「電線の許容電流はIEC 60287という国際規格の計算式で決まっています」――そう説明されて、素直に納得できる電気工事関係者がどれだけいるだろうか。太い電線ほど電流を流せるのは直感的にわかる。だが、その「太さと電流の関係」を求めるためだけに、なぜ熱抵抗だ誘電体損だという聞き慣れない量が並ぶ計算式が必要になるのか。この疑問に、案外まともに答えられる資料は多くない。
結論:許容電流は「熱の逃げ方」を電気回路として解いた答えである
先に結論を書く。IEC 60287が定める許容電流の計算は、電流が発生させる熱と、その熱が周囲へ逃げていく過程を、電気回路とまったく同じ数式構造で表現するという発想に基づいている。発熱源を電流源に、熱の通りにくさ(熱抵抗)を電気抵抗に、温度差を電圧に見立てる。この見立てのおかげで、複雑に見える熱の移動現象を、オームの法則と同じ「電圧=電流×抵抗」の式で解けるようになる。
この記事では、この見立てがどう組み立てられているか、そしてなぜ埋設か気中かで同じ電線の許容電流が大きく変わるのかを、実際に確認できた規格・技術解説・研究報告に基づいて追っていく。
そもそも、なぜ「電流に上限」ができるのか
電線に電流を流すと、導体の電気抵抗によって必ず熱(ジュール熱)が発生する。発熱量は電流の2乗に比例して増えるから、電流を上げ続ければ発熱もどこまでも増える。ところが電線の温度は、発生した熱がすべて周囲へ逃げていけば、いずれどこかで頭打ちになる。発熱量と放熱量が釣り合う温度で安定するからだ。
問題は、この釣り合い温度が絶縁被覆の耐熱限界を超えてしまう場合である。許容電流とは、この釣り合い温度がちょうど絶縁体の許容最高温度と一致するときの電流値にほかならない。つまり許容電流は電線そのものの物理的な限界というより、絶縁被覆の耐熱性能から逆算された数字だ、ということになる。この理解自体は、姉妹記事にあたる許容電流とは?電線サイズの選定方法と電流減少係数の実務知識でも触れている。今回掘り下げたいのは、この「逆算」を具体的にどう計算するかという、もう一段深い部分である。
熱を「電気回路」として解く、という発想
温度が釣り合う点を求める計算そのものは、単純な代数の話に見える。厄介なのは、熱がどれだけ「逃げにくいか」を数値化しなければならない点にある。導体を包む絶縁体、その外側の遮へい層、さらに外側の防食層、そして周囲の空気や土壌――電線の内部から外気まで、熱は何層もの異なる材質を通り抜けていく。
ここでIEC 60287が採用しているのが、電気回路とのアナロジーである。公益社団法人日本電気技術者協会の技術解説講座は、この対応関係を「熱流を電流、熱抵抗を電気抵抗、温度差を電位差(電圧)と置き換えれば、直流電気回路と等価と考えられ」ると説明し、これを熱オームの法則と呼んでいる。電気回路でオームの法則が「電圧=電流×抵抗」で成り立つのとまったく同じ形で、熱の世界でも「温度差=熱流×熱抵抗」が成り立つ、という見立てだ。
この見立てが利いてくるのは、電線の断面が何層もの異なる材質でできているからである。電気回路で抵抗を直列につなげば合成抵抗が単純に足し算になるように、熱の通り道も層ごとの熱抵抗を足し合わせるだけで、導体から周囲までの総熱抵抗が求まる。もし熱の移動を毎回、材質ごとの熱伝導方程式から解き直していたら、実務で使える計算にはならなかっただろう。電気回路という、電気技術者にとって最も慣れ親しんだ道具に載せ替えたことこそが、この計算法が実用として定着した理由だと考えられる。
熱抵抗はひとつではない――T1からT4への分割
IEC 60287-2-1は、導体から周囲環境に至る熱の通り道を、性質の異なる4つの熱抵抗に分けて計算する枠組みを定めている。myElectrical.comの技術解説によれば、その内訳はおおむね次のように整理できる。
- T1:導体と金属遮へい層(またはシース)の間、つまり絶縁体そのものの熱抵抗
- T2:遮へい層の外側、ベッディング層の熱抵抗
- T3:さらに外側、外部保護層(外装)の熱抵抗
- T4:ケーブル表面から周囲環境(空気・土壌)までの熱抵抗
そのうえで許容電流Iは、許容できる温度上昇ΔΘ、導体交流抵抗R、そして導体本数nを用いて
I = √( ΔΘ / ( R[T1 + n(T2 + T3 + νT4)] ) )
という形の式で求められる(νは布設条件によって定まる係数)。電気回路で電流を「電圧÷合成抵抗の平方根がらみの式」で求めるのと似た構造をしていることに気づくはずだ。実際には高電圧ケーブルでは誘電体損失や金属遮へい層の損失も熱源として加算する必要があり、規格上はより精緻な式になるが、骨格をなすのはこの「温度上昇を熱抵抗の合計で割って電流を導く」という発想である。
布設条件で許容電流がここまで変わる理由
ここまでの枠組みが分かると、「同じ太さの電線でも埋設か気中かで許容電流がまるで違う」という現象が、単なる経験則ではなく計算上必然の帰結だと見えてくる。
日本電気技術者協会の技術解説講座(II)は、埋設ケーブルの各部熱抵抗のうち「土壌の熱抵抗は各部の熱抵抗の中で最も大きく、許容電流に及ぼす影響は大きい」と述べている。つまり先ほどのT4――外部環境への熱抵抗――が、埋設ケーブルでは他のどの熱抵抗よりも支配的な項になる。空気中であれば対流によって熱が比較的よく逃げるのに対し、土中では熱は伝導だけを頼りに移動するしかない。地質・含水率によって土壌の熱の通しやすさ(熱抵抗率)が変われば、その一点だけで許容電流の答えは大きく動く。
同じ講座は、基底温度についても布設方式ごとに異なる値を採用すると説明している。気中では40℃、土壌では25℃(冬季は15℃)が基準とされる。気中と埋設とで許容電流表を単純に見比べただけでは分からない前提の違いが、ここにも埋め込まれている。
複数本のケーブルを並べて布設する場合の低減も、同じ枠組みで説明がつく。隣り合うケーブルが互いに発する熱が周囲の土壌や空気の中で重なり合えば、1本だけを想定した計算より実効的な周囲温度が上がったのと同じ効果が生まれる。電力中央研究所が2008年に公表した報告書「浅層埋設トラフ内に設置されるケーブル許容電流の検討」(堀康彦・伊藤哲夫・鈴木寛)は、こうした土壌を介した放熱を考慮した熱抵抗計算手法について実測との比較検証を行い、「実測値と計算値は比較的よく一致し」たと報告している。同報告書はさらに、従来一般的だった40℃という基底温度の設定では「ケーブル導体温度の許容値を超える可能性が多分にある」として、条件によっては数℃高めに設定することを推奨している。理論式が現場の実測値でどこまで裏付けられ、どこに実務上の見直しの余地が残っているかを示す一例だ。
常時だけではない――短時間・瞬時という時間軸
ここまで扱ってきたのは、ケーブルが継続的に一定の負荷で運転される場合の「常時許容電流」である。IEC 60287自体も、100%負荷率での定常状態を対象範囲としている。だが実務では、短絡事故のような一瞬の過大電流や、数十分から数時間だけ許容電流を超えて流す場合の判断も必要になる。
日本電気技術者協会の技術解説講座(III)は、この時間軸の違いに応じて計算式を使い分けると説明している。0.5〜2時間程度、常時許容電流を超えて流す「短時間許容電流」は導体温度を10〜15℃程度上乗せする形で計算し、短絡事故時の「瞬時許容電流」は導体断面積と持続時間から算出する略算式が広く使われているという。いずれも熱容量や熱回路の考え方を土台にしている点は共通しているが、常時許容電流のような定常状態の釣り合いではなく、限られた時間内にどれだけ熱を蓄えられるかという、また別の計算になる。この時間軸ごとの計算体系そのものは、掘り下げるだけでもう一本の記事になるテーマだろう。
実務者にとっての意味――早見表の裏側を知ること
内線規程やJCS規格が定める許容電流表、そして電流減少係数の表は、いま見てきた熱回路の計算を、標準的な布設パターンについてあらかじめ解いておいた結果にほかならない。実務で表を引くだけなら、この記事で見た計算式を毎回解く必要はない。
それでも原理を知っておく価値はある。早見表がカバーしていない特殊な布設条件――極端に熱抵抗率の高い土壌、通常より深い埋設、変則的なケーブル配列――に直面したとき、「なぜこの数値になっているのか」を理解していれば、既存の表をどう補正すべきかの見当がつけやすくなる。逆に原理を知らないまま数字だけを当てはめると、前提条件が変わっていることに気づけないまま設計してしまう危険がある。
ケーブルサイズの選定は、布設環境や将来の増設計画まで含めて検討すべき項目が多い。特殊な布設条件での容量計算や、規格表に載らない条件での選定でお困りの際は、お気軽にご相談いただきたい。
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