短絡事故が起きた盤を、あとで開けたことがある人なら分かる感覚だと思う。ブレーカーはちゃんと切れていた。ハンドルはトリップ位置で止まり、動作した形跡もはっきりしている。ところが、その先の端子台やバスバーを見ると、絶縁物が変色し、被覆の一部が溶けたように垂れている。ブレーカーは仕事をしたはずだ。それなのに、なぜここまで焼けたのか。
この違和感の答えは、「ブレーカーが切れる」という一言の中に、実はかなりの時間の幅が隠れているという事実にある。電流を検知してから、接点が完全に開き切るまでの間、短絡電流はただ待っていてくれるわけではない。むしろその「間」にこそ、盤を焼く本当のエネルギーが流れている。
ブレーカーは「切れた後」に電流を止める――通常の遮断器の動作
配線用遮断器は、開閉機構部・消弧装置・引き外し装置・接触子を絶縁物のモールドケースに収めた保護機器である。過電流を検知してトリップさせる方式には、主に熱動式と電磁式の組み合わせがある(日本電気技術者協会・JEEAの解説による)。
過負荷のようなじわじわとした電流増加には、バイメタルがジュール熱でわん曲し、トリップレバーとフックの係合を外す熱動引き外しが働く。これは時間をかけて動作する「反限時特性」であり、電流が大きいほど早く、電流が小さいほどゆっくり動く。一方、短絡のように非常に大きな電流が瞬間的に流れた場合は、電磁石の可動鉄心が固定鉄心側に吸引され、フックの係合を外す瞬時引き外しが働く。「瞬時」という名前がついてはいるが、これは「意図的な時間遅れを設けない」という意味であって、動作そのものが無時間で終わるという意味ではない。
フックが外れたあと、実際に接点が物理的に開ききり、発生したアークをグリッド(消弧装置)が引き伸ばして冷却し、電流が完全にゼロになるまでには、なお一定の機械的な時間が必要になる。この間、短絡電流は交流波形にある種の直流分が重なった非対称波形として急激に立ち上がり続けており、遮断が完了するより先にほぼそのピーク値に達してしまうことがある。つまり通常の配線用遮断器は、「電流を検知し、機構が動き、接点が開き切ってから、ようやく電流をゼロにする」という順番で動く機器であり、接点が開ききるまでの間に流れる電流そのものを積極的に抑え込む機構は、標準的には備えていない。
限流遮断器とは何か――ピークに達する「前」に踏み込む発想
限流遮断器は、この時間の隙間そのものに手を入れる遮断器である。富士電機機器制御は限流遮断器を「規約短絡電流の最大値に達する前に、短絡電流を制御して遮断するブレーカ」と定義している。Panasonicも同様に、高速・高限流遮断を「熱動式のブレーカに比べ数倍早く(高速)、しかも大電流を小さく抑えて(限流)、遮断するブレーカの動作特性」と説明する。
言葉を額面通りに受け取ると、「人より足の速いブレーカー」程度の理解で終わってしまいかねない。しかし核心はそこではない。通常の瞬時引き外しが「トリップの判断を速くする」仕組みであるのに対し、限流遮断器は「電流という現象そのものを、ピークに届く前に頭打ちにする」仕組みだという点が違う。前者はあくまで機構の反応速度の話であり、後者は電流の物理現象そのものへの介入である。ブレーカーは切れた後に電流を止めるものだ、という直感的な理解に対して、限流遮断器は切れている最中に電流そのものを抑え込む――同じ「遮断」という言葉の中に、実は逆向きの時間軸が同居している。
限流効果の仕組み――電磁反発とアーク電圧
この「切れている最中の抑え込み」は、二段階の物理現象で成り立っている。
一段階目は、電流が作る力そのものによる接点の強制的な開離だ。限流遮断器の可動接触子まわりは、電流が互いに反対方向に流れる導体が並行に配置された構造になっている。短絡電流のような大電流がこの並行導体に流れると、電磁反発力(電流の向きが逆な導体同士が反発し合う力)が発生し、通常の過電流引き外し装置の動作を待たずに、この反発力だけで接点が直接開き始める。引き外し機構がフックを外し、バネの力で接点を押し開くという通常の経路とは別に、電流そのものの物理的な力で接点が飛び開くという、もう一つの経路が用意されているわけだ。
二段階目は、開き始めた接点の間に生じるアークが果たす役割である。富士電機機器制御はアーク電圧を「アーク時間中に、遮断器やヒューズの端子間に発生する電圧の瞬時値」と定義している。接点が離れ始めると、その隙間にアークが立つ。アークは消弧装置のグリッドへ引き伸ばされ、いくつもの短いアークに分割されながら、全体としてのアーク電圧を急激に押し上げていく。この押し上げられたアーク電圧が、電源電圧と回路のインピーダンスによる電圧降下の合計を上回った瞬間、電流を増やそうとする力よりもアークが電流を妨げようとする力のほうが大きくなり、まだ立ち上がり切っていない短絡電流の伸びがそこで頭打ちになる。ピークに届く前に、電流の増加そのものが押し戻される――これが限流効果の正体であり、接点が完全に開き切って初めて電流が止まる通常の遮断器との、時間軸上の決定的な違いになっている。
通常の配線用遮断器との構造上の違い
通常の配線用遮断器の接触子は、引き外し機構がフックを外し、バネの力で押し開かれるのを待つ、いわば受け身の構造だ。電流の大きさそのものが接点を直接動かすことは想定されていない。
これに対して限流遮断器は、電流が大きくなるほど強く働く電磁反発力を、接点を開くための駆動力として積極的に利用する構造を持つ。並行導体による反発機構に加え、生じたアークを効率よく分割・冷却してアーク電圧を高めるための消弧装置の設計、そして瞬間的に発生する大きな電磁反発力に耐えられる接触子・機構部の強度が求められる。同じ「配線用遮断器」という名前の製品でも、内部で起きている力学的なやり取りは別物に近い。限流形として販売されている製品が、UL認証などで通常品とは異なる区分(Current Limiting type)として扱われているのも、この構造上の違いが評価対象になっているためだ。
限流遮断器が必要とされる場面――短絡電流の大きい設備
限流遮断器が力を発揮するのは、想定される短絡電流(規約短絡電流)がもともと大きい設置点である。短絡電流の大きさは、その地点までの配線・変圧器のインピーダンスで決まる。変圧器や受電点に近づくほどインピーダンスは小さくなり、万一の短絡事故で流れる電流は大きくなる。逆に、配線が長く延びた末端の分岐回路ではインピーダンスが大きいぶん、短絡電流は相対的に小さい。工場やビルの受電盤・主幹まわり、変電設備や自家発電設備が近接する系統など、配電系統の上流側ほど、限流遮断器が検討される場面は増える。
もう一つの側面が、保護協調の中での役割だ。三菱電機FAは、下位の遮断器の遮断容量を超える短絡電流が発生した場合に上位の遮断器が支援動作するカスケード遮断方式、および下位の保護装置の遮断電流が不足する場合に上位の十分な遮断電流を持つ保護装置で安全に遮断する後備保護方式を紹介したうえで、限流遮断器は「短絡電流遮断の際の通過電流が小さく、遮断時間が短いことから」、カスケード遮断のバックアップ遮断器として、また選択遮断を行う場合の下位遮断器として優れた性能を発揮すると説明している。短絡電流の大きい上流側の一台を限流形に置き換えることで、系統全体の保護レベルを底上げできる、という考え方だ。
定格遮断容量と限流特性の関係
ここで整理しておきたいのが、定格遮断容量と限流特性という、似ているようで役割の異なる二つの数値だ。
三菱電機FAによれば、遮断容量とは「規定に定められた条件の下で遮断(接点OFF)できる電流値」であり、代表的な定格として定格限界遮断容量Icu・定格使用遮断容量Icsがある。Icuは「開放(O)-3分以上の間隔-投入後開放(CO)」という試験責務で規定される値で、通常の選定で使う基準値にあたる。Icsはこれにさらに「3分以上の間隔-CO」を重ねた、より厳しい試験責務で規定される値だ。つまり定格遮断容量は、「この遮断器が壊れずに安全に遮断しきれる短絡電流の上限」を示す数値である。
一方、限流特性が示すのは別の情報だ。限流遮断器がどれだけ強く電流のピークを頭打ちにできるかという性能であり、遮断の最中に下流の機器(電線・バスバー・下位のブレーカーなど)へ実際に流れ込む電流やエネルギーの大きさを左右する。定格遮断容量が「壊れないための余裕」だとすれば、限流特性は「下流を守れる度合い」を示す数値であり、同じAT・AF・同程度のIcuを持つ製品同士でも、限流特性が大きく異なれば、短絡事故時に下流の配線や機器が受けるダメージには差が出る。定格遮断容量の数値だけを見て「同等品」と判断すると、この限流特性の差を見落とすことになる。
選定時の注意点
限流遮断器を選ぶ、あるいは既設のブレーカーを限流遮断器へ更新する際に確認すべき点を整理する。
- 設置点の短絡電流(規約短絡電流)を実際に計算・確認する:パーセントインピーダンス法などで算出するか、上位の電力会社・設備管理者から数値を確認したうえで、それを上回る定格遮断容量(Icu)を持つ品種を選ぶ。限流形かどうかにかかわらず、この確認手順自体は省略できない。
- AT・AFの一致だけで「同等品」と判断しない:既設更新では、トリップ電流(AT)とフレームサイズ(AF)がそろっていても、定格遮断容量(Icu・Ics)と限流特性(通過電流特性)まで旧型と同等以上であることをカタログで個別に確認する。古い機種は銘板にIcu・Icsの表記がないこともあり、その場合はメーカーの選定窓口や電材の専門商社に既設写真を送って照合してもらうのが確実だ。
- カスケード遮断・選択遮断で使う場合は組み合わせを個別に確認する:限流遮断器をバックアップ遮断器や下位遮断器として使う構成は、メーカーが公開する組み合わせ表・選定表で適合が確認された組み合わせに基づいて選定する。異なるメーカー・シリーズを組み合わせる場合や、組み合わせ表に記載のない構成では、想定した保護協調が成立しない可能性がある。
- 繰り返しの遮断が想定される箇所ではIcsも確認する:主幹まわりなど、短絡遮断後も継続使用が前提となる箇所では、通常の選定基準であるIcuに加えて、より厳しい試験責務で規定されるIcsの値も確認しておくと安心できる。
短絡電流の大きさも、限流特性の要否も、盤の設置環境や配電系統の構成によって変わる。カタログの数値だけで判断がつかない場合は、既設の銘板情報や単線結線図をもとに、メーカーまたは電材の専門商社へ相談したほうが早い。
よくある質問
限流遮断器と普通の配線用遮断器(瞬時引き外し)は何が違うのですか?
瞬時引き外しは、短絡電流のような大電流に対して意図的な遅延をかけずにトリップさせる動作特性のことで、通常の配線用遮断器にも備わっている機能である。ただし瞬時引き外しであっても、電磁石が引き外し機構を作動させてから接点が実際に開き切るまでには物理的な時間がかかり、その間も短絡電流は増え続ける。限流遮断器は、この機構の動作を待たずに、短絡電流そのものを規約短絡電流の最大値(ピーク値)に達する前に抑え込みながら遮断する点が異なる。「切ってから電流を止める」通常品に対し、限流遮断器は「切っている最中に電流を抑え込む」という時間軸の発想の違いがある。
限流遮断器はどんな場所に必要ですか?
変圧器や受電点に近い主幹・母線など、短絡電流(想定事故電流)が大きくなる設置点で必要とされることが多い。短絡電流の大きさは、その地点までの配線・変圧器のインピーダンスで決まり、電源に近づくほどインピーダンスが小さくなって短絡電流は大きくなる。逆に末端の分岐回路は配線が長くインピーダンスが大きいぶん、短絡電流は相対的に小さいため、限流形でない一般の配線用遮断器でも定格遮断容量の範囲内に収まるケースが多い。
限流遮断器なら定格遮断容量(kA)は気にしなくてよいですか?
いいえ、逆である。定格遮断容量(Icu・Ics)は、限流遮断器であっても必ず設置点の短絡電流を上回っている必要がある。限流特性は、遮断中に下流の機器へ実際に流れ込む電流(通過電流・エネルギー)を抑える性能であり、遮断器自身が安全に遮断できる限界値そのものを引き上げるものではない。両方の数値を別々に確認する必要がある。
限流遮断器はカスケード遮断・選択遮断とどう関係しますか?
限流遮断器は、短絡電流遮断時の通過電流が小さく遮断時間が短いという特性から、上位遮断器が下位遮断器を助けて遮断するカスケード遮断方式のバックアップ遮断器や、選択遮断を行う際の下位遮断器として優れた性能を発揮するとされている。ただし組み合わせて使う遮断器同士の適合性は、メーカーが公開する組み合わせ表・選定表で個別に確認する必要がある。
既設の配線用遮断器を限流遮断器に更新する際の注意点は?
AT(トリップ電流)・AF(フレームサイズ)・極数が一致していても、定格遮断容量(Icu・Ics)と限流特性(通過電流特性)まで旧型と同等以上であることを個別にカタログで確認する必要がある。特に古い設備では銘板に遮断容量やIcu・Icsの表記がない機種もあるため、メーカーの選定窓口や電材の専門商社に既設写真・銘板情報を送って照合してもらうのが確実である。
冒頭の盤に話を戻すと、あのとき焼けたのは、ブレーカーが仕事を怠ったからではない。仕事のやり方が、その現場に必要だったやり方と違っていただけだ。電流を検知してから接点が開き切るまでの「間」にどれだけの電流を通してしまうかは、遮断器の種類によってまったく違う。短絡電流の大きい設置点ほど、その「間」の長さが致命傷になり得る。だからこそ、ブレーカーを選ぶときは、切れるかどうかだけでなく、切れている最中に何をしてくれる機器なのかまで見ておく必要がある。
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