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絶縁抵抗測定値はなぜ季節・湿度で変動するのか|同じ設備なのに数値が違う理由と判定を誤らないための考え方

読了目安: 10分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

去年の梅雨点検では0.35MΩだった同じ分電盤が、今年の梅雨点検では0.14MΩまで落ちていた。設備はこの一年、何も変えていない。増設もしていないし、水をかぶった形跡もない。担当者が真っ先に疑うのは、当然「どこかが壊れかけているのではないか」という可能性だ。基準値の0.1MΩはまだ超えている。だから合格ではある。ただ、この下がり方をこのまま見過ごしていいのか、判断がつかない。

同じ設備、同じ測定器、同じ担当者。それでも数字だけが違う。だとすれば、変わったのは設備ではなく、設備を取り巻く条件のほうかもしれない。

湿度が絶縁抵抗値を下げる仕組み

絶縁抵抗計が示す一つの数値は、実は二種類の漏れ電流を合成したものである。電線の被覆やケーブルの絶縁体そのものを貫通して流れる漏れ電流と、絶縁体の表面を伝って流れる漏れ電流。公益社団法人日本電気技術者協会の解説によれば、このうち表面を伝う漏れ電流のほうが大きく、しかも湿度など周囲条件の影響を強く受ける。

理屈は単純だ。絶縁体の表面が乾いてきれいであれば、そこを伝う電流はごくわずかしかない。ところが湿度が上がると、表面に薄い水の層ができる。水は電気を通す。この水の層が、絶縁体の上に細い「電流の抜け道」を作ってしまう。梅雨時のように湿度が高い環境で絶縁試験がNGになりやすいのは、この抜け道――沿面リーク――が発生しやすくなるためで、被測定物だけでなく検査器本体や測定用リード線、治具の配線までもが湿気を吸うと、そちらからも漏れ電流が流れ込み、数値をさらに押し下げる。

絶縁体そのものが壊れたわけではない。表面についた、目には見えない水の膜が、たまたま電流の通り道を作っているだけである。乾けば、この抜け道は消える。

温度が絶縁抵抗値を下げる仕組み

湿度だけが変数ではない。同じ日本電気技術者協会の解説は、同一の絶縁体を測定しても、そのときの絶縁体の温度によって数値が変化し、温度が上がるほど絶縁抵抗は低下すると述べている。

これは経年劣化とは別の話である。絶縁材料は温度が上がると内部の分子やわずかな不純物イオンが動きやすくなり、電気が通りやすくなる。冷えれば逆に動きにくくなり、電気が通りにくくなる。つまり、真夏の炎天下で温まった盤内で測った数値と、真冬の朝一番、盤がまだ冷え切っているうちに測った数値は、絶縁体の劣化状態がまったく同じであっても、違う数字になって当然なのである。

絶縁抵抗測定の基本と数値基準を扱った記事で触れた「10℃2倍則」は、劣化が進む速さについての経験則だった。ここで言っているのはそれとは別の現象で、劣化の速さではなく、測定したその瞬間の数値そのものが気温によって上下するという話である。長年高温にさらされてきた設備は劣化も進みやすいが、それとは無関係に、今日の気温が高ければ今日の数値は下がる。二つの温度の効き方を、混同しないほうがいい。

梅雨・夏に下がり、乾いた冬に高く出る

湿度と温度、この二つの変動要因が重なる季節がある。梅雨から夏にかけては、気温も湿度も高い。絶縁抵抗にとっては最も不利な条件が両方そろう時期だと言っていい。空気が乾燥し気温も下がる冬場は、同じ設備でも数値が高めに出やすい。おおまかな傾向は次のようになる。

時期・条件数値の出やすい傾向主な要因
梅雨(高温多湿)低め表面の沿面リーク+絶縁体温度の上昇
真夏(高温)やや低め絶縁体温度の上昇
冬(低温・乾燥)高め表面リークが少なく絶縁体温度も低い
降雨直後大きく低め測定対象・治具双方の吸湿

「今日は測定条件が悪いから、後日晴れた日に測り直す」という判断は、手を抜いているのではない。むしろ、この表の一番下の行を正しく認識している証拠である。

数値だけを記録しても意味がない理由

ここまでの話を踏まえると、「0.14MΩでした」という数値だけを点検記録に書き残すことに、あまり意味がないことが見えてくる。日本電気技術者協会の同じ解説は、測定時の天候・気温・湿度・使用した測定器の仕様・ガード回路の有無などを詳細に記録しておくことが重要で、これが不十分な測定データは絶縁判定の資料としての価値が小さくなる、とまで言い切っている。

裏を返せば、気温と湿度を記録していない過去の測定値は、比較の物差しとして使いにくいということでもある。「先月は0.3MΩだったのに今月は0.15MΩだ」という比較が意味を持つのは、両方の測定条件がある程度そろっているときに限られる。梅雨の湿度80%の日と、乾燥した冬の日を単純に並べて「半分に落ちた」と騒ぐのは、本来並べて比べるべきではないものを比べている可能性がある。

単発の低下と経年劣化によるトレンドをどう見分けるか

とはいえ、「季節のせいにして済ませる」のも危うい判断である。表面の水分による低下と、絶縁体そのものが壊れていく劣化は、どちらも数値を下げるという結果だけを見ると区別がつかない。ここで手がかりになるものが、二つある。

一つは、比較する相手の選び方である。前回の測定値ではなく、条件の近い過去の測定値と比べる。もっとも条件がそろいやすいのは、同じ月・同じ季節の前年・前々年の測定値だ。同じ梅雨の時期同士を並べて、それでも下がる一方であれば、季節では説明のつかない下がり方だと判断できる。逆に、前年の梅雨も同じくらい低かったのであれば、慌てる数字ではないのかもしれない。

もう一つは、絶縁体の内部にどれだけ水分が入り込んでいるかを、別の角度から見る方法である。分極指数(PI値)と呼ばれる指標がそれで、電圧を印加してから10分後の絶縁抵抗値を、1分後の値で割った比率として求める(PI=10分値÷1分値)。共立電気計器の技術解説によれば、この値は絶縁体の形状や大きさに関係のない比率であり、絶縁体が水分を吸っているかどうかで変化するため、ケーブルの絶縁診断において重要な意味を持つ。目安としては、1.0以上であれば良好、1.0〜0.5であれば要注意、0.5以下であれば危険な状態と判定される。

1分値だけの単発測定を続けてきた現場であっても、絶縁抵抗が下がり基調にあると感じたときは、10分値も併せて追ってみる価値がある。表面の水分だけが原因であれば、内部の吸湿状態を映すPI値まで大きく崩れることは少ない。逆にPI値まで低い側に振れているなら、内部で何かが進行している可能性を、より強く疑ってよい局面である。

経年劣化そのものの原因も、押さえておいて損はない。絶縁不良の解説では、使用から10年以上経過した機器は見た目に異常がなくても基準値を下回る例が多いこと、高湿度環境では絶縁体表面に薄い水膜ができて電気が流れやすくなること、埃や油分の付着も絶縁性能を下げることが指摘されている。表面の水分(乾けば戻る)、汚れ(清掃すれば戻る)、経年劣化(戻らない)――今見ている数値は、この三つが重なった位置にある。

測定前にできる対策

天候そのものは選べないが、測定条件をそろえるためにできることはいくつかある。

一つは、乾燥させてから測ることだ。湿度が原因と考えられる場合、絶縁抵抗計本体・測定治具・測定対象を、湿度50%以下の乾いた環境に数時間置いておくと、端子や治具に付いた湿気が抜け、数値が回復することが多いとされる。梅雨時の定例点検であれば、当日の朝から盤内の換気扇や除湿機を回しておくだけでも、条件はいくらか改善する。

もう一つは、測定するタイミングをできるだけそろえることである。毎回同じ時間帯、できれば天候の似た日を選ぶ。難しければ、せめて測定時の気温・湿度・天候を毎回記録に残す。この一手間が、半年後・一年後に「今回の下がり方は季節のせいか、それとも本物か」を判断する材料になる。

判定基準への実務的な向き合い方

絶縁抵抗値は、その日その瞬間の絶縁体の状態を映す鏡であると同時に、その日その瞬間の気温と湿度を映す鏡でもある。基準値を上回っているかどうかは、もちろん確認しなければならない一線だ。ただ、その一線だけを見て「今回は合格、次回も合格」と流していくのと、数値の後ろに天候と気温を透かして見るのとでは、同じ記録から拾える情報の量がまったく違う。

数字が下がったとき、真っ先に問うべきは「悪化したのか」ではなく、「何が変わって、この数字になったのか」である。答えが天候であれば、乾かして測り直せばいい。答えが季節であれば、条件のそろう記録同士で傾向を追いかければいい。どちらでもないとわかったときに初めて、腰を据えて設備のほうを疑えばいい。


絶縁抵抗計・記録用温湿度計の調達について

「点検記録に気温・湿度・天候の欄を追加したい」「梅雨時の点検用に、乾燥させてから再測定する運用を整えたい」「PI値(分極指数)まで見られる絶縁抵抗計を導入したい」――こうしたご相談は、電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)の「電材サーチ」にお任せください。

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よくある質問

絶縁抵抗値は湿度でどれくらい変わるものですか?

具体的な変化幅は絶縁体の種類や汚れ具合によって変わるため一概には言えませんが、梅雨時のように湿度が高い環境では、絶縁体の表面にできる水の薄い層を伝ってリーク電流が増え、絶縁抵抗の値が実際の内部状態以上に低く出ることがあります。表面が乾いてきれいな状態であればこのリーク電流はごくわずかで、湿度が上がるほど数値は不安定になりやすいとされています。数値だけでなく、測定時の天候・湿度も一緒に記録しておくことが、この変動を正しく解釈するための前提になります。

梅雨や雨の日に測定した数値が悪く出ました。すぐに設備の異常だと判断すべきですか?

すぐに異常と決めつける前に、まず測定条件を疑うのが実務的な手順です。湿度が原因と考えられる場合は、絶縁抵抗計本体・測定用リード線・測定対象を、湿度50%以下の乾燥した環境に数時間置いてから測り直すと、数値が回復することがあります。回復すれば表面の水分が原因だった可能性が高く、乾燥させても数値が戻らない場合に、初めて内部の劣化を疑う段階に入ります。

前回の測定より数値が下がっています。経年劣化のサインでしょうか?

比較する相手を何にするかで結論が変わります。前回の測定と今回の測定で気温・湿度が大きく違っていれば、下がって見えるのは季節の影響である可能性があります。もっとも条件がそろいやすいのは、同じ月・同じ季節の前年・前々年の測定値です。季節をそろえた比較でも下がり続けているようであれば、季節では説明のつかない低下として、経年劣化や汚損を疑う根拠になります。

夏場と冬場、どちらの測定値を基準として信用すればいいですか?

どちらか一方を『正しい値』として選ぶという考え方自体が実務には向きません。絶縁体は温度が上がるほど抵抗値が下がる性質を持つため、夏場は低めに、冬場は高めに出やすいのが自然な傾向です。大切なのは、毎回の測定時に気温・湿度・天候を記録し、似た条件の記録同士を並べて傾向を追うことです。単発の数値の高い低いだけで一喜一憂しないための備えになります。

分極指数(PI値)とは何ですか。現場で使う意味はありますか?

PI値は、絶縁抵抗計で電圧を印加してから10分後の値を、1分後の値で割った比率(PI=10分値÷1分値)です。絶縁体の形状や大きさに関係のない比率であり、絶縁体が水分を吸っているかどうかで変化するため、ケーブルなどの絶縁診断で意味を持つとされています。目安としては1.0以上で良好、1.0〜0.5で要注意、0.5以下で危険な状態と判定されます。1分値だけの単発測定で下がり基調を感じたときに、10分値も合わせて確認する価値があります。

測定条件(気温・湿度・天候)を記録していない過去の点検記録しか残っていません。どう扱えばいいですか?

残っている数値そのものは無駄にはなりませんが、比較の物差しとしての信頼性は低いものとして扱うべきです。今後の点検からは、測定日時の数値に加えて天候・気温・湿度を必ず記録に残し、次回以降の比較に耐えるデータを積み上げていくことが実務的な対処になります。過去データとの単純比較で急激な低下に見えても、それが季節差によるものなのか本当の劣化なのかは、条件の記録がない限り断定できないという前提で読むことが必要です。

絶縁抵抗計や測定条件を記録するための温湿度計はどこで調達できますか?

松本電業株式会社の「電材サーチ」でお見積り・ご購入いただけます。日置電機(HIOKI)や共立電気計器(KYORITSU)の絶縁抵抗計、点検時の測定条件記録に使う温湿度計まで、現場に必要な測定資材を一括で手配できます。定例点検の記録様式に気温・湿度・天候の欄を追加したいといったご相談も承ります。

参考文献・出典

この内容は、第二種電気工事士ではこう問われる

試験問題では絶縁抵抗の基準値(0.1/0.2/0.4MΩ)は固定の数字として出てくるが、実務で扱う数値は季節・気温・湿度によって同じ設備でも上下する。基準値という「床」の意味と、その上でなぜ数値が揺れるのかを合わせて理解しておくと、学科の暗記が実務の勘に変わる。

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