同じ会社の中でも、盤を作った図面担当者が違うだけで配色がまるで違う——そんな盤を何度も見てきた盤屋は少なくないはずだ。ある担当者は直流回路を律儀に青でまとめ、別の担当者は同じ会社の同じ仕様のはずなのに赤で通していた。三代目の担当者に至っては非常停止回路だけ独自に黄色を使う癖があり、後任者が改修に入るたびに「これは誰が組んだ盤か」を配線の色だけで言い当てられたという。規格書を開けば黒・赤・青・だいだいという推奨色がちゃんと載っている。それでも現場の盤を開けると、配色は驚くほど個人差・会社差が大きい。なぜこんなことが起きるのか、その理由を掘り下げていくと、日本の制御盤配線色が抱える構造的なあいまいさが見えてくる。
なお本記事は電線の被覆自体の国際色規格(JIS配色とIEC配色の違い)を扱う電線の色分けガイドとは切り口が異なる。あちらは「電線メーカーが被覆にどの色を使うか」という国全体の規格比較であり、本記事は「制御盤メーカー・設計現場が盤の中でどう色を使い分けているか」という実務慣習にフォーカスする。
なぜ盤内配線にも色分けが要るのか
制御盤の中には、主回路(動力)、交流制御回路、直流制御回路、接地線など、電圧も役割もまったく異なる電線が数十本から数百本という単位で密集している。作業者がテスタを当てる前に「この線に触れて安全か」「これはどの系統の線か」を大まかに見当づけるための最初の手がかりが、電線の色だ。色分けが崩れていると、保守・改修のたびにすべての電線を1本ずつ端子番号でたどる羽目になり、作業時間もヒューマンエラーのリスクも跳ね上がる。
JIS B 9960-1が示す推奨配色
産業機械の電気装置に関する規格であるJIS B 9960-1(国際規格IEC 60204-1に整合)には、箇条13.2「導体の識別」として、盤内配線の識別色に関する記載がある。国内で広く紹介されている内容を整理すると、次のような対応になる。
| 色 | 用途 |
|---|---|
| 黒 | 交流または直流の主回路(動力回路) |
| 赤 | 交流制御回路 |
| 青 | 直流制御回路 |
| だいだい | 主開閉器を切っても通電し続ける例外回路(外部電源から供給される回路等) |
| 緑または緑/黄 | 保護接地導体(PE) |
(出典:JIS B 9960-1:2019 箇条13.2、電気設備ナビ「制御盤の配線の色について解説」)
ここで押さえておきたいのは、この表がJISという「任意規格」の推奨事項にすぎないという点だ。JISマークが必要な計量器や一部の建材と違い、この配色に従わなかったからといって法令違反になるわけではない。実際、電気設備ナビの解説では「JISは規格であって法令ではないため」交流制御回路を赤ではなく青に、直流制御回路を青ではなく赤に割り当てている会社もある、と指摘されている。船舶用電気艤装品を手がける光電機製作所の解説記事でも、施設ごとに「R相=赤・S相=白・T相=青、直流=黄、交流=青」というパターンと、「主電路=黒、直流=青、交流=赤」というまったく別のパターンが併存している実例が紹介されており、共通しているのは「アース=緑」くらいだという。つまり、盤内配線の色分けは、電線被覆の国際規格ほど「対立する二大陣営」がはっきり分かれているわけではなく、そもそも会社ごと・客先ごとに独自ルールが林立している状態に近い。
「赤」の意味が逆転する瞬間——新旧配色の混在
もうひとつ見落とされがちなのが、「赤」という色が背負ってきた意味そのものの変化だ。FA・電気制御の技術ノートの解説によれば、古い設備や一部メーカーの独自慣習では「赤=DC24Vのプラス側、黒=0V(GND)」という組み合わせが長く使われてきた。ところが前述のJIS準拠の配色では「赤=交流制御回路、青=直流制御回路」であり、赤の意味がほぼ正反対になる。同じ記事では、センサーの配線でも似た混乱が起きると指摘されている。古いセンサーでは黒線がマイナス(0V)を意味していたのに対し、現行の多くのセンサーでは黒線が出力信号を意味するという変化があり、「黒=マイナスだろう」という古い感覚のまま新しいセンサーの黒線を電源のマイナス端子につなぐと、短絡事故につながりかねない。新旧の配色や機器世代が入り混じる改修現場では、色から得られる情報を鵜呑みにせず、まずテスタで電圧の種類(交流か直流か)と有無を確認する——この一手間を惜しまないことが、事故を防ぐ最後の砦になる。
だいだい色が意味する「切っても消えない電気」
JIS推奨配色の中で、地味だが安全上もっとも重い意味を持つのが「だいだい(オレンジ)」だ。JIS B 9960-1では、主開閉器(メインブレーカー)を切った状態でも通電し続ける例外回路にだいだい色を割り当てることが推奨されている。盤内の照明回路や、外部から常時給電されているCPUのバックアップ電源などが典型例だ。「主幹ブレーカーを落としたのだから、盤の中は全部無電圧のはずだ」という思い込みほど危険な瞬間はない。だいだい色の電線が使われている盤では、その色自体が「私はメインスイッチの管理下にありません」という無言のサインを発していると考えて、個別に電圧確認をする習慣をつけておきたい。
非常停止は「赤」——でもそれは配線の話ではない
非常停止まわりの配線が赤いことが多いのも実務でよく語られる話だが、ここには混同しやすい落とし穴がある。JIS B 9960-1では、非常停止のアクチュエータ(押しボタンそのもの)の色に関する規定は箇条10.7「非常停止機器」に、盤内配線の識別色に関する規定は箇条13.2「導体の識別」に、それぞれ別の条項として存在する。つまり「非常停止ボタンは赤」という規定と「配線が赤」という現象は、根っこが同じ条項から来ているわけではない。非常停止回路の多くが交流制御回路として構成されるため、結果的に赤=交流制御回路という推奨配色と重なって見えているに過ぎない、という理解が実態に近い。ボタンの色規定と配線の色規定を同じルールだと思い込んでいると、非常停止まわりの改修時に思わぬ勘違いをすることがある。
接地線と多心ケーブルの色順——比較的まとまっている領域
数少ない「業界でおおむね一致している」色分けが接地線だ。前述のとおり、緑または緑/黄という組み合わせは、JIS推奨配色でも現場の慣習でもほぼ共通して使われている。
また、複数の心線が1本の被覆にまとまった多心ケーブルやコードについては、「小さなバン屋(盤屋)」のnote記事で紹介されている「黒・白・赤・緑・黄・茶・青・灰・橙・空色・桃・若草」という色の並び順が、現場で目安として語られている。同記事では三相モータの端子についても「E(アース)=緑、U=赤、V=白、W=黒」という対応が紹介されており、ブレーキ付きモータではさらに黄・茶・青が追加されるという。ただしこれらはあくまで現場の実務知識として語られているものであり、全国一律の強制規格として断定できるものではない点には留意しておきたい。
現場での実務対応チェックリスト
- 色より記号・端子番号を優先する:結線図の線番号やIEC/JISの機能識別記号を最優先の判断材料にし、色は最初の当たりをつける補助情報として扱う。
- 新規制作時は配色ルールを最初に文書化する:客先仕様がなければJIS B 9960-1の推奨配色をベースにするなど、盤ごとに配色方針を決めて図面に明記し、担当者間で属人化させない。
- 改修時は既存の配色を必ず確認してから合わせる:既存盤に新しい配線を追加する際、新JIS配色を持ち込むと盤内で配色ルールが二重化する。既存の配色に合わせるか、全面的に配色を統一し直すかを事前に判断する。
- だいだい色・赤色の電線は特に慎重に扱う:主開閉器を切っても生きている可能性がある電線、電圧種別の思い込みが逆転しやすい電線として、必ず個別にテスタで確認する。
- 多心ケーブルの色順は現物の凡例で確認する:メーカー・年代によって色の並びが微妙に異なることがあるため、ケーブル仕様書やメーカーカタログの色順表を必ず参照する。
まとめ
制御盤内配線の色分けは、電線被覆の国際規格と違って「日本方式か海外方式か」という二項対立ではなく、JIS B 9960-1という推奨規格の上に、会社・客先ごとの独自ルールが幾重にも積み重なってできている領域だ。だからこそ、色そのものを「絶対の真実」として過信することが一番危ない。色は最初の当たりをつけるための道具であり、最終判断は結線図の記号とテスタによる実測に委ねる——この原則を徹底することが、新旧の配色や会社ごとの慣習が入り混じる制御盤の世界で事故を防ぐ最も確実な方法だ。
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