新人の担当者に、改修予定の分電盤の単線結線図が1枚渡された。「これを見て、必要な電材を発注しておいて」。図面を広げてみると、四角と丸を組み合わせた記号が縦に並び、それを結ぶ線はどこまでいっても1本のままだ。実際の盤の中には、3本の電線が束になって走っているのを見たばかりだった。この1本の線は何を意味しているのか、記号の丸は何個の部品を指しているのか——手元の図面と、頭の中にある盤の映像が、うまく重ならない。
この戸惑いは、経験不足のせいというより、単線結線図という図面の性質そのものに理由がある。単線結線図は、情報を削った図面ではなく、情報を圧縮した図面だ。削った図面なら足りない部分を補えばいいだけだが、圧縮された図面は、どこがどう圧縮されているかを知らないと、正しく展開できない。まずはこの図面が何を圧縮し、何を圧縮していないのかを確認するところから始めたい。
単線結線図とは何か——3本の電線を1本の線にする理由
三相の回路には、通常3本(場合によっては中性線を加えた4本)の電線が必要になる。単線結線図は、この複数本の電線を1本の線に簡略化して描く図面だ。電源側から負荷側まで、開閉器・変圧器・保護継電器といった機器が、記号と1本の線でつながれた形で表現される。
この簡略化の目的は、系統全体の構成を一目で把握できるようにすることにある。受変電設備であれば、電力会社からの引込みがどの開閉器を経由し、どの変圧器で低圧に降圧され、どの分岐に分かれているか——という「全体の骨格」を、電線の本数という細部に気を取られずに追えるようにしている。設計段階の打ち合わせ、保守点検時の系統確認、工事の見積もり検討など、盤の中身を細かく知らない相手とも図面を共有できるのは、この簡略化があるからだ。
複線図との違いと使い分け——「俯瞰する図」と「配線する図」
単線結線図が省いた情報を、そのまま描き起こす図面が複線図だ。複線図は実際の配線本数どおりに電線を描き、どの端子とどの端子が具体的にどの電線でつながっているかを示す。器具の端子番号まで書き込まれることも多く、現場の配線作業者はこの図を見ながら1本ずつ電線を結んでいく。
単線結線図と複線図は、どちらが上位の図面というわけではなく、見る人と場面が違う。単線結線図は保安確認・設計協議・全体構成の把握に向き、複線図は実際の施工・結線作業に向く。単線結線図だけを見て「電線が1本しか描かれていないから、この回路は1本の電線で足りる」と読んでしまうのは、この図面の性質を取り違えた誤解だ。単線結線図は本数を表現する図ではなく、構成を表現する図であり、本数を知りたければ複線図か仕様書を見る番になる。
JIS C 0617に基づく主要な図記号
単線結線図に使われる記号は、電気用図記号を定めるJIS C 0617に沿っている。この規格は第1部の概説から第13部のアナログ素子まで分冊で構成され、国際規格IEC 60617第2版との整合を図る形で1997年・1999年に制定された。よく見かける機器と記号を整理すると、次のようになる。
| 機器 | 略号の例 | 役割 |
|---|---|---|
| 高圧交流負荷開閉器 | PAS | 電柱付近に設置される区分用の開閉器 |
| 断路器 | DS | 保守点検時に無電圧状態を作るための開閉器(負荷電流の開閉はしない) |
| 真空遮断器 | VCB | 事故電流を遮断する主遮断装置。比較的大容量の設備で使われる |
| 高圧交流負荷開閉器(盤内) | LBS | 変圧器一次側などに使われる、VCBより小容量帯の開閉器 |
| 変圧器 | T(Tr) | 高圧を低圧に降圧する機器 |
| 変流器 | CT | 大きな電流を計器・保護継電器で扱える小電流に変換する |
| 計器用変圧器(変成器) | VT | 高電圧を計器で扱える電圧に変換する |
| 零相変流器 | ZCT | 地絡電流を検出する |
| 進相コンデンサ | SC | 力率を改善する |
| 避雷器 | LA | 雷サージから設備を保護する |
| 接地 | E | 大地との電気的な接続を示す |
丸が重なった記号を見つけたら、それはたいてい変圧器だ。四角に斜線が入った記号は開閉器の系統であることが多く、その中でも記号の細部(可動接点の描き方)でVCBかDSかLBSかが分かれる。ここで押さえておきたいのは、これらの記号がすべて同じ一枚岩の規格の産物ではないという点だ。JIS C 0617は、IEC規格と整合する系列1として1997年・1999年に制定され、これによって従来のJIS C 0301:1990(日本独自の記号体系、系列2)は廃止された。ところが系列2は1949年から長く使われてきた記号であり、新規制定後もJEMAの技術資料が「保守・増設など運用面での継続使用」を想定して系列2をまとめ直しているとおり、現場では今も参照され続けている。新しく設計される設備は系列1を使う方針だが、古い図面を読むときは、自分がいま見ている記号がどちらの系列に属しているかを先に見極めないと、似た形の記号を取り違えかねない。
単線結線図から必要な電材を読み取る手順
記号の意味が分かったら、次はそれを発注リストへ変換する番だ。手順はおおむね次の3段階になる。
- 記号を機器の種類に置き換える——丸が重なった記号は変圧器、四角に斜線の記号は開閉器、という具合に、図面上の記号をまず機器名に読み替える。
- 記号に添えられた定格を拾う——多くの単線結線図では、記号のそばに電圧・電流・容量(kV、A、kVA等)の数値が注記されている。この数値が、後で型番を絞り込むための一次情報になる。
- 機器名と定格を発注リストの行に変換する——「VCB・定格電圧6.6kV・定格電流200A」のように、機器名と定格をセットで書き出せば、それがそのまま見積もり依頼の項目になる。
この3段階を踏むと、単線結線図はただの構成図から、発注のための一次資料に変わる。ただし、この手順で拾えるのはあくまで記号と注記に表れている情報だけだという点は、次の節で改めて触れておきたい。
単線結線図に書かれない情報——圧縮された図面が背負わせる仕事
単線結線図が電線を1本に圧縮しているということは、電線の太さ・本数・こう長といった情報が、そもそもこの図面の担当範囲から外れているということでもある。加えて、端子台の極数、ケーブルの種類(CV・CVTなど)、盤の外形寸法、接地線の太さといった施工上の仕様も、単線結線図には現れないことが多い。これらは複線図や配線図、あるいは別紙の機器仕様書に書かれているのが通例で、単線結線図の記号だけを頼りに発注リストを完成させようとすると、どこかで情報が足りなくなる。
これは単線結線図の欠陥ではない。全体構成を一目で把握できるようにするために、あえて捨てた情報がある、という設計そのものだ。地図が縮尺を上げるほど個々の建物の形を省略していくのと同じで、単線結線図は「系統の骨格」という縮尺を選んだ結果として、電線の本数や太さという「建物の形」を描かない。読み手の側は、この図面が何を描き、何を描いていないかを理解した上で、描かれていない情報を複線図や仕様書、あるいは現地確認で埋めていく必要がある。単線結線図だけを見て発注リストを完成させようとする姿勢そのものが、この図面の性質と噛み合っていない。
図面が古い・現状と食い違う場合のリスク
もうひとつ厄介なのは、図面そのものが現状を正しく反映しているとは限らないという点だ。増設・改修が繰り返されてきた設備では、竣工図に更新が反映されないまま機器だけが入れ替わっていることが珍しくない。図面上は旧型のVCBのままなのに、現物はすでに後継機種に交換されている、といった状態は、老朽化した設備ほど起こりやすい。
先の系列1・系列2の話とも重なるが、図面が古いということは、記号の読み方だけでなく、記載されている機器・定格そのものの信頼性にも留保が要るということだ。図面の記号と注記だけを鵜呑みにして発注や工事計画を進めると、現地に届いた部材が現物と合わない、という事態を招きかねない。発注前には、可能な範囲で現地の銘板を確認し、図面上の型番・定格と現物が一致しているかを照合してから見積もりに進むのが安全な手順になる。
よくある質問
単線結線図と複線図、どちらが「正しい」図面ですか?
どちらも正しい図面ですが、役割が違います。単線結線図は3本(またはそれ以上)の電線を1本の線に簡略化して描き、系統全体の構成を俯瞰するための図です。複線図は実際の配線経路・本数をそのまま描く図で、現場の施工・結線作業に使います。単線結線図だけを見て「電線が1本足りない」と判断するのは誤りで、そもそも本数を表現する図ではありません。
単線結線図の記号は誰が見ても同じ意味になりますか?
同じ規格に沿っていれば同じ意味になりますが、注意が必要な例外があります。JIS C 0617(IEC 60617と整合する新JIS、系列1)は1997年・1999年に制定され、それ以前の旧JIS C 0301:1990(系列2、日本独自の記号)を廃止しました。ただし系列2は保守・増設が続く既存設備向けに現在も参照される場合があり、新規設計は系列1を使う方針が示されています。古い図面ほど、どちらの記号体系で描かれているかを先に確認する必要があります。
単線結線図だけで電材を発注できますか?
記号と定格の書き込みまで揃っていれば発注リストの土台にはなりますが、それだけで完結しないことが多いです。電線の太さ・本数・こう長、端子台の極数、盤の外形寸法といった情報は単線結線図には描かれず、別途の仕様書・配線図・現地確認で補う必要があります。単線結線図はあくまで「何が、どの順で接続されているか」を示す地図であり、発注に必要な仕様の全部を1枚で背負っているわけではありません。
古い単線結線図と現状の設備が食い違っていたらどうすればいいですか?
図面上の記号・定格をそのまま信用して発注や工事計画を進めるのは危険です。増設・改修が繰り返された設備では、竣工図に反映されないまま機器が入れ替わっているケースが珍しくありません。発注前に現地で銘板を確認し、型番・定格が図面の記載と一致するかを照合してから見積もりに進むのが安全な手順です。
単線結線図から電材選定のご相談
単線結線図に描かれた記号と定格から、実際に発注すべき電材の型番まで落とし込む作業は、記号の意味だけでなく、現行品・後継品の情報とも突き合わせる必要があります。電材サーチでは、単線結線図・複線図の画像やPDFを添えていただいた上での電材選定のご相談を承っています。
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