直流電源ユニットの中に、スイッチ(半導体)とリアクトル(コイル)と小さなダイオードが入っている。スイッチは1秒間に何万回もON/OFFを繰り返している。
スイッチがOFFになった瞬間、電源から負荷へ向かう道は切れる。それなのに、負荷の電流は止まらない。ダイオードは電源から電流を受け取っていないのに、電流が流れている。
この電流は、いったいどこを通っているのか。
答えはリアクトルにある。コイルは、流れている電流を流し続けようとする。電源から切り離された瞬間、コイルは自分の電流の行き場を作ろうとして、環流ダイオードを通る輪を自分で閉じる。チョッパの計算問題は、ほぼすべてこの「2つの状態を交互に追う」ことで解ける。
「パワーエレクトロニクス:インバータ・チョッパ」のページでは、降圧チョッパの出力電圧 と昇圧チョッパの出力電圧 を扱った。このページはその続きで、電圧の式ではなく、電流の通り道と平均電流を扱う。
このページの結論:降圧チョッパは、スイッチONでは「電源→スイッチ→リアクトル→負荷」、スイッチOFFでは「リアクトル→負荷→環流ダイオード→リアクトル」の2つの輪を交互に使う。リアクトルの電流はONで増え、OFFで減る。この増減(リップル)は平均の負荷電流Ioのまわりを上下し、スイッチの平均電流はαIo、ダイオードは(1−α)Io。直流電動機をスイッチ2個で駆動すると、αVsと逆起電力Ebの大小で、力行と回生が切り替わる。
降圧チョッパを「ON」と「OFF」の2コマで追う
降圧チョッパの回路は、次の部品を次のようにつないでいる。
- 電源 の+側にスイッチ S をつなぎ、その先の点を P とする。
- P からリアクトル L を通して負荷(出力コンデンサ C と並列)につなぎ、負荷のもう一端を電源の-側に戻す。
- ダイオード D を、P と電源の-側の間に、カソード(電流が出ていく側)を P に向けてつなぐ。これが環流ダイオード(フリーホイリングダイオード)である。
以下では、スイッチもダイオードも理想的(ONのときの電圧降下0、OFFのときの電流0)とし、定常状態で考える。
| スイッチ S が ON | スイッチ S が OFF | |
|---|---|---|
| 電流の通り道 | 電源 → S → L → 負荷 → 電源 | L → 負荷 → D → L(ダイオードを通る輪) |
| ダイオード D | 点Pが に持ち上げられ、逆バイアスで電流0 | 順バイアスで導通 |
| 電源から流れ出す電流 | リアクトル電流と同じ | 0 |
| リアクトルにかかる電圧 | ||
| リアクトル電流 | 増える(傾き ) | 減る(傾き ) |
OFFの期間にダイオードが導通するのは、リアクトルが流れていた電流を流し続けようとして、点Pの電圧を0以下まで引き下げるからである(東芝のデザインガイドも、OFFにしてもインダクターは電流を流し続けると説明している)。ダイオードが導通した瞬間、点Pの電圧は0に固定され、リアクトルには負荷の電圧 が逆向きにかかって電流が減っていく。
出力電圧 を、電流の増減から確かめる
リアクトルの電圧と電流の関係は である。上の表の電圧を代入すると、傾きが一定なので、1周期 のうち ON の時間を 、OFF の時間を とすれば、電流の変化量は次のようになる(以下は、この記事での導出)。
定常状態では、1周期で電流が元に戻るので、増える量と減る量が等しい。
以前のページで暗記した式が、電流の増減の釣り合いから出てくる。傾きと時間の積(面積)が上りと下りで等しい、とも言える。
リアクトル電流の増減幅(リップル)
上の を整理すると、リアクトル電流の増減幅 (リップル電流)が出る。
3つの形はどれも同じ値。与えられた量に合わせて使い分ける。
- が大きいほど、 が短い(スイッチング周波数が高い)ほど、リップルは小さい。
- は で最大になるので、 のときリップルは最大()。
- 連続している間、 は負荷電流 に依存しない。重い負荷でも軽い負荷でも同じ幅で上下する。
リアクトル電流は、平均の負荷電流 を中心に だけ振れる三角波になる。最大値は 、最小値は である。
例題1:リップル電流を求める
降圧チョッパの電源電圧 、デューティ比 、スイッチング周波数 、リアクトル である。リアクトル電流のリップル幅 を求めよ。また、負荷電流の平均値が のとき、リアクトル電流の最大値と最小値を求めよ(電流は連続)。
検算:OFF期間は で、増える量と一致する。
最大値は 、最小値は 。最小値が0より大きいので、電流は途切れない。
連続と不連続の入口
リアクトル電流が途切れずに流れ続ける動作を電流連続モードという。条件は、最小値が0以上であること、つまり
である(東芝のデザインガイドも同じ条件で、等しいときを臨界としている)。例題1の回路なら、 が連続の条件である。
負荷を軽くして になると、ダイオードは逆向きの電流を流せないので、OFFの期間の途中でリアクトル電流が0に達し、次にスイッチがONになるまで0のままになる。これが電流不連続モードで、 は成り立たない(同ガイドも同じ趣旨を述べている)。計算問題はほとんどが連続モードだが、「負荷が軽いとどうなるか」という定性問題で不連続が出る。
平均電流の按分:負荷・スイッチ・ダイオード・電源
負荷電流がほぼ平滑(一定の )とみなせるとき、各部分の平均電流は時間の割合で決まる。
負荷が抵抗 とリアクトルの直列(R-L負荷)なら、定常状態ではリアクトルの電圧の平均が0なので、出力の平均電圧 はすべて抵抗にかかる。
電流 がどの素子を、どれだけの時間流れるかを数える。
| 部分 | 電流が流れる期間 | 平均電流 |
|---|---|---|
| スイッチ S | ONの期間(周期の の割合) | |
| 環流ダイオード D | OFFの期間(周期の の割合) | |
| 電源(から流れ出す電流) | ONの期間 |
スイッチとダイオードの平均電流を足すと に戻る。また、電源電圧 に電源の平均電流 を掛けた電力 は、負荷の電力 に等しい。この電力の保存が、按分の検算になる。
連続モードなら、リップルがあってもこの按分は崩れない(ON・OFFそれぞれの区間でリアクトル電流は直線で、両端の平均がどちらも になる。この記事での導出)。
例題2:素子の平均電流を求める
降圧チョッパの電源電圧 、デューティ比 、負荷は抵抗 とリアクトルの直列(リアクトルは十分大きく、電流は平滑)である。負荷の平均電流、スイッチ、環流ダイオード、電源の平均電流を求めよ。
検算:。電源の電力 、負荷の電力 で一致する。
昇圧チョッパの電流経路
昇圧チョッパは、電源 の+側から先にリアクトルを通り、その先の点にスイッチ(電源の-側へ)とダイオード(出力側へ)がつながる構成である。出力側には平滑コンデンサ C と負荷がある。
| スイッチ S が ON | スイッチ S が OFF | |
|---|---|---|
| 電流の通り道 | 電源 → L → S → 電源 | 電源 → L → D → 負荷(と C)→ 電源 |
| ダイオード D | 逆バイアスで電流0 | 順方向で導通 |
| リアクトルにかかる電圧 | (負) | |
| リアクトル電流 | 増える(傾き )。エネルギーを蓄える | 減る。エネルギーが出力へ送られる |
降圧チョッパとの違いは、スイッチの位置にある。昇圧では、ONの間は電源がリアクトルへエネルギーを蓄えるだけで負荷へは何も送らず、OFFの期間にリアクトルの電圧が電源に上乗せされて、出力が電源電圧より高くなる。
リアクトル電流の釣り合いを降圧のときと同様に書くと、次のようになる(この記事での導出)。
平均電流は、リアクトル電流の平均を (電源から流れ出す電流の平均に等しい)とすると、スイッチが 、ダイオード(=出力側へ送られる電流)が 。損失を無視すれば で、 は出力電流 に等しい。降圧では電源側の電流 が出力より少なかったのに対し、昇圧では電源側の電流 が出力電流より大きい。
直流電動機のチョッパ駆動
降圧チョッパ1個では力行だけ
他励直流電動機の電機子(電機子抵抗 、逆起電力 )に降圧チョッパの出力をつなぐと、電機子インダクタンスがリアクトルの役をして、OFFの期間は環流ダイオードが電流を流し続ける。平均の電機子電流は、連続モードのとき (電動機の電圧方程式 の を に置き換えたもの)。環流ダイオードは逆向きの電流を通さないので、 にしても電流は0になるだけで、ブレーキ(回生)はかけられない。
スイッチ2個の2象限チョッパ
電流が逆向きにも流れるようにするには、上下にスイッチを2個置く。S1は電源の+側と中間点の間、S2は中間点と電源の-側の間にあり、それぞれにダイオード(D1、D2)を逆並列につなぐ。S1とS2は相補に駆動し(片方がONのときもう片方はOFF。同時ONは電源短絡になる。注意点で扱う)、電動機は中間点と電源の-側の間につなぐ。端子電圧の向きも回転方向も変えずに、電流が正の力行と、電流が負の回生の2つの状態を取れるので、これを2象限チョッパと呼ぶ(本ページでの呼び方)。
電機子電流 は、中間点から電動機へ流れ込む向きを正とする。S1・S2のON/OFFの組合せごとの電流の通り道は次のとおり。
| 電機子電流の向き | S1 ON(S2 OFF) | S1 OFF(S2 ON) |
|---|---|---|
| (力行) | 電源 → S1 → 電動機 → 電源(S1を通る) | 電動機のインダクタンスの電流がD2を通って環流(S2はONでも電流はD2を流れる) |
| (回生) | 電動機の電流がD1を通って電源へ戻る(S1はONでも電流はD1を流れる) | 電動機がS2で短絡されて電流が増える(S2を通る) |
平均の端子電圧は、どちらの向きでも S1 のデューティ比 で決まり、 である。したがって
の符号が(連続モードのとき)そのまま動作を決める。
- のとき :力行。電源から電動機へ電力が流れる。
- のとき :回生。電動機が発電機になり、電力が電源へ戻る。
回生のしくみは、昇圧チョッパそのものである。S2がONの間、電動機の逆起電力が電機子インダクタンスに電流を押し込んで、エネルギーを蓄える。S2がOFFになると、その電流はD1を通って電源へ流れ込む。電動機の発電電圧 のほうが電源電圧より低いのに電源へ電力を送れるのは、昇圧チョッパが入力より高い電圧を作るのと同じ理屈による(講義資料でも、回生ブレーキを昇圧チョッパの考え方で説明している)。
JEEAの電気技術解説講座も、回生制動を「電源を接続したまま逆起電力を端子電圧より高くし、発電電力を電源へ送り返す方法」と説明している。チョッパでは、デューティ比 を下げて を より低くすることでそれを作る。
回生に入るかどうかは「 と のどちらが大きいか」だけで決まる。回転方向と磁束が同じなら の向きも大きさも変わらないので、力行から回生で反転するのは ではなく、電機子電流の向きとトルクの向きである(「直流電動機の原理と特性」の回生制動の節と同じ整理)。 は回転数に比例するので、同じ でも回転数が上がれば、力行から回生へ入る。
例題3:直流電動機の回生時の電流経路と電流
他励直流電動機(電機子抵抗 、磁束一定)を、スイッチ2個の2象限チョッパ(電源電圧 )で駆動している。ある回転数での逆起電力は である。(1) のときの電機子電流、(2) に下げたときの電機子電流、(3) (2)のとき電源へ戻る平均電流を求めよ。電機子電流は平滑とする。
(1) で、 より高い。
(2) で、 より低い。
(3) 電源へ電流が戻るのは、D1が導通する期間(S1の指令がONの期間、周期の0.6)である。そのとき流れる電流が60Aなので
検算:電源が受け取る電力 は、端子での電力 と一致する。S2を流れる平均電流は で、 に戻る。
波形の読み取り
電圧・電流の波形が図で与えられたときは、次の3点を順に読む。
- スイッチの電流が流れている期間が 。その比が 。
- リアクトル電流の山と谷の差が 、真ん中が 。谷が0に張りついて平らな区間があれば、不連続モード。
- スイッチとダイオードの電流の平均の比は 。
注意点
- スイッチ2個を同時にONにしない:2象限チョッパのS1とS2が同時にONになると、電源が短絡される。実際の駆動回路には同時ONを防ぐ対策が必要になる(講義資料も、同時ONは電源短絡になると扱っている)。
- リップル電流は L と周波数で決まり、負荷では決まらない:軽負荷で負荷電流が小さくなってもΔIは減らないので、不連続モードに入る。
実務との接点
直流電動機の速度制御にチョッパを使うと、抵抗で電圧を落とす方式に比べて、運転時も回生制動時も抵抗による電力損失がない、と日本電気技術者協会の解説講座は説明している。一方で、入力電流がパルス状になるため、電源とチョッパの間にフィルタを入れる必要があるとも述べている。
仕様書の「環流ダイオード」「連続モード」「回生」といった言葉は、ここで追った回路の動作で説明できる。定格や形式の判断は、各メーカーの資料と仕様書で確認する。
関連トピック
- 「パワーエレクトロニクス:インバータ・チョッパ」:降圧・昇圧チョッパの出力電圧の式 、 と、インバータ、太陽光発電用パワーコンディショナを扱う。このページはその電流側の補足にあたる。
- 「直流電動機の原理と特性」:逆起電力、電圧方程式、始動、回生制動( か か)を扱う。このページの は、その電圧方程式のチョッパ版である。
冒頭の問いの答え:OFFの期間、電流はリアクトルから環流ダイオードを通る輪を流れている。理解度チェックで確かめてみよう。