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「モーターの銘板通り、定格電流ぴったりに整定電流を合わせた」——教科書にも、選定の解説記事にも、まずそう書いてある。実際、合わせたその日は何事もなく動いた。ところが1週間後、同じ負荷、同じ設定のはずなのに、サーマルリレーが立て続けにトリップし始める。配線をたどり、絶縁抵抗を測り、負荷側のポンプまで分解点検しても異常は出てこない。合わせ方は教科書どおりだったはずなのに、何が起きているのか。
結論から言えば、「整定電流をモーター定格電流に合わせる」という基本は間違っていない。間違っているのは、その一手だけで完結すると思い込むことのほうだ。ダイヤルの数字が意味する動作特性、始動にかかる時間、盤内の温度、そして運転パターン——このうちどれか一つでも見落とすと、「合わせたのにトリップする」現場ができあがる。
本記事では、電磁開閉器・サーマルリレーの選び方で扱った「そもそも何を選ぶか」から一歩進み、「選んだサーマルリレーの整定電流を、実際にどう合わせ、なぜその合わせ方でトラブルが起きるのか」を解説する。
この記事でわかること
- 整定電流のダイヤルが「合わせた瞬間に切れる境界線」ではないという誤解の正体
- 定格電流に対して100〜105%は不動作・120〜125%で動作という整定電流の動作特性
- 始動時間で選ぶ「トリップクラス」(Class10・20・30)の考え方
- 周囲温度による整定電流の補正計算の具体例
- 連続運転・断続運転など運転パターンによって最適値が変わる理由
- 「合わせたのにトリップする」を切り分けるチェックリスト
ダイヤルの数字は「トリップ電流」そのものではない
多くの現場担当者は、整定電流のダイヤルを「そこを超えたら瞬時に切れる境界線」だと思っている。だが実際の設計はそうなっていない。
サーマルリレーは電流の大きさそのものではなく、内部のバイメタルに蓄積した熱で動作する。整定電流ちょうどの電流が流れ続けても、それだけではすぐには動作しない仕組みだ。実務上の目安としては、整定電流に対して100〜105%程度の電流ではしばらく動作せず、120〜125%程度まで電流が上がって初めて動作する、という帯域を持たされている。
つまり「モーター定格電流ぴったりにダイヤルを合わせる」という作業は、「そこがトリップの瞬間」を意味するのではなく、「定格電流よりわずかに大きい電流が続いたときに、初めて保護が働き始める基準点」を作っているにすぎない。この意味を知らずに、「ダイヤルを定格電流に合わせたのに、モーターが定格の110%程度で運転しているだけでトリップする」と驚く担当者は少なくない。むしろ、それは設計どおりの挙動だ。
では、始動の瞬間だけ流れる大電流は、この仕組みの中でどう扱われているのだろうか。
始動に時間がかかる設備では、合わせ方そのものが間違っている
モーターは始動の瞬間、定格電流の数倍(目安として5〜7倍程度)という大電流を数秒間だけ流す。整定電流をきっちり合わせていても、この始動電流でいちいちトリップしていたら、サーマルリレーは使い物にならない。そこで用意されているのが「トリップクラス」という特性だ。
IEC 60947-4-1(国内ではJIS C 8201-4-1が対応)は、整定電流の7.2倍の電流を、モーターが停止した状態を模した条件(コールドスタート)から流したとき、何秒でトリップするかによってクラスを分けている。Class10なら4〜10秒、Class20なら6〜20秒、Class30なら9〜30秒という具合だ。数字が大きいクラスほど、「大電流の状態を長く許容してから切る」特性になる。
一般的なポンプやファンは始動が数秒で終わるため、標準的なClass10で足りる。ところが大型の送風機や粉砕機のように、羽根やロータの慣性が大きく、定格回転数に達するまで10秒、20秒とかかる設備にClass10のサーマルリレーを組み合わせると、モーターにとってはまだ正常な始動の途中なのに、サーマルリレーは「これは過負荷だ」と判断して切ってしまう。整定電流の数値自体は正しく合わせていても、クラスの選定が始動特性と噛み合っていなければ、頻発トリップという同じ症状が出る。「整定電流を合わせる」ことと「サーマルリレーの動作特性を選ぶ」ことは、別の作業なのだ。
電流の合わせ方も、クラスの選定も合っている。それでも夏場だけトリップが増える、という現場がある。
制御盤の中の温度が、同じ数字の意味を変える
配線も負荷も変わっていないのに、季節によってトリップの頻度が変わる、という相談は珍しくない。原因は制御盤内部の温度だ。
サーマルリレーはバイメタルの熱変形で動作する以上、周囲温度そのものがすでに下駄を履いた状態を作る。盤内の温度が高くなれば、同じ電流でもバイメタルはより早く反り返り、低ければより遅く反り返る。この影響を打ち消すために「周囲温度補償形」という機能を持つ品番があるが、補償形であっても補正の考え方自体は残る。
三菱電機のサーマルリレーTH-T25を周囲温度40℃(盤内実測55℃相当)で使う場合の試算例では、この条件でのダイヤル最小目盛における補正率は97%となる。モーターの定格電流が15Aなら、整定値は15A÷0.97で約15.5Aとする、という計算だ。「定格電流ぴったりの15A」にそのまま合わせてしまうと、補正前の想定より厳しめの設定になり、盤内が暑くなる時期にだけトリップが増える——この現象の説明が、ここにある。
もう一段先の話として、サーマルリレーの整定電流は、取り付ける場所そのものによっても意味が変わることがある。
もう一段深い理解——「どこに取り付けるか」でも整定電流は変わる
スターデルタ始動の回路で、デルタ結線の相の中にサーマルリレーを組み込んだ場合、そこを流れる電流はモーターの線電流ではなく相電流になる。相電流は線電流の1/√3(約58%)になるため、整定値もモーター定格電流の約0.58倍に読み替える必要がある。同様に、力率改善用の進相コンデンサより電源側にサーマルリレーを設置した場合は、コンデンサによって改善された後の電流値で整定しなければならない。
こうした特殊な回路構成に当たった場合、計算式を追いかけるより、モーター定格電流でそのまま整定できる位置にサーマルリレーを取り付け直すほうが確実で早い、という指摘は現場の技術者の間でも広く共有されている。整定電流の合わせ方は、ダイヤルの数字だけでなく、そのダイヤルが「何の電流を見ているか」という回路上の位置まで含めて、初めて完成する。
定格電流・始動特性・周囲温度・取り付け位置、ここまで揃えれば十分だろうか。実はもう一つ、銘板の数字自体の前提を疑う必要がある。
モーター銘板の「定格電流」にも前提がある——連続運転か、断続運転か
モーター銘板に書かれた定格電流は、JIS C 4034-1が定める「使用形式」を前提に決められている。連続運転を想定したS1定格であれば、その電流を流し続けても熱的に安全という値になっているが、S3のような反復定格(負荷時間率25%など、運転と休止を繰り返す前提)の場合、銘板の定格電流はあくまで「そのサイクルで運転すること」を前提にした数値だ。
つまり、S1定格のモーターを想定より頻繁に止めたり動かしたりする使い方に変えた場合や、逆にS3定格のモーターを連続運転に近い使い方に変えた場合、銘板の定格電流をそのまま整定値の起点にしても、実際の発熱パターンとズレが生じる。周囲温度が高い設置環境と、連続運転に近い高負荷率の使い方が重なる現場ほど、この差が症状として表に出やすい。
始動特性・周囲温度・回路上の取り付け位置・運転パターン——ここまで挙げてきた4つの変数は、すべてモーター1台1台で条件が違う。カタログの目安表だけでは机上の計算しかできず、実際に何Aに合わせるべきかは、現物のモーター銘板と設置環境の情報を持ち合わせて初めて判断できる。整定電流の「正しい1点」に迷ったら、モーターの銘板写真と、制御盤の設置場所・始動方式・運転パターンを添えて相談したほうが、独力で計算し続けるより早く答えにたどり着く。
サーマルリレー整定電流の合わせ方チェックリスト
- モーター銘板の定格電流を確認する(kWしか分からない場合は概算表で見当をつける)
- 整定電流のダイヤルを定格電流に合わせる(100〜105%は不動作、120〜125%で動作という帯域を理解した上で)
- 始動時間を確認し、トリップクラス(Class10・20・30)が始動特性と合っているか確認する
- 制御盤内の周囲温度を確認し、必要なら補正率で整定値を補正する(周囲温度補償形の品番かどうかも確認)
- スターデルタ回路・進相コンデンサがある場合、サーマルリレーの取り付け位置とそこを流れる電流の種類を確認する
- モーターの使用形式(S1連続・S3反復等)と、実際の運転パターン(連続運転か断続運転か、負荷率)が一致しているか確認する
- 調整後もトリップが続く場合は、電圧不平衡・欠相・接点の劣化など電気的な異常も点検する
サーマルリレーそのものの選定基準・富士電機と三菱電機の型番の読み方は電磁開閉器・サーマルリレーの選び方、始動突入電流でブレーカーが落ちる別のトラブルはモーター起動時のブレーカートリップ対策で解説している。
整定電流の最適値は、モーターの定格電流・始動特性・周囲温度・運転パターンの組み合わせで決まります。電材サーチでは、モーター銘板の情報と設置環境をお伝えいただければ、サーマルリレーの選定・整定値のご相談から見積もりまで対応します。
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