冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。
竣工間近の北米工場、配電盤の前に立った電気検査官が手を止めた。パネル内の端子台を裏返し、探していたものが見つからないと言う。UL認証の刻印——cULusのマークがどこにもなかった。その場で検査官は不合格の判断を下し、赤いタグを貼り付けて現場を後にした。生産ラインの稼働開始日は、その一枚のタグのために先送りになった。
これは日本の電気工事士にとって、少し奇妙な話に聞こえるかもしれない。日本であればPSEマークのない配線器具は法律で販売自体が禁じられており、そもそも現場に届く前の話だ。ところが北米では、UL認証やCSA認証は法律そのものではない。にもかかわらず、検査官はその場で工事を止める権限を持っている。この「法律ではないのに、現場では絶対的な力を持つ」という構造こそが、UL・CSA規格を理解するうえで最初につまずきやすいポイントであり、電設資材商社が北米向け案件で必ず押さえておくべき論点でもある。
UL規格とは何か——民間の試験機関が始めた安全科学
UL(Underwriters Laboratories) の起源は1893年、シカゴで開催された万国博覧会にさかのぼる。若き電気技師ウィリアム・ヘンリー・メリルは、会場に持ち込まれた数多くの未検証の電気設備を検査する役目を担っていた。感電や火災のリスクを抱えたまま万博は開幕し、大きな事故なく閉幕したことで、交流電流が安全に利用できることが世に示された。その経験を経て、メリルは1894年3月24日、消防見張り所の2階に小さな独立試験室を開いた(UL Research Institutes「Our History」による)。従業員2名、設備投資350ドルという規模から始まったこの試験室が、後にUnderwriters Laboratories(UL)へと成長していく。
ここで押さえておきたいのは、ULが最初から「民間の、非営利の試験機関」として出発したという点だ。政府機関ではない。にもかかわらず、その試験結果が市場でこれほどの重みを持つようになった背景には、米国の労働安全衛生を所管するOSHA(労働安全衛生局)による制度的な後押しがある。1988年より前、連邦規則29 CFR 1910は、電気用品の認証機関としてULとFactory Mutual Research Corporation(FM)の2機関だけを名指しで規定していた。1988年の規則改正で「NRTL(全国的に認定された試験機関)」という枠組みが正式に整備され、ULはその第一号としてOSHAの認定を受けている(OSHA「NRTL Program」「NRTL Program - UL」による)。つまり「電気製品の安全性はULが証明する」という発想は、最初から複数機関の競争があったわけではなく、事実上ULとFMの独占状態から出発し、後から制度として整理された経緯を持つ。
もう一つ、意外と知られていない事実がある。私たちが「UL」と呼んでいる組織は、2022年6月から法人としては3つに分かれている。研究を担う非営利のUL Research Institutes、規格策定を担う非営利のUL Standards & Engagement、そして実際に試験・認証サービスを提供する営利法人のUL Solutionsだ(UL「UL Enterprise Launches New Brands」による)。電設資材の認証で実務上やり取りするのは、このうちUL Solutionsということになる。
CSA規格とは何か——第一次大戦の物資調達問題から生まれた規格団体
CSA(Canadian Standards Association、現CSA Group) の出発点は、ULとはまったく異なる。CSA Group自身の公式FAQによれば、同組織は1919年にCanadian Engineering Standards Association(CESA)として設立された。特筆すべきは、これが「産業・商業規格の策定のみを目的として設立されたカナダで最初の組織」だったという点だ。1つの試験所ではなく、国の規格をつくる機関として始まっている。その後、活動範囲の広がりを反映して1944年にCanadian Standards Association(CSA)へ、そして2012年に現在のCSA Groupへと改称した。
電気分野との関わりも古い。CSA Groupの電気規格ページは、同組織が規制当局・消費者・メーカー・電気業界とともに90年以上にわたって電気関係の規格を策定してきたと述べており、現在の700を超える電気規格のポートフォリオには、カナダ電気工事規程(Canadian Electrical Code)Part I・II・IIIが含まれている。
ULが「一つの博覧会の安全確保」という具体的な出来事から生まれたのに対し、CSAは「国全体の技術資材をどう標準化するか」という、より制度設計寄りの問題意識から生まれている。この出自の違いは、ULが試験・認証サービスの色合いが強く、CSAが規格策定団体としての性格を色濃く残していることにも表れている。現在のCSA Group Testing & Certification Inc.は、カナダ標準協議会(SCC)から認定された試験・認証機関(Accredited Certification Organization)として位置づけられている(Standards Council of Canada「CSA Group Testing & Certification Inc.」による)。
なお、電設資材の調達で実務的に効いてくるのは、CSAがカナダ国内だけの機関ではないという点だ。CSA Group自身のFAQは、米国でもOSHAからNRTL(Nationally Recognized Testing Laboratory)として認定され、ANSI・EPA・DOEからも認定・承認を受けていると明記している。ULとCSAは、それぞれの国の「地元の認証機関」というより、両国の市場でどちらも通用する認証機関として並び立っている、というのが現在の実態に近い。
マークの見た目と意味——UL・cUL・cULus・cCSAusは何が違うのか
電設資材の現物やカタログで目にする認証マークは、実はいくつかの系統に分かれる。整理すると次のようになる。
| マーク | 意味 |
|---|---|
| UL Listed(丸にULのマーク) | 完成品として米国基準に適合していると認証されたもの |
| UL Recognized Component(逆さのRUマーク) | より大きな機器に組み込まれる部品・コンポーネントとして条件付きで認証されたもの。単体では完成品としての安全性を証明しない |
| cUL | カナダ基準(CEC)への適合をUL社が認証したもの |
| cULus | UL社が米国基準(NEC等)・カナダ基準(CEC)の両方への適合を単一マークで認証したもの |
| CSAマーク | CSA社がカナダ基準への適合を認証したもの |
| cCSAus | CSA社が米国・カナダ両基準への適合を単一マークで認証したもの |
ここでもう一つ、見落とされがちな構造がある。「ULは米国向け、CSAはカナダ向け」という単純な色分けは実は正確ではない。ULはSCCから認証機関として認定されており、カナダ向けの認証(cUL・cULus)を発行できる。逆にCSAも米国OSHAのNRTLとして認定されており、米国向けの認証(CSA NRTLマーク・cCSAus)を発行できる(Control.com「CSA vs. UL Certifications」による)。つまり製品に付いているマークが「UL」なのか「CSA」なのかは、どちらの国向けの製品かではなく、製造事業者がどちらの認証機関に依頼したかという選択の違いを表しているにすぎない。cULusとcCSAusは、証明している内容としてはほぼ同等だと理解しておいてよい。
なぜ北米向け設備でUL・CSA認証が必須になるのか——NECと「現場で止められる」仕組み
日本の感覚では意外に思えるかもしれないが、UL・CSAはそれ自体が連邦法や州法ではない。義務付けの根拠は、米国の電気工事規程であるNEC(National Electrical Code、NFPA 70)にある。NEC 110.3(B)は「認証済み(listed)または表示済み(labeled)とされた機器は、その認証・表示に付属する指示に従って設置・使用しなければならない」と定めている(IAEI Magazine「The Importance of NEC 110.3」による)。この一文が、現場で認証マークの有無を確認する根拠になる。
そして実際にこの規定を現場で執行するのが、AHJ(Authority Having Jurisdiction、管轄当局)と呼ばれる電気検査官だ。冒頭の情景のように、AHJは認証マークのない設備を検査で発見した場合、その場で是正を求める権限を持つ。マークのない機器を暫定的に使い続けたい場合は、第三者のField Evaluation Body(現地評価機関)による個別の現地評価を受け、Field Evaluationラベルを取得するという代替手段も用意されている(Lewis Bass「Field Evaluation Bodies and Field Labeling in Electrical Work」による)。つまりUL・CSA認証は「取得しなければ製品を売ってはいけない」という日本のPSEのような形の強制力ではなく、「現場でその都度、認証の有無を突きつけられる」という形で実質的な強制力を持つ制度なのである。
さらに厄介なのは、カナダには米国のNECとは独立したカナダ電気工事規程(CSA C22.1)があるという点だ。両者は共通の系譜を持ちながら、347/600Vというカナダ独自の電圧体系を含むなど、技術要件が異なる部分がある(ANSIブログ「Parts of the Canadian Electrical Code」による)。米国向けにULの認証だけを取得した製品は、カナダの現場ではCECへの適合が別途問われる可能性がある。だからこそ、両国にまたがる案件ではcULus・cCSAusのように両国基準を一つのマークでカバーする認証が実務上好まれる。
PSEとの違い——「法律そのもの」と「工事規程が要求する認証」
ここまで読むと、PSEとUL・CSAは似たような制度に見えるかもしれない。しかし根本の設計思想は異なる。
日本のPSEは、電気用品安全法という法律に基づく表示であり、事業者に届出義務・自主検査義務を課し、特定電気用品(菱形)についてはさらに第三者機関による適合性検査まで義務付けている。表示のない電気用品を販売・陳列すること自体が法律で禁じられている(経済産業省「電気用品安全法の概要」による)。つまりPSEは、法律が直接マークの取得を義務付ける制度だ。
一方UL・CSAは、もともと民間の非営利試験機関が始めた第三者認証であり、それ自体が法律ではない。義務付けの構造は、NECという工事規程が「listedされた機器を使え」と要求し、AHJがそれを現場検査で確認するという、いわば間接的な経路をたどる。法律が直接マークを要求するPSEと、工事規程・現場検査という別の回路を通じて事実上の必須要件になるUL・CSAとでは、制度としての成り立ちがまったく違う。
なお、ULの認証やCEマークを取得済みの製品を日本へ輸入する場合であっても、電気用品安全法に基づく届出・技術基準適合確認の義務は別途必要になる(経済産業省 関東経済産業局「電気用品輸入事業者の皆様へ」による)。海外認証はPSEの代わりにはならない。この点は、逆方向——PSE取得済みの日本製品を北米へ輸出する場合にUL・CSA認証の代わりにはならない——という点でも対称的に成り立つ。
そしてもう一つ、この二つの制度は完全に無関係というわけでもない。UL Solutions Japanは、日本の電気用品安全法第9条に基づく登録検査機関として、特定電気用品の適合性検査を実施し、適合証明書を交付する立場にもある(UL Solutions Japan「照明向けPSE適合性検査」による)。北米の民間認証機関として知られるULが、日本国内ではPSE制度を支える検査機関の一つとしても機能している——両者は対立する別世界の制度ではなく、実務の現場では交差している。
実務上の注意点——同じ型番でも国内向けと北米向けで型式が分かれる
北米向け案件・輸出案件で電設資材を調達する際、現場で最も起きやすい取り違えが、この「型番の分岐」だ。
工業用コンセントメーカーのアメリカン電機の例で見てみよう。同社にはNEMA規格に準拠した引掛形コンセント「3220-L6」という型番がある。これとは別に、同じ形状(NEMA L6-20)にUL・CSA認証を追加取得した「3220-L6UL」という型番が並存している。見た目・形状は同じでも、認証の有無によって型番の末尾記号が分かれており、発注時にどちらか確認せずに手配すると、認証を要求する北米の現場では使えない製品が届く、という事態になりかねない。
同様に、ヴァイドミュラーやフエニックスコンタクトのような端子台・接続機器メーカーの製品群でも、IEC規格に加えてUL認証を取得したシリーズが用意されていることが多い。海外規格対応品を調達・提案する際は、次の3点を確認するのが実務上の基本になる。
- 型番の末尾記号まで含めて現物と一致させる(UL・CSA認証の有無が型番に反映されている場合が多い)
- 認証の有無と、現地の電源環境(電圧・周波数・コンセント形状)への適合を別々に確認する(認証は「その定格で安全基準を満たすか」の証明であり、定格自体が現地環境に合うかは別問題)
- 案件が米国・カナダどちらか一方か、両方にまたがるかを早い段階で確認する(cULus・cCSAusのような両国対応認証が必要かどうかが変わる)
まとめ
UL規格・CSA規格は、それぞれ米国・カナダで生まれた民間の第三者認証制度であり、日本のPSEのように法律そのものが表示を義務付ける仕組みとは成り立ちが異なる。義務付けの実質は、NECという工事規程が「認証済み機器を使え」と要求し、AHJという現場の検査官がそれを確認するという回路を通じて働く。ULとCSAは競合する認証機関でありながら、互いに相手国の認定も受けており、cULus・cCSAusはほぼ同等の証明力を持つ。北米向け案件・輸出案件で電設資材を調達・提案する際は、認証の有無が型番の分岐点になっていること、認証と現地の電源仕様は別に確認すべきものであることを踏まえておきたい。
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