ニュースで「1つのビルの漏電が原因で、周辺一帯が停電した」という報道を見たことがあるかもしれない。停電したビルだけならまだ分かる。だが、そのビルとは何の関係もない、同じ電柱の配電線につながっているだけの他の建物まで、なぜ巻き込まれて停電するのか。
1軒の家の中でブレーカーが落ちても、隣の家まで停電することは普通ない。それなのに、高圧で受電しているビルの事故は、なぜ街全体に広がってしまうのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この事故がなぜ広がるのか、そしてそれを止めるための仕組みを説明できるようになっている。
このような事故には名前がついている。波及事故 だ。工場・ビルなどの自家用電気工作物の故障が原因で、電力会社の配電線が停止し、同じ配電線につながる他の需要家まで広範囲・長時間停電させる事故を指す。損害賠償が1千万円を超える事例もある。
波及事故の原因は、統計上ある2つの場所に集中している。約7割が高圧引込ケーブル(水トリー劣化)とPAS・PGS・UGSといった区分開閉器の事故 で、その多くが地絡だ。つまり、構内で起きた小さな地絡事故を、そこで止められずに配電線側まで伝えてしまうことが、街全体を止める引き金になっている。
これを止めるのが、地絡を検出して構内だけを切り離す一連の機器だ。
- ZCT(零相変流器) — 三相の電流をまとめて貫通させ、平常時はゼロになるはずのベクトル和(零相電流=地絡電流成分)だけを検出する。地絡電流は数A以下と小さく、通常のCTでは負荷電流に埋もれて検出できないため、地絡だけを選択的に拾う専用のセンサーになる
- GR(地絡継電器) — ZCTが検出した零相電流が整定値(代表的な整定例として200mA整定が挙げられる)を超えたら、PASやLBS・CBを引き外す
地絡と短絡で、PASの挙動はまったく違う — SOG方式
GR付PAS・UGSの多くは、SOG(過電流ロック方式) と呼ばれる方式で動作する。ここで押さえておきたいのは、地絡事故と短絡事故で、PASの挙動がまったく違う という点だ。
- 地絡事故のとき — 内蔵ZCT等が地絡(零相電流)を検出し、PASが即時にトリップして構内を切り離す
- 短絡事故のとき — 短絡電流はPAS(負荷開閉器)の遮断能力を超えているため、PASは自分では遮断しない。ロック電流以上の過電流を検出すると、開閉器を「ロック」(開放禁止・トリップを蓄勢)し、配電用変電所側の遮断器が動作して電路が無電圧になったことを確認してから自動的に開放する
こうした保護は、需要家の継電器が配電用変電所の継電器より先に動作してはじめて意味を持つ。事故点に一番近い需要家側の保護装置が上位(配電用変電所)より先に動作するように動作電流・動作時間を整定することを保護協調と呼ぶ。需要家のGR・DGRが変電所側の地絡保護より早く構内事故を切り離せば、停電は構内だけで収まる。この整定が崩れると、構内の小さな地絡が街全体を止める波及事故に発展してしまう。
受電点の負荷側電路への地絡遮断装置の施設は、電技解釈第36条第4項(36-1表)で求められている。メーカーが勧めているだけの任意設置ではなく、法令の技術的細目に根拠を持つ設備だ。
ただし36-1表の読み方には、もう一段ある。この表は三欄構造で、左欄が「地絡遮断装置を施設する箇所」、中欄が対象の電路、そして右欄が「地絡遮断装置を施設しなくても良い場合」の欄になっている。左欄「他の者から供給を受ける受電点」の行を横に読むと、中欄は「受電点の負荷側の電路」、右欄には「他の者から供給を受ける電気を全てその受電点に属する受電場所において変成し、又は使用する場合」という適用除外が置かれている。
街の停電のニュースを、原因まで想像できるようになる
この仕組みが分かると、街のどこかで停電のニュースがあったとき、「どこかの建物の高圧設備で地絡が起きて、それがGR・DGRで止め切れなかったのかもしれない」と、原因まで想像できるようになる。今日試せることとして、自分の街や職場付近の電柱を見上げ、構内第1号柱にPAS(区分開閉器)が設置されているかどうかを確認してみるといい。GR・DGR付のPASが、街の停電を局所化する最前線になっている。
波及事故の防止が繰り返し強調されるのは、原因が高圧引込ケーブルの経年劣化とPAS等の設備の老朽化に集中しているからだ。ケーブルは製造後20年程度、PASは設置後10年を超えると事故が増える傾向にあり、計画的な設備更新がそのまま街全体の停電リスクを下げることにつながる。
太陽光発電や蓄電池を高圧で建物に連系する工事でも、この地絡保護の考え方は避けて通れない。新しく増える発電・蓄電設備が、既存のGR・DGRの整定や保護協調を崩さないようにすることも、これからの現場で求められる視点になる。
冒頭の疑問——1つのビルの事故がなぜ街を止めるのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。