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制御盤耐震対策据付工事

制御盤・分電盤の耐震設計|地震による転倒・機器落下を防ぐアンカーボルト固定と耐震クラスS・A・Bの考え方

読了目安: 10分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

点検で盤の扉を開けると、リレーもブレーカーも、何も壊れていない。焦げた匂いもなく、端子の変色もない。それなのに盤そのものが、床から傾いたまま止まっている——強い地震のあと、こういう光景に出くわす設備担当者は少なくない。

盤の中身は無事なのに、なぜ盤ごと使えなくなったのか。答えは拍子抜けするほど単純で、しかし見落とされやすい。壊れていたのは盤ではなく、盤を床に留めていたアンカーボルトのほうだった。

阪神・淡路大震災、そして東日本大震災では、建物の柱や梁といった構造体そのものではなく、天井材や設備配管、収納機器といった「非構造部材」の脱落・移動による二次被害が繰り返し報告された。この教訓が、建築設備の耐震設計・施工に関する指針が整備された直接の背景になっている。制御盤や分電盤も、この非構造部材のひとつだ。

なぜ盤の耐震性は見落とされやすいのか

制御盤や分電盤の設計・選定というと、真っ先に話題になるのはリレーの接点容量や配線の許容電流、あるいは盤内の放熱設計といった「盤の中身」の性能だ。据付現場でのアンカーボルトの選定・本数は、電気設計の主題からは一歩外れた「施工上の話」として扱われ、現場の裁量に委ねられがちになる。

日本配電制御システム工業会(JSIA)が示す配電盤の耐震設計の考え方は、①盤の重要度に応じて耐震計算を行い経済性を図る、②起こりうる地震に対し盤の機能への影響を最小限に留める、③盤の用途と建物の耐震クラスとの組合せで盤の耐震クラスを決定する、④静的な耐振設計手法である局部震度法を採用する、という4項目で整理されている。裏を返せば、この計算を経て初めて「アンカーボルトのサイズと本数」が確定するという意味であり、後から「とりあえずM12を4本」で済ませてしまえば、この設計プロセスは実質的に素通りされたまま盤が据え付けられることになる。盤自体の強度と、盤を固定する部分の強度は、本来別の設計問題として扱う必要がある。

自立盤と壁掛盤、転倒の起き方は同じではない

転倒のリスクをひとまとめに語れないのは、盤の据え方によって力のかかり方がまるで違うからだ。

壁掛形キャビネットは、複数の取付ボルトで壁面全体に固定され、地震力は壁の面積全体に分散して伝わる。壁の下地さえ十分な強度を持っていれば、壁掛盤が丸ごと転倒するという事態は起こりにくい。ただし話はそこで終わらない。軽量壁(石膏ボード下地の間仕切り壁等)にそのまま盤を取り付け、壁が盤の重量に耐えられず盤ごと脱落した事例が報告されている。壁が丈夫に見えても、その裏にチャンネル鋼などの補強材が入っているかどうかは、外から見ただけでは分からない。

自立形キャビネットは事情が違う。床面のアンカーボルトだけが、盤の全重量と転倒モーメントを一手に引き受ける構造になりやすい。とりわけ奥行の浅い盤をアンカーだけで床に固定すると、前後にグラグラと揺れる「グラつき」が生じるトラブルが実際に報告されており、対策として奥行の浅いものは壁掛け・自立兼用の施工に切り替えるか、背後に壁面があるならL形状の金具で天面と壁を振止め固定し、壁面がない場合は床面と盤背面を振止め金具で支持するという2通りの方法が示されている。さらに同じ資料は、キャビネット下部を基台で支持していても、その基台自体が壁面に固定されていなければ転倒のおそれが残るとも指摘している。基台を設けたから安心、とは言い切れない。

アンカーボルトの固定方法と選定基準

施工方法は大きく3つに分かれる。コンクリート打設時にJ形・L形のボルトを埋め込んでおく埋め込み式、硬化剤でボルト全体を接着するケミカルアンカー方式、そして先端が広がって摩擦力で固定するメカニカルアンカー方式だ。既設の床に後から固定する現場では、ケミカルアンカーかメカニカルアンカーのいずれかを使うことになるが、メカニカルアンカー方式は摩擦力に依存するぶん、強度はケミカルアンカーに劣るとされる。

キャビネット工業会・盤標準化協議会が公開する許容引抜荷重の資料でも、あと施工接着系アンカーボルトとあと施工金属拡張アンカーボルトは別々の表で整理されており、同じボルト径でもコンクリートの厚さ・埋込長によって許容引抜荷重が変わる。ボルト径が太いほど、また埋込長が長いほど許容引抜荷重は大きくなる関係にあり、「M12を使ったから大丈夫」という一律の判断は成立しない。施工方式・コンクリート厚・埋込長のすべてが揃って初めて、必要な引抜耐力が確保される。

選定の手順そのものは、力学的には単純だ。盤の重量・重心位置・アンカーボルトの配置(本数・間隔)から、地震力によってボルト1本あたりに生じる引抜力とせん断応力を計算し、①アンカーボルトの許容引抜荷重が計算上の引抜力を上回ること、②アンカーボルトの許容せん断応力(4.4kN/cm²とされる)が計算上のせん断応力を上回ること、この2つの不等式を同時に満たすかどうかを判定する。どちらか一方でも成立しなければ、ボルトを太くするか本数を増やすか、施工方式そのものを見直す必要がある。

盤内機器の落下防止——固定すべきは盤の外だけではない

盤を床に固定できたとして、それで終わりではない。

官庁施設の総合耐震・対津波計画基準は、建築設備の耐震設計について「設備機器、配管等は、大地震動時の水平方向及び鉛直方向の地震力に対し、移動、転倒、破損等が生じないように固定する」と定めている。この一文が指しているのは盤そのものだけではない。盤の中に収めた変圧器やリアクトルのような重量物、扉、そして扉の内側に工具や予備品を置いたままにしていないか——盤内の一つひとつが、この「移動・転倒・破損」の対象になる。

DINレールに載せただけのリレーやブレーカーは通常の使用では十分な保持力を持つが、重量のある変圧器・リアクトル・大型の電磁接触器はレール固定だけでなく個別のボルト固定が前提とされることが多い。扉についても、閉扉状態でロックが確実にかかっているかを確認したい。地震の揺れで扉が開けば、内部の充電部が露出したり、開閉時の衝撃が内部配線・機器に及ぶ可能性がある。盤を床に固定することと、盤の中を固定することは、別々に検討すべき項目だ。

耐震クラスS・A・Bという考え方

「うちの盤は耐震クラスAで」という言い方を耳にすることがある。この耐震クラスは、国土交通省の官庁施設の総合耐震・対津波計画基準が定める建築設備の分類(甲類・乙類)を出発点に、設備機器ごとの耐震設計資料でさらに細分化されたものだ。

キャビネット工業会・盤標準化協議会の資料に整理された表によれば、設計用標準震度は設置階と耐震クラスの組合せで次のように変わる。上層階・屋上及び塔屋ではクラスSで2.0、クラスAで1.5、クラスBで1.0。中間階ではクラスSで1.5、クラスAで1.0、クラスBで0.6。地階及び1階ではクラスSで1.0、クラスAで0.6、クラスBで0.4。同じクラスの盤でも、1階に置くか最上階に置くかで想定される地震力は最大2.5倍近く変わる。

クラスそのものの決め方にも、もう一段仕組みがある。一般の施設に設置する防振支持でない一般機器はクラスB、同じ施設の重要機器はクラスAとされる一方、防災拠点等の特定の施設では一般機器でもクラスA、重要機器はクラスSまで引き上げられる。防振ゴム等で支持する機器は、同じ条件でも一段高いクラスが適用される。制御盤・分電盤がどのクラスで設計されるべきかは盤単体では決まらず、それが置かれる建物の性格と、その盤が担う機能の重要度によって決まる、という構造になっている。

既設盤への後付け耐震対策

新築時に耐震計算を経ていない、あるいは何十年も前に設置されたままの盤も現場には少なくない。後付けの選択肢は限られているわけではない。床面の固定が不十分であれば、あと施工の接着系・金属拡張系アンカーボルトを追加打設する方法があり、奥行の浅い自立盤であれば天面や背面に振止め金具を追加して壁面や躯体に拘束する方法もある。

ただし後付けの場合、当初その盤がどの耐震クラス・どの震度を想定して設計されたのかが記録に残っていないことも多い。その場合は、現況のコンクリート厚・アンカー間隔・盤の重心位置を実測したうえで、許容引抜荷重を新たに計算し直すのが安全側の進め方になる。

定期点検でのチェックポイント

耐震性能は、施工した瞬間がピークで、あとは劣化していく類のものだ。点検で見るべき点は、アンカーボルトの緩み・腐食(屋外・多湿環境では進行が早い)、ベースプレートの変形や浮き、盤を軽く押した際の前後・左右のグラつきの有無、耐震ストッパを使っている場合はそのクリアランス(目安として1cm程度以下が望ましいとされる)、そして盤の設置環境そのものが竣工時から変わっていないか、といった項目になる。

特に最後の一点は見落とされやすい。盤を別の場所に移設した、床に新たに配管ピットを設けた、周辺の壁を撤去したといった変更があれば、当初の耐震計算の前提そのものが崩れている可能性がある。

まとめ

冒頭の、傾いたまま止まっていた盤に話を戻すと、その盤自体は最後まで壊れていなかった。壊れていたのは、盤と床をつないでいたアンカーボルトだけだ。制御盤・分電盤の耐震設計とは、突き詰めれば「盤そのものの強度」と「盤を固定する部分の強度」という、性質の異なる2つの設計を、同じだけの重みで扱えるかどうかにかかっている。後者は図面上では地味な項目に見えるが、地震のときに効いてくるのはむしろこちらの方だ。

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