インバータ二次側の漏電遮断器が誤動作する理由がわかり、いよいよ交換の見積を取ろうとした担当者が、次に部品表の前で立ち止まる場面がある。同じフレーム、同じ定格電流、同じ極数の並びに、見慣れない選択肢が2つ並んでいるからだ。「一般形」と「高調波対応形」。価格は後者のほうがいくらか高い。
「高調波対応形」という名前から、担当者はある推測を組み立てる。インバータの高周波な漏れ電流に反応しにくくしてある製品だとすれば、それはつまり感度を落とした、多少のことでは反応しない鈍い製品なのではないか。だとすれば、いざ本物の地絡事故が起きたときに検知が遅れる製品を選ぶことにならないか——そう考えて、結局どちらを発注すべきか決めきれないまま、見積の入力欄で手が止まる。
この推測は、半分だけ当たっていて、半分は的を外している。
一般形の検出回路には「周波数を見分ける目」がない
漏電遮断器は、電路の行きと帰りの電流を零相変流器(ZCT)にまとめて通し、その差分を検出することで漏電の有無を判断している。一般形の検出回路は、この差分電流の大きさを感度電流の設定値とほぼそのまま比較する構造だ。差分電流が電源周波数(50Hzまたは60Hz)による本物の地絡電流であっても、インバータのPWMスイッチングに由来する高周波成分であっても、検出回路にとってはただの「差」でしかない。しきい値を超えれば、遮断器は規定どおりに動作するだけだ。この検出回路の仕組みと、インバータの対地静電容量が高周波の漏れ電流を生み出すメカニズムについては、前稿「インバータ二次側で漏電遮断器が誤動作する理由」で扱っているので、詳しくはそちらに譲る。ここで確認しておきたいのは、一般形の検出回路には、電源周波数の地絡電流と高周波の漏れ電流を区別する能力がそもそも備わっていない、という一点だ。
高調波対応形は「フィルタを一段挟む」ことで判定対象を絞り込む
高調波対応形の漏電遮断器は、この検出回路に手を加えた製品だ。三菱電機FAのFAQは、高調波・サージ対応形の仕組みについて、漏電検出電子回路の中にアクティブフィルタを設け、「基本周波数分の微小な漏電検出信号を減衰させることなく、重畳された高調波を除去」する構造だと説明している。つまり、ZCTが検出した差分電流のうち、電源周波数以外の高周波成分をあらかじめフィルタで取り除いてから、残った電源周波数成分だけを感度電流と比較する。加えて同FAQは、独自のDPDCサージ判別回路により、開閉サージや誘導雷サージ、あるいは対地間のサージアブソーバへの漏洩電流による不要動作も防いでいるとしている。
富士電機のFAQも同様の設計思想を示している。同社のG-TWINシリーズ漏電遮断器は、1983年7月以降の生産品から標準品としてインバータ等による高調波漏電電流に対する不要動作対策を施した「漏電検出周波数特性」を持たせているという。特定の周波数帯に対する感度を意図的に作り込むことで、インバータの高調波成分による誤検出を避けながら、実際の漏電には確実に反応する設計になっている。
パナソニックの製品史を見ると、この対策はもはや例外的な上位機種の話ではないこともわかる。同社のFAQは、インバータ機器の普及に伴い漏電ブレーカが誤動作する事例を受けて1992年にJIS規格が改訂され、高調波ノイズが混ざった電流でも誤動作しないことが規定されたと説明したうえで、「1992年1月1日以降の生産分から、すべて高調波対応形となっております」と回答している。つまり同社の現行品は、型番上「高調波対応形」と明記されていなくても、実質的にこの対策が標準搭載されている状態にある。一方で三菱電機のFAQでは一般形と高調波・サージ対応形が別の型番として案内されており、対応状況はメーカー・シリーズによって扱いが異なる。現物のカタログで確認する以外に近道はない。
「感度が低い」のではなく「見る対象が違う」
ここで、冒頭の担当者が抱いた不安に戻る。高調波対応形は、感度電流の設定値そのものを一般形より甘くした製品なのだろうか。
三菱電機FAのFAQを見る限り、そうではない。同社は高感度形漏電遮断器を「定格感度電流が30mA以下の漏電遮断器」と定義しており、この分類は一般形・高調波対応形という区分とは独立した、別の軸として存在している。高調波対応形であっても定格感度電流30mA以下の高感度形は成立し得るということであり、「高調波対応形だから鈍い」という前提そのものが、この定義とかみ合わない。
変わっているのは、感度電流のしきい値の高さではなく、そのしきい値と比較する電流に何を含めるかという判定対象の絞り込み方だ。一般形は、ZCTが検出した差分電流をほぼそのまま比較対象にする。高調波対応形は、アクティブフィルタで高周波成分を除去したあとの、電源周波数成分だけを比較対象にする。同じ「30mA」という数字であっても、一般形にとっての30mAには高調波成分が混ざり込む余地があり、高調波対応形にとっての30mAは、より地絡電流そのものに近い数字になる。感度を落として鈍くしているのではなく、判定に使う情報の質を上げている、というほうが実態に近い。
どのような設備に適用すべきか
三菱電機FAのFAQは、インバータ回路に漏電遮断器を使用する際の選定方法として、定格電流はインバータの負荷電流に対して1.4倍以上の裕度を持たせること、高調波・サージ対応形を選ぶ場合は実測または算出した漏洩電流値に対して定格感度電流を10倍以上の余裕をとって選定することを示している。あわせて、漏電遮断器はインバータの一次側(電源側)に設置するのが原則で、二次側への設置は推奨していない。
富士電機のFAQも、電動機保護用のブレーカは直入始動を前提に定格が決められているためインバータ回路には使用できないとしたうえで、ブレーカが担うのはインバータの主回路電源端子までの保護であり、インバータの正常運転時に不要動作しないことをあわせて考慮する必要があるとしている。整流器を内蔵する機器やインバータを含む回路は、いずれも高調波成分を発生させる側の設備であり、これらの一次側に置く漏電遮断器は、まず高調波対応形を検討対象に入れるべき設備だといえる。
一般形のまま使い続けたときに起きる、両方向のリスク
インバータ設備の一次側に一般形の漏電遮断器を使い続けると、高調波成分が検出電流に上乗せされる分だけ、感度電流のしきい値に届きやすくなる。頻繁なトリップが起きれば、そのたびにラインは止まり、原因調査と復旧のために人手と時間が割かれる。これは前稿で扱った現象そのものであり、対策を先送りにするほど、同じ手当てを何度も繰り返すことになる。
一方で、頻発するトリップを止めるために感度電流の設定を大きく上げる、あるいは検出感度そのものを鈍くする方向で調整してしまうと、今度は逆側のリスクが生じる。しきい値を上げすぎれば、高調波成分だけでなく、本当に発生した地絡電流に対しても反応が遅れる、あるいは反応しなくなる可能性がある。感電・火災を防ぐための保護機器が、本来検知すべき事故を見逃す状態になってしまっては本末転倒だ。高調波対応形が解決しようとしているのは、まさにこの板挟みだ。感度電流を犠牲にせずに、高調波由来の不要動作だけを選択的に減らす——という設計目標が、フィルタを検出回路に組み込むという手段に結びついている。
選定時に確認しておきたいこと
- 型番が高調波対応形(またはメーカーの現行標準品)に該当するか——パナソニックのように現行品がすべて対応済みのメーカーもあれば、三菱電機のように一般形と別型番で案内されるメーカーもある。カタログの型番・仕様表で個別に確認する。
- 定格電流に1.4倍以上の裕度があるか——インバータの負荷電流に対する裕度の考え方は、高調波対応形を選ぶ場合も変わらず適用される。
- 定格感度電流に10倍以上の余裕があるか——実測または算出した漏洩電流値を基準に選定する。ケーブルが長い、インバータの台数が多い現場ほど、この余裕を大きめに見ておく必要がある。
- 設置箇所がインバータの一次側になっているか——二次側への設置は推奨されていない。
- 「高調波対応形」と「高周波対応」を混同していないか——前者は漏電検出の話、後者は遮断器自体が流せる電流の周波数の話で、まったく別の仕様である。
これらの情報が揃っていれば、既設設備の更新か新設かを問わず、現物の型番の選定・見積までスムーズに進められる。
よくある質問
高調波対応形は一般形より感度が低い(鈍い)漏電遮断器なのですか?
いいえ、そうではありません。三菱電機FAのFAQは、高感度形漏電遮断器を「定格感度電流30mA以下」と定義しており、この分類は一般形か高調波対応形かとは別軸です。高調波対応形は、漏電検出電子回路にアクティブフィルタを設けて重畳された高調波を除去したうえで、基本周波数分の微小な漏電検出信号は減衰させずに判定する構造だとされています。つまり変わっているのは「どれだけの電流で反応するか」というしきい値ではなく、「そのしきい値と比較する対象に何を含めるか」という判定対象の絞り込み方です。
「高調波対応形」と「高周波対応」は同じ意味ですか?
異なります。パナソニックのFAQは、現行の漏電ブレーカについて「50Hz/60Hzの交流専用のため、高周波電流の通電には対応していません」と回答しています。これは遮断器自体が高周波の電流を流せるかという電気的仕様の話であり、本記事で扱う「高調波対応形」(漏電検出時に高調波成分を誤って拾わないようにする設計)とはまったく別の軸です。カタログやFAQを読む際は、この2つの「高◯波」を混同しないよう注意が必要です。
現行販売されている漏電遮断器はすべて高調波対応形なのですか?
メーカー・シリーズによります。パナソニックのFAQは、1992年のJIS規格改訂を機に「1992年1月1日以降の生産分から、すべて高調波対応形となっております」と回答しており、同社の現行品は実質的にすべて対応済みです。富士電機のFAQも、G-TWINシリーズは1983年7月以降の生産品から標準品として高調波由来の不要動作対策を施した検出周波数特性を持たせていると説明しています。ただし三菱電機のFAQでは一般形と高調波・サージ対応形が型番として別立てで案内されており、選定時は現物のカタログ・型番で「高調波対応形」または相当する仕様が明記されているかを個別に確認する必要があります。
漏電遮断器を高調波対応形に交換すれば、インバータ二次側の誤動作は必ず解消しますか?
解消する可能性は高いものの、それだけで確実とまでは言い切れません。三菱電機FAのFAQは、高調波・サージ対応形を選定する際、実測または算出した漏洩電流値に対して定格感度電流を10倍以上の余裕を持たせることを求めています。ケーブルが長い、あるいはインバータの台数が多いといった条件で漏れ電流の絶対量そのものが大きい現場では、高調波対応形に交換しても定格感度電流の選定を誤れば再びトリップし得ます。交換にあたっては型式の変更と定格感度電流の見直しをセットで行う必要があります。
発注時に何を伝えれば、正しい高調波対応形の漏電遮断器を手配できますか?
最低限、①定格電流(負荷電流に対して1.4倍以上の裕度を見込む)②定格感度電流(実測・算出した漏洩電流の10倍以上の余裕)③極数・フレームサイズ④設置箇所がインバータの一次側であること、の4点をセットで伝えるのが安全です。三菱電機FAのFAQはこれらの考え方を選定方法として示しており、富士電機のFAQも電動機保護用ブレーカがインバータ回路に使用できない点や、ブレーカはインバータの主回路電源端子までの保護を担う点を案内しています。現物の型番がわかっている場合は、型番をそのまま伝えるのが最も確実です。
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