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【現場のやらかし】サーマルリレーの整定電流を高めに設定していたら、モーターが焼き付いた!『トリップを嫌う』設定変更が招いた過負荷焼損事故

読了目安: 9分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

本記事の場面・会話・数値は、理解を助ける仮想事例です。実際の事故・取引実績を示すものではありません。製品の適合性は個別の仕様で確認してください。

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「またこれか」。生産ラインの制御盤の前で、保全担当者はリセットボタンを押しながら舌打ちする。その日、同じサーマルリレーが三度目のトリップを起こしていた。ポンプは止まり、ラインは止まり、上長からは「原因はいいから早く動かせ」の一点張り。配線を追っても、絶縁抵抗を測っても、負荷側を覗いても、異常らしい異常は見当たらない。埒が明かないまま迎えた四度目のトリップで、誰かがドライバーを手に取り、整定電流のダイヤルを一目盛り、また一目盛りと右へ回した。

トリップは、それで止まった。ラインは動き続け、その日のノルマは何とか間に合った。一件落着——そう思いたくなる場面だが、この「一目盛り右へ」という操作が実際には何を意味していたのか、現場でそこまで考えた人間はおそらくいない。

1.【現場のやらかし事例】トリップを止めるために、整定電流を上げてしまう

こうした対応は、決して珍しい光景ではない。生産設備が止まるたびに発生する損失は、現場にとって重く、経営側からのプレッシャーも大きい。トリップの原因を一つずつ潰していく地道な作業より、ダイヤルを右に回して数字を上げるほうが、はるかに早くて簡単だ。しかも一度上げてしまえば、その日からしばらくの間はトリップが起きなくなる。応急処置としての「効果」は、疑いようもなく本物である。

問題は、この「効果」がどこから生まれているかだ。トリップが止まったのは、モーターの状態が改善したからではない。整定電流という、過負荷を検知する境界線そのものを動かしたからにすぎない。境界線の外側に押し出された電流は、消えてなくなったわけではなく、モーターの中を流れ続けている。

2.「頻繁にトリップする=整定が間違っている」は、半分正しい

現場の直感は、あながち的外れではない。サーマルリレーが繰り返しトリップするとき、その原因の多くは実際に「整定の不一致」にある。始動に時間のかかる設備にトリップクラスの合わないサーマルリレーを組み合わせていたり、制御盤内の温度が高く整定値の補正が不足していたり、あるいはスターデルタ結線の取り付け位置によって整定値の読み替えが必要だったり——このあたりの切り分け方は、サーマルリレーの整定電流の合わせ方で扱っている。原因さえ特定できれば、整定値をいじらずに解決できるケースは多い。

だが、「半分正しい」ということは、残り半分は正しくないということでもある。トリップの原因が、始動特性のミスマッチのような「見かけ上の過負荷」ではなく、軸受の摩耗や搬送物の詰まりによる「本物の過負荷」だった場合はどうか。この場合、サーマルリレーは間違えていない。むしろ、設計どおりに正しく動作している。トリップは異常の結果であって、原因ではない。

この二つを見分けないまま、整定電流を上げるという一手だけで片づけてしまうと、原因の種類ごと闇に葬ることになる。見かけ上の過負荷であれば実害は小さいかもしれない。だが本物の過負荷だった場合、整定電流を上げるという行為は、まさにその異常を検知する役目を放棄させる操作になる。

3. 整定電流を上げるとは、実際には何をしていることになるのか

サーマルリレーは、内部のバイメタルに電流による熱を加え、そのわずかな湾曲で接点を動かす仕組みで動作する。三菱電機のFAQは、この装置の目的を「モータが過負荷・拘束・欠相等によって過電流になったとき、バイメタルを加熱湾曲させ、その出力接点で電磁開閉器を開路しモータ焼損を未然に防止させるもの」と定義している。オムロンのFA用語辞典が説明する動作原理も同様で、電流による発熱をバイメタルに加え、膨張係数の違いによって湾曲させ、接点を動作させて電磁接触器を遮断するという構造だ。

整定電流のダイヤルは、この「バイメタルがどこまで湾曲したら接点を開くか」を決める設定にほかならない。三菱電機FAのFAQは、この設定の基準を一文で示している。「サーマルリレーはモータの全負荷電流に設定して使用します」。補正が必要なのは、周囲温度が20℃と大幅に異なる場合と、接続電線が標準電線サイズと異なる場合であって、トリップが多いから、という理由は挙げられていない。

なぜ全負荷電流なのか。日本電気技術者協会の解説によれば、電動機の保護に用いるサーマルリレーには、電動機定格電流の105%で不動作、120%では動作すること、そして電動機の始動(拘束)電流では2〜30秒の間で動作することという条件が求められる。そして同解説は、RC目盛のサーマルリレーであれば「電動機の定格電流に等しいヒータ整定電流のサーマルリレーを選定すれば」この条件を実現できる、と説明している。つまりダイヤルを定格電流に合わせるという作業は、105%と120%という保護の境界線を、そのモーターの定格電流の位置に据える行為にほかならない。

そのダイヤルを、モーターの定格電流より高い位置まで動かすとどうなるか。答えは単純で、105%も120%も、実際の定格電流より高い電流値のところへ丸ごと移動する。設定を10%上げれば、本来120%で動作していた保護は、実際の定格電流に対して132%まで動作しない設定に変わる。始動はできてしまうし、平時の運転にも支障はない。だが、過負荷を検知するはずの境界線は、もうモーターの定格電流を守る位置には立っていない。容量の大きすぎるサーマルリレーを誤って選んでしまうことと、装置の見た目こそ違うが、行き着く結果は同じというわけだ。

つまり、整定電流を上げるという操作は「トリップしにくくする」設定ではない。「保護が働く電流値を、より高い過負荷まで許容する」設定であり、その先に本物の過負荷が待っていたとき、サーマルリレーはもう反応しない。

4. 保護が沈黙したあと、巻線の中で進む見えない劣化

トリップという警報が鳴らなくなったからといって、モーターの中で何も起きていないわけではない。むしろ、警報が鳴らない分だけ、異常は誰にも気づかれないまま進行する。

モーターの巻線に使われる絶縁材料には、JISやJECが定める耐熱クラスがあり、材料ごとに許容できる最高温度が決まっている。誠電気設計の技術資料によれば、B種は130℃、F種は155℃といった値が目安とされ、この温度を超えて運転し続けると絶縁の劣化が進む。ここで効いてくるのが、アレニウスの法則に基づく経験則だ。製品設計の知識をまとめたサイトの解説では、絶縁材料は許容最高温度をわずか10℃超過するだけで寿命が約半分になるという経験則が紹介されており、材料の種類によってはさらに厳しく、A種絶縁材料では8℃の超過で寿命が半分になるとされる。

10℃、あるいは8℃。数字だけ見れば、制御盤の中の温度変化としてはさほど大きくないようにも感じられる。だが、この程度の超過が「寿命半分」という結果につながるという事実こそが、整定電流を高めに設定することの怖さの正体だ。過負荷によって巻線の温度がじわじわと上がり続けても、サーマルリレーの閾値が高いところに設定されていれば、何の警報もないまま運転は続く。劣化は静かに、しかし確実に進む。そしてある日、絶縁が限界を超えたところで初めて、巻線の焼損という目に見える形で結果が現れる。

5. もう一段深い理解——「トリップが止まる」は「安全になった」の証明にはならない

ここまでの話を振り返ると、一つの誤解が浮かび上がる。「トリップが止まった」という事実を、「問題が解決した」という証拠のように受け取ってしまう誤解だ。

冷静に考えれば、この二つは別物である。トリップが止まる理由は二通りある。一つは、原因そのものが解消された場合。始動特性の不一致を正しいトリップクラスの選定で直した、周囲温度に応じて整定値を適切に補正した、といったケースがこれにあたる。もう一つは、原因は何も変わっていないのに、保護の閾値だけを原因の外側まで押し上げた場合だ。整定電流を上げるという対応は、後者に分類される。

厄介なのは、現場で目に見える結果——「トリップしなくなった」——が、この二通りのどちらであっても全く同じに見えることだ。原因が解消されたのか、それとも保護が黙らされただけなのか、ラインが動いているという事実だけからは判別できない。この見分けがつかないという性質こそが、整定電流を上げるという応急処置を、他の多くの応急処置よりも危険にしている理由だ。

6. 整定電流を触る前に、確認しておきたいこと

トリップが頻発したとき、整定電流のダイヤルに手をかける前に、次の点を順に確認したい。

  • モーターの負荷側を点検する——軸受の摩耗、ベルトの張りすぎ、搬送物の詰まりなど、機械的な抵抗が増えていないか
  • 始動時間とトリップクラスの適合を確認する——始動に時間のかかる設備に対して、トリップクラスの合わないサーマルリレーを組み合わせていないか
  • 制御盤内の周囲温度を確認する——盤内温度に応じた整定値の補正が必要な状況になっていないか
  • 電圧不平衡・欠相の有無を確認する——電気的な異常がトリップの引き金になっていないか

これらの切り分け方はサーマルリレーの整定電流の合わせ方で具体的な計算例とあわせて解説している。切り分けた結果、整定電流そのものの見直しが必要だと分かった場合でも、それはモーターの定格電流を起点とした「正しい合わせ直し」であって、トリップを止めるためにダイヤルを闇雲に右へ回す操作とは、出発点からして違う。

サーマルリレー・保護機器の選定は「電材サーチ」へ

「頻発するトリップの原因が分からず、整定電流を上げてしまってから数か月が経っている」「モーターの銘板と設置環境を伝えるので、サーマルリレーの整定値を見直してほしい」「老朽化した電磁開閉器・サーマルリレーを、保護協調を含めて更新したい」——こうしたご相談を、設備保全・電気設計のご担当者様からいただきます。

電材サーチでは、三菱電機・富士電機をはじめとする各社のサーマルリレー・電磁開閉器を取り扱っており、モーターの仕様と設置環境をお伝えいただければ、整定値の考え方も含めたご相談から見積もりまで対応いたします。

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よくある質問

サーマルリレーが頻繁にトリップするので、整定電流のダイヤルを上げて様子を見てもいいですか?

おすすめできません。整定電流を上げるという操作は、トリップの「頻度」を下げているのではなく、保護が働き始める「閾値」そのものを動かしています。始動特性やトリップクラスの不一致、周囲温度、取り付け位置など、上げずに解決できる原因は少なくないため、まずはそちらを先に切り分けるべきです。切り分け方は[サーマルリレーの整定電流の合わせ方](/guide/thermal-relay-setting-current-guide/)で解説しています。

整定電流を上げると、なぜモーターの保護ができなくなるのですか?

サーマルリレーは内蔵バイメタルが電流による発熱で湾曲し、限界に達した時点で接点を開いて電磁開閉器を遮断する仕組みです。整定電流のダイヤルは、この「限界」をどの電流値に置くかを決める設定であり、モーターの定格電流より高い値に置いてしまうと、実際には過負荷状態にあってもバイメタルがその限界に達しにくくなり、遮断されるべき場面で遮断されなくなります。

整定電流を高く設定したまま気づかずに使い続けると、モーターはどうなりますか?

モーターの巻線は絶縁材料の耐熱クラスごとに許容最高温度が定められており、この温度を超え続けると絶縁の劣化が進みます。目安として、絶縁材料は許容最高温度をわずか10℃超過するだけで寿命が約半分になるとされる経験則があり、過負荷が保護されないまま続くほど、この劣化は静かに進行します。トリップという警報が鳴らなくなっている分、劣化に気づく機会も失われ、最終的に巻線の絶縁破壊・焼損に至るリスクが高まります。

トリップが頻発する原因を、整定電流を変えずに切り分ける方法はありますか?

モーターの負荷側(軸受・搬送物の詰まりなど機械的な抵抗増加がないか)の点検、始動時間とトリップクラスの適合確認、制御盤内の周囲温度による補正、電圧不平衡・欠相の確認という順で切り分けるのが実務的です。判断に迷う場合は、モーターの銘板写真と設置環境の情報を添えてご相談いただければ、整定電流の見直しからサーマルリレー自体の選定まで対応いたします。

参考文献・出典

この内容は、第二種電気工事士ではこう問われる

サーマルリレーの整定電流は、電動機の過負荷保護という論点で学科試験にも出題されます。『整定値を上げると何が起きるか』という保護の仕組み側から理解しておくと、暗記に頼らず答えられるようになります。

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