制御盤の改修現場で、配電盤の奥から40年近く前に施工されたとおぼしき端子が出てくることがある。図面はとうに紛失し、当時の施工業者ももう存在しない。それでも端子の胴部には「5.5-8」という数文字が小さく刻まれていて、それだけで電線の太さも、取り付けるねじの直径も判明してしまう。現場に残っているのは配線だけではない。刻印という形で、当時の判断の跡がそのまま生き残っている。
もっとも、この手の刻印をまじまじと読んだことがある人は、電気工事に携わる人の中でも実はそう多くない。「サイズさえ合っていれば圧着できる」というのは事実だが、端子・工具・電線それぞれに刻まれているものは、生まれも役割もまったく別のものだ。端子の胴部にある文字は端子メーカーが規格に基づいて刻んだものであり、圧着後に浮かび上がる圧着マークは工具のダイスが押し付けたものであり、電線の被覆に流れるように印刷された文字列はまた別の規格が電線メーカーに義務付けているものである。この3つを混同したまま「刻印があるから大丈夫」と済ませてしまうと、見るべきところを見落とす。
この記事でわかること
- 圧着端子本体の刻印(サイズ表示・メーカー名・認証マーク)の読み方
- 圧着工具のダイスが残す「圧着マーク」の正体とJIS C9711による規定
- 電線・ケーブルの被覆に印刷される表示事項とJIS C3342による規定
- UL・CSA規格電線特有の表示記号
- 誤った圧着を刻印・マークから見分けるチェックポイント
端子本体の刻印——「呼び」と「製造業者名」は規格が要求するもの
裸圧着端子の胴部をのぞき込むと、たいてい2種類の情報が刻まれている。「5.5-8」のような数字の組み合わせと、メーカーのロゴや社名だ。前者は電線サイズ(この例では5.5mm²)とねじ径(M8)を表す「呼び」で、後者はメーカー名——実際の端子には「5.5-8 ニチフ 12-10」のように、電線サイズとねじ径の間にメーカー名を挟み、末尾にAWG換算値まで添えた例もある。
これは端子メーカーの親切心だけで成り立っているわけではない。JIS C2805(銅線用圧着端子)の箇条10.1「表示」は、端子の見やすい箇所に容易に消えない方法で「呼び」と「製造業者名又はその略号」を表示するよう規定している。つまりこの2つの刻印は、規格が端子に義務付けている法定表示に近いものだ。図面も納品書も残っていない改修現場で、端子本体に残ったこの数文字だけを頼りに適合品を探し出せるのは、偶然の親切設計ではなく、規格がもとから「これだけは読み取れるようにしておけ」と定めていたからにほかならない。
端子によってはこれに加えて、UL・CSA等の第三者認証マークが刻まれている場合がある。UL登録品にはUL認可番号や認定区分が、CSA登録品にはCSA認可番号が表示され、輸出案件や海外規格準拠の設備では、この認証マークの有無そのものが選定条件になることもある。認証マークが刻まれていない端子は認証を取得していないというだけで、性能が劣るわけではない——ただし認証が要求される機器では、マークの有無を現物で確認する以外に確実な方法がない。
圧着工具が残す「圧着マーク」——実はこれもJISが仕組んだ検査装置
端子に電線を差し込み、工具のグリップを握り込むと、圧着部にもう一つの刻印が生まれる。ラチェットが「カチン」と鳴って解放された瞬間、圧着部の表面には○・◎・★といった記号が浮かび上がっている。これは端子メーカーが刻んだものではなく、圧着工具のダイス(型)に彫り込まれた記号が転写されたものだ。
なぜ工具側にわざわざ記号が彫られているのか。JIS C9711(屋内配線用電線接続工具)を読むと、この疑問への答えがそのまま規格の条文になっていることがわかる。同規格の5.2(9)は「工具の歯形部に適合する電線コネクタの呼びに従い、表5の圧着マークが電線コネクタの圧着部に表示できるよう歯形部に刻印すること」と定めている。呼びごとに割り当てられた記号の対応表を規格自体が持ち、工具メーカーはその表どおりに歯型を彫ることを義務付けられているのだ。つまり圧着マークは、見た目の飾りでも工具メーカーの個性でもなく、「どの呼びのダイスで圧着したか」を後から誰でも確認できるようにするために、規格があらかじめ仕込んでおいた検査機構である。
この機構がきちんと働くための土台が、もう一つのJIS C9711の規定——成形確認機構、いわゆるラチェットだ。同規格5.2(5)(a)は、手動片手式・両手式・電動機械式のいずれの工具についても「ダイス部間の位置が適正な圧着接続ができる距離に達しなければ、ダイス部が開かず、工具から電線コネクタを取り外すことができない機構」を求めている。ラチェットが最後まで働いて初めて工具が開放され、そのときに圧着マークも規定の深さまできれいに刻まれる。逆に言えば、圧着マークが浅い、片側だけ潰れている、輪郭がはっきりしない——こうした異変は、ラチェットが正常に作動しなかった痕跡である可能性を疑うべきサインになる。単に「圧着マークが薄いから見た目が悪い」だけの話ではなく、その下で圧着不足が進行している疑いを、マーク自体が教えてくれているということだ。
六角圧着・台形圧着——形状に統一規格がある端子と、ない端子
ここまでの圧着マークの話は、JIS C2805が定める裸圧着端子(丸形・Y形)を前提にしている。ところが、同じ「圧着」でも棒端子(フェルール端子)に話を移すと、事情はがらりと変わる。
フェルール端子の圧着断面は、台形・四角形・六角形などメーカー・工具によって形が分かれる。これは工具メーカーの気まぐれではなく、そもそもフェルール端子にはJIS C2805のような国内統一規格が存在しないためだ。Phoenix Contact製の圧着工具は欧州規格DIN46228のPart1・Part4に準拠し、台形圧着方式を採用している——これは同社の一次情報として公開されている事実だが、他メーカーが同じ形状を採用しているとは限らない。インターケーブルジャパンのように、従来の台形・四角・六角のいずれとも異なる独自形状(アイクリンプ)を打ち出し、仕上外径のコンパクトさや端子台への挿入性を競っているメーカーもある。
つまり同じ「圧着端子」というくくりの中に、記号の意味までJISが定めている領域(丸形・Y形の裸端子)と、形状そのものがメーカーの設計思想に委ねられている領域(フェルール端子)が同居している。棒端子を見て「圧着痕の形が台形だから正しい、六角だから間違い」と早合点するのは早計で、その端子・工具の組み合わせがメーカーの指定する仕様に沿っているかどうかこそが判断基準になる。
電線・ケーブルの被覆表示——実は「製造年」まで印刷が義務付けられている
端子側の話が一段落したところで、今度は電線そのものに目を移したい。VVFケーブルの被覆をよく見ると、文字列が一定間隔で繰り返し印刷されている。これも端子と同じく、規格が要求する法定表示だ。
JIS C3342(600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル)の箇条9「表示及び包装」は、ケーブル本体に容易に消えない方法で「記号(VV等)」「製造業者名又はその略号」「製造年又はその略号」を連続表示することを定めている。実際の製品仕様書(SFCC株式会社・協和電線工業のVVF仕様書)を確認すると、この最低限の3項目に加えて、ブランド名、PSEマーク、JIS認証表示、導体サイズ、鉛フリービニルの表示(LFV)などが、被覆の適切な箇所に連続して印刷されるとされている。線心の識別も色による方法が別途規定されており、2心なら黒・白、3心なら黒・白・赤(または黒・白・緑、赤・白・緑、黒・赤・緑)、4心なら黒・白・赤・緑という組み合わせが決められている。
ここで意外と見落とされがちなのが「製造年」だ。ケーブルの被覆に、いつ作られたかという情報までもが法定表示として繰り返し印刷されている、というのは、電線を単なる導体としてしか見ていない人には盲点になりやすい。裏を返せば、手元にある電線の切れ端一本からでも、断面積や種別だけでなく、いつ・どのメーカーが製造したものかまで、被覆の印字を読み取るだけである程度まで遡れるということだ。既設設備の改修で「この配線、いつ頃のものだろう」と迷ったとき、まず被覆の印字を確認するのは決して的外れな手順ではない。
電気用品安全法(PSE法)に基づくPSEマークにも、実は2種類の形がある。特定電気用品に該当する絶縁電線・ケーブルは菱形の中に「PS」と「E」を配した
海外規格の電線特有の表示——AWM・AWG・VW-1が語ること
輸入設備の改修工事に入ると、被覆に見慣れない英数字の羅列が印刷された電線に出くわすことがある。UL・CSA規格認定電線の表示体系だ。
UL・CSA認定電線には、UL規定の製品分類(AWM=Appliance Wiring Material、機器配線用電線の略)、UL認可番号、ULスタイル、難燃性区分、製造者名が表示され、CSA認定品にはさらにCSA認可番号とCSA規定の製品分類が加わる。AWG(American Wire Gauge)は導体の太さを表す単位記号で、日本のmm²表記とは体系が異なる。VW-1はUL規格の垂直燃焼試験に合格した電線に表示される記号で、FT1・FT2はCSA規格の垂直・水平燃焼試験合格を示す。これらは装飾ではなく、いずれもその電線がどの試験にどう合格しているかを示す実質的な証明書だ。国内規格に慣れた目で見ると単なる暗号にしか見えないが、体系さえ押さえておけば、輸入機器の被覆表示から現物照合ができるようになる。
まとめ——3つの刻印は、それぞれ別の目で確認する
端子の胴部にある「呼び」と「製造業者名」は、JIS C2805が端子に義務付けた法定表示だ。圧着後に浮かび上がる圧着マークは、JIS C9711が工具のダイスに刻ませた検査機構であり、ラチェットが正しく働いた証拠でもある。電線の被覆に印刷された記号・製造業者名・製造年は、JIS C3342が電線に義務付けた法定表示だ。3つとも「刻印」という同じ見た目をしているが、誰が・何のために・どの規格に基づいて刻んだのかはそれぞれ異なる。この違いを分けて見られるようになると、現場で古い端子や電線に出会ったときに読み取れる情報量が一段増える。冒頭の「5.5-8」の端子が、40年前の判断をそのまま今日に伝えていたように。
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