改修工事の打ち合わせで、担当者からPLCのプログラムを印刷した紙を渡された。「これが今の制御ロジックです。参考にしてください」。広げてみると、左右に縦線が走り、その間を短い横線と四角い記号が何段にも連なっている。回路図のようでもあり、そうでないようでもある。実際の盤の中を覗いても、この図と同じ形をした部品はどこにも見当たらない。図面と現物が対応しないまま、担当者はこの紙をどう読めばいいのか分からずにいた。
この戸惑いは無理もない。渡されたのはラダー図と呼ばれるもので、PLC(プログラマブルコントローラ)の内部で動くソフトウェアそのものを、図の形で表したものだからだ。実在する部品を描いた回路図ではなく、メモリ上の信号のやり取りを描いた設計図であり、そもそも現物と一対一で対応する保証がない。だが、この図はでたらめに「はしご」の形をしているわけではない。ラダー図がこの見た目になった背景には、電気技術者の知識を丸ごと引き継ぐための、はっきりとした設計上の理由がある。
なぜ「はしご」の形をしているのか
ラダー図という名前は、2本の垂直な線とその間を渡す横線が、はしご(ラダー)のように見えることに由来する。この2本の垂直な線を母線と呼び、横線の1段1段を回路と呼ぶ。ここまでは見た目の説明にすぎないが、なぜPLCのプログラムがこの形で表現されるようになったのかを辿ると、ソフトウェアの歴史としてはやや意外な経緯に行き着く。
PLCという機器が生まれたのは1968年のことだ。ゼネラルモーターズ(GM)のハイドラマチック部門が、エンジニアのEdward R. Clarkがまとめた白書をもとに、「リレー配線システムを電子的に置き換える」装置の提案を求めたのが始まりとされる。この案件を受注したベッドフォード・アソシエイツ社が1969年に完成させたのが、最初のPLCとされる「084」(同社の84番目のプロジェクトだったことに由来する型番)だ。同社はのちにモディコン社としてスピンオフし、PLCの父と呼ばれるディック・モーレー氏がこの開発に携わったことで知られる。
このとき開発チームには、ひとつの現実的な制約があった。リレー盤を電子回路に置き換えたとしても、実際にそれを保守し、動かし続けるのは、それまでリレー回路の設計・配線・トラブルシューティングを担ってきた工場の電気技術者たちだ。彼らに新しいプログラミング言語を一から習得させるのは、装置を導入する以上に大きなハードルになる。そこで採用されたのが、リレー回路図の見た目をほぼそのまま引き継いだ表現方法だった。英語版ウィキペディアの記述を借りれば、逐次制御のロジックをラダー図の形で表現した動機は「工場のエンジニアや技術者が、追加の訓練なしにソフトウェアを開発できるようにする」ことにあったとされる。
つまりラダー図は、コンピュータ科学の理論から設計された新しいプログラム言語ではない。すでに現場にあった「リレー回路図を読み書きする」という暗黙知を、そのままソフトウェアの世界に持ち込むための、一種の翻訳装置として設計されたものだ。日本の制御システム開発でもこの経緯は引き継がれており、ラダーダイアグラム(LD)は「従来の電気配線図に基づく形式」として、今も国内で最も普及したプログラム言語の位置を占めている。図の形が奇妙に見えるのだとしたら、それは設計が古いからではなく、半世紀以上前の電気技術者にとっての「読みやすさ」を、今なお律儀に守り続けているからだ。
基本記号の読み方——a接点・b接点・コイル・タイマー・カウンター
ラダー図に登場する記号の数はそれほど多くない。まずは最小限の骨格を押さえておきたい。
| 記号 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| 縦棒2本 | a接点(NO接点) | 通常は開いていて、操作(信号のON)で閉じる接点 |
| 縦棒2本+斜線 | b接点(NC接点) | 通常は閉じていて、操作(信号のON)で開く接点 |
| 丸または括弧 | コイル(出力) | 条件が成立したときに信号を出力する部分。多くの場合、回路の一番右に置かれる |
| T記号+番号 | タイマー | 一定時間の経過後に接点を動作させる。設定時間・現在値・接点動作のタイミングをあわせて確認する |
| C記号+番号 | カウンター | 入力信号の回数を数え、設定回数に達したときに接点を動作させる |
a接点・b接点は、「条件」を表す部品だ。もし〜ならという判定を担い、コイルは「結果」、つまり〜するという動作を担う。1段の回路は、左の母線から複数の接点をたどって条件が成立すると、右のコイルに信号が届く、という一つの文として読める。タイマーは「条件が成立してから、設定した時間が経過して初めて動作する」接点を、カウンターは「条件が成立した回数を数えて、設定回数に達して初めて動作する」接点を作り出す部品で、いずれもコイルと組み合わせて使われる。
ここで見落としやすいのが、a接点・b接点という呼び方自体が、電磁リレーの実物の接点にもともと使われてきた用語だという点だ。ラダー図の記号は、リレー回路の用語をそのまま借用している。これは偶然ではなく、前の節で見た「電気技術者の知識を引き継ぐ」という設計思想が、記号のレベルにまで一貫して貫かれている証拠でもある。
リレーシーケンス回路との対応関係
では、ラダー図の1段は、実物のリレー配線のどこに対応するのか。ここを混同したまま読み進めると、図面の意味を取り違えてしまう。
実物のリレーシーケンス回路では、押しボタンスイッチの接点、リレーのコイル、リレー自身が持つ別の接点が、すべて実際の電線でつながっている。自己保持回路であれば、起動ボタンのa接点と、リレー自身のa接点が並列に配線され、この2つの接点のどちらか一方が閉じてさえいれば、コイルに電流が流れ続ける——という構成になる。
ラダー図の1段は、この実物の回路を、電線の代わりにメモリ上の信号のつながりとして書き直したものだ。起動ボタンのa接点は、PLCの入力デバイス(Xで始まる番号など)に割り付けられ、リレーのコイルに相当する部分は、PLC内部の信号(内部リレー、Mで始まる番号など)や実際の出力デバイス(Yで始まる番号など)に割り付けられる。回路の構成そのもの——どの接点とどの接点が直列か並列か、どこが自己保持になっているか——は、実物のリレー回路とラダー図でほぼそのまま対応する。違うのは、その対応をつないでいるのが電線か、PLC内部の処理かという一点だけだ。
この対応関係があるからこそ、リレーシーケンス回路の読み方を知っている技術者は、ラダー図を見ても「これは自己保持だ」「これはインターロックだ」と、実物の回路と同じ感覚で読み進められる。逆に言えば、ラダー図だけを単独の記号体系として覚えようとすると、この対応関係という一番の近道を通り過ぎてしまうことになる。
左右の母線(バスバー)が意味するもの
ラダー図の左右にある2本の縦線を母線と呼ぶことは先に触れた。この母線は、実物の制御回路における2本の電源ライン——多くの場合、直流24Vのプラス側とマイナス側、あるいは制御電源トランスの二次側の両端——を模したものだ。左の母線から出発し、接点をいくつかたどって、右の母線(またはコイル)へとたどり着く、という1段の読み方は、実際に電気が左から右へ流れていくイメージをそのまま図式化したものにほかならない。
ただし、ここで注意しておきたいことがある。ラダー図の母線を流れているのは、実際の電流ではない。PLCの内部では電気がこの図の形のとおりに物理的に流れているわけではなく、CPUがプログラムを演算処理することで、あたかも電気が流れたかのような結果(コイルのON/OFF)を作り出している。母線は、電気の通り道を模した比喩的な表現であって、実際の配線経路ではない。この点を取り違えて、ラダー図の線をそのまま盤内の電線の配線経路だと思い込んでしまうと、実際の結線作業とラダー図の読解が噛み合わなくなる。
上から下へのスキャン処理との関係
ラダー図のもう一つの特徴は、複数の段が上から下へ並んでいることだ。この並び順は、PLCが実際にプログラムを処理する順序とそのまま対応している。
PLCは、電源が入っている間、ラダー図に書かれた回路を1段目から最終段まで、上から下へ、各段の中では左から右へ、順番に演算し続けている。最終段まで到達すると、また1段目に戻って同じ処理を繰り返す。この一巡にかかる時間をスキャンタイムと呼び、PLCは1秒間に何百回、何千回という単位でこの一巡を繰り返している。
つまりラダー図は、単に部品同士のつながりを表しているだけではなく、「どの順番で判定されるか」という時間の流れも同時に表現している図面だ。ある段で書き換えられたコイルの状態は、その段より下にある回路であれば同じスキャンの中で反映されるが、その段より上にある回路には、次のスキャンにならないと反映されない。この演算順序を意識せずにラダー図を読むと、「なぜこの接点は思ったタイミングで動かないのか」という疑問に行き当たることがある。この演算順序とスキャンタイムがI/Oの応答遅れにどうつながるかは、PLCのスキャンタイムとI/O応答遅れで詳しく扱っている。
電材発注・仕様検討でラダー図が必要になる場面
ここまでの内容は、プログラミングの解説のように見えるかもしれない。だが電設資材を選定・発注する立場にとっても、ラダー図を読む場面は現実にある。
最もよくあるのが、制御盤の改修・更新工事だ。竣工から年数が経った設備では、紙の回路図が最新の状態に更新されておらず、実際の制御ロジックはPLCの中に書き込まれたラダー図だけが正確な記録になっている、というケースが珍しくない。この状態で新しいリレーや端子台、センサーを手配する前には、ラダー図に書かれた入出力デバイスの割り付けを確認し、どの入力にどのセンサーが、どの出力にどの機器が対応しているかを洗い出す必要がある。これを飛ばして「今ついている型番をそのまま発注する」だけで済ませてしまうと、改修後に配線とロジックの対応が取れなくなり、思わぬ誤動作を招く。
同様に、増設で新しいセンサーやリレーを追加する場合も、既存のラダー図のどこに割り込ませるかを確認しなければならない。既存のインターロック回路や自己保持回路の構成を読み違えたまま新しい回路を追加すると、既存の安全機能を意図せず無効化してしまう危険もある。ラダー図を読めるということは、単にプログラムを理解できるというだけでなく、改修工事における部材選定と配線計画そのものの前提を確認できるということでもある。
型番や仕様が分かっている電材については、電材サーチの型番検索から見積もりリストへ追加できる。ラダー図の読み解きから浮かび上がった端子台・リレー・センサーの手配についても、下記からご相談いただきたい。
よくある質問
ラダー図とシーケンス図(リレーシーケンス回路図)は同じものですか?
見た目は似ていますが別物です。リレーシーケンス回路図は、実在するリレー・タイマーなどの部品を実際の配線で結んだ回路そのものを表す図面です。ラダー図はPLC内部のソフトウェアとして書かれたプログラムであり、部品同士は物理的な電線ではなく、PLCのメモリ上の信号(デバイス)として結びついています。ラダー図がリレーシーケンス回路図に似た形をしているのは、電気技術者が持つ回路図の読み書きの知識をそのまま活かせるように、意図的にその見た目を踏襲して設計されたためです。
ラダー図はどのメーカーのPLCでも共通に読めますか?
基本的な考え方(a接点・b接点・コイル・母線という構成要素、左から右・上から下という読み進め方)はJIS B 3503(国際規格IEC 61131-3と整合)で言語仕様として標準化されており共通です。ただし、タイマー・カウンターなどの命令の型式番号や、専用のファンクションブロックの呼び方はメーカーごとの実装差があります。三菱電機・オムロン・キーエンスのラダー図を見比べると、記号の骨格は同じでも命令の細部の表記が異なるのはこのためです。
a接点とb接点はラダー図でどう見分けますか?
多くのソフトウェアでは、a接点は縦棒2本のシンプルな記号、b接点はそこに斜線が1本加わった記号で描き分けられます。意味としては、a接点は「通常は開いていて、操作(信号のON)で閉じる接点」、b接点は「通常は閉じていて、操作で開く接点」です。リレーシーケンス回路の実物のa接点・b接点と対応関係にあり、この対応が崩れていないかを確認しながら読むのがラダー図読解の基本になります。
ラダー図を読む必要があるのは、どんな電材の仕事のときですか?
代表的なのは制御盤の改修・更新です。既存のPLCに書き込まれたラダー図が唯一の設計図として残っていて、紙の回路図が更新されていない現場は珍しくありません。この場合、新しく手配する端子台・リレー・センサーの仕様は、ラダー図に書かれた入出力デバイスの割り付けから逆算して確認する必要があります。ラダー図を読めないまま「同じ型番をそのまま発注する」だけでは、改修後にロジックと現物の対応が取れなくなるリスクが残ります。
ラダー図の読み方を確認しながら電材の見積もりを依頼できますか?
できます。電材サーチでは、制御盤の改修・更新時にラダー図や配線図の画像・PDFを添えていただいた上で、必要な電材(端子台・リレー・センサー・PLCユニット等)の洗い出しをご相談いただけます。ラダー図そのものの読解代行は業務範囲外ですが、そこに書かれた型番・仕様から発注リストへ落とし込むご相談は見積もり依頼フォームから承っています。
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