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監視カメラの電源重畳(同軸ケーブル給電)とは|PoEとの違いと既設同軸ケーブルを活かした改修の考え方

読了目安: 8分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。

「このケーブル、まだ生きてるんですかね」——古い監視カメラの更新工事で、天井裏から伸びる同軸ケーブルを指さしながら、現場の若い作業員がそうつぶやくのを聞いたことがある管理会社は少なくないはずだ。テナントビルの防犯カメラを十年ぶりに入れ替える。カメラ本体もレコーダーも新しくする。しかし配線まで新しく引き直すとなると、話は一気に大きくなる。天井を剥がし、点検口を増やし、テナントの営業時間を避けて工事日程を組み直す。そこまでの予算は、最初の見積もり相談には入っていない。

古いアナログカメラの配線は、映像を送る同軸ケーブルと、カメラに電気を送る電源ケーブルの2本立てだったはずだ。だから「配線は活かせる」と言われても、映像線だけ流用できて電源線は結局引き直しになるのではないか——現場でそう思い込んでいる担当者は、実のところ少なくない。

ところがこの思い込みは、半分だけ正しい。そしてもう半分は、電源重畳という技術によって外れる。

電源重畳とは何か ー 同軸ケーブル1本に映像と電源を同時に乗せる技術

電源重畳(でんげんじゅうじょう)とは、本来は別々の配線で送るはずの映像信号と電源(直流)を、周波数帯域の違いを利用して同軸ケーブル1本にまとめて伝送する技術である。別名PoC(Power over Coax)とも呼ばれ、映像・電源に加えて音声まで同じ1本に乗せられる機器もある(出典1・2)。

同軸ケーブルはもともと、テレビアンテナや無線機器のようにMHz帯の高周波信号を、外部からのノイズを受けずに安定して送るために設計されたケーブルだ。中心の導体、その周りの絶縁体、さらに外側を編組シールドで覆う同心円状の構造を持ち、映像のような高周波の交流信号を送るのに向いている。一方、電源として使われる直流(DC)は周波数で言えば0Hz、つまり高周波信号とは周波数帯がまったく重ならない。電源重畳は、この「映像は高い周波数、電源は直流」という住み分けを利用し、同じ導体の上に両方を同時に流しても互いに干渉しない、という性質を積極的に使った設計だと言える。

なぜ配線を分けなくて済むのか ー 重畳器(セパレータ)が信号を「混ぜる」「分ける」

映像と電源が同じ1本の線を流れているなら、カメラ側とレコーダー側では、それぞれ逆の作業が必要になる。送り出す側では電源を映像信号に重ね合わせ、受け取る側では重なった信号から電源だけを取り出してカメラに供給しなければならない。この役割を担うのが、レコーダー側に置かれるカメラ駆動ユニット(電源装置)と、カメラ側の受電回路である。

駆動ユニットの内部では、電源(直流)を通す経路と映像信号(高周波交流)を通す経路が、フィルタ回路によって周波数ごとに仕分けられている。直流だけを通し高周波をせき止める回路(ローパスフィルタ)を経由して電源を同軸ケーブルに重ね、逆に高周波だけを通し直流を遮断する回路(ハイパスフィルタ)を経由して映像信号を取り出す。カメラ側でも同じ仕組みが逆向きに働き、届いた信号の中から直流成分だけを拾い上げて内部回路の電源とし、高周波成分だけをそのまま映像出力として使う。周波数の違いという物理的な性質だけで信号を選り分けているため、映像と電源をタイミングで切り替えたり、通信プロトコルで調停したりする必要がない。仕組みとしては地味だが、これが「配線を1本にまとめられる」種明かしのすべてである。

PoEとの違い ー 「LANケーブル+イーサネット規格」か「同軸ケーブル+映像方式」か

同じく「配線1本で映像と電源をまかなう」技術として知られるPoE(Power over Ethernet)と、電源重畳は混同されやすい。だが中身はまったく別の技術である。

比較項目PoE電源重畳(PoC)
使用するケーブルLANケーブル(Cat5e/6/6A等)同軸ケーブル(3C-2V・5C-2V等)
映像の伝送方式デジタル(ネットワークカメラ、パケット通信)アナログ〜準デジタル(AHD・HD-TVI・HD-CVI・CVBS等)
電源供給の規格IEEE 802.3af/at/bt(規格化された給電手順)メーカー・シリーズ独自の重畳回路
主な用途新設のネットワークカメラシステム既設同軸ケーブルを使った改修・更新

PoEはIEEE 802.3という国際規格に沿って、LANケーブルの中の空き対線やデータ線に直流電圧を乗せる。受電側の機器と送電側のスイッチ(またはインジェクタ)が規格に準拠している限り、メーカーをまたいでも動作するのが前提の設計だ。これに対して電源重畳は、そもそも標準化された業界共通規格が存在せず、重畳・分離の回路設計はメーカーやシリーズごとに独自に組まれている。カメラの映像方式もIPカメラのようなネットワークプロトコルではなく、AHDやHD-TVIといったアナログ由来の伝送方式が使われる。「配線1本で済む」という見た目の効果は同じでも、規格化の有無と、映像方式そのものが根本から異なる技術だと理解しておく必要がある。

既設同軸ケーブルを活かした改修のメリット

電源重畳の実務上の価値は、この技術単体の面白さよりも、「新しい配線を引かなくても更新できる」という一点に集約される。

古いアナログの監視カメラシステムは、映像用の同軸ケーブルとは別に、カメラへ電源を送るための電源ケーブルを併走させて敷設されていることがほとんどだ。カメラを新しい機種に更新する際、もし電源重畳という選択肢がなければ、電源線もまとめて新しい規格に合わせて引き直すか、あるいは既設の電源ケーブルの生死を1本ずつ確認して回る作業が必要になる。天井裏やパイプシャフトを何十mも這っている配線を新規に敷設し直す工事は、材料費よりも人件費と工期がかさみ、テナントが入っている建物では営業時間の制約まで加わる。

電源重畳対応のカメラと駆動ユニットに置き換えれば、既設の同軸ケーブルがそのまま映像と電源の両方の経路として機能する。実際にパナソニックのHDアナログカメラシリーズ(電源重畳タイプ)は、「既設同軸ケーブル配線を活かしながら、高解像度フルHD映像による監視を可能とする」ことを明確な導入メリットとして打ち出している(出典1)。配線を触らずに機器だけを入れ替えられるという発想は、「更新=引き直し」という思い込みを崩す、地味だが効果の大きい発見だと言える。

伝送距離・電圧降下の実務上の注意点

配線を活かせるとはいえ、無条件に何mでも届くわけではない。同軸ケーブルには種類ごとに伝送できる距離の目安があり、パナソニックの資料では5C-2Vで約500m、3C-2Vで約300mという数値が示されている(出典1)。同軸ケーブルは種類によって減衰特性が異なり、東洋電機株式会社の資料では「3C-2V>5C-2V>7C-2V」の順に減衰率が下がっていく(=より遠くまで届く)ことが説明されている(出典4)。つまり距離が長い現場ほど、太く減衰の少ないケーブル種別を選ぶ必要がある。

ここで見落とされやすいのが、映像信号の減衰だけでなく、電源側の電圧降下も距離とともに進むという点だ。電源重畳はあくまで同軸ケーブルの導体を電源の通り道としても使っている以上、導体には電気抵抗があり、距離が伸びれば伸びるほど電圧は下がる。カメラ側の受電電圧には規格上の許容範囲(多くの製品でDC12V±10%程度)があり、配線が長くなるほどこの下限を割り込みやすくなる。映像は届いているのに、電源不足でカメラが不安定に再起動を繰り返す、という症状が起きるとしたら、疑うべきはこの電圧降下側の要因である。PoE給電における電圧降下の考え方(LANケーブルの電圧降下・発熱対策の記事で詳しく解説している)と、着眼点自体はよく似ている。導体の断面積(=ケーブルの太さ)と配線距離、この2つのバランスを見て機器の対応可否を判断するのが実務の基本になる。

対応機器の互換性確認の重要性

電源重畳を導入する改修工事で、実は最も事故が起きやすいのはここである。カメラ・駆動ユニット・レコーダーの組み合わせが、電源重畳という同じ言葉で括られていても、規格化されていない技術である以上、互換性は保証されない。

前述の通り、重畳・分離の回路は周波数の切り分け方も、供給する電圧も、保護回路の設計もメーカー・シリーズごとに異なる。他社製の駆動ユニットに、電源重畳対応をうたう別メーカーのカメラをつなげば動くはずだ、という判断は危険を伴う。想定外の電圧が供給されてカメラ側の回路を傷めたり、逆に電圧不足でまったく起動しなかったりする可能性があるためだ。改修工事の見積もり段階では、①既設カメラ・レコーダーの現行メーカー・型番、②新規に導入予定のカメラ側の対応方式(AHD・HD-TVI・HD-CVIのいずれか)、③駆動ユニット・レコーダー側が同じ方式・同じメーカー系列で揃っているか、の3点を必ず現物または資料で照合してから発注する必要がある。「重畳対応」という表記だけを見て型番を混在させると、後から現場で「電源が来ない」というやり直しに直結する。

監視カメラ・電源重畳機器の見積もりについて

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よくある質問

電源重畳とPoEは同じものですか?

いいえ、別の技術です。PoEはLANケーブルとイーサネット規格を使い、映像はデジタルデータとしてパケット伝送しながら電源も同じ線に乗せます。電源重畳(PoC)は同軸ケーブルを使い、映像はAHD・HD-TVI・HD-CVIなどのアナログ(または準デジタル)の映像方式で伝送しながら、直流電源を周波数の違いで同じ線に重ねます。使うケーブルも映像方式もカメラの規格も別物なので、互換性はありません。

古いアナログカメラの同軸ケーブルは、電源重畳対応カメラに交換すればそのまま使えますか?

既設の同軸ケーブル自体は流用できることが多いですが、カメラとレコーダー(または駆動ユニット)の両方が電源重畳方式に対応している必要があります。既設のケーブルが古く著しい劣化・断線がある場合や、必要な伝送距離に対してケーブルの種類(3C-2V・5C-2Vなど)が細すぎる場合は、部分的な張り替えが必要になることもあるため、更新前の現場調査で導通・減衰量を確認することが前提です。

電源重畳方式の伝送距離はどのくらいですか?

使用する同軸ケーブルの種類によって変わります。目安として3C-2Vで約300m、5C-2Vで約500mといった数値がメーカー資料で示されています。ただし電源重畳では、映像信号の減衰だけでなく、直流電源側の電圧降下も距離とともに大きくなるため、距離が伸びるほどカメラ側の受電電圧が規格の下限(多くはDC12V±10%程度)を割り込むリスクが増える点に注意が必要です。

電源重畳の機器は違うメーカー同士を組み合わせて使えますか?

推奨されません。電源重畳は映像信号と電源を同じ同軸ケーブルに重ねる都合上、重畳・分離の回路設計(周波数の切り分け方、供給電圧、保護回路)がメーカーやシリーズごとに異なります。カメラ・駆動ユニット(電源装置)・レコーダーは、原則として同一メーカーの対応シリーズで揃えることが、動作不良や機器保護の面で安全です。

参考文献・出典

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