30戸のマンションがある。各戸の分電盤の主幹は40Aだから、単純に足せば建物全体で1200A分の設備が要るはずだ。ところが実際の受電設備と幹線は、その半分もない容量で設計されており、20年間、一度も容量不足を起こしたことがない。
残りの600A分は、いったいどこへ消えたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「消えた600A」の行き先を、2つの割合の掛け算・割り算として自分で計算できるようになっている。
二種電気工事士では、需要率という言葉の定義――「最大需要電力÷設備容量」までを学んだ。一種では、これに負荷率と不等率を加えた三点セットで、実際の受電設備・変圧器の容量を計算する。
3つの割合、それぞれ何を測っているか
- 需要率(%) = 最大需要電力 ÷ 設備容量 × 100 ―― 「契約(設備)のうち、実際どれだけ使うか」。常に100%以下
- 負荷率(%) = 平均需要電力 ÷ 最大需要電力 × 100 ―― 「ピークに対して、平均的にはどれだけ使っているか」。期間を添えて日負荷率・年負荷率と呼ぶ。これも100%以下
- 不等率 = 各負荷の最大需要電力の合計 ÷ 合成最大需要電力 ―― 「みんなのピークが本当に同時に来るか」。これだけは1以上の値になる
工場の1日の負荷曲線から、3つの率を実際に計算する
定義を並べるだけでは実感が湧きにくいので、1つの工場を例に、朝から晩までの電気の使われ方を追いながら3つの率を順番に求めてみる。
この工場の設備容量(契約している設備の合計)は200kW。電力量計を30分ごとに読み取ったところ、1日でもっとも電力を使った時間帯(最大需要電力)は120kWだった。まず需要率を求めると、需要率=120kW÷200kW×100=60%。契約している設備の6割しか、実際には同時に使われていないことになる。
次に、1日の電力量計の合計から平均需要電力を求める。この日の使用電力量が1920kWhだったとすると、24時間で割って平均需要電力=1920kWh÷24h=80kW。負荷率=80kW÷120kW×100≒66.7%。ピーク(120kW)に対して、1日ならすと平均66.7%程度の使われ方だった、ということが分かる。
ここまでで、需要率(契約のうちどれだけ使うか)と負荷率(ピークに対して平均どれだけ使うか)という、性格の違う2つの割合を、同じ1つの工場のデータから求められた。この先に不等率を組み合わせると、複数の工場・複数の設備をまとめたときに必要な変圧器容量まで計算できるようになる。
合成最大需要電力 = Σ(設備容量 × 需要率) ÷ 不等率
たとえば設備容量A=100kW(需要率0.6)、B=80kW(需要率0.5)、C=60kW(需要率0.7)の3つの負荷があるとする。それぞれの最大需要電力はA=60kW、B=40kW、C=42kWで、合計142kW。ここに不等率1.2を反映させると、合成最大需要電力=142÷1.2≒118.3kW。単純合計の142kWより、不等率で割った分だけ小さくなる。
この合成最大需要電力が、変圧器容量を選ぶときの基礎になる。ただし、ここで一段だけ手順が要る。
変圧器容量[kVA] = 合成最大需要電力[kW] ÷ 力率
でkVAに直してから、その直近上位の標準容量を選ぶ。力率0.8なら118.3÷0.8≒147.9kVAで、直近上位は150kVA。力率0.9なら131.4kVAで、これも150kVA。力率が示されなければ、変圧器容量は決まらない。
118.3kWをそのままkVAとみなして100kVAの変圧器を選ぶ、といった飛ばし方をすると、力率の低い設備では実際に容量が足りなくなる。力率改善で見るとおり、有効電力Pと皮相電力Sは直角三角形の一辺と斜辺の関係で、決して同じ数直線の上には乗らない。
もしここで不等率を掛け算に使ってしまうと(142×1.2=170.4kW)、実際に必要な容量よりも大きい値が出てしまい、本来より一段大きい変圧器を選ぶことになる。逆に不等率の存在を忘れて142kWのまま(割りもせず)容量を決めてしまうと、こちらも本来より大きめの見積もりになる。不等率は「ピークがずれる分だけ得をする」割引率なので、必ず割り算で使う――この1点さえ外さなければ、方向を間違えることはない。
前のトピックで見た幹線設計の需要率修正(電技解釈第148条1項三号)も、この合成最大需要電力の考え方が土台になっている。「需要率が明らかなら幹線電流を修正してよい」という規定は、ここで計算した需要率・不等率を反映した実際の使用実態を、幹線の太さにそのまま反映させてよい、という意味だった。理論(この計算)と法令(前トピックの条文)は、同じ1つの考え方の表と裏の関係にある。
マンションの「消えた600A」の正体
冒頭のマンションの例に戻る。各戸の主幹40A×30戸=1200Aという数字は、全戸が同時に主幹いっぱいの40Aを使うという、現実にはまず起きない前提の上に立っている。実際には各戸の需要率(そもそも主幹いっぱい使わない)と、不等率(各戸の使用のピークが同時刻に来ない)の2つが効いて、実際に必要な容量はずっと小さくなる。
今日試せることとして、集合住宅や商業施設の電気室・キュービクルの銘板に書かれた変圧器容量を見かけたら、建物の規模から考えて「意外と小さいかもしれない」と想像してみるといい。それが手抜きではなく、需要率と不等率という2つの計算にもとづいた正当な設計だと分かる。
この三点セットの計算は、次に見る変圧器の効率計算とも直結する。実際に必要な容量を過不足なく見積もることが、無駄な設備投資も、容量不足による事故も、両方避ける道になる。
冒頭の消えた600Aの行き先、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。