停電のたびに、屋根の太陽光パネルは律儀に日差しを浴び続けている。にもかかわらず、屋内のコンセントは沈黙したままだ。「せっかく発電しているのに、なぜ使えないのか」——この素朴な疑問を、太陽光発電設備を導入した施主から一度も受けたことがないという電気工事店は、おそらく少ない。
答えの見当は、多くの人がすでに持っている。「安全のためだろう」というものだ。その勘は正しい。ただし、何から誰を守るための安全なのかまで正確に説明できる人は、思ったより少ない。停電中に危険にさらされるのは、屋内で電気を待つ住人ではなく、その電線の先で作業する電力会社の人間だという事実は、意外と共有されていない。
単独運転とは何か——「発電しているのに使えない」の正体
系統連系型のパワーコンディショナ(PCS)は、停電を検知すると系統連系保護機能によって発電を自動停止し、系統から切り離される。これは仕様上の制約というより、系統連系規程が要求する安全装置の作動そのものだ。オムロン ソーシアルソリューションズの解説によれば、PCSは周波数や電圧の異常な上昇・低下を検出すると、太陽光発電システムと電力系統とを速やかに遮断する仕組みを持つ。
問題は、この遮断がいつも一瞬で確実に働くとは限らないという点にある。太陽光発電設備の出力と、その周辺で使われている負荷(消費電力)がたまたま釣り合っていると、系統が停電しても電圧や周波数に目立った異常が現れない。PCSが「まだ系統は生きている」と誤認したまま発電を続けてしまう——この状態こそが単独運転である。系統からの助けを借りず、発電設備単独で連系点の電気を支え続けてしまうという意味で、そう呼ばれている。
なぜ単独運転がそれほど危険なのか——復旧作業員の感電リスク
単独運転の何が問題なのかは、電力会社の復旧作業を思い浮かべると見えてくる。株式会社計測技術研究所の解説は、単独運転状態では停電している電線に発電設備側から電力が送り込まれてしまう可能性(逆潮流)を指摘し、その結果「系統の復旧作業を行っている作業員が感電するなど、重大な事故につながる危険」があると説明する。Wave Technologyの解説も同様に、連系点に電圧が印加されたままの状態で系統側の事故調査・修理をする作業員が感電する恐れを挙げている。
作業員は、停電区間の電線は無電圧だという前提で、絶縁保護具の着用や作業手順を組み立てる。ところが単独運転が起きていれば、その前提そのものが崩れる。目に見える形で発電を続けているわけではないパネル1枚1枚が、遠く離れた電線の先で、無電圧のはずの導体に電圧を与え続けているとしたら——現場で電線に触れる作業員にとって、これほど発見しづらい危険もない。系統連系型の太陽光発電設備が世の中に増えるほど、この「見えない加害者」になり得る設備の数も増えていく。だからこそ、単独運転の防止は太陽光発電を系統に接続するうえで避けて通れない、最優先の保護機能として位置づけられている。
単独運転を検出する二つの発想——受動的方式と能動的方式
では、PCSはどうやって単独運転という「電圧も周波数もほぼ正常に見える異常」を見つけ出しているのか。方式は大きく二つに分かれる。
一つは受動的方式だ。系統電圧や周波数の変化を常時監視し、異常が生じた瞬間にそれを単独運転の兆候として捉える。日本電機工業会(JEMA)が示す代表例「周波数変化率検出方式」では、検出レベルを0.8〜5.0Hz(初期値1.2Hz)の範囲に整定し、0.5秒以内に検出することが求められている。構成がシンプルで応答も速い一方、発電量と負荷がきれいに釣り合っている場面では周波数や電圧の変化がごくわずかにしか現れず、検出しにくいという弱点を抱える。
もう一つが能動的方式だ。PCS側から系統に対して、ごくわずかな無効電力の変動(ステップ注入)や周波数への意図的な揺らぎ(周波数フィードバック)を継続的に加えておく。系統につながっている間は、この揺らぎは大きな系統インピーダンスに吸収されてほとんど影響を残さない。ところが系統から切り離された単独運転状態になると、その小さな揺らぎがみるみる増幅されていく。JEMAが標準形として定めた「ステップ注入付周波数フィードバック方式」は、まさにこの原理を組み合わせたもので、受動的方式が苦手とする「負荷と発電量が釣り合った場面」でも高速かつ非干渉に検出できるよう開発された。実際のPCSの多くは、この受動的方式と能動的方式を併用することで、片方だけでは残る検出の穴を埋めている。
PCSに内蔵される保護機能——OVR・UVR・OFR・UFRという略称の中身
単独運転検出だけが、PCSに求められる保護機能ではない。一般財団法人 電気安全環境研究所(JET)が実施する系統連系保護装置の認証項目を見ると、低圧連系のPCSには次のような機能が求められていることが分かる。
- 交流過電圧・不足電圧(いわゆるOVR・UVR。系統電圧が上下限を外れたら遮断する)
- 周波数上昇・周波数低下(いわゆるOFR・UFR。系統周波数の異常を検知して遮断する)
- 単独運転防止1・2(前述の受動的方式・能動的方式に相当する)
- 直流分検出(インバータの直流成分が系統側に流出していないかの監視)
- 逆電力防止(意図しない逆潮流の抑制)
- 復電後の一定時間投入阻止(停電から復旧した直後、系統がまだ不安定なタイミングでの再投入を防ぐ)
これらは個々に独立した回路というより、一つのPCS内部で連携して働く保護継電器群だと捉えたほうが実態に近い。系統電圧・周波数という「外から見える異常」をOVR/UVR/OFR/UFRが受け持ち、負荷と発電量が釣り合ってしまう「見えにくい異常」を単独運転検出機能が受け持つ、という役割分担である。
系統連系規程が求めるもの——JET認証という第三者のお墨付き
これらの保護機能は、メーカーが思い思いに実装しているわけではない。資源エネルギー庁の「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」と、それを民間規格に落とし込んだ日本電気技術規格委員会の「系統連系規程(JESC E0019)」が、分散型電源を系統に接続する際に満たすべき保護要件を定めている。公益社団法人 日本電気技術者協会(JEEA)の解説によれば、こうした技術要件は1986年の策定以来、特別高圧系統ではUFR・OFRを、高圧・低圧系統では単独運転検出装置を軸に整備されてきた経緯を持つ。
とはいえ、電力会社が新規連系のたびにPCS一台一台の保護性能をゼロから試験していては、審査は追いつかない。そこで実務上の要になっているのが、JETによる「系統連系保護装置等認証」だ。JETがガイドラインと電気設備の安全性に関する法令への適合性をあらかじめ確認し、工場が認証時と同等の品質で量産を継続できるかまで検査することで、認証済み機種は電力会社との個別の性能確認試験を省略できる。施工店が型番を見て「JET認証済み」と確認するだけで済むのは、この第三者認証の仕組みが背後で保護性能を担保しているからだ。
JEEAの解説はもう一点、見逃せない指摘を残している。分散型電源が増えるほど発電量と負荷が釣り合う場面も増え、単独運転検出装置の性能だけで安全を担保しきれるかどうかは「定かではない」というものだ。太陽光の普及が進むほど、単独運転防止は「一度設計すれば終わり」ではなく、系統全体の状況とあわせて注視し続けるべき課題であり続けている。
自立運転機能との違い——非常用コンセントはなぜ単独運転にならないのか
ここまでの話を聞くと、一つの疑問が残る。「停電時に太陽光の電気が使える」という宣伝文句を見たことがある人は多いはずだ。単独運転を厳格に防ぐPCSが、なぜ停電中に電気を出せるのか。
答えは、系統連系運転とはまったく別の自立運転という動作モードにある。オムロン ソーシアルソリューションズの説明によれば、自立運転は系統から完全に切り離した状態を作ったうえで、専用の自立運転用コンセント(多くはAC100V・上限1,500W程度)だけに電力を供給する仕組みだ。家中の分電盤に電気を流し込むわけではなく、あくまで限られた専用コンセントに限定される。系統への逆潮流が構造的に起こり得ない以上、これは単独運転とは別物の、安全に切り分けられた動作である。
もう一つ見落とされがちなのが、この切り替えが自動ではない機種が多いという点だ。CSIソーラーの解説では、停電を検知すると自動的に自立出力へ切り替わる機種がある一方、多くの機種では運転スイッチを手動で操作しなければ自立運転に入れない。さらに厄介なのは復電後で、系統連系運転へ手動で戻す操作を忘れると、電力会社の系統が復旧しているのに宅内は自立運転のまま、という食い違いが生じ得る。「停電時に太陽光がある家は自動的に安心」というイメージは、この手動操作の存在によってやや修正を迫られる。導入時には、自立運転の有無だけでなく、切り替え操作が自動か手動かまで確認しておく価値がある。
保守点検でのチェックポイント
系統連系保護は、設置時に正しく設定すれば恒久的に安全というものではない。定期点検では、少なくとも次の点を確認しておきたい。
- JET認証ラベル・認証番号の確認。無認証品や、認証取得後に内部改造が加えられた機器は系統連系の要件を満たさない可能性がある。
- 保護継電器の整定値記録。OVR/UVR/OFR/UFRや単独運転検出の整定値が、連系協議時に届け出た値から変更されていないかを確認する。
- 動作試験の実施履歴。系統模擬電源装置を用いた擬似停電試験など、保護機能が実際に動作することを確認した記録があるか。
- 経年劣化によるリレーの動作遅れ。長期間交換されていない保護継電器は、整定通りの時間で動作するとは限らない。
- 自立運転機能付き機種の周知。自立運転用コンセントの位置と、切り替えが手動か自動かを施主・管理者が正しく理解しているか。
- 多数台連系時の相互干渉。同一系統に複数のPCSが連系している設備では、発電量と負荷が釣り合いやすくなり単独運転検出の感度が下がる場面がないか、増設のたびに見直す。
FAQ
Q. 停電中も太陽光発電のパワコンは電気を作り続けているのではないですか?
A. 系統連系型のパワーコンディショナ(PCS)は、停電を検知すると系統連系保護機能によって自動的に発電を停止し、系統から切り離されます。これは単独運転という危険な状態を防ぐための仕様で、標準的な系統連系型PCSは、自立運転機能を備えていない限り停電中に電気を使うことはできません。
Q. 単独運転とは具体的にどういう状態ですか?
A. 電力会社側の系統が停電しているにもかかわらず、太陽光発電設備がその区間に電気を送り続けてしまっている状態です。発電量と地域内の負荷(消費電力)がたまたま釣り合っていると、電圧や周波数に大きな異常が表れず、パワコン側が停電に気づけないまま発電を継続してしまうことがあります。
Q. 単独運転が起きると何が問題なのですか?
A. 最大の問題は、停電した電線の復旧作業にあたる電力会社の作業員の感電リスクです。作業員は系統が停電していることを前提に作業しますが、太陽光発電設備からの逆潮流によって連系点に電圧が印加されたままだと、無電圧だと思って触れた電線が生きている状態になり、重大な感電事故につながります。
Q. 自立運転機能があれば停電時も普段どおり電気が使えるのですか?
A. いいえ。自立運転は、パワコンを系統から完全に切り離したうえで、専用の自立運転用コンセント(多くはAC100V・上限1,500W程度)だけに電力を供給する別モードです。家中の分電盤へ供給されるわけではなく、機種によっては停電時の切り替えも復電後の系統連系運転への復帰も手動操作が必要です。
Q. 単独運転防止装置に故障や誤作動はありますか?
A. 整定値のズレや経年劣化によるリレーの動作遅れは点検対象になります。また分散型電源が多数連系すると、発電量と負荷がより釣り合いやすくなり、単独運転検出装置の検出性能そのものが課題になり得ることが専門家の解説でも指摘されています。定期点検で保護継電器の整定値記録と動作確認を行うことが重要です。
系統連系保護・PCS関連部材の調達について
「更新工事に合わせてJET認証済みのPCSと保護継電器の整合性を確認してほしい」「自立運転機能の有無で機種を比較検討したい」といったご相談を、施工店・設備管理担当者様からいただきます。
系統連系保護は型番ごとに整定範囲や認証区分が異なり、既設設備の更新では現行の系統連系規程に適合するかどうかの確認が欠かせません。当サービス「電材サーチ」では、PCS本体から保護継電器、自立運転用の周辺部材まで、仕様の確認からまとめての見積もりまでご相談いただけます。
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