太陽光発電所の保守点検報告書を受け取った担当者が、一覧の中の一行で手を止める。「IMD異常検知」。パワーコンディショナ(PCS)の型式や出力の数字は読み慣れているのに、その三文字だけは意味がつかめない。担当者に聞いても「絶縁関係の警報らしい」という以上の答えが返ってこないことも珍しくない。
無理もない。IMDは漏電遮断器のように分電盤の中で目に見える形をしているわけではなく、パワコンの内部か、専用の小さな装置としてひっそり組み込まれている。存在に気づかれないまま、日々の発電の裏で絶縁状態を見張り続けている装置だからだ。
絶縁監視装置(IMD)とは何か
IMD(Insulation Monitoring Device、絶縁監視装置)とは、接地されていない直流回路——非接地系、あるいはIT系統と呼ばれる配線方式——において、電路と大地の間の絶縁抵抗値を常時測定し続ける装置のことだ。国際規格IEC 61557-8は、この非接地系向けの絶縁監視装置に求められる要件を定めており、2014年版では新たにAnnex Cとして太陽光発電システム向けのIMD(PV-IMD)、Annex Dとしてパワーコンディショナや充電コントローラに内蔵される絶縁監視機能(PV-IMF)の規定が追加されている。太陽光発電の直流側は、この非接地系の代表格に当たる。
ドイツBender社の日本総代理店であるPROTRADの解説は、IMDの仕組みをもう一段踏み込んで説明している。IMDは絶縁抵抗値そのものを直接測定する装置であり、地絡電流(実際に漏れ出した電流)を監視する装置とは「仕組みも全く異なる」というのだ。この一文は、次の節で扱う疑問――なぜ漏電遮断器だけでは足りないのか――に、そのまま答えの半分を用意している。
なぜ太陽光発電では漏電遮断器だけでは不十分なのか
漏電遮断器は、行きの電線と帰りの電線に流れる電流の差(零相電流)を零相変流器で検知し、その差が一定値を超えた瞬間に電路を遮断する仕組みだ。正常な回路なら行きと帰りの電流は等しいはずで、どこかに漏れがあれば差が生まれる——この発想自体は、非接地の直流回路でも成立しそうに見える。
ところが、産業技術総合研究所(AIST)太陽光発電研究センターの技術資料は、この発想がそのままでは通用しない具体的な数字を示している。零相電流監視の検出感度が100mAだった場合、対地電圧が160Vの箇所であっても、絶縁抵抗が1.6kΩにまで低下しない限り地絡として検出できない。絶縁抵抗が2kΩまで下がった状態は、それ自体すでに地絡故障と呼ぶべき状態であるにもかかわらず、零相電流の監視だけではこれを見つけられないというのが同資料の指摘である。
太陽光発電の直流回路には、もう一つ厄介な事情がある。地絡箇所がたまたま大地とほぼ同電位であれば、原理的に漏洩電流そのものがほとんど発生しない場面があり得る。漏電遮断器は「流れているはずの電流の乱れ」を手がかりにする装置である以上、その乱れが表に出てこない絶縁劣化には、構造上どうしても弱くなる。
同資料はさらに、この「検出不感帯」を放置した場合に起こり得る事故の筋道を、段階を追って示している。まず不感帯の中で第一の地絡故障が発生する。検出されないまま運転は続く。やがて不感帯の外で第二の地絡故障が発生する――今度は検出されるが、すでに第一・第二の地絡点を通る事故電流そのものは遮断できず、事故が拡大する。交流の電気設備であれば、第二地絡が起きた時点で系統から事故点を解列できる可能性が高いのに対し、直流回路の二点地絡は電路を開放しても事故電流が終息しないため、より危険度が高いという評価も添えられている。
一段引いて捉え直すと、漏電遮断器とIMDは競合する装置ではなく、見ている対象がそもそも違う。漏電遮断器が拾うのは「電流の異常」、IMDが拾うのは「絶縁抵抗という数値そのもの」だ。前者は乱れが表面化してから初めて動く仕組みであり、後者は乱れが表面化する前の劣化の進行を、値として追い続ける仕組みだと言える。
IMDの動作原理――絶縁抵抗を”数値”として常時算出する
では、IMDは絶縁抵抗をどうやって直接測る値として取り出しているのか。AIST資料は、実用化されている方式を比較した表(表2.3-4)を示している。零相電流監視方式・抵抗分圧中点接地方式は検出不感帯を避けられず、常設可能な監視という条件は満たすが検出漏れのリスクを抱える。一方、交流またはパルス信号を電路に注入する方式は、電力系統には存在しない低周波の監視信号を線路に重畳し、絶縁劣化にともなう漏れ電流を高調波成分などと区別して検出する。この方式は検出不感帯がなく、常設して頻繁に監視できるという二条件を満たす。
この信号注入方式にも弱点はある。太陽電池アレイの対地静電容量が製品の想定範囲を超えると、不要動作(誤検出・検出漏れ)が起きる恐れがあることが、複数メーカー製品の評価実験を通じて確認されている。設備の規模に対して監視装置の適用範囲が見合っているかどうかは、机上のスペック確認だけで済ませず、実際の設備条件と照らして選ぶべき項目になる。
もう一つ、日置電機やマルチ計測器といった国内メーカーが製品化している自己バイアス方式という手法もある。太陽電池ストリングの正極・負極それぞれを抵抗を介して接地したときの漏洩電流と、ストリングの極間電圧、接地に用いた抵抗値――この4つの情報から、絶縁抵抗値と地絡が起きている位置の両方を割り出す。信号注入方式が「常時監視には強いが位置特定は苦手」であるのに対し、自己バイアス方式は「位置まで特定できるが、常設して使う想定ではない」という逆の性質を持つ。点検時にピンポイントで原因箇所を突き止めたい場面と、日々の運転中にとにかく異常の芽を見逃したくない場面とでは、必要な装置の性格が違う、ということでもある。
警報が出たときにどう考えるべきか
IMDが警報を出したとき、まず押さえておきたいのはAIST資料が引くIEC62109-2の考え方だ。絶縁抵抗値が所定値を下回った際には、機器に内蔵された目に見える・耳に聞こえる信号と、外部から検知・利用できる電気的な信号の両方で発報することが求められている。絶縁型のパワーコンディショナでは警報を出しつつ運転継続が許容される場合があるのに対し、非絶縁型では発報と同時に系統からの解列(運転停止)が求められる。つまり「異常は分かったが、とりあえずそのまま様子を見る」という判断は、機種によってはそもそも選択肢になっていない。
対応の順序として大切なのは、警報を消すこと自体を目的にしないという一点である。第一の地絡が検出されずに放置され、二点目の地絡が生じて初めて事故に至る――先に見た事故の筋道を思い出せば、警報は「もう一段深刻な状態に進む前の最後の合図」だと分かる。原因箇所の特定と是正までを一続きの対応として扱う姿勢が、この装置の役割に見合っている。
非接地系と接地系――設計思想の違いをもう一段深く
ここまでの話は、そもそも「なぜ太陽光の直流回路をわざわざ非接地のままにしておくのか」という一段手前の疑問に戻ってくる。接地してしまえば、地絡が起きた瞬間に大きな電流が流れ、漏電遮断器で素直に検出できるようにも思える。
電気設備の技術基準の解釈第36条は、この設計上の選択に規定を与えている。太陽電池モジュールに接続する直流電路が、①非接地であること、②その電路に接続する逆変換装置の交流側に絶縁変圧器を施設すること、③直流電路の対地電圧が450V以下であること――この三条件を満たす場合、金属製外箱等への地絡遮断装置(自動遮断)の施設義務そのものが除外される。つまり非接地という構成は、規定を回避するための便法ではなく、法令が正面から認めている設計思想の一つだということになる。
ただし、この規定はあくまで「自動遮断装置の設置義務を外してよい」という話であって、「絶縁状態を見なくてよい」という話ではない。むしろ自動遮断という安全網が外れる分だけ、絶縁抵抗そのものを継続的に見張る仕組みの重要性が高まる、と読むべきだろう。IMDが担っているのは、まさにこの「除外された自動遮断の代わりに、劣化の芽を数値で拾い続ける」役割である。非接地系と接地系は、どちらが優れているという話ではなく、事故を防ぐための着眼点が根本から異なる二つの設計思想なのだと理解しておきたい。
定期点検で確認すべきこと
日本電機工業会(JEMA)と太陽光発電協会(JPEA)が策定した保守点検ガイドライン(JM19Z001)は、絶縁関連の点検項目と周期を具体的に示している。屋根設置など一般用電気工作物に区分される設備では、回路ごとの絶縁抵抗測定を1回/4年の周期で行うことが目安とされ、その適合判定は電気設備の技術基準を定める省令第58条の規定に基づく。事業用電気工作物に区分される設備では、PCS入力端子-接地間およびPCS出力端子-接地間の絶縁抵抗測定を1回/年の周期で行い、あわせて「直流地絡検出装置の機能確認」という項目も、製造業者の指定する方法に従って1回/年実施することが挙げられている。
点検の現場でチェックしておきたい項目を整理すると、次のようになる。
- 絶縁抵抗測定の記録――回路ごとの測定値が規定値を継続的に満たしているか、経年での低下傾向がないか。
- IMD・直流地絡検出装置の動作確認――製造業者が指定する方法で、警報機能そのものが生きているかを確認する。
- 対地静電容量とのバランス――増設・改修で回路構成が変わった際、監視装置の適用範囲を超えていないか。
- 警報履歴の確認――過去に発報があった場合、原因箇所の是正が完了しているか、記録として残っているか。
- JET PV O&M認証など第三者点検の活用――電気安全環境研究所(JET)は、太陽電池モジュール・アレイから接続箱・集電箱・パワーコンディショナに至る直流電気回路とサイト環境を対象にした保守点検認証制度を設けている。自社点検の基準を外部の枠組みと照らし合わせる材料になる。
絶縁抵抗という数値は、一度測って終わりにできる性質のものではない。劣化は静かに進み、ある日突然に閾値を割り込むわけではないからこそ、継続的に数値を追いかける仕組みと、その仕組み自体が生きているかを定期的に確かめる点検の両方が要る。
FAQ
Q. IMD異常の警報が出たら、発電を止めるべきですか?
A. 非絶縁型のパワーコンディショナでは、絶縁抵抗値が所定値を下回った時点で警報と同時に系統からの解列(運転停止)が行われる設計が一般的です。絶縁型の一部機種では警報を出しつつ運転継続が許容される場合もありますが、いずれにせよ絶縁低下は放置すると二段階目の地絡による事故につながり得るため、警報が出た時点で原因箇所の特定と是正を進める前提で対応します。
Q. IMDと漏電遮断器は、どちらか一方があれば十分ではないのですか?
A. いいえ。両者は検出している物理量そのものが異なります。漏電遮断器は行きと帰りの電流の差(零相電流)という『電流の異常』を検出する装置で、太陽光の直流側のような非接地回路では原理的に苦手な領域があります。IMDは電路と大地の間の絶縁抵抗という『抵抗の数値』を直接監視する装置です。どちらか一方で代替できる関係ではなく、役割分担として両方が組み込まれています。
Q. 絶縁抵抗の基準値はどれくらいですか?
A. パワーコンディショナメーカーの技術資料では、太陽電池モジュールの絶縁抵抗の目安として薄膜型で40MΩ程度、単結晶・多結晶型で50MΩ程度が示されている例があります。ただし基準値は機種や規格によって異なるため、実際の判定は個別の取扱説明書・保守点検ガイドラインの規定値に従う必要があります。
Q. なぜ太陽光の直流回路は、わざわざ非接地にするのですか?
A. 電気設備の技術基準の解釈第36条は、太陽電池モジュールに接続する直流電路が非接地・逆変換装置交流側への絶縁変圧器施設・対地電圧450V以下という条件を満たす場合、地絡遮断装置の施設義務を除外できると定めています。この規定を活用する設計では、直流側を非接地のまま扱うことになり、その代わりに絶縁状態そのものを継続的に見張る仕組みが必要になります。IMDはその役割を担う装置です。
Q. IMDが警報を出していなければ、絶縁は健全と考えてよいですか?
A. 多くの場合はそう考えて差し支えありませんが、無条件に安全とは言い切れません。監視信号を注入する方式のIMDは、太陽電池アレイの対地静電容量が製品の想定範囲を超えると不要動作(誤って検出しない、あるいは誤って検出する)の可能性があることが技術資料で指摘されています。設備の規模や配線構成に対して製品の適用範囲が合っているかは、選定時に確認しておくべき事項です。
絶縁監視装置・地絡検出関連部材の調達について
「既設パワーコンディショナのIMD機能の有無を確認したい」「増設に合わせて絶縁監視装置と対地静電容量の適合を確認してほしい」といったご相談を、太陽光発電設備の保守・改修を担当される事業者様からいただきます。
絶縁監視装置は方式によって検出できる範囲や適用条件が異なり、既設設備の増設・更新では現行の電気設備の技術基準に適合するかどうかの確認が欠かせません。当サービス「電材サーチ」では、絶縁監視装置本体から関連する保護機器まで、仕様の確認からまとめての見積もりまでご相談いただけます。
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