竣工検査で、分電盤の主幹の二次側の絶縁抵抗を測った。表示は0.03MΩ。対地電圧100Vの回路だから、基準は0.1MΩ以上。3分の1にも届いていない。
この分電盤には分岐回路が8つある。その先には照明器具、換気扇、エアコン、電気温水器がつながっていて、壁と天井の中にはケーブルが何十メートルも走っている。どこかに絶縁不良がある——それは分かった。
では、どこか。8回路の配線をすべて張り替え、機器も全部交換してしまえば確実だが、そんな時間も費用もない。1回路ずつ、1機器ずつ、総当たりで測っていくしかないのだろうか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、数回の測定で犯人にたどり着く順序を組み立てられるようになっている。
絶縁抵抗の測り方と基準値はすでに学んだ。ここから先は、測った結果が不合格だったあとの話だ。実務では、むしろこちらのほうが時間を食う。
なぜ「全体が悪い」ことが「全部が悪い」を意味しないのか
分電盤の分岐回路は、主幹に対して並列につながっている。ということは、対地間の絶縁抵抗も並列合成される。抵抗の並列合成は、
であり、合成値 は必ずいちばん小さい値より小さくなる。
たとえば良好な7回路が各10MΩ、不良の1回路だけが0.035MΩだったとしよう。
7回路がどれだけ健全でも、たった1回路の不良に引きずられて、全体はあっさり基準を割る。
切り分けの手順
- 分岐ブレーカーをすべて開放する。 これで各回路が主幹から切り離される。まず主幹の二次側だけを測る。ここでもなお値が低ければ、原因は分電盤内部か幹線側にある
- 1回路ずつ測る。 切り離した状態で分岐回路を個々に測定し、値の低い回路を特定する。関東電気保安協会の現場記録でも、絶縁不良の追跡調査は「分岐回路をすべて開放し、個々に絶縁測定を実施」する形で進められている
- 機器を外して測り直す。 犯人の回路が分かったら、その先につながる負荷(機器)を外して測る。値が回復すれば原因は機器側、変わらなければ配線側だ
この3段階で、8回路と全機器を総当たりせずに原因の位置が絞り込める。
測定時の端子の使い分け
- 電線相互間の測定では、E端子とL端子の区別は必要ない
- 電路と大地間の測定では、接地端子にE端子(EARTH)を、充電部にL端子(LINE)を接続する
「電線どうしの間が悪いのか、電線と大地の間が悪いのか」も切り分けの手がかりになる。対地間だけが低ければ、ケーブルの外装が造営材や金属部と接触している可能性が高い。
よくある原因
絶縁物の劣化の原因には、温度・湿気・汚れ・化学反応・損傷がある。既設の設備なら経年劣化や結露が主役だが、竣工検査で見つかる絶縁不良は、たいてい施工時の損傷だ。ステープルを打ち込みすぎてケーブルの被覆を傷つけた、ボックスのカバーを締めるときに電線を噛み込んだ、金属管に通線するときに被覆を擦った——いずれも目視点検では見つけにくく、絶縁抵抗という数値になって初めて表に出てくる。
犯人探しを、勘から手順に変える
切り分けは、この科目で学ぶことのうち、手順そのものがそのまま値打ちになる部分だ。0.03MΩという1つの数字から、8回路のどれが悪いかを数回の測定で言い当てられる人と、端から総当たりする人とでは、かかる時間も費用も桁が違う。しかもこの発想は配線に限らない。並列につながったものの中から悪い1つを探す、という手つきは、機器の故障診断でもそのまま使える。
今日できるのは、自宅の分電盤で分岐ブレーカーを1つずつ切り、どの部屋・どの機器が落ちるかを確かめて対応表を作ることだ。パソコンや録画機の電源が落ちるので、そこだけは気をつけたい。やってみると、ラベルの表記と実態が食い違っている家がかなりあると分かる。切り分けの第一歩は、切り離せる単位を自分が把握しているかどうかで決まる。
面白いのは、たった1か所の傷が全体の数字を支配してしまうという並列合成の性質だ。7回路が10MΩあっても、1回路が0.035MΩなら全体は0.034MΩになる。悪いほうに引きずられるこの非対称は、裏を返せば「悪い1か所さえ直せば一気に回復する」という希望でもある。太陽光、蓄電池、EV充電設備と、住宅につながる回路は増えていく方向にある。数を当たるのではなく、構造を使って絞り込む。この考え方は、設備が複雑になるほど強くなる。
冒頭の0.03MΩから、どの順序で犯人にたどり着けばよかったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。