改修現場の天井裏で、既設のVVFと新しく引いたEM-EEFが並んでいる。どちらも灰色の平形で、住電HSTケーブルの仕様書によれば1.6mm 2心の外径はどちらも6.2×9.4mm。手で触っても、EM-EEFのほうが少し硬いかな、と感じる程度だ。
図面の材料欄の「EM」の2文字を見落としても、届いた電線は色でも寸法でもVVFと見分けがつかない。では、見た目も寸法も同じこの2本は、何が違うのか。官公庁の工事はなぜEMを指定するのか。答えは、燃えたときと、目に見えない絶縁体の中にある。
EM-EEFは「ポリエチレンで作ったVVF」
EM-EEFは、JIS C 3605(600Vポリエチレンケーブル)に適合する「600Vポリエチレン絶縁耐燃性ポリエチレンシースケーブル平形」で、メーカーの記号では「EM 600V EEF/F」と書く。日本電線工業会(JCMA)の技術資料第142号Cによると、記号の意味は次のとおりだ。
- EM:エコマテリアル(Ecomaterial)と耐燃性を表す、同工業会が採用した統一記号。被覆にハロゲンや鉛などを含まない耐燃性ポリエチレンを使った電線・ケーブルの通称
- /F:flame retardant から採った記号で、ハロゲンを含まず低発煙の耐燃性を表す
役割はVVFと同じ屋内の固定配線用だ。
同工業会は、EM電線・ケーブルが環境配慮型と呼ばれる理由を3つ挙げる。ハロゲンや鉛を含まない材料であること、火災時に有害なハロゲン系ガスや腐食性ガスが出ず煙も少ないこと、被覆がポリエチレン系にそろっていてリサイクルしやすいことだ。
VVFとEM-EEFの仕様比較
| 項目 | VVF | EM 600V EEF/F |
|---|---|---|
| 関連規格 | JIS C 3342 | JIS C 3605 |
| 絶縁体/シース | ビニル/ビニル | ポリエチレン/耐燃性ポリエチレン |
| シースの色 | 原則として灰 | 灰 |
| 2心の仕上り外径(1.6/2.0/2.6mm) | 6.2×9.4/6.6×10.5/7.6×12.5mm | 同じ |
| 2心の概算質量(1.6/2.0/2.6mm) | 85/111/172kg/km | 70/94/149kg/km |
| 最小絶縁抵抗(1.6mm 2心) | 50MΩ・km | 2,500MΩ・km |
| 燃焼時発生ガス | 規定なし | pH4.3以上・導電率10μS/mm以下(JIS C 3666-2) |
| 発煙濃度 | 規定なし | 150以下(JIS C 3612 付属書A) |
| 導体最高許容温度 | 60℃ | 75℃ |
出典:住電HSTケーブル EM 600V EEF/F仕様書とVVF仕様書。導体最高許容温度は日本電線工業会の技術資料第142号Cと、電技解釈146-3表の区分(ビニル混合物60℃、架橋していないポリエチレン混合物75℃)による。
外形は同じで、質量は13〜18%軽い。最小絶縁抵抗の規定値は50倍ある。違いは材料と、燃えたときの性質にある。
官公庁の工事で指定される理由
JCMAによると、EM電線・ケーブルは建設省(現国土交通省)の「環境配慮型官庁施設(グリーン庁舎)計画指針」に基づいて同工業会が規格化したもので、1998年から使われている。使用を義務づける法律は無いが、同資料によると、国土交通省の建築設備設計基準には原則としてEM電線・ケーブルを使う旨が記載されている。
工事に使う材料の側では、国土交通省の公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編、令和7年版)がEM品を前提にしている。表1.1.1「電線類」にはEM-IE電線・EM-EEケーブル(EM-EEF)・EM-CEケーブルなどが並び、ビニル系はHIVと屋外用・引込用だけで、IVもVVFもCVも無い。官公庁の建築工事でEM品が指定されるのはこのためだ。
普及は少しずつ進んでいる。同資料が引く工業会統計では、EM電線・ケーブルの銅量は2001年度の18千トンから2016年度の33.4千トンへと約1.9倍に増えたが、2016年度時点の普及率は十数%にとどまる。グリーン購入法の特定調達品目にもなっていない(同資料の2018年時点で、候補群のロングリスト)。民間の物件でも、仕様書に「EM」「エコ電線」「環境配慮形」とあれば対象になる。
太さの決め方はVVFと同じで、許容電流には余裕がある
太さ・心数の考え方はVVFと同じで、回路の電流と配線条件から決める(VVFケーブルの選び方)。違うのは導体最高許容温度で、JCMAは、EE/FなどのEM電線・ケーブルはビニルの60℃に対して75℃なので許容電流を大きく取れ、場合によってはサイズダウンもできるとしている。
絶縁電線で比べると差が見える。フジクラ・ダイヤケーブルの表では、周囲温度30℃のがいし引きで、単線1.6mmのIVが27A、EM IE/Fが33A。EM IE/Fを金属電線管に3本入れた場合は23Aで、IVの27Aに同じ条件の電流減少係数0.70を掛けた約19Aを上回る。電技解釈146-3表の補正式でいえば、√((75−30)/30)≒1.22倍だ。EM-EEFそのものの許容電流は、使うメーカーの資料で確かめる。
一段深い理解:燃えたときに何が違うのか
塩化ビニルは塩素を含む。JCMAは、ハロゲンを含む物質が燃えると毒性・腐食性の強いハロゲン化水素のガスが発生することがあり、燃焼で出る煙は避難行動の阻害や呼吸困難など火災時の二次災害を大きくすると説明している。EM電線・ケーブルはノンハロゲン材料で、燃やしてもハロゲン化水素ガスもダイオキシンも発生しない、というのが同工業会の説明だ。
この性質は数値で決められている。住電HSTケーブルのEM-EEFの仕様書は、燃焼時に出るガスの酸性度をpH4.3以上、導電率を10μS/mm以下(JIS C 3666-2)、発煙濃度を150以下(JIS C 3612 付属書A)と規定する。VVFの仕様書には、こうした項目が無い。
一方で、誤解されやすい点もある。EMの「耐燃性」は、燃えにくさがVVFより一段高いという意味ではない。JCMAの定義では、耐燃性は傾斜試験で炎を取り去った後60秒以内に自然に消える性能で、IV・CV・CVVなどの一般のビニル電線・ケーブルも同じ性能を持つ。多数のケーブルを垂直のトレイに並べて燃やす試験に合格する「高難燃」は、F-CVやNH系など別の品種の話だ。EM-EEFを選ぶ理由は「燃えにくさ」ではなく「燃えたときに出るもの」にある。
リサイクルのための「1本の突起」
EM電線・ケーブルの一部には、表面に1本の突起(1条突起)が付いている。JCMAによると、撤去した電線や現場の端材を回収するとき、ビニル電線とEM電線を見た目や手触りで分けられるようにするためで、分別できれば回収した被覆材を電線にリサイクルできる。
識別の方法は、印字(消える可能性がある)、ストライプ(押出機を増設する必要がある)、被覆の色(ほとんどの色が使われていて、EMに使える色が無い)も検討したうえで、突起に決めたという。対象はCE/F(単心は14mm²以上)・CET/F・CED/F・CEQ/Fで、2011年製造分から切り替えた。EM-EEFはこの対象品種に入っていないので、見分けるのは印字になる。
現場で間違いやすい点
印字を見ずに配線する
色でも太さでも見分けられないので、見るのは電線表面の連続印字だ。住電HSTケーブルの仕様書では、電線の記号(EM 600V EEF/F)、耐燃である旨(TAINEN)、耐紫外線対応品である旨(タイシガイセン)、エコケーブルである旨が表示される。改修で既設のVVFにEM-EEFをつなぎ込む案件では、端材や切り残しにも品名を書いておく。
VVFと同じつもりで扱う
JCMAのQ&Aが挙げる扱いの違いは次のとおり。
- 被覆の剥ぎ取り:VVFと同じ工具が使えるが、ポリエチレン系材料はビニルより伸びやすいので、端末の剥ぎ取りに注意する
- 硬さと曲げ:ビニルより多少硬く感じるが、許容曲げ半径は従来品と同じ
- 白化:ラックの角などで擦れると白い筋が残ることがあるが、性能には影響しない。入線剤(滑剤)を使うと傷がつきにくい
- 紫外線:品種によって絶縁体のポリエチレンは、直射日光や蛍光灯の紫外線でひび割れることがある。端末で絶縁体が露出する場合はビニルテープなどで遮光する(住電HSTのEM-EEFは、JCMA技術資料第130号の紫外線劣化促進試験に合格する耐紫外線対応品)
- 温度:耐燃性ポリエチレンは、75℃以下ではビニルより変形しにくいが、90℃を超えると変形が急に大きくなる。75℃以下を守り、多条布設と周囲温度にも気を配る
水滴やべとつきを不良と思う
木工用ボンド(酢酸系接着剤)のある環境に置くと、EM電線の表面に水滴が付くことがある。JCMAの説明では、ボンドが硬化するときに出る酢酸が被覆中の水酸化マグネシウムと反応して酢酸マグネシウムができ、これが空気中の水分を吸うためだ。電線の特性には影響しないので、拭き取ればよい。多湿でNOx・SOx・オゾンがある場所でも表面がべとつくことがあるが、こちらは導電性の物質なので、端末の表面に付く場合は注意が要る。
一方、性能に関わるものもある。JCMAは、コンクリートの養生水のようなアルカリ性の水が溜まった管路にEM IE/F電線を引き込むと、数年で絶縁抵抗が顕著に下がることがあるとして、引き入れ前に管路内の状況を確かめるよう求めている。
注文・見積で伝える項目
「品名+太さ−心数+長さ」で伝えれば聞き返しが減る。例:「EM-EEF 1.6-2C 100m」「EM-EEF 2.0-3C 50m」。VVFと混在する現場では、品名のEMを必ず明記する。価格は銅建値(銅の月次相場)で変わるので、見積は発注の直前に取り直す。数量が多い場合や工期が決まっている場合は、早めに引き合いを出して納期を確かめる。
関連情報
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