50MW級のメガソーラーの月次発電実績を、隣接するブロックごとに突き合わせていくと、妙な数字に行き当たることがある。パネルの設置年度もメーカーも同じ、日射条件もほとんど変わらないはずの2つのブロックなのに、片方だけが数%どころではない幅で発電量を落としている。経年劣化なら年0.5%前後という緩やかな下がり方をするはずだ、と最初は思う。ところが月次の記録を並べてみると、その落ち込みはある時期を境に急に加速していた。
これは緩やかな経年劣化ではなく、別の現象かもしれない——そう疑ったときに名前が挙がるのがPID(電圧誘起劣化、Potential Induced Degradation)だ。個々のパネルの経年変化としてではなく、システムの設計、とりわけ「電圧をどれだけかけているか」「どこを大地に落としているか」という接地の設計そのものに起因する現象だからこそ、大規模なメガソーラーほど発生条件がそろいやすい。何が起きているのか、なぜ規模が大きいほど起きやすいのか、そして防ぐ手立てと見つけ出す手立てを、一次情報に沿って順に見ていく。
PIDとは何か——劣化の分類の中に置いてみる
太陽電池モジュールの劣化を長年研究してきた産業技術総合研究所(AIST)太陽光発電研究センターは、モジュールの劣化要因を大きく3つに分類している。インターコネクタの剥離やフィンガー電極の破断による「物理的・機械的劣化」、封止材由来の腐食による「化学的腐食劣化」、そしてもう一つが、高いシステム電圧に起因し、比較的短期間で発現する「電圧誘起劣化」——PIDである。前の2つが、太陽光パネルの経年劣化として一般に語られる劣化曲線の主役だとすれば、PIDはその劣化曲線とは別の軸で、しかも短期間に牙をむきうる劣化として位置づけられている。
「電圧誘起劣化」という名前が示すとおり、PIDの主因は経年でも紫外線でもなく、電圧そのものだ。京セラの用語集も、PIDを「高温多湿条件において、メガソーラーのようにパネルに高電圧が印加される場合、接地されたフレームとモジュール内部回路の間に大きな電位差が生じ、それに伴う電流漏れにより出力特性が低下する現象」だと説明している。太陽電池モジュールを複数枚直列に接続してシステムを組むと、ストリングの端に位置するパネルほど、大地に接地されたアルミフレームとの間に大きな電位差を抱えることになる。この電位差が引き金となって、カバーガラス表面から封止材、反射防止膜を経てセル内部へと向かう微弱な漏れ電流が発生し、出力低下として現れる——というのがPIDの基本的な発生機序である。
なぜメガソーラーほど起きやすいのか
AISTがPIDの関連要因として挙げる項目の並びを見ると、先頭に置かれているのは他でもなく「メガソーラー(高システム電圧)」だ。水分、高温、ソーダライムガラス、封止材、反射防止膜と続く要因の中で、電圧だけがシステムの設計そのものに属している。
システム電圧とは、ストリングの正極端から負極端までの合計電圧のことだ。1枚のパネルが生み出す電位差はわずかでも、数十枚を直列につなげば合計電圧は数百ボルトに達する。住宅用の小規模システムであればシステム電圧は数百ボルト程度にとどまることが多いが、大規模なメガソーラーでは、パワーコンディショナの入力電圧範囲を活かして長いストリングを組むほうが変換効率や配線コストの面で有利になるため、システム電圧自体を高く設計する傾向がある。ストリングが長くなるほど、末端のパネルとフレームとの電位差は開いていく。「メガソーラーほどPIDが起きやすい」と言われる理由は、電圧設計そのものにある。
セルの中で起きていること——ナトリウムイオンの侵入
もう一段深く見ると、この漏れ電流は単に「電気が漏れている」という話では終わらない。AISTの解析によれば、カバーガラス表面のナトリウムイオン(Na⁺)が、電位差によって封止材、反射防止膜を経てセル表面へと拡散し、さらにセル内部の結晶構造にまで入り込んでいく。この経路をTOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)で分析した研究では、PID劣化を起こしたモジュールのセル表面でNa⁺やその化合物イオンの検出強度が、未劣化品と比べて大幅に増加していたことが確認されている。
厄介なのは、このNa⁺の作用が一様ではないという点だ。AISTの解説は、Na⁺の作用を2つの過程に分けている。一つは、Na⁺によるバンドベンディング(半導体内部のエネルギー準位の傾き)の低減で、これは条件によっては回復可能な過程とみられている。もう一つは、Na⁺が半導体内に不純物準位そのものを作り出してしまう過程で、こちらは回復が難しい過程とみられている。実際、AISTの実験では封止材の種類によって挙動が大きく異なることも確かめられている。EVA樹脂を封止材に使ったモジュールでは-1000Vを1.5時間かけただけでIV特性が明確に崩れたのに対し、アイオノマー樹脂を使ったモジュールでは同じ-1000Vを72時間かけても、ほとんど変化が見られなかった。同じ電圧、同じ湿度条件でも、封止材という一つの部材の違いだけでPIDへの耐性がまるで別物になる。
どれほどの速さで崩れるのか
回復する場合があると聞くと、それほど深刻な現象には思えないかもしれない。だが、進行するときの速さを見ると、印象は変わる。
AISTがp型結晶Si太陽電池モジュールを対象に行った-1000V・85℃という加速試験では、開始から0.5時間の時点でも変換効率は16.4%から15.9%へとわずかに落ちる程度だった。ところが1.5時間後には7.9%、2.5時間後には2.5%、19時間後には0.1%にまで落ち込んでいる。電流(Isc)や電圧(Voc)はこの間比較的緩やかにしか下がらないのに対し、曲線因子(FF)だけが1.5時間の時点で0.75から0.40へと先に大きく崩れているのが目を引く。これはあくまで劣化のメカニズムを調べるための加速試験の数字であり、現場のパネルが数十時間で発電しなくなるという意味ではない。ただし、通常の経年劣化が年単位でじわじわ進むのに対し、PIDは条件がそろえば桁違いに短い時間で進行しうるという性質そのものは、この実験結果が裏づけている。
どう防ぐか(1)——PID耐性パネルという選択
対策の第一段は、そもそもPIDが起きにくいパネルを選ぶことだ。前段で見た封止材の違いのように、モジュールの構成部材によってPIDへの耐性は大きく変わる。長州産業は、ISO/IEC17025認証取得の第三者試験機関である株式会社ケミトックスにおいて、温度60℃・相対湿度85%・電圧1000V・試験時間96時間という条件で自社モジュールのPID耐性試験を実施し、耐性を有することを実証したと公表している。
ただし注意したいのは、この種の耐性試験に国際的に統一された単一の基準があるわけではないという点だ。AISTが各研究機関のPID試験条件をまとめた比較表を見ると、試験温度は25〜85℃、印加電圧は750V前後から1000V超(あるいはシステムの最大電圧を基準)、試験時間は21時間から1000時間まで、機関ごとに大きくばらついている。湿度についても、あえて設定しない機関がある一方、AIST自身は逆に湿度2%未満というほぼ無湿の条件を選んでいる。これは湿度をかけると劣化が遅すぎて材料の優劣を判定しにくくなるためで、狙いが「実環境の再現」ではなく「短時間での部材選別」に置かれているからだという。「PID耐性」を謳うパネルを比較する際は、その耐性がどの条件で確認された結果なのかまで確認する必要がある。
どう防ぐか(2)——負接地方式への変更
パネル選定と並んで語られるのが、システム側、とりわけ接地方式の見直しだ。太陽電池の負極を接地する「負接地」を採用すると、大地を基準にしたときすべてのセルの電位がプラス側になり、ガラス側からのナトリウムイオンの侵入が起きにくくなるとされる。
この切り替えは、配線をつなぎ変えるだけで完結する話ではない。安川電機の技術資料によれば、同社のパワーコンディショナ製品はP/N極接地用の端子を標準搭載し、内部のコネクタを差し替えることで正極・負極どちらでも接地方式を選べるように設計されている。逆に言えば、こうした端子構成を持たないパワーコンディショナでは、パネル側の配線だけを変えても対応しきれない場合がある、ということだ。負接地はパネル単体の対策ではなく、採用しているパワーコンディショナの仕様まで含めて検討すべき対策だといえる。
どう防ぐか(3)——夜間に逆電圧をかけるという発想
3つめの対策は、パネル選定でもシステム設計でもなく、運用でPIDに対抗する発想だ。先に見たとおり、PIDによる劣化の一部は、電位差の向きを逆にすることで回復させられる可能性がある。AISTの回復試験では、85℃の環境下で+1000Vという逆向きの電圧をかけ続けたところ、4日、7日という単位で発電性能が部分的に回復する様子が観測されている。
この原理を実運用に落とし込んだ対策装置も、すでに製品化されている。業界誌PVeyeが報じたところによれば、中国・上海質衛環保科技が発売したPID対策装置は、パワーコンディショナの直流側に設置し、ストリング電圧が60V以下になった状態——実質的に発電が止まる夜間などを想定した状態——を自動検知して逆バイアス電圧を印加する仕組みだという。同社の発表では、この装置によって約1か月で出力の9割程度まで回復するとされている。パネルを交換することなく、発電を終えた時間帯を使って劣化を押し戻すという発想は、大量のパネルを抱えるメガソーラーの運用側にとって現実的な選択肢の一つになっている。
どう診断するか——EL検査とIV測定
対策を検討する前に、そもそも今起きている出力低下がPIDによるものなのかを見極める必要がある。施工不良、パネルの個体差、周辺にできた新たな影——原因はいくらでも考えられる中で、PIDを特定の現象として切り分けるための代表的な手法が、EL検査とIV測定の2つだ。
EL検査(エレクトロルミネッセンス検査)は、モジュールに電流を流してセルを発光させ、専用カメラでその発光の様子を撮影する検査だ。太陽光パネル用の検査装置を手がける株式会社アイテスによれば、EL検査は電力の供給を通じて内部の欠陥を可視化する手法で、断線やクラックだけでなく、素子そのものの劣化も観察対象になるという。AISTのPID試験でも、劣化前は明るく均一に発光していたセルが、劣化の進行とともに部分的に、そして全体的に暗く落ちていく様子がEL画像として記録されている。健全なセルとPIDで劣化したセルの違いは、この発光ムラとして目に見える形で表れる。
IV測定(電流-電圧特性の測定)は、EL検査で見つかった異常の程度を数値化する役割を担う。先に見たAISTのデータが示していたように、PIDの初期段階では電流(Isc)や電圧(Voc)はさほど崩れないのに、曲線因子(FF)だけが先に大きく落ち込む、という特有のパターンが見られる。定期点検のたびにストリングごとのIV特性を記録しておけば、経年劣化のような全体的で緩やかな下がり方と、FFだけが局所的に急落するPID特有の下がり方とを、数字の上で区別できるようになる。
システム電圧を高く設計せざるを得ないメガソーラーほど、この2つの検査を保守点検のサイクルに組み込んでおく価値は大きい。パネル選定の段階でPID耐性の試験条件を確認し、パワーコンディショナの接地方式を把握し、それでも出力低下の兆候が出たときにEL検査とIV測定で原因を切り分ける——この一連の流れを組み立てておくことが、経年劣化とは別枠で管理すべきもう一つのリスク管理になる。
FAQ
Q. PIDは普通の経年劣化とどう違うのですか?
A. 原因も進み方も別物です。一般的な経年劣化はインターコネクタの断線や封止材由来の電極腐食が主因で、年0.5%前後という緩やかなペースで進みます。これに対しPIDは高いシステム電圧そのものが引き金となって、ナトリウムイオンがセル内部へ拡散することで生じる劣化で、産業技術総合研究所(AIST)の分類でも経年劣化とは別枠の「比較的短期間で発現する」劣化として位置づけられています。条件がそろえば経年劣化よりはるかに短い期間で進行しうる点、また一部は電圧の向きを変えることで回復しうる点も、通常の経年劣化とは異なります。
Q. なぜ住宅用より発電所(メガソーラー)のほうが問題になりやすいのですか?
A. システム電圧の設計が異なるためです。PIDは、大地に接地されたパネルのフレームと、ストリング内のセルとの間に生じる電位差が引き金になります。ストリングを長く直列に組むほどこの電位差(システム電圧)は大きくなり、パワーコンディショナの入力電圧範囲を活かして長いストリングを組む傾向がある大規模なメガソーラーほど、末端のパネルとフレームの電位差が開きやすくなります。京セラの用語集でも、PIDはメガソーラーのように高電圧が印加される場合に生じる現象として説明されています。
Q. 負接地方式に変更すればPIDは必ず防げますか?
A. 有効な対策の一つですが、必ず防げると断言はできません。太陽電池の負極を接地すると大地基準ですべてのセルの電位が正側になり、ナトリウムイオンの侵入が起きにくくなるとされています。ただし安川電機の技術資料が示すように、この接地方式の変更は配線だけで完結する話ではなく、対応するP/N極接地端子を備えたパワーコンディショナ側の設計を前提とすることが多い対策です。採用しているパワーコンディショナが対応しているかをまず確認する必要があります。
Q. 一度発生したPIDは元に戻せますか?
A. 程度によります。AISTの研究では、PIDによる劣化のうちナトリウムイオンによるバンドベンディングの低減が主因である場合は、室温での長期放置や逆向きの電圧印加によって回復した例が報告されています。一方、ナトリウムイオンが半導体内に不純物準位を作り出してしまった場合は回復が難しいとみられています。パワーコンディショナの直流側に設置し夜間の低電圧時に自動で逆バイアス電圧を印加する対策装置も製品化されており、約1か月で出力の9割程度まで回復したとする報告もありますが、劣化の内実によって効果は変わりうるものと考えられます。
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