制御盤の更新工事で、担当の工事士が胸を張ったことがある。既設のUTP通信ケーブルをすべてシールド付きのSTPケーブルに引き直し、しかも「アースは両方に落としたほうが安心だろう」と、盤の金属フレームと現場側の分電盤の両方にシールドを接続した。試運転を始めると、以前よりも通信エラーの発生頻度が上がった。シールドは確かに施した。接地も、むしろ丁寧すぎるほど施した。それでもノイズは消えるどころか増えている。
原因を追っていくと、この現場は「両端を接地すれば安心」という発想でシールド線を扱っていたことがわかった。シールド線の接地は、数多く落とせば落とすほど効くという単純な部材ではない。むしろ、どこか一箇所をわざと接地せず浮かせておく判断こそが、ノイズを防ぐ設計の核になっている場合がある。
シールドは何をしているのか——静電と電磁、二つの異なる仕事
ケーブルの心線を銅箔やアルミテープ、編組線で覆う——これがシールドの見た目上の作業だが、その覆いが防いでいるノイズの種類は一つではない。JMACS株式会社の技術資料は、しゃへい(シールド)を大きく二種類に分けている。
一つは静電しゃへい。静電誘導や不要輻射といった外来ノイズを防ぐもので、銅テープや銅線編組、AL/PETテープなどで構成される。もう一つは電磁しゃへい。動力線などが発する磁束によって信号線側に誘起される電圧を軽減するためのもので、磁性体である鉄テープと導電性の高い銅テープを重ねた構造を取る。
同じ「シールド付きケーブル」という呼び方をしていても、内部で防いでいる物理現象が違う。だとすれば、その効果を引き出す接地の作法も、当然同じにはならない。
片端接地の原理——なぜわざと「浮かせる」側を作るのか
静電しゃへいの接地方法について、JMACSの技術資料は明確に1点接地を原則としている。接地を施さなかったり両端接地にしたりすると、しゃへい効果が著しく減少したり、かえって誘導を拾ったりすると述べている。
理由は大地そのものの性質にある。大地には交流電源線などに起因するわずかな迷走電流が常に流れており、場所によって電位がわずかに異なる。シールドの両端をそれぞれ別の場所で接地すると、この地電位差がシールド層に電流を流し込む。この電流はシールドのすぐ内側を走る心線と磁気的に結合しているため、結果として心線側にノイズを誘起してしまう。
日立産機システムのPLC向けノイズ対策ガイド(NJI-296)も、同じ結論に立っている。同ガイドは「シールド被覆は入出力機器側を開放し、PLC側で接地する」処理を原則とし、通信ケーブルを両端接地にした場合に生じる問題を「グランドループ」として図解している。接地によってできたループに外部の磁束が交差すると、ループの面積に応じたノイズ電流が発生する——片端接地は、そもそもこのループを作らせない設計だと言い換えられる。
両端接地が必要になる場面——高周波・長距離配線で判断がひっくり返る
ここで話が終わるなら簡単だが、同じJMACSの資料は電磁しゃへいについて逆のことを言っている。「接地は、両端を確実に接地してください」。電磁シールドはシールド層自体に誘起電流を積極的に流し切ることで初めて磁束を打ち消す構造であり、片端しか接地しないと、開放端側に高い誘起電圧が残ってしまう。
矛盾ではない。「何のノイズを、どの程度の周波数域で防ぎたいか」によって答えが変わっているだけだ。低周波の静電結合ノイズには片端接地、動力線からの電磁誘導や高周波帯のノイズには両端接地——この原則は、配線が長くなるほど、また信号の周波数が高くなるほど、後者に傾いていく。片端接地のまま配線長を延ばすと、開放端側の誘起電圧が無視できない大きさに育つためだ。
ただし両端接地には資料も繰り返し釘を刺している。「両端接地を通じて大地ループを形成することになるため、地電位差をなくして電流が流れないようにする必要がある」。両端の接地点の間に電位差が残っている限り、両端接地は対策どころかノイズ源に変わる。だからこそ両端接地を選ぶときは、両方の接地点が実質的に同じ電位にあるか(等電位化されているか)を先に確認しておく必要がある。
もう一段深い理解——大地電位差は、なぜ「ノーマルモード」ではなく「コモンモード」で効いてくるのか
グラウンドループの説明で見落とされがちなのが、ここで生まれるノイズの現れ方だ。日立産機システムのガイドはノイズ電圧の現れ方を二つに分けている。ライン間(心線と心線の間)に発生するノーマルモードノイズと、ラインとグランドの間に発生するコモンモードノイズである。
両端接地によるグランドループ電流は、シールドと大地の間、つまり信号ラインとグランドの間に流れる。これは典型的なコモンモードの経路だ。厄介なのは、通信ケーブルの多くがノーマルモードノイズには強い(撚り対線が2本の心線に均等にノイズを乗せて打ち消し合う)設計になっている一方、コモンモード側の対策は接地の作法そのものに委ねられている点にある。撚り対線をどれだけ丁寧に施工しても、接地の設計を誤ってコモンモードノイズの経路を自分で作ってしまえば、線材側の対策は素通りされる。冒頭の制御盤がSTPケーブルに引き直してもエラーが減らなかったのは、線材のグレードではなく、接地という別の層でループを作っていたからだった。
現場でよくある間違い
- 両端を接地してループを作ってしまう:冒頭の事例そのものである。「片端より両端のほうが安全」という直感は、静電シールドの世界では逆に働く。接地箇所を増やす前に、そのケーブルがどちらのシールド原理で守られているかを確認する必要がある。
- シールドを浮かせたまま放置する:接地しなければシールドはただの導体として心線のそばに漂うだけになり、外来ノイズを遮蔽するどころか、それ自体がアンテナのように振る舞って新たなノイズ源になり得る。片端接地は「浮かせる」判断であって「接続しない」判断ではない。
- 意図せず両端がつながってしまう:片端接地のつもりで配線しても、コネクタの金属シェルが機器の金属筐体を介して接地されており、結果的に両端接地と同じ状態になっているケースがある。盤内の金属パネルやDINレールを通じた「隠れた導通」は見落としやすい。
- 静電シールドと電磁シールドを取り違えて施工する:ケーブルの構造を確認せずに、慣習だけで片端・両端を決めてしまうと、動力線近傍の電磁誘導対策として敷設したケーブルを片端接地にしてしまうような取り違えが起こる。
- 既設設備を延長・改修するときに、既存の接地方式を確認しない:片端接地で敷設されていたケーブルに、増設側だけ別の担当者が判断で接地を追加してしまうと、意図せず両端接地に変わる。改修工事では新設側だけでなく、既設側の接地状態を先に確認しておく必要がある。
接地する側の選び方——送信側か受信側か
片端接地と決まったとき、次に迷うのは「では、どちら側で接地するのか」である。日立のガイドは、入出力機器側を開放し、PLC側で接地する処理を図示している。一般化すれば、センサーや現場機器といった送信側は開放にし、制御盤やアンプなど受信側の機器で接地するのが定石だ。
これは単なる慣習ではない。三菱電機のFA向けFAQは、LG・FGの接地について「2mm²以上の電線を用い、50m以内で単独に接地する(D種接地、抵抗100Ω以下)」という具体的な基準を示している。この条件を満たす安定した接地点を用意しやすいのは、多くの場合、電源や接地設備が整った制御盤側であって、フィールドに置かれたセンサー側ではない。受信側で接地するという判断は、「接地抵抗を低く保てる場所で接地する」という、より根本的な原則の帰結でもある。
ケーブルの種類でも判断は変わる
一般的なアナログ信号線(4-20mA等)や単純な接点信号線は、片端接地の静電シールドで足りることが多い。オムロンが公開しているノイズ対策の考え方でも、抑制(Suppression)・遮蔽(Shield)・分離(Separate)の3原則のもとで信号が微弱な場合にシールド線の使用と接地対策を組み合わせることを勧めている。
一方、産業用イーサネットのような通信線は事情が違う。オムロンの通信ケーブルはアルミテープと編組線を重ねた二重遮蔽構造のSTPケーブルを採用しており、高速な信号を扱う分だけシールドへの要求水準も上がる。さらにサーボモータのエンコーダケーブルのように高周波域の信号を扱うケーブルでは、メーカーが取扱説明書上で両端接地を個別に指定していることがある。この場合は、ここまで述べてきた一般原則よりも、そのケーブル・機器の指定を優先する。静電シールド付きの制御ケーブル自体はCVVSなどとしてJIS C 3401にも規定があるが、規格が定めているのはケーブルの構造までであって、接地方法は最終的に機器メーカーの指定と現場の周波数条件で決まる。
| ケーブルの種類 | 一般的な接地の考え方 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| アナログ信号線(4-20mA等) | 片端接地(受信側) | 静電シールドで十分な低周波帯が中心 |
| 接点信号・計装用ツイストペア線 | 片端接地(受信側) | 撚り対線との併用が基本 |
| 産業用イーサネット・通信線 | 環境により両端接地も検討 | 二重遮蔽STPケーブル+確実な金属フレーム接地が前提 |
| サーボ・エンコーダケーブル | メーカー指定を優先 | 高周波帯を含むため両端接地の指定例がある |
この整理はあくまで一般的な傾向であり、現場ごとの等電位化の状況や機器メーカーの指定のほうが常に優先される。同じ通信線でも、建屋をまたいで両端の大地電位が大きくずれている環境では、両端接地よりも片端接地に戻したほうが安全な場合すらある。
冒頭の制御盤は、結局どちらの端でも同じように接地してしまったことで、静電シールドが本来防ぐはずだった外来ノイズの経路を、自らグランドループとして開通させていた。片端を切り離して開放にしただけで、通信エラーは元の頻度以下に収まった。シールドは「覆えば守られる」部材ではなく、「どこを閉じ、どこを開けるか」で初めて効果が決まる部材だということになる。
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