制御盤の二次側、PLCの電源回路にDC24Vのちいさなブレーカーを入れようとしたことがある人なら、あの手詰まり感を知っているはずだ。一次側の主幹に使っていたのと同じ配線用遮断器のカタログを開き、定格電流をいちばん小さい2Aや3Aまで絞り込んでみる。ところが型番がまともに出てこない。無理に一段上の5Aや10Aで妥協すれば、今度は端子台の幅やDINレールへの取り付け寸法が、狭い制御盤の中でどうにも収まりが悪い。
現場の配線担当に相談すると、答えは意外にあっさりしている。「それ、ブレーカーじゃなくてサーキットプロテクタだよ」。
聞き慣れない名前ではない。制御盤を開けたことがあれば、端子台の並びの隅に小さな黒いスイッチ状の部品が刺さっているのを見たことがあるはずだ。だがそれが配線用遮断器と何が違うのか、なぜわざわざ別の名前を持つ別の部品として存在しているのかは、「ブレーカー」という言葉の広いイメージの中に埋もれたままになっていることが多い。容量さえ合えばどちらでもいいのではないか、という感覚のまま現場に出ると、今回のように「入らない」「選べない」という形で足を止められる。
サーキットプロテクタとは何か
結論から言うと、サーキットプロテクタは配線用遮断器を小さくしただけの製品ではない。守る対象がそもそも違う。
富士電機機器制御のサーキットプロテクタ製品ページは、この機器の役割を「配線用遮断器(サーキットブレーカ)では保護できない小容量の制御回路や電子機器を保護」するものと説明している。配線用遮断器が「配線」という電路そのものを守る機器であるのに対し、サーキットプロテクタが最初から想定しているのは、制御盤の中に収まった小容量の制御回路や電子機器という、もっと小さな保護対象だ。分電盤の主幹や動力回路のような、電路の「入口」を守る仕事は最初から範囲に入っていない。
この違いはカタログの数字にもそのまま表れる。富士電機のCP-Pシリーズの定格電流は0.3・0.5・0.75・1・2・3・5・7.5・10・15・20・25Aという並びで、CP-E・CP-Vシリーズにいたっては0.05〜30Aの間に16段階もの刻みが用意されている。一般的な配線用遮断器のカタログでは10A・15A・20A・30A……という規格値が主戦場になる。1A未満、しかも0.05A刻みという世界は、配線用遮断器の設計思想の延長線上にはもともと出てこない数字だ。
配線用遮断器との構造上の違い――定格電流・遮断容量・サイズ
数字の並びだけを見ると「刻みが細かいだけの兄弟製品」に見えるかもしれない。だがこの細かさを実現するために、内部の作りはかなり違う方向に振られている。
まず定格電圧と遮断容量。CP-Pシリーズの定格遮断容量はAC240V・DC60Vのいずれでも1,000Aで、CP30Fシリーズになると2,500Aまで対応する。配線用遮断器の遮断容量が数kA〜数十kAの単位で語られるのに対し、サーキットプロテクタは千A台が基準になる。これは性能が劣っているという話ではなく、想定している短絡電流の規模がそもそも違う、という前提の表れだ。分電盤の主幹に近づくほど短絡電流が大きくなるのと同じ理屈で、制御盤内の細い信号線・電子回路までしか電流が届かない二次側の回路では、遮断すべき電流の桁がもとから小さい。
サイズの差はもっと直接的だ。CP30Fシリーズは1極あたり幅17.5mmという薄形ボディを実現しており、CP-E・CP-Vシリーズも厚さ19mmに収められている。配線用遮断器を無理に小容量側へ振っても、内部の熱動素子・電磁素子や消弧装置の機構寸法はそう簡単には縮まらない。制御盤の中で端子台やリレーソケットと肩を並べて何十点も並ぶことを前提に設計されたサーキットプロテクタと、電路そのものを遮断する機構を内蔵した配線用遮断器とでは、「小さくする」ときにそもそも許されている設計の自由度が違う。
なぜ制御盤内でサーキットプロテクタが選ばれるのか
省スペース性・電流値の刻み・DC対応――ここまで並べた性質は、バラバラの利点として眺めるより、同じ一つの用途に向けて最適化された結果として理解した方が見通しがいい。
制御盤の二次側には、PLCの電源回路やセンサー・アクチュエータへの分岐回路のように、数百mA〜数A程度の電流しか流れない小容量の回路が何十本と並ぶ。ここに配線用遮断器を使おうとすると、まず定格電流の選択肢が粗すぎて負荷に見合わない。次に、機器一つあたりの専有スペースが大きすぎて、限られた盤内のDINレール上に必要な数だけ並べきれない。
富士電機のCP-Pシリーズが従来のCP-E形に対して占有スペースを約30%削減したとカタログで謳っているのも、この「何十点も並ぶ」という使われ方を前提にした改良だ。配線用遮断器の世界では数点単位の話が、サーキットプロテクタの世界では盤全体のレイアウトを左右する数十点単位の話になる。
DC対応も見逃せない性質だ。CP-PシリーズはAC240Vだけでなく DC60Vまでの遮断容量を持ち、CP30FシリーズはAC/DC両用(1・2極)の品種を用意している。PLCやセンサーの多くはDC24Vで動く。配線用遮断器のラインナップはAC電路を主戦場に設計されたものが中心で、DC回路への正式な対応をうたう品種は限られる。二次側のDC制御回路を守るという役割において、サーキットプロテクタは最初からその土俵に立って設計された機器だ、という言い方ができる。
さらにCP-E・CP-Vシリーズには半導体向け(瞬時)・半導体向け(高速)・一般用途(中速)・重負荷用途(低速)という4種類の動作特性が用意されている。半導体を含む電子回路はごくわずかな過電流でも一瞬で壊れることがある一方、モーターを含む回路は始動時に一時的な突入電流が流れる。保護したい対象の性質に応じてトリップの速さそのものを選べるという発想も、電路全体をひとまとめに守る配線用遮断器のカタログには、ここまで細かい形では出てこない。
配線用遮断器を代用できない・すべきでない理由
ここまでの話を、単に「サーキットプロテクタの方が小さくて便利」という程度に受け取ると、選定の順番を間違える。
配線用遮断器を無理に小容量側へ振って二次側に転用した場合、まず物理的に収まらないという問題が起きるが、それだけでは済まない。定格電流の刻みが粗いぶん、実際の負荷電流に対して過大な定格を選ばざるを得ないケースが出てくる。過大な定格のブレーカーは、本来トリップしてほしい小さな異常電流では動作せず、電子回路が焼損してから初めて遮断するという本末転倒を招きかねない。逆にサーキットプロテクタを電路の分岐や主幹側に転用する発想も同様に危うい。定格遮断容量が千A台にとどまる機器を数kA以上の短絡電流が想定される電路に置けば、遮断能力を超えた電流に耐えられず、機器自体が壊れる側に回ってしまう。
この住み分けは、日本国内のカタログ上の慣習にとどまらない。米国の規格でも、分岐回路の保護を担うUL 489認証の遮断器と、機器内部の補助的な保護を担うUL 1077認証の補助保護器(サーキットプロテクタに相当する区分)は、明確に別の認証区分として扱われている。UL 1077の機器は盤内の配線を保護するためのものであり、盤の外に出る配線・受電設備には使用が認められないという趣旨の制限が課されている(Viox Corporationの解説による)。呼び名や規格の体系こそ国によって違うが、「電路そのものを保護する機器」と「盤内の小容量回路・機器を保護する機器」を別カテゴリとして扱う発想そのものは、国際的にも共有された前提だということになる。
使い分けの実務的な基準
結局のところ、選定で迷ったときに立ち返るべき問いは一つしかない。「守ろうとしているのは、電路そのものか、それとも盤内の小容量回路か」。
| 保護対象 | 選ぶべき機器 | 役割 |
|---|---|---|
| 一次側の主幹・分岐(受電・幹線・動力系統) | 配線用遮断器(MCCB)・漏電遮断器(ELCB) | 電路そのものを、大きな短絡電流から守る |
| 二次側の細かい制御回路(PLC電源・センサー電源・電子回路への分岐) | サーキットプロテクタ | 盤内の小容量回路・機器を、細かい電流値ときめ細かい動作特性で守る |
既設の制御盤を改修する場合は、まず二次側のどの部品にどの電流が流れているかを現物で確認するところから始めるのが早い。銘板やカタログに定格電流・定格電圧(特にDCかACか)・極数が明記されているので、それをそのまま新しい機器の選定条件として引き継げば、サイズが合わない・容量が過大という失敗はほぼ避けられる。富士電機のほかIDECなど複数のメーカーがサーキットプロテクタを製造しており、既設更新では現物の型番をそのまま照合するのが最も確実だ。
よくある質問
サーキットプロテクタと配線用遮断器(ブレーカー)は何が違うのですか?
守る対象が違います。配線用遮断器は電気の使いすぎや短絡で生じる過大な電流から配線(電路)そのものを保護する機器です。一方サーキットプロテクタは、配線用遮断器では保護できない小容量の制御回路や電子機器を保護する機器で、制御盤内のPLC電源・センサー回路のような二次側の小容量回路を対象にしています。単に定格電流が小さい配線用遮断器、という関係ではありません。
制御盤の二次側にはなぜサーキットプロテクタが使われるのですか?
3つの理由があります。1つ目は定格電流の刻みの細かさで、0.05〜30Aの間に16種類もの定格が用意されている品種もあります。2つ目は省スペース性で、1極あたり幅17.5mmの薄形設計の品種もあります。3つ目はDC対応で、DC60Vまでの遮断容量を持ちPLCやセンサーが使うDC24V回路に正式対応する品種があります。制御盤内に何十点も並ぶ小容量回路を、限られたスペースで細かく保護するために最適化された機器だからです。
サーキットプロテクタでも短絡電流はきちんと遮断できますか?
定格遮断容量の範囲内であれば遮断できます。ただし富士電機の代表的な品種では定格遮断容量が1,000A〜2,500Aが基準で、配線用遮断器が扱う数kA〜数十kA単位とは桁が違います。これは性能が劣るのではなく、制御盤内の二次側回路で想定される短絡電流の規模がもともと小さいことを前提にした設計です。受電に近い主幹や動力回路のような、短絡電流が大きくなる箇所への転用は想定されていません。
配線用遮断器を小容量品に絞ってサーキットプロテクタの代わりに使えませんか?
推奨されません。配線用遮断器は定格電流の刻みが粗く、二次側の小さな負荷電流に対して過大な定格を選ばざるを得ない場合があり、本来トリップしてほしい微小な異常電流で動作しないおそれがあります。また物理的なサイズも制御盤内の実装密度に見合わないことが多く、DC回路への正式対応も限定的です。逆にサーキットプロテクタを主幹や動力回路に転用することも、定格遮断容量の不足につながるため避けるべきです。
サーキットプロテクタは配線用遮断器と国際的にも別の区分として扱われているのですか?
はい。米国では分岐回路用遮断器のUL 489と、機器内部の補助保護器のUL 1077が別の認証区分として存在します。UL 1077の機器は盤内配線の保護に限定され、盤の外に出る配線や受電設備には使用できないという制限があります。呼び方や規格体系は国ごとに異なりますが、「電路そのものを守る機器」と「盤内の小容量回路を守る機器」を別カテゴリとして扱う発想は日本国内に限った話ではありません。
冒頭の制御盤に話を戻すと、あのときサイズが合わなかったのは、選び方が下手だったからではない。配線用遮断器という道具そのものが、そこで求められていた仕事のために作られていなかっただけだ。電路を守る機器と、盤内の小容量回路を守る機器は、名前の響きが似ているぶん同じ延長線上にあるように見えてしまうが、定格電流の刻み方も、遮断容量の桁も、内部の作りも、最初から別の仕事に向けて設計されている。次に制御盤の二次側で「サイズが合わない」「型番が出てこない」という壁にぶつかったときは、容量を探す前に、まずどちらの機器を探しているのかを確かめた方が早い。
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