冬の朝。室内は20℃に暖房され、外気は0℃だ。外壁は、厚さ150 mmのコンクリートだけの壁(仕上げは考えない。空気との境目の条件は、後の例題と同じ)とする。
壁の内側の表面は、何℃になっているだろう。(a) 約19℃ (b) 約15℃ (c) 約11℃ (d) 約3℃。さらに、壁の外側に断熱材(熱伝導率 0.040 W/(m·K) の保温板、厚さ50 mm)を足すと、内側の表面は何℃になるだろう。
先に直感で決めておいてほしい。読み終えるころには、熱の通り道を一段ずつ数えて、温度が下がる場所まで言えるようになっている。
まず一言で
熱は、温度の高い方から低い方へ移る。移り方は3つ。
- 熱伝導:固体どうしが接する所(壁の内部など)を、熱が伝わっていく
- 対流熱伝達:固体の表面と、流れる空気や水(流体)の間で、熱が移る
- 放射:電磁波で、離れた面へ熱が移る。真空でもよい
壁を通って逃げる熱は、室内の空気から壁の表面(対流と放射)、壁の中(伝導)、反対側の表面(対流と放射)、外気へと、順につながったものだ。これが熱貫流で、熱の通りにくさ(熱抵抗)を足し合わせて数える。定常なら、温度は熱抵抗の大きい所で大きく下がる。
熱は、「差」と「抵抗」で数える
熱の移る量は、温度の差(温度差)が大きいほど大きい。熊本県立大学の辻原万規彦氏の講義資料(建築環境工学Ⅰ。以下「辻原」)は、0℃の氷が、20℃の水をかけると溶け、90℃の湯をかけるともっと溶ける例で、これを示す。温度差は、K(ケルビン)で表しても℃で表しても大きさは同じだ(20℃の差は20 K)。
この関係は、電気のオームの法則とよく似ている。日本電気技術者協会の地中ケーブルの許容電流の解説は、常時許容電流を考える場合(ケーブルの熱容量は飽和している)、熱流(熱の流れ)を電流、熱抵抗(熱の通りにくさ)を電気抵抗、温度差を電位差に置き換えれば、直流の電気回路と等価と考えられ、熱オームの法則とも呼ばれると書く。電流が電圧に比例して抵抗に反比例するように、熱流は温度差に比例し、熱抵抗に反比例する。この関係が成り立つのは、状態が時間で変わらない(定常)ときだ。そのとき、直列の抵抗が足し算になることも、そのまま使える。
3つの移り方
| 移り方 | 起きる場所 | 式と係数 |
|---|---|---|
| 熱伝導 | 固体どうしが接する所(壁の内部など) | q=λ×Δθ÷L λ[W/(m·K)] |
| 対流熱伝達 | 固体の表面と流体の間 | q=α×Δθ α[W/(m²·K)] |
| 放射 | 離れた面どうし(真空でも) | q=εσ(T1⁴−T2⁴)(相手が黒体で、面を取り囲むとき) |
熱伝導 — 太さ・差・長さで決まる
平面壁を通る熱流量は、次の式になる(フーリエの法則)。
Q は熱流量[W]、λ は熱伝導率[W/(m·K)]、A は面積[m²]、Δθ は両面の温度差[K]、L は厚さ[m]。
なぜこの形なのか。辻原の資料は、ストローでジュースを吸う話で説明する。通り道が太いほど、吸う力が強いほど、たくさん流れる。ストローが長いほど、流れにくい。熱も同じで、面積 A が大きいほど、温度差 Δθ が大きいほど多く流れ、厚さ L が大きいほど流れにくい。この比例関係は、実験で確かめられた事実として示される(筑波大学の伝熱工学の講義資料。以下「筑波大の資料」)。λ は、材料ごとの熱の通しやすさだ。
L÷λ を 熱抵抗 といい、[m²·K/W]と書く。すると面積1 m²あたりの熱流束は となり、オームの法則と同じ形になる。
| 材料 | λ[W/(m·K)] | R=1 に要る厚さ |
|---|---|---|
| 銅 | 370 | 370 m |
| 鋼 | 55 | 55 m |
| コンクリート | 1.6 | 1.6 m |
| 天然木材 | 0.12 | 12 cm |
| グラスウール(16K相当) | 0.045 | 4.5 cm |
熱抵抗1 m²·K/W をつくるのに、コンクリートは1.6 mの壁が要るが、グラスウールは4.5 cmで足りる。断熱材が薄くても効くのは、λ が桁違いに小さいからだ。静止した空気のλは約0.02 W/(m·K)で、辻原の資料は「固体に近い扱い」とする。グラスウールの0.045は、この空気に近い桁にある。断熱材は、一般に水を含むと λ が大きくなる(辻原)。
やってみよう ①:コンクリート壁を通る熱
厚さ0.20 m、面積4 m²、λ=1.6 W/(m·K) の壁の両面に、6 Kの温度差がある。(1) 熱流量 Q は? (2) 1時間では何 kJ 通るか?
(1) Q=1.6×4×6÷0.20=192 W。 (2) 192 W×3600 s=691200 J=約691 kJ。W に秒数を掛けて J に戻す。
これで、平面壁を通る熱を、W と J の行き来まで含めて数えられる。
対流熱伝達 — なぜ、風で変わるのか
固体の表面と流体の間の熱流束は、(ニュートンの冷却則)。α は熱伝達率[W/(m²·K)]だ。λ との違いは、α が物性値ではなく、流速・圧力・表面の形で変わる点にある(筑波大の資料)。辻原の資料は、空気が自然に動くとき約4、風が吹いて強制的に動くとき約18 W/(m²·K)とする。盤用熱関連機器工業会(TECTA)のガイドラインは、鋼板の盤の外表面で、風速約0.3 m/sの対流分を3.6、約0.8 m/sで5.8 W/(m²·K)とする。
風で変わる理由は、こう読める。表面のすぐそばには、表面の熱で温まった空気の薄い層ができる。この層が厚いほど熱は出にくく、風はこの層を薄くする。層の厚さの違いが、α の違いになる。筑波大の資料は、「流速によって熱移動が異なる」と示して「なぜ?」と問い、図に「温度境界層」の語を添える。層の説明は当サイトの読みだ。
放射 — 離れた面に、電磁波で
放射は、熱を運ぶ物質がなくてもよい。電磁波で移るので、真空中でも起こる(辻原)。入射した放射を完全に吸収する理想の物体を完全黒体といい、その面積1 m²から出る放射は、次の式になる(ステファン・ボルツマンの法則)。
T は絶対温度[K]=θ[℃]+273.15、σ=5.670374419×10⁻⁸ W/(m²·K⁴)(米国の標準機関NISTの値)。実際の面は、黒体より小さい放射率 ε(黒体は1)を掛ける。相手が黒体とみなせて、面が相手に取り囲まれている簡単な場合(たとえば、小さな面を、十分大きな周囲が取り巻くとき)、面(T1)から相手(T2)への放射の正味は εσ(T1⁴−T2⁴) だ。この条件(取り囲まれていれば、形態係数が1になる)は当サイトの整理で、筑波大の資料は、Q=ε·E_G·σA(T1⁴−T2⁴) の式に、E_G は形態係数、ε は輻射率と添えるだけだ。一般には、相手の放射率や、面どうしの見え方を表す形態係数も入る。
20℃(293.15 K)の黒体は約419 W/m²、40℃(313.15 K)は約545 W/m²。20℃から40℃に上がると、放射は約1.3倍になる。
4乗の式は、このままでは扱いにくい。ところが常温付近では、温度差に比例する形に近似できる。 で、平均を とすると 、温度差が小さいときは なので、。これに σ と ε を掛けた係数 が放射熱伝達率で、ε=0.9なら、平均温度20℃で約5.1、30℃で約5.7 W/(m²·K)になる(0.9は、辻原の演習が建物の屋外側表面に使う放射率にならった)。ε=0.9で40℃の面と20℃の周囲(平均30℃)なら、正味の放射は、正確な式で約113.9 W/m²、この近似で約113.7 W/m²で、差は0.1%ほどだ。
の形は、標準的な導出で当サイトが整理したもので、保存した資料にこの形では書かれていない。辻原の資料は、同じ線形化を σ(T2⁴−T1⁴)≈x×(θ2−θ1)、x=0.2×10⁻⁶·Tm³ の形で示し(≈ は、温度差が小さいときの近似)、常温の x を4.0〜5.5程度とする。辻原の式に Tm=303.15 K を入れると約5.6で、ε を含まない 4σTm³(約6.3)より約1割小さい。この差の理由は、資料に書かれていない。本文の約5.7(ε=0.9、平均30℃)は、辻原の約5.6に近い値になる(当サイトの計算)。
これで、放射も、温度差に比例する形にして、対流と同じ「係数×温度差」で数えられる。
表面では、対流と放射が重なる
壁の表面と室内空気の間では、対流と放射が同時に起きる。両方の和が総合熱伝達率で、α=αc+αr と書く(辻原 第3回)。
| 場所 | 辻原の値の足し算(当サイトの計算) | 建築研究所の熱伝達抵抗 |
|---|---|---|
| 室内側 | 4+約5=約9 | 0.11 m²·K/W(=約9.1) |
| 外気側(風あり) | 18+約5=約23 | 0.04 m²·K/W(=25) |
辻原の資料は、対流の4(自然対流)と18(強制対流、風が吹いているとき)、放射のおおよそ5を、別々に挙げるだけだ。表の足し算は当サイトの計算で、室内側は自然対流、外気側は風のある強制対流と割り当て、放射は5で固定した。資料ごとに値は少し違うが、同じ桁に収まる。
熱貫流 — 壁1枚を、一続きで数える
壁の両側に温度の違う流体があるとき、固体壁を通って高温側から低温側へ熱が移る現象を熱貫流という。空調の用語集(ダイキン工業「実用空調関連用語」。Weblio経由)は、その程度を表す係数を熱貫流率と書き、「熱通過率ということもある」と添える。
図1の各段を、面積1 m²あたりで見る。熱は壁の厚さ方向だけに流れるものとし、壁の端や、一部だけ熱が通りやすい部分は考えない。時間が経っても状態が変わらないとき(定常)、どの段にも同じ熱流束 q が通る。各段の温度差は q×熱抵抗で、全部足すと室内外の温度差になる。
よって、 で、K は次の式になる。
K は熱貫流率[W/(m²·K)]、分母の合計は各段の熱抵抗を足した全体の熱抵抗 R(熱貫流抵抗)で K=1/R、Q は熱貫流量[W]だ(辻原 第3回。建築研究所の式(4)(5)も同じ形)。
熱貫流率は、U値、熱通過率とも呼ばれる。建築研究所と辻原は熱貫流率、TECTAのガイドラインと令和8年度の問題Aは熱通過率と書く。同じ量を指す呼び方の違いだ(当サイトの読み)。記号も資料によって違う。結露のトピックでは、熱貫流率を U、室内側の表面熱伝達抵抗を Rsi と書く。本稿の K と 1/αi(例題では0.11 m²·K/W)にあたる。TECTAのガイドラインの熱通過率 U も、本稿の K と同じ量と読む。
例題 室内20℃、外気0℃。壁Aは厚さ150 mmのコンクリートだけ。壁Bは、Aの外側に押出法ポリスチレンフォーム保温板(1種)50 mmを足したもの。λ は建築研究所の住宅版の表で、コンクリート1.6、保温板0.040 W/(m·K)。表面の熱伝達抵抗は外壁で、内側0.11、外側0.04 m²·K/W。室内の他の面は室温と同じと仮定する。
- 壁A:熱抵抗の合計=0.11+0.15÷1.6+0.04=0.244 m²·K/W。K=1÷0.244=約4.1。熱流束 q=4.1×20=約82 W/m²。室内側の表面温度=20−82×0.11=約11.0℃
- 壁B:熱抵抗の合計=0.244+0.05÷0.040=1.494。K=約0.67。q=約13.4 W/m²。室内側の表面温度=20−13.4×0.11=約18.5℃
- 面積10 m²なら、熱貫流量は約820 Wから約134 Wへ、約1/6に減る
壁Aの20 Kの温度差は、室内側の境目で9.0 K、コンクリートの中で7.7 K、外側の境目で3.3 K下がる。熱抵抗の割合(45%、38%、16%)に等しい。
図2は、横軸を「距離」ではなく「熱抵抗の累計」にした。同じ熱流束が通る壁の温度は、この軸の上で1本の直線になり、傾きが熱流束だ。断熱材を足すと、傾きが急から緩やかに変わり、室内側の表面(累計0.11の位置)の温度が上がる。
これで、壁の各層で温度がいくつ下がるか、表面が何℃になるかを、数字で出せる。
やってみよう ②:断熱材を2倍の100 mmにしたら
壁Bの断熱材を100 mmにすると、室内側の表面温度は?
熱抵抗の合計=0.244+0.10÷0.040=2.744。q=20÷2.744=約7.3 W/m²。表面温度=20−7.3×0.11=約19.2℃。熱流束は壁Bの約0.54倍に減るが、表面温度は18.5℃から19.2℃へ、わずかしか上がらない。室温の20℃を超えて上がることはないので、効き方は頭打ちになる。
現場とつなぐ
制御盤の放熱も、同じ式で数える
TECTAの『屋外盤熱計算に関するガイドライン』は、盤の壁(厚さ2.3 mmの鋼板)を通る放熱に、熱通過率 U=1÷(1/αo+t/λ+1/αi) を使う。風速約0.3 m/sでは、外表面の αo=対流3.6+放射6.4=約10、盤の内側の αi=10(同ガイドラインが別資料から引用)、鋼板の λ=52 として、U は約5.0 W/(m²·K)。風速約0.8 m/sなら、αo は約12、U は約5.5。
数値の食い違いに見える所が2つある。鋼の λ は、材料表(建築研究所)の55に対し、TECTAは炭素鋼として52を使う。資料により違うが、下で見るとおり鋼板の熱抵抗は全体のごく一部で、U にはほとんど響かない。放射の6.4は、TECTAが同団体の別の参考資料を参照するとしている値で、前半の約5(辻原の目安)と、温度や放射率の前提が同じとは限らない。
鋼板の熱抵抗 t/λ は、0.0023÷52=約0.00004 m²·K/W。全体の0.200のうち、0.02%にすぎない。鋼板は、ほとんど熱の邪魔をしない。この計算で放熱を決めているのは、鋼板の中ではなく、盤の内側と外側の表面の熱伝達(空気の動きと放射)だ。
仮の例。密閉形の自立盤(幅800×高さ1600×奥行き500 mm)、底面を除く5面の表面積4.56 m²、盤内の発熱量300 W、日射なし、盤内の温度むらなし。放熱量 U×S×ΔT が発熱量に等しいところで釣り合うので、ΔT=300÷(5.0×4.56)=約13 K(U=5.5なら約12 K)。同ガイドラインは日射のある屋外盤向けで、屋内盤の設計値ではない。ここでは仕組みの説明に借りた。盤の熱対策(換気・熱交換器・クーラー)は、このトピックでは扱わない。
電線の許容電流も、熱抵抗の直列
日本電気技術者協会の解説は、地中ケーブルの常時許容電流(熱容量が飽和した状態)で、温度上昇が熱流と熱抵抗の積になるとし、熱流を電流、熱抵抗を電気抵抗に置き換えれば直流の電気回路と等価と考えられ、「熱オームの法則」とも呼ばれると書く。壁の熱貫流と同じ考え方だ。電線側からの説明は、当サイトの別ガイド「ケーブルの許容電流はなぜ熱回路計算で決まるのか」にある(このトピックの根拠には使っていない)。
別のトピックで扱うこと
配管の保温は「保温・保冷」、壁の表面で水が出るかは「結露と防露」、日射の入る熱は「日射と外皮の熱負荷」、季節ごとの熱の量は「熱負荷の考え方」で扱う。
試験での出方とワナ
出題の型
令和8年度 問題A No.6(必須)は、平面壁を一定の秒数で移動した熱量(J)と、壁の面積・厚さ・両面の温度差が与えられ、熱伝導率を選ぶ形だった(問題文・図は転載していない)。選択肢は、4倍ずつ違う4つの値が並んでいた。解き方は3手だ。
- 単位をそろえる。「○秒間に○ J」は、秒数で割って W にする。mm や cm は m に直す。温度差は K でも℃でも同じ
- 式を、求める量について解く。λ=Q×L÷(A×Δθ)
- 検算する。秒数を割らずに掛けると、別の選択肢の値が出る(当サイトの検算)。選択肢の桁だけでは絞れない
やってみよう ③:熱量から、熱伝導率を逆算する
平面壁を、8秒間に48 Jの熱が通った。面積2 m²、厚さ0.5 m、両面の温度差3 K。λ は?
48 J÷8 s=6 W。λ=6×0.5÷(2×3)=0.5 W/(m·K)。
令和8年度の No.9(外壁の表面結露)には「熱通過率」の語も出た。結露の中身は、別のトピックで扱う。
3つの用語
| 用語 | 間にあるもの | 係数と単位 |
|---|---|---|
| 熱伝導 | 固体どうしが接する所(壁の内部など) | λ[W/(m·K)] |
| 熱伝達 | 固体の表面と流体 | α[W/(m²·K)] |
| 熱貫流(熱通過) | 壁を隔てた2つの流体 | K[W/(m²·K)] |
冒頭の問いの答え合わせ
室内20℃、外気0℃で、厚さ150 mmのコンクリート壁の内側の表面は、約11.0℃(答えは(c))。室温と約9 K違う。温度は、壁の中(7.7 K)より、室内側の空気との境目(9.0 K)で大きく下がる。
外側に断熱材50 mm(λ=0.040 W/(m·K) の保温板の場合)を足すと、約18.5℃になる。熱流束が約82から約13 W/m²に減り、室内側の境目で下がる温度が小さくなるからだ。
理解度チェックの問1・2(用語)、問4・8・10(計算)、問5(盤)、問11(放射)で、確かめてみよう。
(例題の数値は、プログラムで検算している。)
次の問い
夏の昼、日射を受けた外壁の表面は、外気より熱くなる。このとき、壁を通る熱を Q=K×A×Δθ で数えるには、Δθ に外気温をそのまま入れてよいのか。入れてよくないなら、日射の分を、どう温度に直して足せばよいのか。別のトピック「日射と外皮の熱負荷」で追う。