大型のモータを動かすとき、いきなり全電圧をかけてはいけないと教わる。モータ自体は丈夫に作られているはずなのに、なぜそこまで慎重に始動方式を選び分けるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、何を守るために始動方式が使い分けられているかを説明できるようになっている。
電動機を全電圧(直入れ)でそのまま始動すると、始動電流は定格電流のおよそ6〜10倍にもなる。この倍率は資料によって幅がある。ここで挙げた6〜10倍は大形の高圧モータを扱うメーカー資料の値で、小形機を中心に扱う第二種向けの教材では全負荷電流の4〜8倍程度と書かれることも多い。同じ「じか入れ始動の始動電流」を指していても、対象とする機の大きさで数字の置き方が変わる、と押さえておけばよい。この大きな電流が流れている間、電源系統の電圧は大きく下がる。守られているのはモータの丈夫さではなく、同じ母線につながる照明や他の機器の側だ。だからこそ、電源事情に応じて始動電流を抑える方式が選ばれる。
スターデルタ始動(Y-Δ始動) は、始動時に固定子巻線をY(スター)結線にして各相巻線への電圧を1/√3に下げて始動し、加速後にΔ(デルタ)結線へ切り替えて全電圧運転に移る方式だ。
始動トルクが1/3まで下がるため、スターデルタ始動は重負荷の始動には向かない。またY→Δ切替時には突入電流・サージが生じ、高圧モータでは切替時のサージ電圧が大きくなるため、低圧モータ向けの方式とされる。モータ側もY-Δ切替ができるようリード線6本(オープンデルタ結線)とする必要がある。
リアクトル始動は、始動時に電源と電動機の間に直列にリアクトルを入れて電圧を下げ、加速後にリアクトルを短絡(バイパス)して全電圧に切り替える方式だ。タップ切替で始動電流を調整でき、タップ65〜80%のとき始動電流はタップ値に比例して65〜80%になるのに対し、始動トルクはタップ値の二乗に比例して42〜64%まで下がる。電流の下がり方に比べてトルクの下がり方が大きい点が弱点になる。
始動補償器(コンドルファ)始動は、電源と電動機の間に単巻変圧器を挿入して減圧始動する方式で、リアクトル始動と同様に始動電流・始動トルクともタップ値の二乗に比例する。全電圧への切替時の突入電流が小さくなるよう回路が組まれており、同じ始動トルクならリアクトル始動より始動電流を小さくできる。単巻変圧器を必要とする分、設備コストは最も高価になるが、約1000kW以上の大容量高圧機など、大きなモータに適する。
インバータ始動は、インバータで周波数と電圧を低い値から徐々に上げて(V/f制御)加速する方式だ。低周波数・低電圧からのスタートと電流抑制機能(ストール防止)により、始動電流をモータ定格電流の1.5〜2倍程度にまで抑えられる。始動後はそのまま回転速度制御・省エネ運転にも使えるが、装置コストが高く、高調波やノイズへの対策が必要になる場合がある。
かご形には使えない始動法もある — 二次抵抗始動
ここまで見てきた全電圧・スターデルタ・リアクトル・コンドルファ・インバータの5方式は、いずれもかご形誘導電動機に使える始動法だ。だが、始動法にはもう1つ、かご形にはそもそも適用できない方式がある。二次抵抗始動だ。
二次抵抗始動は、回転子(二次側)巻線の端子をスリップリング経由で外部に引き出し、そこに外部抵抗を接続する方式だ。比例推移という現象を利用し、始動電流を抑えながら始動トルクを大きくできるという利点があるが、これは回転子巻線に外部からアクセスできる巻線形誘導電動機専用の方式になる。
電動機の回転方向を逆にする方法 — 交差の数を数える
三相誘導電動機の回転方向は、電源の相順(相回転の順序)で決まる。3線のうち任意の2線を入れ替えると、相順が反転して逆回転になる。一方、3本すべてを1つずつずらして接続し直す(R→S、S→T、T→R というサイクリックな入替)と、相順はR→S→Tのまま保たれるため、回転方向は変わらない。
動力制御盤から電動機までの配線本数
始動方式が変わると、制御盤から電動機までの配線本数も変わる。直入れ始動では、制御盤から電動機へは主回路3本(+接地線1本)。正逆転回路は、正逆の切替を制御盤内の電磁接触器2台が2相を入れ替えて行うため、盤から電動機への配線は直入れと同じ3本(+接地線)のままで、電動機側の本数は増えない。
一方、スターデルタ始動は例外だ。電動機の巻線両端(U・V・W とX・Y・Z)の6端子すべてを盤内の始動器に引き込む必要があるため、配線本数は6本(+接地線)になる。
始動方式の選び方が、電源設計の視点そのものになる
この4つの方式の違いが分かると、モータの銘板や制御盤の仕様書に書かれた始動方式の欄が、単なる型式の違いではなく、「その現場の電源事情にどう配慮したか」を示す記録に見えてくる。
始動方式がこれだけ細かく使い分けられているのは、大型モータの直入れ始動が原因で母線電圧が落ち込み、他の設備が止まったり照明がちらついたりした波及事故の教訓があるからだ。守っているのはモータではなく、同じ電源を共有する周囲の設備だという視点がここに表れている。
太陽光発電のポンプ設備や工場の大型モータなど、これから増えていく高圧の動力設備でも、始動方式の選定は電源設計の要になる。この基本を理解していることが、そうした設備に関わる仕事の土台になる。
冒頭の「なぜいきなり全電圧をかけてはいけないのか」。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。