第一種電気工事士の免状を持ち、法令上その工事に従事する資格がある作業者が、現場で作業を始めようとしたところ、電気主任技術者から「今は止めてほしい」と言われた。免状を持っているのに、なぜその指示に従わなければならないのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電気工事士とは別に置かれている「保安を監督する人」の正体を説明できるようになっている。
これまでのトピックで見てきた電気工事士の資格は、あくまで「工事という作業をしてよいかどうか」を定めるものだった。だが電気事業法は、事業用電気工作物の設置者側にも、別の角度から保安を確保する義務を課している。それが保安規程と主任技術者だ。
事業用電気工作物(小規模事業用電気工作物を除く)の設置者は、保安を一体的に確保する組織ごとに保安規程を定め、使用開始「前」に主務大臣(経済産業大臣)に届け出なければならない(電気事業法42条1項)。変更したときも遅滞なく届け出る(2項)。ここで重要なのは、これが「認可」ではなく「届出」だということだ。 国が保安規程の中身を事前に審査して許可を与える制度ではなく、設置者が自ら保安体制を作り、その内容を国に知らせる仕組みになっている。ただし主務大臣は、届け出られた保安規程が不十分だと判断すれば変更を命令できる(3項)し、設置者と従業者はその保安規程を守る義務を負う(4項)。
保安規程に定める事項は、業務管理者の職務・組織、保安教育、巡視・点検・検査、運転・操作、長期停止時の保全、災害等非常時の措置、保安についての記録など多岐にわたる(施行規則50条3項)。
もう1つの柱が主任技術者だ。設置者は、主任技術者免状の交付を受けている者から主任技術者を選任しなければならない(43条1項)。この主任技術者免状は経済産業大臣系の制度で、都道府県知事が交付する電気工事士免状とは別の免状だ。選任・解任は遅滞なく届け出る(3項)。主任技術者は保安の監督の職務を誠実に行う義務を負い(4項)、工事・維持・運用に従事する者は主任技術者の指示に従う義務がある(5項)。
なお、自家用電気工作物(小規模事業用を除く)では、主務大臣の許可を受ければ、免状を持たない者の選任(許可主任技術者)も可能とされている(43条2項)が、その許可の細目や外部委託の制度についてはここでは扱わない。押さえておくべきは、設置者の義務が技術基準適合維持(39条)・保安規程(42条)・主任技術者選任(43条)の三本柱だという骨格そのものだ。
現場に入る前に「誰の指示系統の中にいるか」が分かるようになる
この構造を知っていると、自家用電気工作物の現場に入るとき、自分(電気工事士)と主任技術者の役割の違いを最初から意識できるようになる。作業内容だけでなく、誰の保安監督のもとで働いているのかを確認する習慣がつく。
今日試せることとして、取引先の工場やビルの管理体制を聞く機会があれば、「保安規程」や「電気主任技術者」という言葉が出てくるかどうかに耳を傾けてみるといい。事業用電気工作物を持つ施設なら、必ずどちらも存在しているはずだ。
この二重の体制(資格による作業の許可制と、設置者による自主保安)がある背景には、工事の瞬間だけを取り締まっても保安は守れない、という考え方がある。工事が終わった後の日々の運用・点検・非常時の対応まで含めて、誰かが継続的に見ている必要があるからこそ、保安規程と主任技術者という仕組みが用意されている。
独立して自家用電気工作物の工事を請け負うようになると、現場ごとの主任技術者と円滑に連携できるかどうかが、仕事のしやすさに直結してくる。保安規程と主任技術者という概念を理解していることは、その現場での信頼の土台になる。
電気工事士免状を持つ作業者が、なぜ主任技術者の指示に従わなければならなかったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。