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一般用電気工作物等の検査方法 ・ 8 / 9

絶縁抵抗が基準を下回ったとき — 原因の切り分け方

読み終えると、こうなる

分電盤全体の絶縁抵抗が基準を割っていても、総当たりせずに悪い1回路を数回の測定で絞り込めるようになる

  • 分岐ブレーカーをすべて開放して1回路ずつ測定し、値の低い回路を特定できる
  • 特定した回路の機器を外して測り直し、原因が配線側か機器側かを仕分けられる
  • 電線相互間と電路・大地間で、E端子とL端子の当てる先を選び直せる
考えてみよう

竣工検査で、分電盤の主幹の二次側の絶縁抵抗を測った。表示は0.03MΩ。対地電圧100Vの回路だから、基準は0.1MΩ以上。3分の1にも届いていない。

この分電盤には分岐回路が8つある。その先には照明器具、換気扇、エアコン、電気温水器がつながっていて、壁と天井の中にはケーブルが何十メートルも走っている。どこかに絶縁不良がある——それは分かった。

では、どこか。8回路の配線をすべて張り替え、機器も全部交換してしまえば確実だが、そんな時間も費用もない。1回路ずつ、1機器ずつ、総当たりで測っていくしかないのだろうか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、数回の測定で犯人にたどり着く順序を組み立てられるようになっている。

絶縁抵抗の測り方と基準値はすでに学んだ。ここから先は、測った結果が不合格だったあとの話だ。実務では、むしろこちらのほうが時間を食う。

なぜ「全体が悪い」ことが「全部が悪い」を意味しないのか

分電盤の分岐回路は、主幹に対して並列につながっている。ということは、対地間の絶縁抵抗も並列合成される。抵抗の並列合成は、

1R=1R1+1R2++1Rn\frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} + \cdots + \frac{1}{R_n}

であり、合成値 RR は必ずいちばん小さい値より小さくなる

たとえば良好な7回路が各10MΩ、不良の1回路だけが0.035MΩだったとしよう。

1R=710+10.035=0.7+28.57=29.27\frac{1}{R} = \frac{7}{10} + \frac{1}{0.035} = 0.7 + 28.57 = 29.27 R0.034 MΩR \fallingdotseq 0.034\ \text{MΩ}

7回路がどれだけ健全でも、たった1回路の不良に引きずられて、全体はあっさり基準を割る。

並列につながった絶縁抵抗は、いちばん悪いところに支配される。逆に言えば、悪い1か所さえ切り離せば、残りは一気に基準を超えて回復する。これが切り分けが有効な理由であり、総当たりが必要ない理由でもある。

切り分けの手順

  1. 分岐ブレーカーをすべて開放する。 これで各回路が主幹から切り離される。まず主幹の二次側だけを測る。ここでもなお値が低ければ、原因は分電盤内部か幹線側にある
  2. 1回路ずつ測る。 切り離した状態で分岐回路を個々に測定し、値の低い回路を特定する。関東電気保安協会の現場記録でも、絶縁不良の追跡調査は「分岐回路をすべて開放し、個々に絶縁測定を実施」する形で進められている
  3. 機器を外して測り直す。 犯人の回路が分かったら、その先につながる負荷(機器)を外して測る。値が回復すれば原因は機器側、変わらなければ配線側だ

この3段階で、8回路と全機器を総当たりせずに原因の位置が絞り込める。

測定時の端子の使い分け

  • 電線相互間の測定では、E端子とL端子の区別は必要ない
  • 電路と大地間の測定では、接地端子にE端子(EARTH)を、充電部にL端子(LINE)を接続する

「電線どうしの間が悪いのか、電線と大地の間が悪いのか」も切り分けの手がかりになる。対地間だけが低ければ、ケーブルの外装が造営材や金属部と接触している可能性が高い。

よくある原因

絶縁物の劣化の原因には、温度・湿気・汚れ・化学反応・損傷がある。既設の設備なら経年劣化や結露が主役だが、竣工検査で見つかる絶縁不良は、たいてい施工時の損傷だ。ステープルを打ち込みすぎてケーブルの被覆を傷つけた、ボックスのカバーを締めるときに電線を噛み込んだ、金属管に通線するときに被覆を擦った——いずれも目視点検では見つけにくく、絶縁抵抗という数値になって初めて表に出てくる。

犯人探しを、勘から手順に変える

切り分けは、この科目で学ぶことのうち、手順そのものがそのまま値打ちになる部分だ。0.03MΩという1つの数字から、8回路のどれが悪いかを数回の測定で言い当てられる人と、端から総当たりする人とでは、かかる時間も費用も桁が違う。しかもこの発想は配線に限らない。並列につながったものの中から悪い1つを探す、という手つきは、機器の故障診断でもそのまま使える。

今日できるのは、自宅の分電盤で分岐ブレーカーを1つずつ切り、どの部屋・どの機器が落ちるかを確かめて対応表を作ることだ。パソコンや録画機の電源が落ちるので、そこだけは気をつけたい。やってみると、ラベルの表記と実態が食い違っている家がかなりあると分かる。切り分けの第一歩は、切り離せる単位を自分が把握しているかどうかで決まる。

面白いのは、たった1か所の傷が全体の数字を支配してしまうという並列合成の性質だ。7回路が10MΩあっても、1回路が0.035MΩなら全体は0.034MΩになる。悪いほうに引きずられるこの非対称は、裏を返せば「悪い1か所さえ直せば一気に回復する」という希望でもある。太陽光、蓄電池、EV充電設備と、住宅につながる回路は増えていく方向にある。数を当たるのではなく、構造を使って絞り込む。この考え方は、設備が複雑になるほど強くなる。

冒頭の0.03MΩから、どの順序で犯人にたどり着けばよかったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 主幹での測定値が基準を割っていることを「すべての分岐回路が絶縁不良」と読ませる

    なぜ引っかかる分岐回路は主幹に対して並列につながっているので、対地間の絶縁抵抗も並列合成される。合成値は必ずいちばん小さい値より小さくなるため、1回路だけが不良でも全体は基準を割る。ところが「全体が悪い」という結果だけを見ると、全部が悪いという結論に飛びやすい。

    見破り方並列合成は悪いほうに引きずられる、と性質から思い出す。良好な7回路が各10MΩ、不良の1回路が0.035MΩなら合成は約0.03MΩ。だから測定値が悪いことは、悪い箇所が1つ以上あることしか意味しない。切り離して数を減らす作業から始める。

  2. 絶縁抵抗計のL端子とE端子の役割を入れ替える

    なぜ引っかかる端子の頭文字は覚えていても、電路と大地間を測るときにどちらをどこへ当てるかは、実物を触っていないと結びつかない。しかも電線相互間の測定では区別が不要なので、「どちらでもよい」という記憶だけが残っていると、電路と大地間でも区別が要らないように思えてしまう。

    見破り方L=LINE(電路・充電部側)、E=EARTH(接地側・大地側)と、単語のまま当てる先を決める。区別が不要になるのは電線どうしの間を測るときだけで、大地が相手のときはE端子が大地側、と条件つきで覚え直す。

  3. 絶縁抵抗計の使い方を並べた中に、活線で測定するという一文だけを混ぜる

    なぜ引っかかるこの形式の出題では、測定前に電池が有効であることを確認する・測定モードでE端子とL端子を短絡して零点を指すことを確認する・電子機器がつながる回路では機器を損傷させない定格測定電圧を選ぶ、といった正しい記述が3つ並ぶ。手順として細かく正しい記述が続くので、最後の1つを疑う気持ちが薄れる。

    見破り方絶縁抵抗計は自分で直流の高電圧をかけて測る器具だ、という原理を先に置く。相手が充電されていれば測定はでたらめになり、計器の破損や感電にもつながる。「電源電圧が加わっている状態で」という語を見た瞬間に誤りと判定する。

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 並列につながった複数の分岐回路の絶縁抵抗は並列合成されるため、合成値は必ずいちばん小さい値より小さくなる。「全体が悪い」は「全部が悪い」を意味しない
  2. 切り分けの基本は、分岐ブレーカーをすべて開放して個々に測定し、値の低い回路を特定すること。すべて開放してもなお主幹の負荷側が低ければ、分電盤内部や幹線側を疑う
  3. 回路を特定したら、その回路の負荷(機器)を外して測り直す。外して回復すれば機器側、変わらなければ配線側に原因がある
  4. 絶縁抵抗計の端子は、電線相互間の測定ではL端子とE端子の区別は不要だが、電路と大地間の測定では接地側にE端子、充電部にL端子を接続する
  5. 絶縁劣化の主な原因は温度・湿気・汚れ・化学反応・損傷。新設の現場では、ステープルの打ち込み過ぎやボックス内での被覆の噛み込みといった施工時の損傷が疑わしい
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