夜間、無人のテナントビルで警報が鳴った。受信機の表示灯が示していたのは「火災」ではなく「断線」。数日前まで倉庫として使われていた奥の一室を、間仕切り工事で二つに分け、天井の煙感知器を1台撤去したばかりの区画だった。工事は問題なく終わったはずだった。配線はきれいに束ねられ、外した感知器の跡には養生テープすら残っていない。それなのに、その感知器がぶら下がっていた回路だけが、工事の翌晩から断線を訴え続けている。
奇妙なのは、実際には何も断線していないという点だ。生きている配線同士はすべて正しく接続されている。導通計で当たっても、各感知器の間には電流が通る。それでも受信機は「異常」だと言い張る。まるで、そこに何かが「足りない」ことだけを、正確に見抜いているかのようだった。
自動火災報知設備の配線方式――なぜ感知器は数珠つなぎなのか
天井を這う配線を思い浮かべるとき、多くの人は電源コードの延長のような姿を想像する。受信機から1本の線が伸びて、感知器の1つひとつに枝分かれしながら接続されている――そんなイメージだ。しかし自動火災報知設備の感知器回路は、この直感とは違う配線方式を取ることが消防法施行規則で定められている。
消防法施行規則第24条第一号イは、感知器の信号回路について「容易に導通試験をすることができるように、送り配線にするとともに回路の末端に発信機、押しボタン又は終端器を設けること」と規定する。送り配線とは、受信機から出た1本の回路が、感知器Aに入って出て、そのままの流れで感知器Bに入って出て、さらに感知器Cへ……という具合に、感知器を数珠つなぎに経由しながら一筆書きで進む配線構造のことだ。途中で枝分かれして行き止まりの支線を作ることは、原則として想定されていない。
この配線方式を選んでいる理由は、条文の中にすでに書かれている。「容易に導通試験をすることができるように」――回路全体がひとつながりの経路になっていれば、その経路の端から端まで電気が通っているかどうかを確認するだけで、途中のどこか1か所でも接続が切れていないことを、まとめて確かめられる。逆に枝分かれした配線では、枝の数だけ個別に確認しなければならず、「回路全体の健全性をひとつの試験で確認する」という発想が成り立たなくなる。
終端抵抗とは何か――回路の最後に置かれる、ただの抵抗器
送り配線で数珠つなぎにされた感知器の列は、最後の1台で行き止まりになる。ここに取り付けられるのが終端抵抗(終端器)だ。中身は特別な検知機能を持つ部品ではない。単なる固定抵抗器であり、値は10kΩ前後のものが広く使われている。
一見すると、これほど地味な部品もない。感知器のように熱や煙を感じ取るわけでもなければ、受信機のように何かを判断するわけでもない。回路の一番端で、ただじっと座っているだけの抵抗器だ。だが、この「ただ座っているだけ」という状態こそが、自動火災報知設備の断線監視を成り立たせている土台になる。
なぜ終端抵抗で断線を検知できるのか――「つながっていること」を積極的に監視する発想
ここに、この配線方式の核心がある。感知器は本来、火災が起きたときにだけ動作すればよい部品だ。何も起きていない平常時は、電流など流れていなくても不思議ではないはずだ。実際、多くの電気設備は「使うときだけ電流が流れる」のが当たり前の姿をしている。
ところが自動火災報知設備の感知器回路は、その常識をあえて裏切る設計を採っている。終端抵抗によって回路の末端が閉じられることで、受信機のL線から出た電流は、各感知器を経由して終端抵抗を通り、C線から受信機へと常時わずかに戻り続ける。感知器の内部を流れるこの微弱な電流は、火災の有無とは関係なく、平常時から絶えず流れている。数mA程度という、ヒューズを飛ばすことも感知器を動作させることもない、ごく小さな電流だ。
受信機はこの微弱電流が「流れ続けていること」自体を、正常のしるしとして常時監視している。電流が途切れれば、配線のどこかが物理的に切れた、あるいは外れたと判断し、断線異常の警報を上げる。火災が発生して感知器が作動すると、感知器内部の回路が短絡的に働き、この電流の状態が別の方向へ大きく変化することで、今度は火災信号として区別される。
つまりこの回路は、「電流が流れていない=異常なし」ではなく、「電流が流れ続けている=異常なし」という、逆向きの発想で設計されている。回路が生きていることそのものを、電気を無駄に流し続けることで能動的に証明し続ける。終端抵抗がなければ回路は最後の感知器で開放されたままになり、電流はそもそも流れようがない。受信機からすれば、それは「正常に閉じた回路」なのか「途中で切れた回路」なのか、区別のしようがなくなってしまう。冒頭の断線警報が示していたのは、まさにこの状態だった。撤去された感知器と一緒に、回路の末端そのものが行き場を失っていたのである。
終端抵抗の値と設置位置――受信機の仕様で決まる、末端に1個だけ
終端抵抗の抵抗値は、感知器側の仕様ではなく、受信機側の設計仕様によって決まる。ホーチキ株式会社の公開情報によれば、現行のP型受信機の多くは10kΩを採用しているが、過去に製造された機種には20kΩを採用したものもあり、機種によって混在している。抵抗値は受信機の扉裏面に貼付された銘板や、工事説明書に記載されている。値が受信機の仕様と一致していないと、配線自体は正常でも断線と誤判定されたり、逆に本来検知すべき異常を見逃したりする可能性がある。
設置位置についての原則は、送り配線でつないだ感知器回路の末端に、終端抵抗をただ1個だけ取り付けるという一点に尽きる。回路の途中に取り付けても、末端でない感知器の位置に取り付けても、そこから先の区間が監視対象から外れてしまい、断線監視という機能そのものが成立しなくなる。
増設・改修で終端抵抗の位置を移し忘れるとどうなるか
ここまで理解すると、冒頭の断線警報がなぜ起きたのかは説明がつく。だが、現場で本当に警戒すべきなのは、警報が鳴るケースの方ではない。
間仕切り変更や増床で感知器回路の物理的な末端を延長する場合、終端抵抗も新しい末端へ移設しなければならない。ここで、もし旧末端に終端抵抗を残したまま先へ配線を延ばしてしまうとどうなるか。回路はその旧末端のところで完結してしまい、新しく延長した先の感知器は、電気的には受信機の監視ループの外側にぶら下がった存在になる。新設区間の感知器が実際に作動しても、その信号は終端抵抗より先の閉じたループには届かず、警報として上がってこない可能性がある。
これは断線警報が鳴るケースよりもはるかに厄介だ。断線警報は鳴った瞬間に異常が誰の目にも明らかになる。しかし終端抵抗の移設漏れによる監視対象外の区間は、何の警報も出さないまま平常運転を続ける。異常が起きていないように見えて、実際にはその区間の感知器が「最初から機能していない」状態が、次に火災が起きるまで気づかれずに残り続ける。改修工事のたびに、変更後の回路図と現物の双方で、終端抵抗が正しく新しい末端に移っているかを確認し、受信機側の導通試験で全回線が正常表示になることまで確かめてから工事を終える必要があるのは、このためだ。
受信機側の断線監視機能との関係
終端抵抗が回路の末端で電流の通り道を作る役目だとすれば、その電流の変化を実際に見張っているのは受信機側の断線監視機能だ。受信機は警戒区域(回線)ごとに、この微弱電流の有無を常時監視しており、異常があれば地区表示灯や断線灯によって、どの警戒区域で異常が起きているかを示す。多くの機種では日常的に自動で監視を続ける一方、導通試験のスイッチ操作によって、任意のタイミングで各回線の導通状態をあらためて確認できる仕組みも備えている。
終端抵抗と受信機の断線監視機能は、どちらか片方だけでは意味を持たない。終端抵抗が正しい値・正しい位置になければ受信機は電流の変化を正しく解釈できず、受信機側の監視機能が働いていなければ終端抵抗がいくら電流を流し続けていても異常は誰にも伝わらない。地味な抵抗器1個と、盤に収まった受信機とが、送り配線という一本道の上で役割を分担し合うことで、初めて「回路がつながっている」という当たり前の状態が、常時証明され続ける状態に変わる。
設備更新や改修工事にあわせて終端抵抗・終端器の交換、送り配線の材料選定についてご相談があれば、下記からお問い合わせいただきたい。
よくある質問
終端抵抗はどこに何個取り付ければよいですか?
送り配線でつないだ感知器回路の、いちばん最後(末端)に1個だけ取り付けます。回路の途中や、末端でない感知器に取り付けても断線監視は機能しません。末端に発信機や押しボタンがある回路では、そちら側に終端器が内蔵されている場合もあるため、感知器用とは別に終端抵抗を追加しないよう現物を確認する必要があります。
終端抵抗の抵抗値はどの機種でも同じですか?
同じではありません。ホーチキ製のP型受信機を例にすると、現行機種の多くは10kΩですが、旧世代の機種には20kΩを採用したものもあります。抵抗値は感知器側ではなく受信機側の設計仕様で決まるため、受信機の扉裏面の銘板や工事説明書で必ず確認したうえで、その値に合った終端抵抗を選定する必要があります。値を取り違えると、配線自体は正常でも断線と誤判定されたり、逆に断線を検知できなかったりする可能性があります。
改修工事で回路の末端が変わる場合、何に注意すればよいですか?
増設や間仕切り変更で感知器回路の物理的な末端が移動する場合、終端抵抗も新しい末端へ移設する必要があります。旧末端に抵抗を残したまま新しい配線を延長すると、新設区間が受信機の監視対象から外れた盲点になり、その区間の感知器が動作しても警報が上がらない恐れがあります。逆に旧末端の感知器を撤去しただけで抵抗を移設し忘れると、回路が開放状態になり断線警報が鳴り続けます。どちらの場合も、配線変更後は必ず受信機側で導通試験を行い、変更した回線が正常表示になることを確認してから引き渡すべきです。
断線警報が鳴ったとき、まず何を確認すればよいですか?
警報が出ている回線(警戒区域)を受信機の表示で特定したうえで、その回線に含まれる感知器の接続端子(ゆるみ・外れ)、中継箱の圧着端子、そして回路の末端に終端抵抗が正しく取り付けられているかを順に確認します。直近で改修・増設工事があった場合は、その工事で配線ルートや末端が変わっていないかを最初に疑うのが効率的です。原因の特定や修理は、消防設備士など有資格の点検業者に依頼するのが安全です。
終端抵抗を自分で追加・交換してよいですか?
終端抵抗の位置や値は消防法施行規則に基づく自動火災報知設備の機能そのものに関わる部分であり、配線に手を加える作業は電気工事士、機能の確認や点検は消防設備士など有資格者が行う領域です。抵抗値の選定を誤ると設備が正しく機能しなくなる可能性があるため、DIYでの変更は避け、既設の点検業者や電気工事店に相談することをおすすめします。
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