絶縁抵抗計の液晶に「0.15MΩ」と出た。対地電圧100Vの回路なら基準は0.1MΩ以上だから、数字の上では合格である。ここで「よし、次」と進める人と、「この0.15はこの先どちらへ動くだろう」と一拍止まる人がいる。同じ数字を読んでいるのに、そこから先の仕事の中身は違ってくる。
絶縁抵抗値は湿気でも下がるし、表面の汚れでも、絶縁物そのものの劣化でも下がる。気温が上がっただけで下がることもある。そもそも0.1MΩという線は、何を基準に引かれたのか。
合格ラインは「使用電圧」と「対地電圧」の二段で決まる
低圧電路の絶縁抵抗は、電気設備に関する技術基準を定める省令第58条が定めている。対象は電気使用場所の電路で、電線相互間と電路・大地間の両方を、開閉器か過電流遮断器で区切ることのできる電路ごとに測る。
| 使用電圧の区分 | 対地電圧の区分 | 絶縁抵抗値 |
|---|---|---|
| 300V以下 | 150V以下 | 0.1MΩ以上 |
| 300V以下 | 150V超 | 0.2MΩ以上 |
| 300V超 | (区分なし) | 0.4MΩ以上 |
区分は二段構えになっている。まず使用電圧が300Vを超えるかどうかで分かれ、超えれば一律0.4MΩ以上。使用電圧300V以下のときだけ、対地電圧150Vの境目で0.1と0.2に分かれる。対地電圧だけの3段階として覚えていると、使用電圧400V級(中性点接地なら対地電圧は約230V)に0.2MΩを当ててしまう。
対地電圧は、条文の中で「接地式電路においては電線と大地との間の電圧、非接地式電路においては電線間の電圧」と定義されている。単相3線式100/200Vの200V回路は、線間は200Vでも対地電圧は100Vなので0.1MΩの区分に入る。条文の細部は絶縁抵抗測定の方法と基準値にまとめている。
停電できない電路のための逃げ道もある。電気設備の技術基準の解釈第14条第1項第2号は、絶縁抵抗測定が困難な場合に「当該電路の使用電圧が加わった状態における漏えい電流が、1mA以下であること」を認めている。24時間動く設備や営業中の店舗では、絶縁抵抗計を漏れ電流が測れるクランプメータに持ち替えればよい。測り方は漏れ電流の測定と1mAの原則で扱っている。
測定電圧は「回路の電圧」と「いまつながっている機器」で選ぶ
絶縁抵抗計には、25V・50V・125V・250V・500V・1000Vと測定電圧を切り替えられる機種が多い。JIS C 1302:2018の解説(共立電気計器のガイドブックに掲載)が挙げる使用例は次のとおりだ。
| 測定電圧 | 主な使用例 |
|---|---|
| 25V/50V | 電話回線用機器、電話回線の電路 |
| 100V/125V | 100V系の低電圧配電路・機器の維持管理、制御機器 |
| 250V | 200V系の低圧電路・機器の維持管理 |
| 500V | 600V以下の配電路・機器の維持管理、600V以下の配電路の竣工時の検査 |
| 1000V | 600Vを超える回路・機器、高圧ケーブルなど常時使用電圧の高い設備 |
2018年の改正では、発電中の太陽電池アレイを測るための「PV絶縁抵抗計」が種別に加わった(共立のガイドブックによる改正点の説明)。発電中のアレイは止められないので、専用の計器が要るわけだ。
なぜ回路ごとに電圧を変えるのか。答えは絶縁抵抗計の生い立ちにある。英Megger社によると、1889年にSydney Evershedが絶縁抵抗計を発明する前は、低い電圧をかけて流れる電流を検流計で見る方法で絶縁を調べていた。それでは、通常の使用電圧がかかったときに初めて現れる絶縁不良を見つけられない。Evershedの手回し発電機式のメガオーム計は、被測定物の使用電圧に近い電圧で測ることでこれを解決した。
1903年に登録された商標が「Megger」で、日本の現場で絶縁抵抗計を「メガー」と呼ぶのはこの商標名から来ている。
使用電圧に近い電圧で測るという発想は、裏返すと「つながっている機器の耐圧を超えてはいけない」という制約にもなる。新設の幹線で負荷がまだつながっていなければ500Vで竣工検査ができる。一方、インバータについて東芝産業機器システムのFAQは、500Vメガで主回路端子台だけを対象にし、配線をすべて外して主回路端子を一括短絡してから測るよう求めている。一括短絡を省くと、内部部品に電気的ストレスが加わる場合がある。
数字を信用できる形で取る手順
手順そのものは単純だが、一つ飛ばすだけで数値の意味が崩れる。共立電気計器のガイドブックと日本電気技術者協会の解説をもとに並べると次のようになる。
| 順 | やること | 理由・根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 電池残量を確かめ、測定電圧を選ぶ | 残量が少なければ全て新しい電池に替える(共立の手順) |
| 2 | リード線の先を短絡して約0MΩ、開放してオーバー表示(アナログは∞)になるか見る | 本体とリード線の断線・異常を先に見つける(開放時も先端には高電圧が出ている) |
| 3 | 対象回路の開閉器を切り、検電器で無電圧を確かめる | 絶縁抵抗計は停電した回路に使う測定器である |
| 4 | 半導体を含む機器は外すか、メーカー指定の短絡処理をする | 機器の耐圧を超えないため |
| 5 | E(アース)側を接地端子へ、L(ライン)側を測定対象へつなぎ、測定する | E端子は直流電源の+極で、大地側を+にすると値が小さく出る(厳しい方向の試験になる) |
| 6 | 静電容量の大きい回路は、指示が安定してから読む | 測定開始時は充電電流で短絡と同じ値を示す |
| 7 | 値と一緒に、天候・気温・湿度・測定器を記録する | 沿面の漏れ電流は湿度の影響を強く受ける |
| 8 | 測定スイッチを切って放電させ、完了を確かめてからリード線を外す | 測定電圧がほとんどそのまま残り、感電の危険がある |
5のE端子の向きは、なんとなく黒をアースへ、で済ませがちな箇所である。共立のガイドブックによると、大地に対する絶縁測定では大地側に+極をつなぐ方が抵抗値が小さく出るのが普通で、絶縁不良の検知に向くとされている。E端子が+極につながっているのは、このためだ。
低い値が出たら、まず「表面」か「中身」かを分ける
日本電気技術者協会の解説によると、測定される絶縁抵抗は、絶縁体を貫いて流れる漏れ電流による「貫通絶縁抵抗」と、絶縁体の表面を伝う漏れ電流による「沿面絶縁抵抗」を合わせたものだ。一般に沿面の漏れ電流のほうが大きく、湿度などの影響を強く受ける。表面にほこりが付いていれば、絶縁抵抗は小さく測定される。
だから、低い値が出たときに最初に確かめるのは「表面の問題か、絶縁物そのものの問題か」である。乾いた布で清掃して測り直し、値が戻れば表面の汚れが効いていた。清掃しても戻らないが、雨の後や湿度の高い日だけ低いなら湿気の影響が疑わしい。天候にかかわらず低いままなら、絶縁物そのものの劣化を疑う段階に入る。開閉器や過電流遮断器で区切れる単位ごとに測り分ければ、悪い区間も絞り込める。
高圧ケーブルや変圧器のように本体の絶縁抵抗が大きい機器では、この切り分けを測定器でやる方法がある。Megger社は、ガード端子という3本目の接続で表面漏れ電流の逃げ道をつくり、ガードありとなしで測り比べて値が大きく違えば汚損が原因と判断できる、と説明している。携帯用の絶縁抵抗計にガード端子のない機種が多いのは、一般の回路ではガード回路を組めない場合が多く、まとめて測る前提だからだと日本電気技術者協会は書いている。
現場で間違いやすい点
静電容量の大きい回路の「最初の数字」を読む
電力ケーブルや進相コンデンサのように静電容量の大きい回路では、測定を始めた瞬間は充電電流が流れ、指示は短絡と同じ値から始まる(日本電気技術者協会)。ここで「絶縁不良だ」と判断すると誤る。読むのは、充電が済んで指示が落ち着いた後の値だ。ケーブルの絶縁診断では、この時間変化そのものを使う指標もある。共立のガイドブックによると、PIは10分後の値を1分後の値で割ったもの、DARは1分後の値を15秒後の値で割ったもので、漏れ電流が時間とともに増えていないかを見る。
線間の測定は、ふだんは省かれている
省令第58条は電線相互間と大地間の両方を求めているが、共立のガイドブックによると、屋内配線の線間測定は表示灯や小型変圧器がつながっているため、多くは竣工時だけ行われている。既設回路で線間を測るなら、負荷側の機器を外したかどうかを記録に残しておかないと、次に測った人が比べられない。
計器とリード線を疑う順番
測定前の短絡・開放の確認は、本体とリード線の断線を見つけるための工程である。これを飛ばすと、壊れたリード線で「合格」の数値を出し続けることになりかねない。計器そのものの精度は校正で確かめる。共立電気計器は校正周期に定めはないとしたうえで、1年に1回の定期校正を勧めており、精度内かを試験した試験成績書、国家標準とのつながりを証明する校正証明書、校正経路を示す校正系統図の3種類を有償で発行している。
一段深い理解①:0.1・0.2・0.4MΩは、どれも「1mA」でそろう
基準値に、その区分の代表的な電圧をかけてみる。100V÷0.1MΩ=1mA、200V÷0.2MΩ=1mA、400V÷0.4MΩ=1mA。3つの区分は、漏れ電流に直すとどれも1mAになる(省令の値からの計算)。停電できない電路の代替基準が「漏えい電流1mA以下」なのは、偶然ではない。解釈の解説も、対地静電容量による電流を含めて1mA以下なら、省令第58条の絶縁抵抗値と同等以上の絶縁性能とみなせる、としている。
では1mAとは何の数字か。経済産業省の「電気設備の技術基準の解釈の解説」は、この値を、低圧電路に1mA程度の漏えい電流があっても人体に感電の危険はなく(人体に流れる電流を0から少しずつ増やすと、1mA前後で初めて感じる)、この程度なら仮に1か所に集中しても過去の経験に照らして火災の発生はほとんど考えられない、という理由で定めたと説明している。
同じ解説は、1mAの代替基準を置いた理由を「一般家庭では停電して行う屋内配線等の絶縁抵抗測定が困難になってきたため」としている。家庭の屋内配線が測られる場面としては、電気事業法施行規則第96条が定める一般用電気工作物の調査がある。頻度は4年に1回以上(登録点検業務受託法人が点検を受託している場合は5年に1回以上)で、測定器や目視で行うとされている。
ちなみに、電気使用場所の外の低圧電線路(電気使用場所と変電所などを結ぶ電線)には別の決め方がある。省令第22条は、低圧電線路の絶縁抵抗を「使用電圧に対する漏えい電流が最大供給電流の二千分の一を超えない」ように求めており、抵抗値ではなく電流の比で決めている。
一段深い理解②:同じ絶縁でも、夏と冬で数字が4倍違うことがある
冒頭の「0.15はこの先どちらへ動くか」の答えの半分は、温度である。Megger社は、温度が10℃上がるごとに絶縁抵抗はおよそ半分、10℃下がると2倍になるという目安を示し、20℃で2MΩの絶縁が40℃では約0.5MΩになる例を挙げている。絶縁材料の種類で変化の仕方は違うので、正確に比べるなら20℃などの基準温度に換算する、とも書いている。
この目安どおりなら、冬に0.4MΩだった回路が、20℃暑い夏の日に測ると0.1MΩ前後まで下がって見える計算になる。劣化していなくても、だ。測定記録に気温を書く理由はここにある。季節や湿度による変動は絶縁抵抗測定値が季節・湿度で変動する理由で詳しく扱っている。
温度はもう一つ、別の効き方もする。こちらは測った瞬間の数字ではなく、絶縁物の寿命への効き方だ。JIS C 8108(蛍光灯安定器)の解説には「絶縁物は、その温度が8~10℃高くなると寿命が半分になるといわれている」という記述がある。高温の場所を長年通ってきた配線ほど、同じ年数でも劣化が進んでいる可能性がある。一度の値で合否を決めるより、前回・前々回からの下がり方を、温度をそろえて追うほうが、絶縁破壊の前に手を打てる。
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