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ブレーカーの盤内温度ディレーティングとは|カタログの定格電流がそのまま使えない理由と温度補正係数の読み方

読了目安: 11分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

改修工事で、古い開放型の制御盤を密閉型のステンレス筐体に入れ替えた。中に収める機器の合計負荷電流を計算し、カタログの定格電流表と照らし合わせて、以前とまったく同じ「20AT」のブレーカーを選び直した。数値上は何も変わっていない。負荷も、ブレーカーの型式も、計算に使った係数も同じだ。

ところが稼働開始から数週間、以前の開放型の盤では一度もトリップしなかったはずの負荷条件で、ブレーカーが落ちるようになった。配線をテスターで当たっても異常はない。負荷側の機器にも故障の跡はない。残る容疑者は、ブレーカーそのものでも負荷でもなく、両者の間にある空気――盤の中にこもった熱だった。

カタログの定格電流には、書かれていない前提がある

配線用遮断器のカタログに載っている定格電流は、真空の中で測定された絶対的な数値ではない。三菱電機FAの技術資料(FAQ)は、遮断器の過電流引きはずし特性について「基準周囲温度を40℃として調整出荷している」と明記している。使用周囲温度そのものも「-10℃40℃(ただし24時間の平均値が35℃を超えないこと)」と定められている。富士電機機器制御も標準使用状態を「-10+40℃、24時間の平均35℃以下」とし、基準周囲温度を「一般的には40℃」としている。パナソニックのブレーカー選定FAQも、通常のサーキットブレーカーの基準周囲温度を40℃(漏電ブレーカーJ型・安全ブレーカーHB型は25℃)としている。

主要3社がそろって、カタログの定格電流には「周囲温度40℃」という前提条件が透明なラベルのように貼られている、ということになる。この前提を読み飛ばして「20AT」という数字だけを持ち帰ると、後で足元をすくわれる。

前提を超えたら、何が起きるのか

パナソニックのFAQは、「取り付け場所の温度が基準周囲温度を超える場合は、そのサーキットブレーカーの定格電流が小さくなる」と述べている。定格電流「が変わる」のではなく「小さくなる」という言い方に、この現象の性質が表れている。ブレーカー本体は何も壊れていない。刻印された「20A」という数字も変わらない。変わるのは、その数字が実際に安全に流せる電流の量――同じ「20A」という表示の中身が、設置された環境によって目減りする。

なぜこんなことが起きるのか。答えは、配線用遮断器の中で過負荷を検出している部品の作動原理にある。日本電気技術者協会(JEEA)の解説によれば、配線用遮断器の熱動-電磁式は、過負荷電流が流れるとバイメタル(熱膨張率の異なる2枚の金属板を貼り合わせた部品)がジュール熱でわん曲し、その変形量がトリップレバーを動かす引き金になる。バイメタルは電流が作る熱によって曲がる。ここで見落とされがちなのは、バイメタルは「電流が作る熱」だけでなく「周囲の空気そのものの熱」でも曲がる、という点だ。バイメタルにしてみれば、電流によって内部から加熱されたのか、盤内の高温な空気によって外側から温められたのかは区別がつかない。周囲温度が高いほど、バイメタルはあらかじめ変形が進んだ状態から動作を始めることになり、定格ぴったりの電流でも、低い周囲温度のときより早く引き外しの閾値に届いてしまう。

冒頭の盤で起きていたのも、これだった。ブレーカーの型式も設定も何一つ変えていないのに数字だけがずれたように見えたのは、負荷でもブレーカーでもなく、盤内の空気の温度という第3の変数が、定格電流という一見固定された数値の中に静かに入り込んでいたからだ。

ディレーティング係数――数字で押さえる目安

この現象は現場の勘や体感だけの話ではなく、メーカーが数値として公開している。三菱電機FAのFAQは、周囲温度が基準の40℃を超える場合、負荷電流を次の係数まで下げることで最高60℃まで使用できるとしている。

周囲温度使用できる負荷電流の上限
40℃(基準)定格電流の100%
50℃定格電流の90%以下
55℃定格電流の80%以下
60℃定格電流の70%以下

(三菱電機FA「周囲温度40℃以上の環境での遮断器の使用」による)

数字だけを見ると小さな目減りに思えるかもしれない。しかし、これは「ブレーカーの性能が7割に落ちる」という意味ではなく、「その盤の周囲温度では、定格の7割までしか安全に流せない」という意味であり、選定段階でこの係数を織り込み損ねると、盤が完成してから――つまり後戻りしにくいタイミングで初めて表面化する種類の不具合になる。富士電機機器制御のFAQも「周囲温度が上昇すると過電流動作がしやすくなる」とし、具体的な補正の数値はカタログの温度補正曲線を確認するよう案内している。パナソニックも同様に、基準周囲温度を超える設置では温度補正曲線での補正が必要だとしている。数値の出し方や曲線の形はメーカー・機種によって異なるため、三菱の係数表をそのまま他社品に当てはめることはできない。実際の選定では、使用する型番のカタログに載る温度補正曲線を必ず確認する必要がある。

密閉盤・複数機器が発熱する盤で、何を疑うべきか

ここで実務上つまずきやすいのは、「盤内の周囲温度」という数字が、外気温のようにどこかに表示されているわけではない、という点だ。カタログの40℃という基準は、あくまでブレーカーの置かれている場所――つまり盤の中の空気の温度であって、盤の外の気温ではない。

盤内温度は、外気温に、盤内の機器が発する熱と、盤の密閉度・放熱能力の掛け算で決まる。当サイトの別記事「制御盤の放熱設計と盤用クーラーの選び方」で扱ったとおり、盤用熱関連機器工業会(TECTA)の技術資料は、配線用遮断器自体も発熱源の一つとして数値を示している(定格20Aで約5W、225Aで約35W、600Aで約110W、3Pの場合)。ブレーカーは電流を検出するだけの受け身の部品ではなく、自らも発熱して周囲の空気を温める側でもある。複数のブレーカー・電磁接触器・インバータを1つの盤に詰め込むほど、盤内の合計発熱量は積み上がり、外気温との差が開いていく。

密閉度を上げるほど盤内に熱がこもりやすくなるという関係は、放熱設計の記事側からすでに指摘した内容だ。この記事の文脈で言い換えると、密閉度を上げる設計判断は、そのままブレーカーのディレーティングが効いてくる領域に足を踏み入れる判断でもある。IP54やIP65のような防塵・防水性能を優先して盤を密閉すればするほど、盤内の実効周囲温度は上がりやすくなり、その盤に収めたブレーカーは、カタログの「40℃前提」の定格電流から、知らないうちに遠ざかっていく。放熱設計とブレーカー選定は、盤という1つの箱の中で、同じ温度という変数を介してつながっている。

電子式ブレーカーは、この影響を免れるのか

ここまでの説明の骨格はバイメタルの熱変形だったので、当然浮かぶ疑問がある。マイクロプロセッサとCTで電流を検出する電子式のブレーカーなら、周囲温度に関係なく正確に判断してくれるのではないか。

JEEAの解説によれば、電子式の引き外し装置は、CTで検出した各相の電流を全波整流・実効値演算する回路で処理し、最大相を選んで引き外し指令を出す。バイメタルのように「熱で曲がる」部品を経由しないため、周囲温度による変形という経路そのものが原理的に存在しない。この点で、電子式は熱動式に比べて周囲温度による特性のブレを受けにくい構造だと言える。

ただし、これを「電子式なら盤内温度を気にしなくていい」という結論に単純化するのは早計だ。CTや演算回路そのものにも、半導体部品として保証された動作温度範囲があり、周囲温度が高すぎればその範囲を超えて誤作動や寿命低下を招く可能性は残る。「トリップ特性が温度で狂いにくい」ことと、「盤内が高温でも壊れずに動き続ける」ことは、別の話だ。電子式を選べば温度補正の検討が丸ごと不要になると考えるのではなく、機種ごとのカタログに明記された使用周囲温度の上限を、熱動式のときと同じように確認する姿勢が必要になる。

選定時に確認しておきたいこと

盤内温度によるディレーティングを見落とさないためには、選定の入口で次の情報を押さえておく必要がある。

  • 盤内の想定温度: 放熱設計の段階で見積もった盤内到達温度(TECTAの発熱量指針・必要冷却能力計算などで概算した値)を、ブレーカー選定にもそのまま引き継ぐ
  • カタログの基準周囲温度: 多くの配線用遮断器は40℃基準だが、パナソニックの漏電ブレーカーJ型・安全ブレーカーHB型のように25℃基準の機種も存在するため、型番ごとに確認する
  • 温度補正曲線・低減率表: 基準温度を超える設置環境では、その機種の温度補正曲線(または低減率表)から、実際に流してよい電流の上限を読み取る
  • 熱動式か電子式か: 密閉度の高い盤・発熱機器の多い盤では、温度変動に対する特性の安定性という観点で電子式も選択肢に入れて比較する
  • 既設更新時の見落とし: 古い盤を密閉度の高い盤に更新する工事では、負荷側の電流計算だけでなく、盤の構造が変わることによる周囲温度の変化まで含めて再検討する

これらは、放熱設計とブレーカー容量計算という、別々の担当者・別々のタイミングで検討されがちな2つの作業を、同じ盤という単位でもう一度突き合わせる作業でもある。

まとめ――定格電流は機器単体の性能ではなく、環境込みの数値である

カタログに刷り込まれた「20A」という定格電流は、その機器が単独で持つ絶対的な能力値ではなく、「周囲温度40℃という条件下での」性能値にすぎない。盤内の実際の周囲温度がこの前提を超えた瞬間、同じ機器、同じ配線、同じ負荷であっても、安全に流せる電流の上限は静かに目減りしていく。冒頭の盤で起きていたトラブルの正体は、ブレーカーの不良でも計算の誤りでもなく、この「前提条件」を選定の計算式に織り込み損ねていたことだった。密閉度を上げるほど有利になる防塵・防水性能と、密閉度を上げるほど不利になる周囲温度――この2つのせめぎ合いを盤の設計段階で意識できるかどうかが、竣工後に「原因不明のトリップ」を抱え込むかどうかの分かれ目になる。

電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、盤内機器の構成・設置環境(密閉度・発熱機器の有無)をお伺いした上で、ディレーティングを踏まえたブレーカー機種の選定と見積りに対応しています。

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よくある質問

ブレーカーの定格電流は何度を基準にしていますか?

多くの配線用遮断器は周囲温度40℃を基準に調整出荷されています。三菱電機FAのFAQは使用周囲温度を「-10℃~40℃(24時間の平均値が35℃を超えないこと)」とし、過電流引きはずし特性はこの40℃を基準に調整されているとしています。富士電機機器制御も標準使用状態を同じ範囲で示し、基準周囲温度を「一般的には40℃」としています。パナソニックは通常のサーキットブレーカーを40℃、漏電ブレーカーJ型・安全ブレーカーHB型を25℃としており、機種によって基準温度自体が異なる点に注意が必要です。

盤内温度が40℃を超えたら、ブレーカーはどのくらい能力が落ちますか?

三菱電機FAのFAQによれば、周囲温度が40℃を超える場合、負荷電流を50℃で定格の90%以下、55℃で80%以下、60℃で70%以下に低減することで、最高60℃まで使用できるとされています。これはあくまで三菱電機の一資料が示す目安であり、実際の低減率はメーカー・機種ごとにカタログの温度補正曲線で確認する必要があります。

密閉型の制御盤に更新すると、なぜブレーカーの選定をやり直す必要があるのですか?

盤の密閉度を上げる設計は、防塵・防水性能を高める一方で、盤内の熱を外へ逃がしにくくします。盤内の周囲温度が上がれば、ブレーカーのバイメタルは電流による発熱に加えて周囲の高温な空気からも温められ、同じ定格電流の機種でも実質的な余裕(定格に対する低減率)が変わります。開放型の盤で問題なかった選定を密閉型の盤にそのまま流用すると、想定より早くトリップする原因になり得ます。

電子式ブレーカーであれば、周囲温度によるディレーティングを考えなくていいですか?

電子式の引き外し装置はCTと演算回路で電流の実効値を検出するため、バイメタルのような熱変形を経由する熱動式に比べて、トリップ特性が周囲温度で狂いにくい構造です。ただし、CTや演算回路自体にも半導体部品としての動作温度範囲があるため、盤内温度の管理そのものが不要になるわけではありません。機種ごとのカタログに記載された使用周囲温度の上限は、電子式であっても確認する必要があります。

盤内の想定温度が分からない場合、どう選定を進めればいいですか?

まずは盤内に収める機器の発熱量を積み上げて盤内総発熱量を概算し、盤の放熱方式・表面積から到達しうる盤内温度を見積もる必要があります。この計算方法は当サイトの別記事「制御盤の放熱設計と盤用クーラーの選び方」で解説しています。その見積もり温度をもとに、ブレーカーのカタログの温度補正曲線と照らし合わせるのが実務上の手順です。自社で計算が難しい場合は、盤内機器の構成・設置環境を伝えたうえで専門商社に相談する方法もあります。

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参考文献・出典

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