絶縁抵抗計の液晶に「0.15MΩ」と出た。基準は0.1MΩ以上だから、数字の上では合格である。ここで「よし、次」と進める人と、「この0.15はこの先どちらへ動くだろう」と一拍止まる人がいる。同じ測定器で同じ数字を読んでいるのに、そこから先の仕事の中身はまるで違ってくる。
絶縁抵抗値は、湿気でも下がる。経年劣化でも下がる。表面についた油汚れやほこりでも下がる。原因が違えば、対処も、次にいつ測り直すべきかも変わってくる。基準値の一覧を覚えているだけでは、この先を読めない。数字の向こう側にある「なぜ下がったか」まで手繰り寄せて初めて、絶縁抵抗測定は実務の道具になる。
測定電圧はなぜ125V・250V・500V・1000Vと分かれているのか
絶縁抵抗計には25V・50V・125V・250V・500V・1000Vといった複数の定格測定電圧を切り替えられる機種が多い。この使い分けには、対象回路の使用電圧に加えて、もう一つ見落とされがちな判断軸がある——回路に何が接続されたままになっているか、である。
JIS C 1302の考え方と実務慣行に基づくと、おおむね次のように使い分けられる。
| 測定電圧 | 主な対象 |
|---|---|
| 25V/50V | 電話回線・弱電機器など、耐圧の低い機器を含む回路 |
| 125V | 100V系の低圧回路 |
| 250V | 200V系の低圧回路 |
| 500V | 600V以下の低圧配電路。とりわけ新設ケーブルの竣工検査 |
| 1000V | 600Vを超える高圧設備 |
ここで一つ、意外と知られていない区別がある。新設のケーブルは、まだ照明器具もコンセントプラグも制御基板も接続されていない。だからこそ500Vという比較的高い電圧をかけて、厳しめに絶縁性能を確認できる。ところが同じ「200V系だから」という理由だけで、すでにPLCや制御基板が生きたままつながっている既設回路に500Vや1000Vをかけてしまうと、絶縁性能ではなく電子部品のほうを壊しかねない。回路の使用電圧だけでなく、「今、その線の先に何がぶら下がっているか」までセットで見て初めて、正しい電圧を選べる。
電気設備技術基準が定める合格ライン
低圧電路の絶縁抵抗値は、電気設備に関する技術基準を定める省令第58条により、電線相互間・電線と大地との間で次の値以上と定められている。
| 対地電圧の区分 | 絶縁抵抗値 |
|---|---|
| 150V以下 | 0.1MΩ以上 |
| 150V超300V以下 | 0.2MΩ以上 |
| 300V超 | 0.4MΩ以上 |
区分を決めるのは線間電圧ではなく対地電圧である、という一点は、単相3線式のような中性線接地の回路で判定を誤りやすいポイントで、条文の細部まで含めた解説は絶縁抵抗測定の方法と基準値にまとめている。
もう一つ、実務でこそ役に立つ規定がある。24時間稼働の設備や営業中の店舗など、そもそも停電させられない電路では、絶縁抵抗測定そのものが行えない。電気設備の技術基準の解釈第14条第1項第2号は、そうした場合に「使用電圧が加わった状態における漏えい電流が1mA以下であること」を代替基準として認めている。絶縁抵抗計が使えない現場で「測れないので確認できません」と答えるか、この代替ルートを知っていて別の測定器に持ち替えられるかは、そのまま引き受けられる仕事の幅の差になる。詳しい測定方法は漏れ電流の測定と1mAの原則を参照してほしい。
安全に、正しい数値を取るための手順
測定そのものは単純だが、手順を一つ飛ばすだけで数値の信頼性が崩れる。
- 絶縁抵抗計本体の電池残量を確認する
- リード線の先端同士を短絡し、0MΩ付近を示すか(ゼロ確認)、開放して無限大(OL)表示になるか(オープン確認)を確認する
- 対象回路のブレーカーを開放し、検電器で無電圧であることを確認する
- PLCや制御基板、インバータなど半導体を含む機器が接続されたままの負荷は、配線を外すか短絡処理をしてから試験電圧をかける
- L端子を電線(充電部)側、E端子を接地側に接続し、印加スイッチを入れる
- 長い幹線やコンデンサ成分を含む回路では、指示値が安定するまで待ってから数値を読み取る
- 数値とあわせて、測定日時・天候・気温・湿度も記録する
- 測定終了後は、放電の完了を表示で確認してからリード線を外す
このうち②のゼロ確認・オープン確認は、地味だが本体とリード線に断線や異常がないかを事前に把握するための工程で、これを飛ばすと、そもそも壊れた測定器やリード線で「合格」の数値を出し続けてしまう恐れがある。
⑥も見落とされやすい。電力ケーブルや進相コンデンサのように静電容量の大きい回路を測定すると、測定を開始した瞬間はコンデンサへの充電電流が流れるため、指示はほとんど短絡と同じ低い値からスタートする。これを見て「絶縁不良だ」と早合点してしまうのは、初心者に限らずベテランでも起きる誤読である。実際の絶縁状態を反映した値は、充電が済んで指示が安定したところに現れる。数秒から数十秒、回路の規模によってはそれ以上、待つ必要がある。
数値が低く出たとき——原因をどう切り分けるか
基準を下回る数値が出たとき、多くの人は「絶縁不良だ」の一言で片付けてしまう。しかし絶縁抵抗を下げる原因は、大きく三つに分かれ、それぞれ対処がまったく違う。
一つめは湿気である。梅雨時や結露の多い環境では、絶縁体の表面を水分が伝い、沿面リーク(表面を伝う微弱な漏れ電流)が起きる。これは絶縁体そのものが壊れているわけではないため、乾燥させれば数値は回復する。二つめは経年劣化で、ケーブル被覆のひび割れやモーター巻線の絶縁材の熱分解のように、絶縁体そのものが物理的・化学的に壊れている状態を指す。こちらは乾燥させても数値は戻らない。三つめは表面の汚れで、油分やほこりが絶縁体の表面に導電性の膜を作ってしまうケースだ。清掃すれば数値は回復する。
この三つを見分ける実務的な手順は、意外と単純である。対象を乾いた布で清掃し、再測定する。数値が回復すれば汚れが原因だった可能性が高い。清掃しても回復せず、しかし降雨後や高湿度の日にだけ数値が悪化するなら湿気の影響が疑わしい。清掃しても、天候にかかわらず低いままなら、内部の経年劣化を疑う段階に入る。さらに、開閉器や過電流遮断器で区切れる単位ごとに回路を分割して測定すれば、どの区間の数値が特に悪いかを絞り込め、原因の機器や配線にたどり着きやすくなる。
経年劣化については、もう一段踏み込んだ見方もできる。絶縁材の劣化速度は温度に強く依存し、「10℃2倍則」と呼ばれる経験則では、動作温度が10℃上がるごとに絶縁材の劣化速度がおよそ2倍になるとされる。長年高温にさらされ続けてきた配線や機器のほうが、同じ設置年数でも絶縁抵抗の下がり方が速い理由は、ここにある。一度の測定値だけでなく、前回・前々回からの下がり方の傾きを追うことが、突発的な絶縁破壊が起きる前に手を打つための、もっとも実務的な予兆管理になる。
見落としがちな測定ミスと注意点
測定手順そのものは知っていても、細部で数値の信頼性を落としてしまうケースがある。
一つは、安価なワニ口クリップの経年劣化である。クリップと電線の圧着部が甘いものや、腐食が進んだクリップは接触抵抗が増加し、測定のたびに数値がわずかに揺れる原因になる。リード線は消耗品として定期的に点検・交換する対象だと考えたほうがいい。
もう一つは、絶縁抵抗計そのものの精度である。測定器は経年で内部回路の精度がずれることがあり、竣工検査の記録や法定点検の報告書に使う数値である以上、校正証明書やトレーサビリティ体系図が発行された機種で測定した数値かどうかが問われる場面がある。現場の感覚では「動いているから大丈夫」で済ませがちだが、記録として提出する数値には、その裏付けが要る。
インバータやモーターを含む回路では、周辺機器への配慮も欠かせない。インバータ単体を測定する際は、主回路端子に接続された配線をすべて外し、各端子を一括して短絡してから試験電圧をかける必要がある。短絡処理を省くと、内部の半導体部品に不均一な電気的ストレスがかかり、絶縁性能を確認するはずの測定が、逆に機器を壊す測定になってしまう。
そして、測定後の放電を確認せずにリード線を外す癖も、地味だが根の深いミスである。静電容量の大きい回路には測定電圧に近い電荷が残る。デジタル絶縁抵抗計の多くは自動放電機能を備えているが、その完了表示を待たずに次の作業へ移ってしまうと、せっかくの安全機構が働かないまま手を触れることになる。
絶縁抵抗計・測定用リード線の調達について
「竣工検査に使う500Vレンジ対応の絶縁抵抗計と、既設の制御盤点検用に低電圧レンジも切り替えられる機種の両方を手配したい」「摩耗したテストリードやワニ口クリップだけを交換用に急ぎ調達したい」「法定点検の記録に使うため、校正証明書付きの絶縁抵抗計が必要」——こうしたご相談は、電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)の「電材サーチ」にお任せください。
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