考えてみよう
抵抗6Ωとコイル8Ω(誘導性リアクタンス)を直列につないで、100Vを加えた。電流は何Aか。
「6+8=14Ωだから、100÷14≒7.1A」と書いて、×になった経験はないだろうか。電流は10Aが正解だ。抵抗とコイルでは電圧と電流の「向き」が違うので、6と8は単純には足せない。
向きまで含めて一度に扱える道具が複素数だ。このトピックを読み終えるころには、交流回路の問題で「まず複素数で式を立てる」という一手を持てて、電流の大きさと位相が1行で出せるようになっている。
この記事の結論
- 交流の電圧・電流は、実効値を大きさにした複素数(フェーザ)V˙=V∠θ で書く。
- 素子は、抵抗が R、コイルが jωL、コンデンサが jωC1=−ωCj。足し合わせた複素インピーダンスは Z˙=R+j(ωL−ωC1) になる。
- 直列はインピーダンス Z˙ を足し、並列はアドミタンス Y˙=1/Z˙ を足す。電力は S˙=V˙I˙∗ で求める。
- 大きさ(絶対値)を取るのは最後に1回だけ。途中で絶対値どうしを足さない。
jの意味と、直交形式・極形式
電気では i は電流の記号なので、虚数単位には j(j2=−1)を使う。複素平面では、j を掛けると点が反時計回りに90°回転する。
複素数の書き方は2通りあり、どちらも同じ点を指している。
Z˙=a+jb (直交形式)⟺Z˙=∣Z˙∣∠θ=∣Z˙∣(cosθ+jsinθ) (極形式)
∣Z˙∣=a2+b2,θ=arctanab (象限を確認する)
偏角は arctan の値をそのまま採らず、その複素数が複素平面のどの象限にあるかを確かめて決める(たとえば −3+j3 は第2象限にあり、arctan(3/(−3))=−45∘ に 180∘ を足した 135∘ が偏角になる)。たとえば 3+j4 は第1象限にあり、∣Z˙∣=5、θ≈53.1∘ で 5∠53.1∘ だ。
計算の使い分けは次のとおり。
| 計算 | 向く形式 | やり方 |
|---|
| 足し算・引き算 | 直交形式 | 実部どうし、虚部どうしを足し引き |
| 掛け算 | 極形式 | 大きさは掛け、角度は足す |
| 割り算 | 極形式 | 大きさは割り、角度は引く |
直交形式のまま割るときは、分母の共役(虚部の符号を反転した数)を分母と分子に掛けて分母を実数にする。たとえば 3+j41=(3+j4)(3−j4)3−j4=253−j4。
足し算は、見かけは算術の和でも、複素平面ではベクトルの和になっている。だから足していいのは実部どうし・虚部どうしだけで、大きさ(絶対値)どうしを足した値は合成後の大きさにならない。絶対値を取るのは、最後に1回だけだ。
フェーザ——実効値を大きさにした回転ベクトル
正弦波は、原点のまわりを角速度 ω で回るベクトルの影として表せる。回路計算では、同じ ω で回っているベクトルをある瞬間で止めた静止ベクトルとして扱い、その大きさには最大値ではなく実効値を使う。大きさと位相で決まるこの量がフェーザだ。
v=2Vsin(ωt+θ)⟺V˙=V∠θ
たとえば v=1002sin(ωt+30∘) [V] の実効値フェーザは V˙=100∠30∘ V(最大値の141Vでも、さらに割った70.7Vでもない)。電源の周波数がすべて同じなら ωt は省略でき、回路のどこでも電圧・電流の大きさと位相差だけを追えばよい。以降の計算では、電源電圧を位相の基準(∠0∘)に置く。
素子の複素表示と、複素インピーダンス
抵抗はそのまま実数 R。コイルは電圧が電流より90°進むので jωL(+j)、コンデンサは電流が電圧より90°進むので jωC1=−ωCj(−j)で表す。
| 素子 | 複素インピーダンス | 虚部の符号 | 電流の位相(電圧基準) |
|---|
| 抵抗 R | R | なし | 同位相 |
| コイル L | jωL | 正 | 90°遅れ |
| コンデンサ C | −j/(ωC) | 負 | 90°進み |
R・L・C直列なら、足し合わせて次のようになる。実部が抵抗分、虚部がリアクタンスで、インピーダンスは抵抗(実部)とリアクタンス(虚部)をあわせた複素数ベクトルとして表せる。
Z˙=R+j(ωL−ωC1),∣Z˙∣=R2+(ωL−ωC1)2
オームの法則は複素数でもそのまま成り立つ。V˙=Z˙I˙。このとき電流の偏角は電圧の偏角から Z˙ の偏角を引いたものになり、力率は cosθ=R/∣Z˙∣ だ。前のトピック「RLC直列回路とベクトル図」で図で追った内容を、複素数では式1本にまとめられる。
並列はアドミタンス——Y=1/Z=G+jB
並列回路は、インピーダンスの逆数のアドミタンス Y˙=1/Z˙ を使うと足し算で済む。実部がコンダクタンス G、虚部がサセプタンス B で、単位はどちらもS(ジーメンス)。
Y˙=R1+jωL1+jωC=G+j(ωC−ωL1)
コンデンサのサセプタンスは正、コイルは負。インピーダンスと逆向きの符号なので、ここを取り違えやすい。
直列は Z˙ を足し、並列は Y˙ を足すのが基本だ。ただし、これは式が簡単になる目安で、問題によって選び分ける。
直並列を複素数で解く手順
- 位相の基準を決める。電圧が与えられていれば V˙=V∠0∘ とする。
- 各素子を R、jωL、−j/(ωC) で書く(並列部分は G、−j/(ωL)、jωC)。
- 直列は Z˙ を、並列は Y˙ を足して合成する。2並列なら Z˙=Z˙1Z˙2/(Z˙1+Z˙2) も使える。
- I˙=V˙/Z˙(または I˙=Y˙V˙)で電流のフェーザを出す。
- 大きさと偏角に直し、電流が遅れか進みかを検算する。誘導性なら電流の虚部は負になる。
例題1:RL直列の電流フェーザ
R=6 Ω、ωL=8 Ω の直列回路に V˙=100∠0∘ V を加えたとき、電流 I˙ を求めよ。
Z˙=6+j8=10∠53.1∘ Ω,I˙=6+j8100=62+82100(6−j8)=6−j8=10∠−53.1∘ A
電流の大きさは10A、位相は電圧より53.1°遅れる(誘導性)。冒頭の「100÷14」は、リアクタンスと抵抗を算術和にした誤りだった。力率は cos53.1∘=0.6。
例題2:RC並列のアドミタンスと合成電流
R=25 Ω の抵抗と、サセプタンス ωC=0.03 S のコンデンサを並列にして、V˙=100∠0∘ V を加えた。電源から流れる電流を求めよ。
Y˙=251+j0.03=0.04+j0.03 S,I˙=Y˙V˙=100(0.04+j0.03)=4+j3 A
∣I˙∣=42+32=5 A。抵抗の電流4Aとコンデンサの電流3Aを算術和にした7Aは誤りで、位相が90°ずれているのでベクトル和になる。電流の虚部が正なので、電流は電圧より進んでいる(容量性)。
複素電力——電流のほうを共役にする
電圧 V˙=V∠θ1、電流 I˙=I∠θ2 をそのまま掛けると、偏角が θ1+θ2 になって位相差にならない。電流のほうを共役にして掛けると、位相差 θ1−θ2 が出る。
S˙=V˙I˙∗=VI∠(θ1−θ2)=P+jQ
P=VIcos(θ1−θ2),Q=VIsin(θ1−θ2),∣S˙∣=VI=P2+Q2,cosφ=∣S˙∣P
実部が有効電力、虚部が無効電力、大きさが皮相電力。無効電力は、電流が電圧より遅れるとき(θ1>θ2)に正とする(遅れ無効電力を正とする取り決め)。進み電流のときは Q が負になる。
例題3:複素電力から力率とQ
ある負荷に V˙=200∠0∘ V を加えたところ、I˙=8−j6 A が流れた。有効電力・無効電力・力率を求めよ。
S˙=V˙I˙∗=200(8+j6)=1600+j1200
P=1600 W、Q=1200 var(正なので遅れ)、∣S˙∣=2000 VA、力率は 1600/2000=0.8。電流の虚部が負(遅れ)で、Q が正になっている点で、符号が整合している。
共役の向きを間違えても、実部の P は同じ値になる。違いが出るのは Q の符号だ。検算は「遅れ電流(電流の虚部が負)なら S˙ の虚部は正」の一点で足りる。符号が逆に出たら、共役を取り忘れたか、電圧のほうを共役にしている。問題文に S˙ の定義が書いてあれば、その定義に従う。
三相交流の入口——線間電圧は相電圧の√3倍で30°進む
対称三相電源は、大きさと周波数が同じで位相が120°ずつずれた3つの電圧からなる。a相を基準に、b相がa相より、c相がb相より遅れる順序(相順abc)なら、次のように書ける。
E˙a=E∠0∘,E˙b=E∠−120∘,E˙c=E∠120∘
線間電圧は相電圧の差で、複素数なら1行で計算できる。
E˙ab=E˙a−E˙b=E(1+21+j23)=E(23+j23)=3E∠30∘
相順abcのとき、線間電圧は相電圧に対して大きさが 3 倍、位相が30°進む。Y結線の平衡負荷 Z˙Y なら、各相に相電圧がかかり、1相分の電流は I˙a=E˙a/Z˙Y だ。たとえば E=100 V、Z˙Y=12+j16 Ω なら
I˙a=12+j16100=400100(12−j16)=3−j4 A,P=3∣I˙a∣2R=3×25×12=900 W
と求まる(検算:3×173×5×0.6≒900 W)。三相の線間電圧・線電流・結線の別の整理は「三相交流とY-Δ」で扱っている。
交流ブリッジ——平衡条件は実部と虚部の2式
交流ブリッジの平衡は、ホイートストンブリッジと同じ対辺の積の形で書ける。未知の Z˙x と向かい合う辺を Z˙1、残る対辺を Z˙2・Z˙3 とすると
Z˙1Z˙x=Z˙2Z˙3
解法は3段階だ。①各辺を複素数で書く。②対辺の積を等しいとおく。③実部どうし、虚部どうしを等しいとおいて未知数を求める。極形式で書けば「大きさの積が等しい」と「偏角の和が等しい」の2条件になる。式は1本でも条件は2つなので、可変素子が2つ必要になる(詳しい回路例は「電気計測」の交流ブリッジの節)。
Z˙1=30−j40、Z˙2=100、Z˙3=20+j10 のとき、Z˙x=Z˙2Z˙3/Z˙1=100(20+j10)(30+j40)/2500=0.04(600+j800+j300−400)=0.04(200+j1100)=8+j44 Ω。検算として Z˙1Z˙x=(30−j40)(8+j44)=2000+j1000、Z˙2Z˙3=2000+j1000 が一致する。
共振と複素数
Z˙ の虚部が0になるのが直列共振(ωL=1/ωC)、Y˙ の虚部が0になるのが並列共振(反共振、コイルが理想的な場合)の条件だ。「共振回路」の内容は、複素数で見るとこの一言にまとまる。
よくある間違い
| 間違い | 正しくは |
|---|
| 直列で ∣Z˙1∣+∣Z˙2∣ を合成値にする | 先に Z˙1+Z˙2 を実部・虚部で足し、最後に大きさを取る |
| コンデンサを +j/(ωC)、コイルを −jωL とする | コイルが +jωL、コンデンサが −j/(ωC) |
| 並列を Z˙ のまま足す | 並列は Y˙ を足す(または Z˙1Z˙2/(Z˙1+Z˙2)) |
| 複素電力で共役を取らない、または電圧のほうを共役にする | S˙=V˙I˙∗。遅れ電流で Q が正になるか確認 |
| 最大値をそのままフェーザの大きさにする | フェーザの大きさは実効値(最大値÷2) |
実務との接点——力率改善コンデンサの容量
誘導性負荷の力率改善では、並列に入れるコンデンサのサセプタンスで、負荷のサセプタンスの虚部(負)を打ち消す。アドミタンスの虚部を0にすると考えれば、必要な容量が1行で出る。JEEAの解説では、50Hz・100V・10A・力率85%の誘導性負荷に対し、力率を100%にするコンデンサ容量がおよそ170μFと求められている。この数値は無効電力で求めても同じになる(Q=100×10×sin(arccos0.85)≒527 var、C=Q/(ωV2)≒168 μF)。力率改善の考え方そのものは「交流電力と力率」で扱っている。
関連トピック
- 「RLC直列回路とベクトル図」:図で追っていた電圧の合成を、複素数では式1本で行う。
- 「共振回路」:共振は Z˙ または Y˙ の虚部が0になる条件。
- 「三相交流とY-Δ」:線間電圧・相電圧の30°の関係と、Y・Δ変換。
- 「電気計測」:交流ブリッジの平衡条件を、回路図とあわせて扱う。
- 「交流電力と力率」:有効電力・無効電力・皮相電力の三角形と、力率改善。