてよい組み合わせと、まとめてはいけない組み合わせが存在する。そこを取り違えると、接地棒の本数を減らした代わりに、思わぬ危険な経路をつくってしまうことになる。
この記事でわかること
- 接地極をまとめたいという発想がなぜ現場で生まれるのか
- 連接接地・共用接地とは何か、両者の言葉の違い
- 種別によって共用の可否が分かれる理由(高圧側の異常電位が低圧側に及ぶ経路)
- A種とD種の共用が特に問題になりやすい理由
- 共用が認められる条件(接地抵抗値・離隔距離の実務上の目安)
- 独立接地との使い分けをどう考えるか
なお本記事は、接地の種類(A種〜D種)そのものの基礎解説は前提とする。A種・B種・C種・D種それぞれの対象機器と接地抵抗値の基準はアース(接地)工事の種類と施工方法にまとめてあるので、そちらを先に読んでおくと本記事の議論に入りやすい。
なぜ「1本にまとめたい」という発想が生まれるのか
理由は突き詰めれば2つに集約される。施工コストと、敷地スペースの制約だ。
接地棒を1本打ち込むには、掘削・埋設・接地抵抗の実測という一連の作業が発生する。設備を増設するたびにこの作業を繰り返していれば、当然コストはかさむ。加えて、都市部の工場やビルの機械室では、そもそも接地棒を新たに打ち込める土地の余白が残っていないことも珍しくない。既存の接地極に相乗りできるなら、それに越したことはない——この判断は、コスト意識としても現実的な制約への対応としても、理にかなっている。
問題は、その先だ。「相乗りできるなら、どの接地でも相乗りしてよい」と考えてしまうと、話が変わってくる。
連接接地・共用接地とは何か
複数の機器・回路の接地線を、1つの接地極(または一体化した接地系統)にまとめる方式には、大きく2つの呼び方がある。
共用接地は、複数の接地工事の接地線を、共通の1つの接地極に直接つなぐ方式を指す。連接接地は、個別に打設した複数の接地極それぞれの接地線を、連接線(接続用の導体)でつないで電気的に一体化する方式を指す。出発点が「もともと1つの接地極」か「もともと別々の接地極」かという違いはあるが、どちらも複数の接地系統を電気的に結びつけ、電位差を持たせないようにするという狙いは共通している。現場ではこの2つを厳密に区別せず、まとめて「共用接地」と呼ぶ場面も多い。
電気設備の技術基準の解釈は、異種の接地を分離することを一律に義務づけているわけではない。むしろ第18条では、建物の鉄骨や鉄筋コンクリートの鉄筋といった「工作物の金属体」を、複数種別の接地工事の接地極として共用してよいと定めている。つまり「接地はとにかく独立させておくのが正解」という単純な理解自体が、すでに一次資料とずれている。
ではなぜ、共用接地・連接接地という選択肢が存在するにもかかわらず、「何でもまとめてよい」わけではないのか。
種別によって共用の可否が分かれる理由——高圧側の異常が低圧側に届く経路
答えの中心にあるのは、地絡電流の桁の違いだ。
A種・B種接地は高圧・特別高圧側の設備、あるいは高低圧を変圧する変圧器の低圧側中性点に関わる接地であり、対象とする電流は高圧系統の地絡電流や、避雷器が受け止める雷サージ電流だ。これらは数百A、場合によってはそれ以上の桁になりうる。一方でC種・D種接地は300V以下の低圧機器の外箱に関わる接地で、想定しているのは低圧側の漏電程度の電流だ。
もし高圧側の接地極と低圧側の接地極を、抵抗値の検討なしに単純につないでしまうとどうなるか。高圧側で地絡や落雷が起きたとき、接地極の電位はその瞬間、地絡電流と接地抵抗の積の分だけ跳ね上がる。共用された接地系統は電気的に一体なのだから、この電位上昇は低圧側の機器の外箱にもそのまま伝わる。低圧機器のそばにいた作業者が外箱に触れていれば、本来は高圧側だけの出来事だったはずの電位上昇を、体を通して受けることになる。
「接地さえしてあれば安全」という直感は、ここで裏切られる。接地は電位をゼロに固定する魔法の装置ではない。電流が流れれば、接地抵抗の分だけ電位は必ず持ち上がる。共用接地の是非は、その持ち上がった電位が、共用している側の機器にとって危険な水準かどうかで決まる話であり、単純な良し悪しの二択ではない。
日本電気技術者協会の解説でも、複数の機器が接地母線を共用している場合、その母線上のどこかの機器内部で地絡が起きると、接触電圧(=地絡電流×接地抵抗)の分だけフレーム電位が上昇し、同じ母線につながる他の機器にも影響が及ぶ、という基本メカニズムが説明されている。これは低圧機器同士の共用でも起こりうる話であり、高圧・低圧をまたぐ共用ではなおさら影響の桁が変わってくる。
B種接地は、この点でとりわけ扱いに注意が要る種別とされる。実務解説の整理によれば、B種を他種別と安易に共用にした場合、変圧器高圧側の地絡電流が大地を介して減衰することなく、そのまま接地線を通って戻ってくる経路が生まれ、変圧器の容量で決まる短絡電流に近い、けた違いの電流が流れ込む危険性が指摘されている。だからこそB種は共用よりも単独設置が望ましいという見解が実務では一般的だ。
A種とD種の共用が特に問題になりやすい理由
A種(高圧機器の外箱・避雷器)とD種(300V以下の機器の外箱・コンセントのアース端子)は、要求される接地抵抗値の桁からしてすでに大きく離れている。A種は10Ω以下、D種は100Ω以下(漏電遮断器設置時は500Ω以下)。この差は、それぞれが想定している電流の大きさの違いをそのまま反映したものだ。
この2つを近接して埋設したり、抵抗値の検討なしに接続したりすると、実務解説では「地絡時に低圧機器の電位が上昇するケース」が設計上の典型的な失敗例として挙げられている。避雷器が受け止めた雷サージがA種接地極に流れ込んだ瞬間、その接地極の電位は一時的に大きく跳ね上がる。すぐそばのD種接地極が独立していれば0V付近にとどまっていられたはずのところ、両者が電気的に結ばれていれば、D種側の機器の外箱にもその跳ね上がった電位がそのまま伝わってしまう。
厄介なのは、こうした電位上昇が「配線を間違えた」という単純なミスではなく、正しく接地工事をした上でもなお起こりうる、という点だ。だからこそ設計段階での目安として、A種・B種の接地極とC種・D種の接地極は2m以上離隔するという実務上の基準が紹介されている。離隔が難しい狭小な敷地では、逆に離すのではなく、積極的に共用・連接して電位を意図的に均一化してしまう(等電位ボンディング)という設計判断が取られることもある。どちらを選ぶにせよ、「とりあえず近くにあるから」という理由だけで無検討に接続するのが、もっとも避けるべき進め方だ。
共用が認められる条件——接地抵抗値という共通のものさし
共用・連接を選ぶ場合、判断の軸になるのは接地抵抗値だ。実務解説でしばしば紹介される目安をいくつか挙げる。
- 総合接地抵抗値が10Ω以下であれば、A種・C種・D種は共用できるという整理が実務解説では一般的に紹介されている。B種は前述の理由から単独設置が望ましいとされる。
- 電技解釈第18条は、大地との間の電気抵抗値が2Ω以下を保っている建物の鉄骨その他の金属体を、複数種別の接地工事の共用の接地極として利用してよいと定めている。
- 内線規程では、漏電遮断器で保護される電路と保護されない電路の接地線・接地極は原則として共用しないという考え方が示されているが、2Ω以下という低抵抗の接地極を使用する場合はこの限りではないという整理が、資格試験対策サイトや実務解説を通じて公知の範囲で紹介されている(内線規程自体は非公開の有償規格のため、本記事では条文全文の引用はしない)。
数字だけを見ると「2Ω」「10Ω」という基準が独立して並んでいるようだが、共通しているのは「接地抵抗値を十分に低く抑えれば、地絡電流が流れ込んでも電位上昇そのものが小さく収まる」という一点だ。共用してよいかどうかは、種別の組み合わせという表面的なルールではなく、その組み合わせで実際にどれだけの電位差が生じうるかという実測ベースの話に、最終的には収斂する。
ここで挙げた数値は、複数の解説記事に共通して見られる実務上の目安であり、法令の条文そのものを一言一句引用したものではない。実際の現場では接地抵抗の実測値、建物構造(鉄骨・鉄筋コンクリートの導通状態)、接続される機器の絶縁強度によって判断が変わるため、共用の可否そのものは電気主任技術者、または電気保安協会等の外部委託先に必ず確認してほしい。
独立接地との使い分けの考え方
ここまでの話を踏まえると、独立接地を選ぶべき場面がどこにあるかが見えてくる。
- 高圧側と低圧側をまたぐ場合——A種・B種側の接地極と、C種・D種側の接地極を安易に共用・近接させると、電位上昇が低圧機器側に及ぶ経路になる。共用するのであれば、接地抵抗値を十分に低く抑えたうえでの意図的な等電位化として設計する。
- ノイズに弱い精密機器・計測機器——他の機器の地絡電流やノイズが接地線を伝って侵入すると誤動作の原因になる。この種の機器では、感電防止目的の接地(D種等)を省略してよいという意味ではなく、別系統として独立させる設計判断が取られることが多い。
- 漏電遮断器で保護される回路とされない回路が混在する場合——内線規程が示す「原則共用しない」という考え方の対象になる。2Ω以下の低抵抗接地極を用いるなど、条件を満たした上での共用にとどめる。
逆に言えば、「独立接地でなければ法令違反になる」という理解も、「共用すれば必ず危険になる」という理解も、どちらも一次資料の内容とずれている。電技解釈は共用を条件付きで認めており、条件を満たさない共用が危険なのだ。この境界線を、種別の名前だけで判断せず、接地抵抗の実測値と接続される機器の特性から判断する——それが実務における唯一の正確な進め方になる。
よくある質問
連接接地と共用接地は同じ意味ですか?
厳密には別の言葉です。共用接地は、複数の接地工事の接地線を1つの共通の接地極につなぐ方式を指します。連接接地は、個別に打設した複数の接地極それぞれの接地線を、連接線(接続用の導体)でつないで電気的に一体化する方式を指します。どちらも複数の接地を電気的に結びつけて等電位に近づける点は共通しており、現場では区別せず「まとめる」という意味でひとくくりに呼ばれることも多いですが、由来が違う言葉だと知っておくと資料を読むときに混乱しにくくなります。
A種とD種の接地を共用してよいか、誰に確認すればよいですか?
現場の判断だけで決めず、選任された電気主任技術者、または電気保安協会等の外部委託先に確認することをおすすめします。共用の可否は接地抵抗値の実測値、建物の構造(鉄骨・鉄筋コンクリートの導通状態)、接続される機器の絶縁強度や許容できる電位差によって変わり、一律の正解があるわけではありません。特に高圧受電設備を持つ施設では、電気設備の技術基準の解釈や内線規程の要件を踏まえた個別判断が必要です。
総合接地抵抗値が10Ω以下なら、どの種別でも共用できますか?
A種・C種・D種については、総合接地抵抗値が十分に低ければ共用できるという整理を示す解説記事は複数あります。ただしB種接地については、共用にすると変圧器の高圧側で発生した地絡電流が大地でほとんど減衰せず、変圧器容量で決まる短絡電流に近い大きな電流がそのまま接地線に流れ込む危険性が指摘されており、単独接地とするほうが望ましいという見解が実務解説では一般的です。数値基準は公表資料によって表現が異なることがあるため、最終判断は電気主任技術者への確認を前提にしてほしい。
独立接地とはどういう意味ですか、電技解釈が独立接地を義務づけているのですか?
独立接地とは、他の接地工事とは別に、その機器・回路専用の接地極を単独で施設する方式です。電技解釈は異なる種別の接地を分離することを一律には義務づけておらず、むしろ第18条では建物の鉄骨等を複数種別の共用の接地極として使うことを条件付きで認めています。独立接地が実務上選ばれるのは、法令上の義務というより、ノイズに弱い機器や高圧側の異常電位の影響を避けたい機器について、設計判断として選択されるケースが中心です。
接地棒同士を離して埋めれば、共用しなくても問題は起きませんか?
離隔距離を確保すること自体は有効な対策の1つですが、それだけで無条件に安全というわけではありません。実務解説では、A種・B種側の接地極とC種・D種側の接地極を2m以上離隔するという目安が紹介されていますが、離隔が難しい狭小地では、離すのではなく積極的に共用・連接して等電位化してしまうという設計判断が取られることもあります。どちらの方針を取るかは、敷地条件・接続機器の特性・接地抵抗の実測値を踏まえた個別判断であり、電気主任技術者への確認が前提になります。
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