台風一過の翌朝、低圧の太陽光発電所を見に行ったオーナーが目にしたのは、架台の半分近くまで這い上がった雑草だった。慌ててO&M(運用保守)を委託している業者に連絡すると、返ってきたのは「除草は契約範囲に入っていません」という一言だ。契約書には「保守点検業務一式」としか書かれておらず、除草という文字はどこにもない。オーナーは「O&Mを頼んでいるのだから発電所の維持管理は全部やってもらえる」と思い込んでいたのだが、業者側は「点検して異常を報告する契約であって、現状回復の作業は別料金」という立場を崩さなかった。
似た話は、除草に限らない。パネル洗浄、部材の予備品確保、事故発生時の駆けつけ対応——「O&M」という一つの言葉でくくられているはずの業務の中身が、契約する業者によって驚くほどバラバラなのだ。この揺れは、業者の怠慢というより、そもそもの制度設計に理由がある。
FIT法が求めているのは「作業の中身」ではなく「計画と体制」
太陽光発電の保守点検が法律上の義務になったのは、2016年6月のFIT法改正がきっかけである。この改正で創設された再生可能エネルギー発電事業計画の認定制度のもとでは、事業者は事業計画に基づいて保守点検及び維持管理を適切に実施することへの同意を求められ、違反すれば経済産業大臣による指導・助言(FIT法第12条)、改善命令(第13条)、さらには認定取消し(第15条)の対象になりうる。資源エネルギー庁の「事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)」は、この遵守事項の中身を具体的に示した文書だ。
ここで確かめておきたいのは、ガイドラインが実際に義務づけているものの正体である。事業者に求められているのは、①保守点検及び維持管理に係る実施計画(点検項目及び実施スケジュールを含む)の策定、②その計画に基づく実施体制の構築、③実施した内容の記録・保管——という「計画・体制・記録」の枠組みだ。点検を年に何回行うか、パネルを洗浄するか、除草をどこまでやるか、といった作業の中身そのものを国が個別に定めているわけではない。
これは怠慢な線引きではなく、むしろ現実的な設計だと思う。積雪地と海沿いでは劣化の進み方も除草の必要性もまるで違うからだ。日本電機工業会(JEMA)と太陽光発電協会(JPEA)が共同で作成した「太陽光発電システム保守点検ガイドライン」も、この点をはっきり認めている。点検頻度を左右する要因として設備の種類・遠隔監視の有無・契約内容・製造業者の推奨・立地条件・経年劣化の度合いなどを挙げたうえで、「用途、サイト及びシステム所有者の責任範囲によって様々な要因が多数あるため、この技術資料では、点検の頻度を規定しない」と明記している。国のガイドラインも、業界団体の技術資料も、「現場ごとに違うので契約で決めてください」と言っているに等しい。
何が「遵守事項」で、何が「努力義務」か
太陽光発電に絞って遵守事項を整理すると、次のようになる。
| 区分 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 遵守事項(義務) | 保守点検及び維持管理計画の策定・実施体制の構築 | 全出力区分 |
| 遵守事項(義務) | 標識の掲示(設備名称・所在地・発電出力・事業者名・保守点検責任者名・連絡先等) | 20kW以上 |
| 遵守事項(義務) | 柵塀等の設置(第三者が容易に近づけない措置) | 原則全出力区分※ |
| 遵守事項(義務) | 実施した保守点検内容の記録・保管 | 全出力区分 |
| 遵守事項(義務) | 出力抑制の要請への協力 | 全出力区分 |
| 努力義務 | 民間ガイドライン(JEMA・JPEA等)と同等以上の内容での保守点検実施 | 全出力区分 |
| 努力義務 | 除草作業時の周辺環境・薬剤選定への配慮 | 全出力区分 |
※屋根置き・屋上置き等で設置が困難な場合や、第三者が近づくことが容易でない立地の場合は省略できる。
50kW以上の設備には、この太陽光特有の遵守事項に加えて電気事業法上の義務——電気主任技術者の選任と保安規程の届出・遵守——が別途かかる。この保安規程に基づく点検は、太陽光専用のO&M契約とは別の契約(電気管理技術者との契約)になっているケースが多く、「O&Mを発注しているから保安規程まわりも含まれているはず」という思い込みが、もう一つの揉めどころになりやすい。
契約でよく揉める境界線——除草・洗浄・予備品・駆けつけ
法律が求めているのが「計画・体制・記録」という枠組みだけである以上、除草・パネル洗浄・部材の予備品確保といった具体的な作業は、契約書にどう書くかで決まる。JEMA・JPEAのガイドラインでの扱いを見ると、この境界線がなぜ揉めやすいのかが見えてくる。
除草は、点検作業の一覧に項目としては挙がっているものの、頻度は「サイトの地域性と季節により必要性及び頻度は異なる」とされ、一律の基準はない。しかも除草剤を使う場合は事前の環境アセスメントや薬剤選定への配慮が求められる作業であり、単純な草刈りとは工数も責任の重さも違う。「除草」の一言が契約書にあるかないかで、担う業務の中身は大きく変わる。
パネル洗浄についても、同ガイドラインは「太陽電池アレイの洗浄については、太陽電池モジュール製造業者の推奨に従う」としたうえで、汚れの状況に応じて定期洗浄の必要性を判定することを推奨するにとどめる。洗浄すべきかどうかも、頻度も、法令にもガイドラインにも数字としては存在しない。海沿いの塩害地域と内陸の田園地帯とでは必要性がまるで違うのだから、当然といえば当然だ。
部材の予備品確保については、ガイドラインが実施体制の目安として「故障後3か月以内を目途として修理が可能な体制とすること」を挙げているにとどまる。3か月は決して短い数字ではない。予備のパワーコンディショナや接続部材を現場にストックしておくのか、故障が起きてから発注するのか——後者でも「3か月以内」という目安には収まりうるため、これも契約の書きぶり次第になる。
事故・異常時の駆けつけは、「発電設備の事故発生、運転停止、発電電力量の低下などの事態が発生した時の対応方針を関係者間で事前に定め」ることが遵守事項になっている一方、駆けつけまでの時間や休日・夜間対応の可否は個々の契約に委ねられている。
もう一段深い理解——「保守点検責任者」は委託先とは限らない
ここでもう一つ、見落とされがちな論点がある。標識に記載する「保守点検責任者」の定義だ。資源エネルギー庁のガイドラインは、保守点検責任者を「保守点検及び維持管理の方針及び実施について判断する権限を有する者」と定義し、括弧書きで「保守点検及び維持管理の実施のみを委託する場合等において、その委託先等は含まない」と念を押している。
つまり、O&M業者に点検を委託したからといって、その業者が自動的に保守点検責任者になるわけではない。実施の判断権限——何を、いつ、どこまでやるかを決める権限——を業者に渡していない限り、責任者は発電事業者自身のままだ。契約書で「保守点検の範囲・頻度・判断基準」を曖昧にしたまま業者に丸投げしても、法的な責任の所在は発電事業者に残り続ける。「O&Mを契約しているから安心」という感覚と、法律が想定している責任の重心は、そろっていないことのほうが多い。
契約前に確認しておきたいポイント
トラブルの多くは、契約書の「保守点検業務一式」という一文の中身を、発電事業者と業者がそれぞれ違うイメージで読んでいたことに起因する。契約時に文言として明記しておきたい項目を挙げておく。
- 点検の頻度と点検項目(目視・絶縁抵抗測定・熱画像点検の有無など)
- 除草の要否・頻度・薬剤使用の可否
- パネル洗浄の要否・頻度・費用区分
- 故障発生時の初動対応時間の目安と、休日・夜間の対応可否
- 交換部材・予備品の保管有無と、手配にかかる想定期間
- 50kW以上の場合、電気主任技術者・保安規程の点検契約との関係(同一業者か別契約か)
- 保守点検責任者を誰にするか(委託先に判断権限まで委ねるのか)
一般に、価格の安いO&Mプランほど「異常発見時の報告」までが範囲で、復旧作業や除草・洗浄は別見積りになる傾向があるとされる。逆に高めのプランは、復旧対応や消耗品交換まで含めて定額にしていることが多い——とはいえ、これはあくまで業界の傾向にとどまる話であり、最終的にものを言うのは個別の契約書に書かれた文言だけだ。
O&M体制の見直し・部材のご相談について
O&M契約の範囲を見直す際、除草後の防草シート、絶縁抵抗計などの点検機器、コネクタ・接続部材の予備品調達などでお困りの場合は、電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)までご相談ください。
あわせて読みたい
関連する太陽光・O&M・契約・範囲・保守点検・義務の品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。