ビルの裏や月極駐車場の隅に、灰色の金属の箱がぽつんと置かれているのを見たことがあるはずだ。中で何が起きているのか、たいていの人は知らない。
この箱に電気を送り込んでいるのは電力会社だが、箱の中身をすべて電力会社が管理しているわけではない。かといって、箱の中はすべて建物の持ち主のものというわけでもない。境目はどこにあるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、あの灰色の箱の中に何があり、どこまでが誰の持ち物なのかを説明できるようになっている。
高圧6.6kVの配電線から届いた電気は、何段階かの機器を経て、ようやく建物の中で使える100V・200Vの電気になる。まずはその道のりを、上流から順に見ていく。
図の黄色い破線が、電力会社と需要家の境目——責任分界点だ。一般的にはPAS(区分開閉器)がその位置に置かれる。 PASより手前(電力会社側)で何かあれば電力会社の責任、PASより奥(需要家側)で何かあれば需要家の責任、という切り分けになる。
PASから先、需要家の敷地内に入ってからの並びは、高圧引込ケーブル→断路器(DS)→VCT(電力需給用計器用変成器)→主遮断装置→高圧母線→変圧器→低圧側、という流れが標準的だ。主遮断装置は、CB形(遮断器を使う方式)とPF・S形(限流ヒューズと負荷開閉器の組合せ)の2種類があり、これは次のトピックで詳しく見る。
VCTはVT(計器用変圧器)とCT(変流器)を1つの箱にまとめた変成器で、高圧の電圧・電流を計器で扱える大きさに変換する。kWhを数えているのはVCTそのものではなく、その二次側につながる取引用電力量計のほうだ。単線結線図でもVCTと電力量計(Wh)は別の記号で描かれ、写真鑑別でも別の機器として並ぶので、1組で働くからといって同じものと覚えてはいけない。この1組は電力会社との料金取引の根拠になるため封印されており、需要家が触れることはできない。だからキュービクルの中を見るときは、「この機器は誰の持ち物か」を、PASという1本の線だけでなく、機能でも仕分ける必要がある。
受電設備の施設形態にも2種類ある。フレームに機器を露出配置する開放形は、目視点検がしやすい反面、充電部が露出していて危険で場所も取る。これに対してキュービクル式は、接地した金属箱に一式を収めるため充電部が隠れ、安全性が高く省スペースになる。JIS C4620が定めるキュービクル式の適用範囲は、公称電圧6.6kV・系統短絡電流12.5kA以下・受電設備容量4,000kVA以下で、現在の主流形式になっている。
高圧受電室の表示要件 — 堅ろうな壁・立入禁止の表示・施錠
ビルの機械室や地下の電気室のように、高圧の機械器具等を屋内に施設する場合、電技解釈第38条は次の3点を求めている。
- 堅ろうな壁を設けること(またはさく・へい等を設け、規定の離隔を確保すること)
- 出入口に、立入りを禁止する旨を表示すること
- 出入口に施錠装置を施設して施錠すること等、取扱者以外の者の出入りを制限する措置を講じること
照度(配電盤計器面の明るさ)や保守点検通路の幅といった、より細かい実務上の基準は、電技解釈ではなく高圧受電設備規程側の内容になるため、条文名までは断定せず「実務上の基準」として扱う。
キュービクルの銘板が、建物の電気の全体地図になる
この全体像が頭に入ると、キュービクルの扉に貼られた銘板の見方が変わる。「受電設備容量◯◯kVA」「主遮断装置 CB形」といった表示が、単なる型番ではなく、この建物がどんな規模で電気を受け、どんな方式で保護されているかを示す地図に見えてくるはずだ。今日試せることとして、通勤・通学路で見かけるキュービクルの扉を、危険を冒さず外から眺めてみるといい。多くは銘板や注意ラベルが外側に貼られており、「高圧危険」の表示と一緒に受電設備容量が読み取れることがある。
この構成が標準化されているのは、事故と保守の歴史があるからだ。責任分界点を明確にしなければ、事故が起きたときに誰が対応すべきかが分からず対応が遅れる。機器ごとに役割を分けているのも、1つの機器に全部を担わせず、壊れたときの被害を局所化するためだ。
そして第一種電気工事士の学習は、まさにこの灰色の箱の中に踏み込むための資格になる。第二種が住宅や小規模店舗までしか扱えないのに対し、第一種はビルや工場のこの受電設備そのものが仕事の対象になる。太陽光発電や蓄電池、EV充電設備を高圧で建物に連系する工事も、結局はこの一連の機器構成のどこかに新しい設備をつなぎ込む作業であり、この全体像を知っていることが出発点になる。
冒頭の灰色の箱、中身は本当に「全部この建物のもの」なのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。