天井裏に上がって点検口からラックを覗くと、まず目に入るのは埃をかぶったケーブルの束ではなく、ラックそのものの反りだった。支持点と支持点のあいだで、明らかに下にたわんでいる。竣工図を確認すると、設置当初はこのラックに敷設されていたケーブルは数本だけだったらしい。今そこに載っているのは、その3倍近い本数だ。増設工事のたびに「まだ載る」と判断されて、ケーブルが足されていった結果である。
誰かが計算を間違えたわけではない。おそらく、誰も計算していなかっただけだ。
設置時は問題なかったラックが、なぜ後年にたわむのか
ケーブルラックの耐荷重が問題になる瞬間は、たいてい竣工検査のときではない。新設時のケーブル本数であれば、設計段階で幅・材質・支持間隔を一度そろえて計算しているため、まず余裕がある状態でスタートする。問題が起きるのはその先だ。
設備更新、増設、テナントの入れ替わり――工場でも事務所ビルでも、竣工後にケーブルが減ることはほとんどない。増える一方だ。しかも増設工事は、既存の設備を止めずに済ませたいという事情から、多くの場合「今あるラックに追加で載せられるか」という現場判断で進む。この判断は、たいてい「まだ物理的に隙間がある」という見た目の確認であって、「支持間隔ごとの許容荷重を再計算したか」という確認ではない。
積み重なった増設の履歴を1本ずつ遡って追跡している現場は、正直なところ多くはないだろう。竣工図に記載された初期の設計値は、10年後の増設分を織り込んではいない。ラックの耐荷重問題は、初日の設計ミスではなく、時間の経過とともに前提が崩れていく問題として現れる。
積載重量の計算——本数×単位重量だけでは終わらない
積載重量の基本的な考え方はシンプルだ。敷設するケーブル1本あたりの単位重量(kg/m)に本数を掛け、合計を出す。CVケーブルであれば太さ・芯数ごとにメーカー公表値があるので、そこから積み上げる。
ここまでは電卓一つで済む作業だが、実務でつまずくのは計算式ではなく、母数の把握のほうだ。「現在このラックに何本、何ミリのケーブルが載っているか」という現状把握そのものが、増設を繰り返した後のラックでは意外と曖昧になる。竣工図にはない配線、廃止予定だったが撤去されずに残っているケーブル、他部署が独自に引いた配線――これらを合算しないまま新しい重量だけを足しても、実際の積載重量とはずれた数字しか出てこない。計算式より先に、現物の本数を数え直す作業のほうが実は手間がかかる。
支持間隔(スパン)と耐荷重の関係——広げるほど、下がり方は緩やかではない
耐荷重を決めるもう一つの要素が、支持間隔(スパン)だ。吊りボルトとボルトのあいだの距離が長くなるほど、同じ幅・同じ材質のラックでも、1mあたりに載せられる重量は小さくなる。
数字で見ると、この下がり方は直感よりも急だ。ネグロス電工の技術資料には、SR-30という製品を支持間隔2.0mの単純な2点支持で使う場合、1mあたりの許容荷重は107kgになるという実例が示されている。この107kgという値自体が、支持点2ヵ所・ケーブルが均等に分布して載る条件での計算値・実験値であり、支持間隔を延ばせば延ばすほど、この数字はさらに小さくなっていく関係にある。
支持点を増やして連続的に支える構造(材料力学でいう連続はり)にすると、逆に許容荷重を割り増せる場合があることも、同じ資料は示している。6.0mの区間を2.0m間隔で4点支持した場合、両端に近い支間は基準の1.25倍にあたる134kg/m、中央の支間は1.66倍にあたる178kg/mまで許容荷重が上がる計算になる。とはいえ実際の設計では、同じ1本のケーブルが端から中央まで連続して通っているのだから、区間ごとに違う許容荷重を使い分けるわけにはいかない。低い方の数値、つまり134kg/mを、その区間全体の許容荷重として採用することになる。
支持間隔を「なんとなく広めに」取ってしまう判断が危ういのは、この非対称性のためだ。支持点を増やせば荷重の余裕は生まれるが、それは支持間隔を詰めて初めて得られる余裕であって、間隔を広げた上で得られる余裕ではない。
トレイの種類による強度の違い——はしご形・パンチング形・網状
ケーブルラック(ケーブルトレイ)には、大きく分けて3つの構造がある。
はしご形(ラダー形)は、側面のレール(親桁)と横桟(子桁)だけで構成される開放構造だ。ケーブル同士の隙間から空気が抜けるため放熱性に優れ、太径の電力ケーブルや幹線ルートなど、比較的重い荷重を扱う場面で標準的に使われる。
パンチング形(トレー形)は、底面が板状で、そこに通気用の穴(パンチング)が開いている構造だ。細径の制御ケーブルや通信ケーブルを整然と並べたい場面、機器直近の立ち上がりなど短い区間に向く。底が塞がっている分、はしご形に比べると同一条件での許容荷重は控えめに設計される傾向がある。
網状(ワイヤーメッシュ形)は、細いワイヤーを溶接した軽量な構造だ。現場での切断・曲げ加工がしやすく、障害物を避けながら敷設したい弱電・通信系の配線でよく使われる。軽さと引き換えに、はしご形ほどの重量物には向かない。
どの構造を選ぶかは、見た目の好みではなく、そこに何を何本載せるかで決まる。太い電力ケーブルの幹線を網状ラックに載せる、といった組み合わせは強度の観点から避けたい選び方だ。
材質による違い——鋼製・アルミ・ステンレス
材質選定は防食性能の話として語られがちだが、耐荷重の観点でも無視できない差がある。
公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)は、はしご形ケーブルラックの子げた(横桟)の間隔について、鋼製は300mm以下、アルミ製は250mm以下と定めている。同じ「はしご形」という構造でも、アルミ製の方がより密な間隔で横桟を入れることを前提にしているわけだ。同仕様書は水平方向の支持間隔についても、鋼製は2m以下、その他の材質は1.5m以下という区分を設けている。アルミは鋼に比べて軽く施工性に優れる一方、同じ支持間隔では鋼製ほどの強度を出しにくい材質だという前提が、この基準の背景にある。
温度による伸縮の違いも、材質選定に関わってくる。カナフジ電工の技術資料によれば、直線部のラックには一定間隔でエキスパンション(伸縮継手)を設ける必要があり、その間隔は鋼製で30mごと、アルミ製で15mごとが目安とされる。同資料が示す計算例では、鋼製ラック30mが温度差60℃にさらされた場合、伸びは21.6mmに達する。アルミはより伸縮が大きいため、鋼製の半分の間隔で継手を入れることになる。
腐食対策として使われる高耐食性めっき鋼板「スーパーダイマ」は、亜鉛を主成分にアルミニウム約11%・マグネシウム約3%・微量のシリコンを加えた合金めっきで、日本製鉄(旧・新日鉄住金)の発表によれば、耐食性は従来の溶融亜鉛めっき鋼板の約4倍に向上するとされている。屋外・塩害地域・水気のある環境では、標準品からこうした高耐食品への切り替えを検討する材質だ。ステンレス製はさらに耐食性を求められる環境向けの選択肢になるが、コストは相応に上がる。
たわみ・落下事故を防ぐための安全率の考え方
カタログに載っている許容荷重は、ラックが壊れる限界の重さではない。ネグロス電工の資料が明記している通り、これは両端支持・等分布荷重という一定の条件下での計算値・実験値であり、実務で安全に使うための基準として、あらかじめ余裕を織り込んだ数値だ。
だからといって、その余裕を使い切るところまで積載してよいわけではない。支持間隔と積載重量の組み合わせは、支持点ごとに条件がわずかに異なることも多く、カタログの前提条件(両端支持・等分布荷重)から外れた敷設になっているケースも少なくない。分岐部や曲がり部でケーブルが偏って束ねられている、支持点の一部だけ間隔が広がっている、といった状態は、許容荷重表がそのまま当てはまらない実例だ。
たわみは、多くの場合いきなり破断には至らず、まず「見た目にたわむ」という形で兆候を見せる。逆に言えば、点検でたわみが確認できた時点というのは、まだ手を打てる段階であることが多い。たわみを放置したまま増設を重ねる方が、静かに危険な状態に近づいていく。
増設のたびに、再計算する
冒頭のラックに戻ろう。あのたわみは、ある日突然生まれたものではない。増設のたびに「まだ載る」という現場判断が積み重なった結果、気づいたときには支持間隔に対する許容荷重の前提が崩れていた、というだけのことだ。
竣工時の設計値は、その時点のケーブル本数に対する答えでしかない。設備は使われ続ける限り増設され、増設は再計算を求める。この当たり前の関係を、日々の工事の忙しさの中でどれだけ律儀に守れるかが、天井裏で静かに進行するこの手の問題を防げるかどうかの分かれ目になる。
ケーブルラックの選定・増設時の耐荷重確認は、敷設予定のケーブル情報と支持間隔が分かれば具体的な検討に入れます。
よくある質問
ケーブルラックの耐荷重はどこを見れば分かりますか?
メーカーカタログに載っている「許容荷重表」を確認します。ただしこの数値は、支点が2ヵ所だけの単純な支持(両端支持)で、ケーブルが均等に分布して載っている状態(等分布荷重)を前提にした計算値・実験値です。実際の現場のように支持点が3ヵ所以上ある「連続はり」の状態では、条件によって許容荷重を割り増せる場合がありますが、まずはカタログ記載の基本値で安全側に確認するのが実務的です。
支持間隔(スパン)を広げると、耐荷重はどのくらい下がりますか?
支持間隔が長くなるほど、同じ幅のラックでも許容荷重(1mあたりに載せられる重さ)は小さくなります。ネグロス電工の技術資料には、SR-30という製品で支持間隔2.0mのとき1mあたり107kgという例が示されています。支持間隔を管理せずに広げてしまうと、この数値がどこまで下がるかが分からないまま使い続けることになるため、支持間隔はカタログの前提条件とセットで確認する必要があります。
アルミ製のケーブルラックは鋼製よりどのくらい弱いのですか?
公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)では、はしご形ケーブルラックの子げた(横桟)の間隔を鋼製300mm以下・アルミ製250mm以下と定めており、アルミ製の方がより密な間隔での支持を求められています。水平方向の支持間隔についても、鋼製は2m以下、その他の材質(アルミ等)は1.5m以下という区分があり、軽量な分だけ支持を密にする必要がある材質だと理解しておくとよいでしょう。
増設のたびに再計算は本当に必要ですか?
はい。ラックの許容荷重は「その時点で載っているケーブルの重さ」に対して評価されるものであり、設置時に計算した数値は、その後の増設分を含んでいません。竣工時点で余裕があっても、数年かけて分岐回路が追加されケーブルが継ぎ足されていくと、いつの間にか許容荷重に近づいている、あるいは超えているという状態になり得ます。増設工事の際は、既設分と追加分を合算した重量を、支持間隔と照らして再確認することをお勧めします。
ケーブルラックの選定・耐荷重の相談はどこに依頼できますか?
電設資材専門商社の松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)で、ケーブルラックの選定・お見積りに対応しています。敷設予定のケーブルの種類・サイズ・本数と、支持間隔(吊りボルトのピッチ)が分かれば、幅・材質・支持金具まで含めた候補をご提案しますので、見積フォームからお問い合わせください。
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