受信計器の表示が、また基準値からずれている。プラント増設に伴ってタンクの液位センサーまで配線を延長した、その日の点検だった。手元の記録計に出ている数値と、センサーのすぐそばに持ち込んだ携帯型の計測器の数値を見比べると、確かにわずかな差がある。ケーブルを200メートル近く延ばしたせいだろうか、それともセンサー自体の校正がずれたのだろうか。校正記録を確認しても異常はない。配線の絶縁も測ってみたが問題はない。それでも数字は合わない。
原因は、思っていたよりも単純なところにあった。使っていたのが電圧出力(1-5V)タイプの伝送器だったことだ。配線には必ずわずかな抵抗があり、電圧信号はその抵抗で電圧降下を起こす。配線が長くなればなるほど、受信側に届く電圧は発信側が出した値より小さくなっていく。センサーは正しく測っていた。狂っていたのは、その値を運ぶ配線の側だったというわけだ。
計装の現場でこの手のトラブルに繰り返し遭遇してきた歴史が、電流信号という選択につながっている。電圧ではなく電流で信号を運ぶ4-20mAという方式が、なぜ計装の世界でここまで標準化されているのか。順を追って見ていく。
この記事でわかること
- 電圧信号が長い配線でなぜ狂うのか、電流信号がその影響をほとんど受けない理由
- 4-20mAという規格の中身と、あえて0mAではなく4mAから始める設計上の理由
- 2線式伝送器がなぜ電源線を別に引かずに済むのか(ループ電源方式)
- PLCのアナログ入力モジュールが4-20mA信号をどう受け取っているか
- 配線長・ノイズへの耐性と、その限界
- 断線と「測定値がゼロ」をどう見分けるか、よくある配線ミス
なぜ電圧信号は長い配線で狂うのか
電圧信号の弱点は、オームの法則そのものに由来する。配線には長さに比例した抵抗があり、電流が流れればその抵抗で電圧降下が生じる。受信側の計器が読み取るのは、発信側が本来出した電圧から、この配線抵抗による降下分を差し引いた残りだ。配線が数メートル程度であれば誤差は無視できる範囲に収まる。ところが数十メートル、数百メートルという規模になると、この降下分が測定精度を食いつぶすところまで効いてくる。
さらに厄介なのは、電圧信号がノイズにも弱いという点だ。信号線の近くを動力線やインバータのケーブルが走っていると、電磁誘導によって信号線にノイズ電圧が誘起される。電圧信号の場合、このノイズ電圧はそのまま本来の信号に上乗せされてしまう。配線が長くなるほど、こうしたノイズを拾う機会も増えていく。
長距離配線が当たり前のプラント・工場設備で、電圧信号のままでは実用に耐えない場面が出てくる。ここで登場するのが、電流で信号を表す方式だった。
電流信号ならなぜ影響を受けないのか
電流信号の性質は、電圧信号とは根本的に異なる。閉じた回路(ループ)を流れる電流の大きさは、キルヒホッフの法則により、回路のどの地点で測っても変わらない。配線に抵抗があっても、その抵抗は電流の大きさそのものを変えるのではなく、その抵抗で消費される電圧(電位差)を変えるだけだ。信号を電流の大きさとして表現している限り、配線が100メートルだろうと1キロメートルだろうと、伝送器が送り出した電流値は受信側にそのまま届く。
ノイズへの耐性も同様の理屈で説明できる。エム・システム技研の技術資料には、受信側の抵抗に10Vのノイズ電圧が重畳した場合の影響を試算した記述がある。この条件でノイズによって流れる電流は0.01mA程度にしかならず、20mAという信号の大きさに対して1/2,000という、実用上ほぼ無視できる比率に収まるという。電圧信号ならそのまま上乗せされてしまうノイズが、電流信号ではここまで小さく抑えられる。
配線抵抗にもノイズにも動じない——この一点において、電流信号は電圧信号に対して明確に優位に立つ。計装の世界がこぞって4-20mAという電流ベースの規格を選んだのは、偶然ではない。
4-20mAとは何か——なぜ0-20mAではないのか
4-20mAは、測定範囲の下限(0%)を4mA、上限(100%)を20mAという電流値に対応させ、その間を電流の変化で表現する規格だ。圧力・温度・流量・液位など、計装分野のアナログ信号の事実上の世界標準になっている。
ここで、素朴な疑問が浮かぶ。0%を0mAに対応させ、0-20mAとして設計してもよかったはずだ。その方がキリのいい数字にも見える。にもかかわらず、なぜわざわざ4mAという半端な下限を設けたのか。
答えは、二つの事情が重なったところにある。
一つは、電源そのものの都合だ。後述する2線式の伝送器は、信号を送るための電流を、自分自身を動かす電源としても使い回している。エム・システム技研の資料によれば、「信号0%に対応する4mAの直流電流を利用して2線式変換器は動作できるようになって」いる。つまり測定値がゼロのときでも、伝送器の内部回路を動かすための電流は流し続けておく必要があった。4mAという下限は、その意味で「計装機器を動かし続けるための最低限の電流」に近い。
もう一つが、この記事の核心にある発見だ。信号が0%を示す4mAと、配線が切れて電流がまったく流れない0mAとを、意図的に区別できる状態にしておいたことである。もし0-20mA方式だったら、測定値がゼロの状態と、断線して信号そのものが失われた状態が、どちらも0mAという同じ電流値になってしまう。受信側のPLCや記録計は、「本当に測定値がゼロなのか」「配線が切れているのか」を区別する手段を持てない。4mAという下限を用意しておけば、この二つはまったく別の電流値として現れる。測定値がゼロなら4mA、断線なら0mA。単純だが、これほど実務に効く設計思想もない。
キーエンスの計測器ラボはこの点を「断線時には0mAになるのでフェイルセーフ性に優れています」と説明している。4mAという半端な数字は、思いつきではなく、正常と異常を電流値だけで見分けられるようにするための、意図的な余白だったということになる。
ループ電源方式——2線式伝送器の仕組み
4-20mA信号を送る伝送器の多くは、電源線と信号線を1組の2本の電線で兼用する「2線式」の構成をとる。信号を送るための電線とは別に、伝送器を動かすための電源線をもう1組引かなくてよいという点が、この方式の大きな利点だ。
仕組みはこうだ。PLCや記録計側から供給される電源(多くはDC24V)の電流を、伝送器自身が測定値に応じて4-20mAの範囲で絞り込む。伝送器は電流を自分で作り出しているのではなく、外部から流れてくる電流を、測定値に応じた大きさに制御している——エム・システム技研の資料の表現を借りれば、伝送器は「電源配線を省略した伝送方式」を実現するために、供給電流をそのまま信号として使い回している。1本のループの中に、電源の役割と信号の役割を同居させているわけだ。
この方式には、配線量を減らせるという以上の制約もある。伝送器自身が動作するためには最低限の電圧が必要で、その分を電源電圧から差し引いた残りしか、配線抵抗と受信側の負荷抵抗に配分できない。エム・システム技研の資料が示す計算式では、受信抵抗の最大値は「(電源電圧-伝送器の電圧降下)÷20mA」で求められる。電源電圧が高いほど、あるいは伝送器の消費電圧が低いほど、この余裕は大きくなる。逆に、電源電圧ぎりぎりの構成で配線を延長し、受信側にも高い負荷抵抗の機器を追加すると、20mA出力時に必要な電圧を確保できず、上限側で信号が頭打ちになる不具合が起きる。
PLCのアナログ入力モジュールでの受け方
電流のまま送られてきた信号を、PLC側でどう受け止めるか。
多くのアナログ入力モジュールは、電流入力の端子内部に既知の抵抗(シャント抵抗)を持っており、この抵抗に電流を流したときに生じる電圧を測定することで、電流値をデジタル値に変換している。三菱電機のQ64ADアナログ入力ユニットの仕様には、電流入力レンジとして「DC0~20mA(入力抵抗値:250Ω)」および「4~20mA」が明記されている。250Ωという値は、4-20mAの信号を1-5Vの電圧に変換する際によく使われる抵抗値と同じ桁で、横河電機のFAQでも「受信計器の入力端子にシャント抵抗(例として250Ω)を接続すれば、電圧として入力させることができる」という考え方が示されている。電流信号の実体は、受信側の抵抗で電圧に変換されて初めてデジタル値として読み取られている、というわけだ。
分解能にも幅がある。Q64ADの仕様では、通常分解能モードで0~4000(4µA刻み)、高分解能モードで0~12000(1.33µA刻み)という2段階のモードが用意されており、精度は周囲温度25±5℃で±0.1%以内、0~55℃の範囲では温度ドリフト補正の有無で±0.3%または±0.4%以内とされている。同じ4-20mAという規格でも、受け手側のモジュールがどれだけ細かく電流値を読み分けられるかによって、実際に得られる測定精度は変わってくる。
なお、1つの伝送器から出た信号を複数の受信機器(記録計・調節計・PLCなど)へ同時に分配したい場合には、ディストリビュータと呼ばれる機器が使われる。エム・システム技研の解説によれば、この機器は「2線式伝送器から受信した信号を、必要に応じて信号変換した後、記録計、調節計、計算機など複数の機器へ分配供給する」役割を持つ。1本のループに複数の負荷をぶら下げると、前述した負荷抵抗の上限に抵触しやすくなるため、絶縁しながら複数系統へ分配する専用機器が実務では重宝されている。
ノイズ・配線長の実務上の限界
電圧信号に比べれば圧倒的に強いとはいえ、4-20mA電流ループも無制限に配線を延ばせるわけではない。
配線長の実務上の上限は、電源電圧・伝送器自身の消費電圧・配線抵抗・受信側の負荷抵抗の組み合わせで決まる。前述の計算式が示すとおり、電源電圧から伝送器の必要電圧を差し引いた残りの電圧を、配線抵抗と受信側の負荷抵抗で分け合う構造になっている。配線が長くなれば配線抵抗そのものが増えるため、この余裕を食いつぶし、最終的には20mA出力時に必要な電圧を確保できなくなる。プラントの規模拡張やセンサーの増設で配線ルートが延びるたびに、この余裕が十分に残っているかを事前に確認しておく価値がある。
ノイズについても、電流信号は影響を受けにくいというだけで、無関係というわけではない。強力な電磁ノイズ源(大型インバータや溶接機など)のすぐ近くに信号線を這わせれば、それなりのノイズが重畳する。シールドケーブルの使用や、動力線との配線分離といった基本的な対策は、電流信号であっても省略できない。電流信号の強さは「ノイズに対する余裕が電圧信号より圧倒的に大きい」という話であって、「ノイズ対策が不要になる」という話ではない。
よくある配線ミス・トラブル——断線と0%出力の見分け方
現場で実際に起きるトラブルの多くは、断線そのものよりも、「断線なのか、測定値が本当にゼロなのか」を見分けられずに時間を浪費するケースだ。
ここで役に立つのが、正常範囲の外側をさらに細かく切り分ける考え方だ。国際的な計装分野の規格であるNAMUR NE43の解説によれば、正常範囲を4.0~20.0mAとしたうえで、配線異常(断線)は0~3.6mA、計器本体の異常は3.6~3.8mAまたは20.5~22mA、プロセス側のオーバー/アンダーレンジは3.8~4.0mAまたは20.0~20.5mAというように、異常の種類ごとに異なる電流の帯域を割り当てている。受信側でこの電流値を細かく監視できる設定にしておけば、警報が上がったときに「断線なのか」「計器の異常なのか」「単に測定範囲の限界に達しているだけなのか」を、電流値だけからある程度切り分けられる。
現場での典型的な配線ミスとしては、次のようなものが挙がる。
- 極性の間違い:2線式伝送器の+-を逆に配線すると、多くの機種では信号が出力されない。断線と紛らわしいが、まず極性の確認が先だ。
- 負荷抵抗の超過:配線を延長したり、受信機器を追加したりした結果、許容される負荷抵抗の上限を超え、20mA出力時に電圧が頭打ちになって信号が飽和する。
- シャント抵抗の入れ忘れ・重複:電流入力を想定したモジュールに、別途シャント抵抗を追加してしまい、電圧が想定と異なる値になる。逆に、電圧入力用の端子に電流出力の伝送器を直結してしまうミスも起きやすい。
いずれも、電流値そのものを実際に測定してみれば切り分けられる性質のトラブルだ。ループ途中にクランプメーターやディジタルマルチメーターを挟み、実際に流れている電流を確認する——遠回りに見えて、これがもっとも早い原因特定の近道になる。
制御盤・計装機器の調達について
「アナログ入力ユニットや2線式伝送器を、既設の電源電圧・配線条件に合わせて選定したい」「制御盤の更新に合わせて、計装用のセンサー・伝送器・受信機器を型番からまとめて手配したい」という設備担当者様へ。
電設資材専門商社の電材サーチでは、横河電機・キーエンス・三菱電機・アズビル各社の計装機器・PLCアナログ入出力ユニットを、既設設備の仕様に合わせてお見積りいたします。
よくある質問
4-20mAとは何ですか?
計装機器(圧力・温度・流量などのセンサーや伝送器)が測定値をPLCや記録計へ伝えるときに使う、電流の大きさで信号を表すアナログ伝送方式です。測定範囲の下限(0%)を4mA、上限(100%)を20mAに対応させ、その間を電流値の変化で表現します。国際的にも計装分野の標準として広く使われています(キーエンス計測器ラボ)。
なぜ電圧信号ではなく電流信号を使うのですか?
電圧信号は配線の抵抗によって電圧降下が生じ、配線が長くなるほど受信側に届く値が実際の測定値からずれていきます。電流信号は、閉回路のどの位置でも電流の大きさが変わらないという性質(キルヒホッフの法則)を利用しており、配線抵抗の影響をほとんど受けません。エム・システム技研の技術資料では、ノイズ電圧が10V重畳しても信号への影響は20mAの1/2,000程度に留まると試算されており、ノイズ耐性の面でも電流信号が有利とされています。
なぜ0-20mAではなく4-20mAなのですか?
4mAという下限には二つの意味があります。一つは、2線式の伝送器自身がその4mAの電流を使って内部回路を動作させているという設計です(エム・システム技研)。もう一つは、測定値が0%のときでも回路には必ず4mAが流れている状態を作ることで、信号が0mAになった場合を「断線・電源喪失などの異常」として明確に区別できるようにするためです(キーエンス計測器ラボ)。0-20mA方式では、測定値0%と断線時がどちらも0mAになってしまい、この区別ができません。
断線と「測定値が0%」はどう見分ければよいですか?
正常な信号は4-20mAの範囲に収まりますが、業界の代表的な規格であるNAMUR NE43では、配線異常(断線)を0~3.6mA、計器本体の異常を3.6~3.8mAまたは20.5~22mA、プロセス側の異常(オーバー/アンダーレンジ)を3.8~4.0mAまたは20.0~20.5mAという具合に、正常範囲の外側をさらに細かく切り分けています。受信側でこの電流値を監視し、4mAを明確に下回った場合に断線アラームとして扱う設定にしておくことが実務上の基本です。
4-20mA信号の配線には長さの上限がありますか?
上限は配線の太さ・抵抗値と、伝送器の電源電圧、受信側の負荷抵抗(シャント抵抗)の組み合わせで決まります。エム・システム技研の資料に示された考え方では、受信抵抗の最大値は(電源電圧-伝送器の必要最小駆動電圧)÷20mAで求められ、電源電圧に対して伝送器自身の消費電圧を差し引いた余りを、配線抵抗と受信抵抗で使い切れる範囲に収める必要があります。電圧信号に比べれば影響を受けにくいとはいえ、無制限ではない点に注意してください。
HART通信とは何ですか?4-20mAとどう関係しますか?
HART通信は、4-20mAのアナログ電流信号に、デジタル信号を周波数信号として重畳させて送る通信方式です(エム・システム技研)。既存の4-20mA配線をそのまま使いながら、センサーの型番情報や自己診断データなど、電流値だけでは伝えきれない情報を追加でやり取りできるのが特徴です。多くのスマート伝送器がこの方式に対応しています。
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